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ブラック求人問題を考える座談会(全5記事)

労働市場にのさばる「ブラック求人」が与える悪影響 被害者は“働く人”だけじゃない 

給料19万円、実は固定残業代が含まれていたと入社してからわかった……。虚偽の求人票や求人広告によって意図しなかった条件での就労を余儀なくされてしまう「ブラック求人」問題。人手不足の労働市場にのさばる詐欺的な求人にだまされないためにはどうすればいいのでしょうか? 10月6日、日本労働組合総連合会(連合)が、ブラック企業対策に取り組んでいる学識者や弁護士を招き、ブラック求人座談会を開催。ブラック求人の具体的なトラブル事例や対処法を挙げながら語り合いました。本パートでは、弁護士の嶋﨑氏がブラック求人相談がほとんどないと事実を紹介し、問題提起しました。

「ブラック求人」の相談に来る人はほとんどいない

嶋﨑量氏(以下、嶋﨑):弁護士の嶋﨑です。よろしくお願いいたします。

私はふだん弁護士として働いているみなさんの相談に乗っているんですが、「求人詐欺」と「ブラック求人」と言われる問題については、すごく実感しています。だからこそ取り組んでいるのですが、実は、弁護士に直接このブラック求人・求人詐欺の相談を持ちかける方はほとんどいない。

被害はすごくいっぱいあると言いつつも、弁護士のところに駆け込んで来る方、相談してくる方は実はいないんです。それこそが大きな問題でもあるので、そのあたりをお話ししようと思います。

これは私が勝手に分類しているんですけれど、本当にざっくり分けてしまうと2つに分けられます。1つは、明らかな嘘。交通費が出ると言っているのに出ないとか、正社員だと言ったのに契約社員だとか。そういうパターンと、曖昧なパターンの2つに分けられます。

明らかな嘘の場合であれば、働き始めてお給料をもらうタイミングで、自分がだまされた被害に気づくんですが、曖昧な場合は、そもそも本当は被害に遭っているのに気づいていないことがあります。

上西先生のお話で契約という話が出てきましたが、契約を結ぶという意識があまりありません。最初から値段を見てものを買うのと同じように、自分が働くときのお給料や条件を確認してから働くつもりもない。

そして、実際に書面で明示もされていないということで、そもそも曖昧なまま自覚もなく「実は……」というパターン。これも立派なブラック求人だし、私はそこで被害に遭っている例をたくさん見ています。

月給19万円、実態は固定残業代込

例えば、月給19万円で、働き始めたら基本給は12万5千円しかない。残りは固定残業代だったと。

固定残業代は、まだ馴染みがない概念かもしれませんが、これで何時間残業しても残業代をゼロにして働かされ続ける事例はすごく多いんです。こういうことがよく持ち込まれます。実際に同じような求人票で、私は裁判所で裁判をやっています。

例えば、実際弁護士にも相談はあります。この固定残業代を理由に、残業をいくらして長く働いても残業代がもらえないので、そこで相談に来て、契約の中身を確認すると、実は明確ではなかった。契約書ももらえていないとか、そこで被害を認識するというパターンが非常にたくさんあります。

ただ、ご本人は求人の入り口の段階で、自分の契約内容をちゃんと伝えられずに働き始めているのが問題だとか、そこで被害に遭っているという自覚をあまりお持ちじゃないんですね。

そういう意味で、このブラック求人という問題をしっかり世の中に知ってもらって、まず働き始める時にしっかり契約内容を確認するんだという、すごく当たり前のことを(やらなければならない)。

使用者の側にはしっかりと働かせるんだから、どういう条件なのかしっかり明示しなければいけないし、明示した内容に嘘があってはいけない。これは今でも当たり前の社会的な責務なんですが、ここをしっかりと認識を持ってもらうことが大事だということです。

働きながら是正する第3の道もあるけれど

でも、先ほど、私のような弁護士のところに相談がないんですというお話をしました。直接、「このブラック求人なんとかしてくれ」という相談は、1件……記憶にあるかないかぐらいです。

本当にいろいろな相談を日々受けているし、私の所属している団体に寄せられる相談もいくつも見ていますが、これだけを目的に相談に来る方っていないんです。

この連合さんの相談事例を見ると、「え、そうなの?」と思われるかもしれませんが、多くの方は、ブラック求人に気づいたあとに、おそらく2つのパターンを取られていると思います。

労働条件が曖昧だったり、だまされたかもしれないけど、会社を信頼してそのまま受け入れて働くか、もしくはだまされたと思って辞めるか。おそらくほとんどの方はその2つです。

受け入れて働きながら、本当は第3の道があるんですね。働きながらだまされた労働条件を是正する。理論上ありえますが、私は見たことがないです。理論上はあってもいいんですが。

例えば、解雇されたとか、会社を辞めたあとに残業代を請求したいといったときに、過去に翻ってその労働条件、だまされたものを是正する話を弁護士側が気づいて指摘する場面、これは私自身もたくさん経験があります。しかし、自発的に持ってくる方、(労働条件を)受け入れた方についてはあまりありません。

ブラック求人が労働市場を歪ませている

そして、上西先生から新卒の話と中途の話がありましたが、新卒の方だとなおさらわかりやすいかもしれません。もうこれはだまされたんだと思って、次を探そうと思ったときに、弁護士に相談して裁判をやっている暇なんかないし、お金もない。そんな暇があったら、次の職場探すことに一生懸命になられるんじゃないかな、と。

ですから、求人詐欺のトラブルだけを抱えた方というのは法律家のところにはなかなか来ません。実際にはもっと大きな別のトラブルを抱えた方(しか相談に来ません)。翻ってみると、求人の内容に詐欺がそもそも入っているとか。

今、私がやっている裁判所事件で一番「これはすごいな」と思うのは、かなりいいお給料で正社員で働き始めていて、別のもっと大きなトラブルで裁判所に、私が依頼を受けて裁判をやっているんですが、裁判所に行ってから、相手方の書面の中身を見て、はじめて派遣で働かせられていることに気づいたとか。

当然、契約の内容は確認をして、裁判所に行くために私も準備して書面を作って。ただ、相手から出されるまで、自分が派遣かどうかもはっきりしない。

これはもちろん、派遣法をちゃんと守らない使用者側にミスがあったから認識すらもしなかったんですが、そういうのがわりと普通にまかり通ってしまう。

本人の自覚がないけれど、実はそういう詐欺的なブラック求人がまともな求人を出している会社も含めて、労働市場をすごく不公正にしてしまう。

正しくしっかり自分の労働条件を示して採用活動するまっとうな会社が、固定残業代を曖昧にごまかしていたり、明確に嘘をつく企業に、人材を奪われている。

いい人をいかに集めるかが企業の存亡に関わるような人手不足の状態にもかかわらず、大事な貴重な人材を、労働市場でだました会社にもっていかれる。

これでは、社会全体が本当に悪くなってしまいます。これは、働く人の問題だけではなくて、まともに人を採用して雇っていこうという会社も含め、労働市場も含め、なんとかしなければいけないと思います。

今日は連合さんに企画していただきました。労働組合は働き始めてから労働組合に入る。その問題はもちろん大事ですが、さらにそこの入り口の問題、労働者になる前の段階、とくに新卒の方など、その入り口の段階、ちゃんとした労働市場をつくらなければいけないというところに目を配って企画していただいたのは、すごく意味があると思っています。私からは以上です。

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