2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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経沢香保子氏(以下、経沢):元榮さんに教えてもらったことであともう1つ、心の支えになったのは「テレビや取材は積極的に受けるように」。これは、できるだけアピールしろということです。
でも、先ほどの経営者自身が事業とは別に稼ぐことと同じで、テレビに出ることもに対しても、いろいろ言われるんですよ。「あの女は上場ゴールのくせに」「社長のくせに平日にテレビに出てなんなんだ」とか。その声にすごく負けることが……。でも、元榮さんには「とにかく出るように」とすごく言われて。
あとでわかったのは、「出られるのだから出る」。出られる=必要とされているということだから、きちんとやろうと思ったんです。それからはコメンテーターのお仕事も気合を入れて、入念に準備してやるようになって。当時1本のお仕事が4本になったので、もう本当にすごく感謝しています。
元榮太一郎氏(以下、元榮):本当に、夜遅くまで飲み歩くくらいだったら、その時間を割いてテレビに出る。そういう話なんだと思いますよ。
経沢:(笑)。
元榮:僕は、経営者がマスメディアに出て発信していくのは、世の中に語りかける大事な経験だと思っているんですよね。でも、実際には自分であとから出演した番組の録画を見て……もう打ちのめされるわけですよ。
経沢:恥ずかしい!(笑)。
元榮:そうそう。発言の節々に「えー」「あー」とかこんなに言ってるんだ、とか。「やっぱり」という言葉ばかり使っているなとか(笑)。
話し方だけじゃなくて、あとは立ち振舞いも見る。服装や髪型なども、そういった場に出ることで多くの方々に見られるので、フィードバックもたくさんもらえるし、PDCAが回るんですよ。それは、社員に対して働きかけるときや面接の時、株主総会で株主さんに対してコミュニケーションする際の参考にもなりますね。僕の場合、選挙のときなどにもすごく活きたなと実感しています。
あと、経沢さんの場合だと「キッズライン」「経沢香保子」ね。「キッズライン」の文字を、何十、何百万人が見ている番組で紹介されることでの認知、ブランド向上効果は、本当に大きいと思います。
僕は2014年に「めざましテレビ」で1年間レギュラーをやらせていただいていました。「もとつぶ」という、自分の名前を冠に入れてもらっているコーナーで、法律の解説をするわけですよ。あのときは「ポール・マッカートニーのコンサートが突然ドタキャンになってチケット代は返してもらえるのか」を解説したりしてました。今までテレビで見ていたあのスタジオで、毎週とてつもない緊張感でしたね。
僕の場合、重要だったのは「弁護士ドットコム」のロゴマークが、何分間かずっと出続けることでした。しかも、めざましテレビという国民的な番組で出る。これでまず、多くの一般の方に知っていただけますし、社員とその家族もとても喜んでくれます。いろんな効果があるんですよ。
経沢:たくさん出ることも大事ですが、それを通じてすごく学んだのが「どういう言葉を選ぶのか」という言葉のセンスの重要性でしたね。
それまでは、身内で話しているときはちょっと面白いことを言えば気に入られるので、それを意識していた。でもテレビは老若男女すべてのみなさんが見ていて、難しいことを言ったりするとわからない方も出てくるはずです。
例えばポケモンブームの解説をしてほしいと言われたとき、ポケモンを開発したチームの話やGoogleの話をしても、わからない人が多かったりするんです。それよりも「iPhoneが」「スマートフォンの普及が」といった切り口のほうが伝わりやすいとか。
あと、私は絶対に否定的なことや人の悪口になるようなこと、ご迷惑をおかけするようなことは言わないと決めています。それでも伝えられる方法って、たくさんあるんですよね。
前の仕事はIT業界に特化したようなものだったので、「時代は、ネットです」みたいな風潮もあったと思うのです。
今私がやろうとしていることは、ツールとしてネットを活用しているけれど、子供の未来や笑顔を増やすのがミッションです。その考え方を社会に合わせて目的を広く伝わりやすくするという意味では、テレビの仕事、あとは元榮さんが選挙活動で有識者の方への対応を見ていて「ああ、こういうことなんだな」とすごく教えていただいたなと思います。
元榮:大きなボリュームゾーンの方々を意識して話すのは、とても大事なことです。特に我々のサービスは、インターネット業界のITセンスの高い方々だけでなく、国民的なサービスとして当たり前のように利用していただけるようにならないといけないので。テレビというマスメディアで活動していると、そういう方々に対する意識は高まるので、非常に活きるんですよね。
ネット企業は、ネットが好きな方々が集まっています。そこでいつも社員に対して「自分たちを相対化しろ」と言っているんですよ。自分たちにとって使える・使いやすいが、ボリュームゾーンにいるみなさんにとっても同じかどうかはわからない。自分は特別であり、ネットに関してくわしくなりすぎていることを意識すべきなんですよね。
もっと引きの目でサービスを見ないと、一部の人だけが使いやすいものになってしまう。そうすると、ぜんぜん国民的なサービスにならないという話です。テレビなどに出ていると常にマスを意識できるので、自分を相対化するトレーニングになりますよね。
――元榮さんはキッズラインへ投資されているわけではないんですよね?
経沢:利害関係は一切ないんです。本当に、純粋な恩師なんです。
元榮:恩師などという、大それたものではないですよ。
経沢:最近はちょっとお忙しそうなので、あまりお会いしていませんが。仲間の集まりとかも含めると、月1くらいでお会いしていますよね。
元榮さんにもう1つ感謝していることがあるんです。私、前の会社を卒業して、なんというか、生まれ変わったわけですよ。ビジョンとして「女性が輝く社会」は変わりませんが。
前の会社を経営していた頃は、若かったこともあるんですけど「正しいからいいんだ」という驕りがあったんですよね。自分のことが嫌いな人に、自分のことをわかってもらう努力をする必要はない、みたいな。視野が狭かったんですよね。
そのときは、そのやり方でもよかったんです。BtoBだから、Bの人に好かれていればいい。
でも今回は、元榮さんの言葉を借りると「国民的サービス」を目指しているわけですし、あえて嫌われる必要はぜんぜんない。むしろ、過去に自分が「嫌だな」と感じた人たちに対して感謝する気持ちが生まれるようになったんです。そういった人たちに対して「なぜ相手の心を溶かすことができなかったのか」などを考える機会になったからですね。
元榮さんって、万人に対してホスピタリティある対応をされるんですよね。たとえ忙しくても。私が悩んでいるときでも、憤りを感じているときでも「感謝の気持ちを持ったほうがいい」とすごく言われていて、「たしかにそうだな」となったこともたくさんありました。
それからはもう、残念ながら利害が一致せず、やむなく対立してしまった仕事関係の人に、感謝の気持ちを持つよう努力しました。もしかしたら、いつかまた接点があるかもしれないのだと、その道を自分からは絶たない。私自身がインフラサービスをやってみて、改めて自分はなんて狭い世界で意思を貫き通そうとしていたんだろうと反省しています。
元榮:それに関しては、僕自身もまだまだ修行中の身ですよ。完璧にできないとしても、一人ひとりが本当に唯一無二の存在なので、尊敬することは当然なんですよね。
あと、自己実現や目標を達成する上で仲間を作ることも大事。でも、敵を作らないことのほうがもっと大事なんです。
例えば弁護士ドットコムは「弁護士を身近にする」「専門家を身近にする」という理念に対して、一番の追求者じゃないといけない。それを追求しようと思ったら、敵になるような存在を限りなく減らす。そういった企業経営や経営者としての立ち回りが必要だと思っています。
それにまあ、「この人生、よかったな」と思える生き方をしやすい1つのエッセンスなのかな。確信レベルの仮説として、そういった考えを僕は持っています。
経沢:そうなんですよ、私はそれを教えてもらったというか。「ああ、そうなんだな」と思ってから、その日会った人を味方にするか、うっかり敵にしてしまうかは自分の発言次第なんだと考えるようになったんですよね。相手を温かい気持ちで接するか、「こっちは忙しいのになぁ」と接するか(苦笑)。なんというか、どういった態度で接するかによって、人間関係はすごく変わってくる。
それまでの私は、きっとどこかに傲慢な気持ちがあったんように思います。たくさんの人に会うのは疲れるから嫌だとか。取材で、事前準備してこない人は嫌だとか、でも今は、自分の事前の心構えを見直したり、会った人みんなに楽しい気持ちになってほしいし、そのために努力を意識するようになりました。だから、発言や態度だけでなく、メールの書き方にも気をつけるようになりました。
もちろん、人間なのでまだまだなんですけれども。そして、(そういったことを心がけるようになって)気づいたら1年くらい経っていて。以前に比べて周囲がすごく変わりましたね。なんていうか、みなさん応援してくださるんですよ。「キッズラインはすごくいいサービスだから、がんばってほしい」とか言ってくださって、これは本当にうれしい。
なんというか、そういった温かい気持ちを持ち合うことで、キッズラインは発展していく。改めてそう感じるようになりましたね。なので、より……昔の私はすっごく嫌なやつだったなと(笑)。
元榮:昔の経沢さんをくわしく知っていたわけではないですが、まぁそっけなかったですよね(笑)。
経沢:あははは(笑)。
元榮:あの状況だと人間不信になっていてもおかしくないとは思うんですけどね。でも、僕からしたら「なにか悪いことしたかなぁ」と思いましたよ(笑)。とはいえ、経沢さんは前から今と同じように、ちゃんとすばらしい心を持っていたと思いますよ。本人が「嫌なやつだった」と言っているだけで。
経沢:私は、私が好きな相手にはたっぷり愛情を注ぐくせに、苦手な人には素っ気ない。だから、自分がいいなと思う人、尊敬できる人、味方になってくれる人にだけ親切にしてたんです。でもそれって、すごく自分中心、短期的発想だなと気づかされました。
「いいことをしたら絶対にいいことを返してほしい」とか、短期的な損得の見方を少し変えてみて、言葉や態度を改めてみると、実際にすごくいいことがたくさんありました。
今の会社を始めてから、さらに新しい知り合いも増えて、よりいろんな方と会うようになりました。そのときに「経沢さん、会ってみたらすごく大好きになりました。印象がぜんぜん違いました」と言われることが多いんです。
もしかしたらその原因の一端は自分にあったのかもしれません。子供に対しても社員に対しても、前はそういった接し方ができていなかったなと感じたりして、いい財産になったなと思っているんです。
元榮:今回、経沢さんの恩師というかたちで呼んでもらいましたが、僕自身もそういった行為は実践中ですし、修行中の身です。
徳を積む・磨くというのは、すごく大事なことだと思っています。でも、優秀な人達って、才能ばかり磨こうとしますよね。確かに間違いではないのですが、そればかりを磨いた先に、人の心が集まる感じがあまりしないんですよね。
徳を磨いていくと、才能ある人も含めて、いろんな人が引き寄せられます。そうするとチームになり、けっこういい活動ができるわけですね。だから、そういった人達が集まる場所を作れるような徳を磨いておく。そうすると、ヒト・モノ・カネ・情報が集まってくる。社員も仲間もそうですが、ユーザーも、広めてくれるマスコミの方もそうです。
こういった話ってご年配の方々がよくしていますが、最終的にそういった境地にたどり着くようなイメージもありますよね。だから、若いうちにどれだけそういったことを意識できるかがとても大事だと考えています。
よく「尊敬する人は誰ですか?」と聞かれるんですが、どうしても「すべての人です」という答えになっちゃうんですよね(笑)。
一人ひとりに尊敬できる部分があるから、そういったものをすべて吸収したいと思う自分は、もしかしたらもっとすごくいろんなことができるようになるかもしれないという感じです。
経沢:会った人に、自分のことを気に入ってもらうか。もしくはマイナスを残すか。ただそれだけで、人生の加速度が変わりますよね。でも……そうですよね。社長業をやっていたら1日にだいたい10人くらいの人に会いますが、その人達に「楽しかったな」と思っていただくか、「なんだよアイツ!」と思われるか。
私の今の事業は、会う方々がみなお客様だったりします。一人ひとりに「キッズラインっていいよね」と言っていただくことが、会社の資産や価値にもなります。
ちょっと商売人的発想かもしれませんが、社長である自分が心構えを変えることでサービスのイメージも変わるのかもしれないと。特に育児に関係するサービスはすごく繊細なので。「高くても安心・安全を買う」という中で、私は「安くても安心・安全を売る」をやっている。
なので、たとえば、「他人の目を気にしてるぐらいだったら、自分で結果を出せばいいんだ」っていう考えだけだと視野が狭くなる気がしました。それはある意味正しいんですが、私の仕事ではそれでは結果が出にくい。「結果ってなに?」と言われると、それは安心とか安全とか信頼なので。それはつくづく思います。
元榮:そういうことですね。……と、こんなことを話している僕自身もまだまだ道半ばなのですが(笑)。
経沢:ははは(笑)。そういえば元榮さん、先ほど出てきた「国民的サービス」って、いい言葉ですね。明日から使わせていただきます(笑)。
元榮:経沢さんはブログなどでの発信力がすごいですからね。ぜひどんどん使ってください、単純な言葉なんで。
経沢:本当に、元榮さんにはたくさんの教えと、素晴らしい言葉をいただいています。いつもありがとうございます。今回も対談ありがとうございました!
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