2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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夏野剛氏(以下、夏野):今日は、日本の新しいビジネスとか技術を創造している最前線、フロントラインに立っていて、自らハンズオンでやっている人たちに集まってもらいました。
日本でこういうメンバーのパネルディスカッションあまりないんですね。僕も経営者とかベンチャーで成功した人間はたくさん知ってますが、自らサービスを作り出すことに関わっている人は意外に多くないので。
……あ、笑うとこですよ?
(会場笑)
さて、今日は本格的に「どうしたら日本はもっといい国になるのか」について話したいと思います。
先ほど中川政務官から「2050年にすごいことになる」なんて話もありました。まあ、「そんな先の話どうでもいいな」と思う人もいると思いますが。しかし、「もし日本がまだまだ羽ばたけるとしたらどんな可能性があるんだ?」っていう話をしてみたいということで、6人に集まっていただきました。
とはいえですね、未踏の経験時期も違うし、未踏を出た後やってることもみんな違うんで、今日は勝手に、大きく2グループに分けました。これから上場して成功していくかもしれない人たちと、もうすでに成功者なんだけど、これからもう1回さらに高位で成功しようと思っている人っていう、2グループです。
僕は「技術を持って、技術で成功して、技術が認められた」ってだけで喜んでいちゃダメだと思っています。技術を確立した後にビジネスの潮流に乗せて、成立させ、それが認められて(株式)公開をして、さらに大きな挑戦をする。そういう、上の段階にすでに未踏出身者がいるという意味で、最初に鈴木さんと福島さんにプレゼンテーションをしてもらおうと思います。
その後、そこに4人の後輩からツッコんでもらいながら、それぞれ4人がなにをやってるかを聞くという形でやりたいと思ってますので、みなさんご期待ください。
また、スマニューもGunosyもすでに日本だけじゃないチャレンジをしていて、海外との比較みたいな観点、つまり「シリコンバレーでどう思ったんだ?」みたいな観点、「本当に日本のベンチャーがいけるのか?」みたいな観点……。そういったことも思う存分に語ってもらう120分間という建前でいきたいと思います。
まず、成功者に敬意を表して、鈴木さんと福島さんからプレゼンテーションをしてもらいたいと思います。聴衆のみなさんの中で自分の手元のスマホにスマニューあるいはグノシーのアプリが入ってない人!
(会場挙手&笑)
このイベントの最前列に座っている人で入ってないのはまずいなあ。
(会場笑)
では、ショートプレゼンをまず鈴木さんからお願いしましょうか。
鈴木健氏(以下、鈴木):はい。スマートニュースの鈴木健です。よろしくお願いします。今日は、「この複雑な世界を複雑なまま生きることが果たして可能なのか」という話をしたいと思っています。
僕がこの問題を最初に考えるようになったのは……ちょうど中学校3年の時にベルリンの壁に行ったことがあるんですよ。修学旅行だったんですけども、当時ドイツに住んでいたので、西ベルリンから東ベルリンに入っていきました。
そのわずか2週間前に、何人かの方々が東から西に脱出しようとして、背中から撃たれて亡くなったという記念碑を目にして、「なんでこの世の中はこんな不条理なことがあるんだ」と思ったのを覚えています。
こういった不条理、世界にある壁というのはベルリンの壁だけではありません。実際には、見えない壁、バーチャルな壁というのが社会にはたくさんあるんです。「そういったものを情報技術の力で崩していけないか」「なめらかな社会ができないか」ということを、ずっと考えていました。
それで、2002年度の未踏創造事業に採択された、「伝播投資貨幣PICSY」というのを作りました。これは価値が伝播するという新しい貨幣システムで。普通の貨幣というのはお金で取引をすると関係が切れてしまうんですけども、そうではなくて、取引をすることによって新しく関係が作られる、価値が伝播されていくという貨幣システムです。
これによってすべての取引が投資になるというか、組織の境界を超えて価値が伝播していくということが可能になります。
この伝播投資貨幣PICSYを未踏ソフトウェア創造事業で採択していただいて、開発して、最終的にこれを博士論文にまとめました。そういったことを踏まえて、さらに大きなビジョンを描こうと、その後の活動をしてきました。
「300年後の社会システムを、どのように情報技術を使ってデザインするか?」、これを1つテーマとして10年以上考えてきました。活版印刷の歴史的影響って300年スパンなんですよ。ですから、情報技術も300年スパンでその影響を考えなくてはならない。
グーテンベルクが活版印刷を発明して、そして、約100年経ったら宗教改革が起こります。そして、さらにまた100年経って、科学革命が起きます。そして、また100年経って、市民革命が起きます。こういったタイムスパンで、情報技術は社会に影響を与える。
これを政治システム、貨幣システム、それから軍事システム、そういったものをすべて考えた時に、「どういった社会システムの構想が可能なのか?」ということを考えて、2013年に出版した本がこの『なめらかな社会とその敵』という本です。「社会的にある分断、壁を乗り越えて、社会がなめらかになることが可能なのか?」を、情報技術を使ってデザインした本です。
これ、専門書にしてはめずらしく大変好評で売れまして、多くの反響を得ることができました。この本のテーマ、まさに「この複雑な世界を複雑なまま生きることは果たして可能か」、この問題を引き続き考えています。
それから、同時並行で2012年にSmartNewsというアプリをリリースしました。その2年前、2010年ぐらいからCrowsnestというパーソナライズをされたニュースリーダーの開発を、当時リリースしていたんですね。
しかし、パーソナライズされたニュースリーダーではダメだということに気が付いて、2012年の12月にまったく新しいコンセプトでニュースアプリを出しました。それが爆発的にヒットしてですね、ニュースアプリにおけるスタンダードとして確立したわけです。
その後、世界中の方々合わせて2,000万ダウンロードを突破して、今、アメリカにもオフィスを構えてユーザーがいるというような状況にまできています。先ほど夏野さんが「上場した」と仰ったような気がしますが、上場はしていません。
夏野:でも資金は十分に集めてるんでしょ?
鈴木:はい。いっぱい、90億ぐらいは集めてますが、このお金を使って、多くの方々にSmartNewsを使っていただこうという挑戦をしている、という最中です。
で、今日なんでここに来たかっていうと、要は仲間集めというか、本当に人が足りないので(笑)。
(会場笑)
「一緒に挑戦をしてくれる人を探したいな」と思って来ましたので、ぜひちょっとニコ生見てる方々も、募集してますんで応募していただきたいなと思っています。
SmartNewsはアメリカでも挑戦をしているわけですが、1つおもしろい機能がアメリカ版にはあります。名前は「Political Balancing Algorythm」といい、政治的なバランスを取るというアルゴリズムです。
去年、アメリカでは大統領選挙がありましたが、その前に夏ぐらいのタイミングで、我々はこのアルゴリズムをアメリカ版に適用しました。要は、リベラルな人にも保守的なニュースを、保守的な人にもリベラルなニュースを読めるようにする。そういうことができるアルゴリズム、政治的なバランスを取るアルゴリズムを作って適用してます。
なぜこういうことを我々が考えるのかというと、実は今アメリカでは非常に大きな問題が起きています。それは保守とリベラルの分断です。
(スクリーンを指して)これ、赤いグラフが共和党、青いグラフが民主党の支持者。それぞれが、どういうふうな政策を支持しているのかというのを表したグラフです。今、アニメーションが流れちゃいましたけども、1994年の頃には重なっていたわけですね。それが2014年になって分断してしまった、と。
これが、一説には「世界中の人たちが、アメリカ中の人たちが、ソーシャルメディアを使いすぎることによって、自分の見たい情報しか見なくなっている。これによって分断が起きてるんだ」と言われています。これを「フィルターバブル問題」と言います。こういった問題を解決するためには、我々が情報技術の力を使って、新たなアルゴリズムを作ったりする必要があるわけです。
僕は、「でも、これだけじゃダメだ」「アメリカの多様性を生で感じたい」と思いました。「自分自身がフィルターバブルの中にいるんじゃないか」という気持ちになったわけです。
それで実際に、大統領選挙の1週間前から、大統領選挙の集会に1週間かけて、もう追っかけのようにいろんな集会に行きました。トランプの集会へ行きました。
これ、実際に行った時の動画なんですけども、ノースカロライナ州のウィルミントンという町の飛行場に、(トランプが)自家用ジェットで乗りつけてきます。そのままスピーチをして飛び立っていく。そういうふうな感じですね。で、こういう、来ている方々と交流したりとかもしました。
オバマのキャンペーンにも参加しましたし、そこに並んでる人たちと話をしたりとか。実際にアメリカで投票しようとしている人たちの話を聞きにいったわけです。
その後、トランプ大統領が当選したわけです。みなさんも報道でご存知だと思いますけども、アメリカの大統領選挙にははっきり言ってセキュリティホールがあるんです。非常にちゃんとしたマーケティングをしていくと、その結果に対して大きな影響を与えることができる手法があるわけです。
わずか数十万人の人々の票が、最終的には数億人のアメリカ国民、そして、世界の秩序に影響を与える仕組みになってしまっています。
その後テレビを見て、このフェイクニュースの問題というのが、「情報戦争である」というような報道がなされたり、オバマが「これはプロパガンダだ」という話をしたり、非常に大きな社会的問題としてニュースになったわけです。
「2020年の大統領選挙に向けて、我々がなにをするべきなのか?」を、実際に僕はこういったアメリカの人々に会いに行きながら、考えているところです。そして、みなさんもぜひ一緒にこの問題を考えてほしいと思っています。
そして、一緒にやりたいという人がいたら、ぜひ仲間になってほしい。引き続き、「この複雑な世界を複雑なまま生きることは果たして可能か?」という問題を考えていきたいと思っています。どうもありがとうございます。
(会場拍手)
夏野:これは、当然アメリカだけの問題じゃないですよね?
鈴木:ないです。
夏野:今アメリカは、みなさんご存知のように、メディアと大統領が大きく対立してるんですけど。言ってみれば、それってある意味、健全な摩擦が起きてるわけなんです。考えてみると、実は日本のほうがより深刻なメディア統制がされてるというのを感じませんか?
例えば、ちょっと政治の話はあまりしたくないんで……芸能人の不倫の話の例を出します。あれ、実は「不倫」じゃない人混ざってたの、みんな覚えてます? 不倫と不倫の間に、狩野英孝っていう独身の方の話が混ざってた。
(会場笑)
でも、メディアが不適切な関係と報道してしまって、もう一般の人は完全に不倫だと勘違いしています。これと同じようなことが政治的な論争にもあるじゃないですか。で、みんながやっぱり同じニュースを見て、しかも、そのニュースの信憑性がない時代というのが、まだ続いてるような感じがするんですけど。
新しいニュースメディアを作っている鈴木さんとしては、どうですか? 日本で。
鈴木:そうですね。これ、世界的な問題だと思うんですね。つまり、アメリカだけじゃなくてヨーロッパでも同じような問題が起きてるし、日本でも起きている。ただこれ、新しい問題のように見えて、実は古い問題で。
僕も歴史を調べて、100年前からアメリカではフェイクニュースの問題があって。(ウォルター・)リップマンっていうジャーナリストが、100年前に『ニューヨーク・タイムズ』っていう非常に権威のあるニュースペーパーが、いかにフェイクニュースを流してるかというリサーチをしているんですよね。
それが紙の世界ではなくデジタルの世界になって、ソーシャルメディアの普及によって、爆発的にその影響力というのが起きるようになった。しかも、それを、そういう間違った情報とか誤解を招くような情報を訂正する情報というのが出てこない。出てきたとしても、それはまったくリツイートされない、という問題が起きていて。
例えば、震災の時のそういうデマゴーグですね。デマ自体の情報はすごくバイラルするんだけども、デマを打ち消す情報というものは読まれない。こういう問題に対してなんらかの解決策、僕らは提案していかなければいけないな、と。
夏野:まだスマニューはそこにたどり着いてない?
鈴木:まだ議論してる途中。
夏野:ちなみに、豊洲問題はフェイクだよね。あれはいい例だと思う。建築の構造の専門家から見ると、あれはまったく空洞ではなくて、単なるピットだそうです。
鈴木:僕は両論のニュースを掲載するのが仕事なんで、個人的な意見は言わないことにしてます。
夏野:はい(笑)。
(会場笑)
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