2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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浜田敬子氏(以下、浜田):またネガティブになりかけている私なんですけど(笑)。
先ほど池見さんが「ベンチャーの現場で息吹がある」とおっしゃっていたんですが、昭恵夫人の周りは、とてもおもしろい生き方をされている人が多いですよね。例えば、会社を辞めて農業を始めていたり、都市から地方に移住していたり。
今までの「会社にずっと勤めてお金をきちんと稼ぐ」というロールモデルでない生き方をしている人もたくさんネットワークにいると思うんです。そういう人を見ていて、どんな希望を感じているのかを少しお話しいただいてもよろしいですか?
安倍昭恵氏(以下、安倍):おもしろい人というか、今、私がやっていることを紹介してもよろしいでしょうか。
浜田:はい、ぜひ。
安倍:今年の8月1日から、山口県の下関に「UZUハウス」というゲストハウスをオープンしました。
私は、これからは本当に地方の時代だと思っているんです。なので、「まだ東京にいるの?」と言われるようになると考えているんです。田舎にいるほうが住環境もいいし、自然に囲まれて子供ものびのびと育てることができて、むしろ「田舎のほうがかっこいい」と言われる時代が来る。そして、「田舎に拠点を置きながら東京にも出てくる」という、2拠点生活がいいと思っているんです。
なぜ下関に作ろうと思ったかというと、東京で設計事務所をやっていた下関出身の40歳の男性が、自分の経験や人脈を活かして、「少し寂しくなっている自分の田舎のためになにかやりたい」「今流行っているバックパッカーが泊まるようなゲストハウスをやりたい」という相談を持ちかけられたんです。
そして、「一緒にやろう!」と、ある物件を手に入れました。6階建てなんですけど、クラウドファンディングでお金も集めました。
最初、彼は「自分は経営だけして、後は誰かに任せよう」と思っていたんです。でも、物件が大きく、大がかりになってしまって。東京で設計事務所をやっていて、奥さんも子供もいて……という生活があったんですが、自分が下関に帰る決断をしたんです。今、そこのゲストハウスはすべて、彼が中心でやっています。
明日も山口に帰る人の送別会があります。私も将来的には、山口に住みたいと思っています。次の選挙は、選挙カーではなく、馬に乗って「安倍晋三をお願いします」と言うのが、今の私の夢で(笑)。
(会場笑)
東京で満員電車に乗って会社に行って、なんとなく会社内ではかっこいい仕事をしている。でも、歯車の1つでしかないような気がして、むしろ「田舎に帰ったほうが自分の役割があるんじゃないか」と感じている人、最近は多いと思います。帰りたいと思っている人たちが、そこで新しい仕事を自分たちで作れば、十分に田舎でも生活していけると思います。だから、そういう人たちを応援していきたいと思っています。
なんか、変なことをみんなでいっぱい考えていって、それをやっちゃえば世のなかは変わっていくと思うんです。
浜田:「こうでなくちゃいけない」「この道しかない」ではなくて。
安倍:私、変わり者が大好きなんです。変わり者が世のなかを変えていくと思うんですよね。
池見幸浩氏(以下、池見):そうですね。先ほどもその話をしていたんですけど。僕もずっと表参道で会社を13年やっていまして、そこに住んでいました。本当に『ワーク・シフト』……英語名『Shift』を読んですごく感銘を受けて、拠点を湘南の茅ヶ崎に移して、海に入ってから会社に来るみたいなことをやっていて。子供や家庭ができたこともあるんですけど、そういった生活をしています。
往復3時間ほど、電車に乗ってるんですね。みんなそれを聞くと「え~!」「3時間とか、なんなの?」と言うんですけど。その往復の3時間に、まさにその『ワーク・シフト』で書かれてた「第2の資本」の「自分の知識を得る」なんです。
この4年間、膨大な本を読む時間を作ることができましたし、自分にとって、結果的に家を移転してよかったです。
あと、『ワーク・シフト』にも書かれている「自己再生能力」。僕にとっては今、海に入ることで自分がリフレッシュできる環境があるのもいいですね。個人的な話ではありますが。
最近、ベンチャーのなかでも変化しつつあるところがたくさん出てきているなと思っています。500兆円とも言われる、日本のGDPのほとんどを押さえているのは大企業なんです。でも、そのなかでベンチャー企業の総額の売上GDPはすごく小さいんですが、息吹としてはいっぱい出てきているとは本当に感じているんですね。
それをどのように大企業に広げるのかは、先ほどの話を聞いて、確かに根深いものはあると感じます。ネガティブにやられている感もあるんですけれど(笑)。
浜田: 大企業で「もう息苦しくて」という人がどんどんベンチャーへ移ってきていますか? この10年は「人材の流動化」と言われながら、なかなか進まないんですけど。「苦しかったらおいでよ、おいでよ」という感じですか?
池見:大手からベンチャーに流れてくる比率は、今、非常に上がってきていると思います。とくに外資系の金融業界で本当に数年やっていた方、外資系のコンサルティング、当社にもいるんですけど、世界を代表するコンサルティングの人間がベンチャーに来ている。
大企業でさまざまな知見を持った方が、お金ではなくて「ベンチャーで自分のキャリアアップをしよう」というチェンジは、増えてきています。むしろ、そういう方々がベンチャーの飛躍には必要不可欠な労働力になっています。昔は「35歳転職限界説」があったんですが、最近ぜんぜんその話は出てこなくなりつつあるんですよね。
浜田:そうですね。転職は40代でも、わりと今はありますね。
池見:本当にそうだと思います。
『マイ・インターン』という映画があって、「60代くらいの方が顧問になっている」という世界も、本当にベンチャーで起こっているんですね。本当に小さな息吹ではあるんですけれど、ちょっと目を広げたり、ふだん見られていないサービスだったりを情報サイトを見ることで、まったく今までなかった、みなさんがお持ちの知見をぜんぜん違うジャンルで使えることは、可能性として高く感じましたね。
浜田:『マイ・インターン』、ご覧になった方もいるかと思うんですが、ロバート・デ・ニーロが……おそらく70歳くらいの役なんですけど、アン・ハサウェイ演じる女性創業者をサポートするという映画ですね。私、3回見て3回とも号泣したんですよ。「私にも『マイ・インターン』!」と思って。
(会場笑)
本当に孤独だったので。ああいう若い人をサポートしてくれる年配の経験を持った人が、本当にほしいですよね。
私、『LIFE SHIFT』を読んでいて感じたのは、今日本でも格差が非常に問題になっていますよね。スキルや知識、持っている人と持っていない人、かなり格差があると思います。例えば、就職がうまくいかなくてずっと非正規で……みたいな人もいます。
例えば、学び直しや、より長く生きるときに無形資産など、ネットワークが必要となると、「持っている人と持っていない人の差がどんどん開いてしまうのでは?」と感じたんですね。この問題は、安田さんの後にぜひリンダさんにもおうかがいしたいんですけど、そこはどう考えたらいいのでしょうか。
安田洋祐氏(以下、安田):そういった格差や今後の人生、経済状況を含めて、個人レベルでできるミクロのことと、個人ではどうやってがんばってもできないことがあります。
例えば、イス取りゲームをイメージしてみると、ゲームに勝つ戦略を一生懸命勉強すれば、自分は勝てるかもしれない。でも、トータルのイスの数が決まっていると、必ずそこに座れない人が出てきてしまう。
そこを拾い上げるのは、昭恵夫人の旦那さまを始めとした方々が実際に国の政治を動かしてマクロで支えていくのは、もちろん必要になってくると思います。ミクロレベルでできる話では、リンダさんが本のなかでも、今日の講演のなかでも強調されていた「無形資産を蓄積しましょう」という話です。
そしてもう1つ、僕は本を読んでいて「ひょっとすると付け足すことができるかもしれない」と思ったのは、経済学のキーワードなんですけど、「スイッチング・コスト」(何か新しいものへ乗り換える際のコスト。お金だけでなく心理的な負担なども含む)ですね。スイッチング・コストを減らすのが、非常に重要です。
僕自身も生まれてからもう東京生まれで、22歳で大学を卒業するまでずっと「東京生まれヒップホップ育ち」だったんですね。
(会場笑)
大学院に入学することになって、アメリカで5年間暮らしました。帰ってきて、また7年くらい東京で働いていたんですけど、2年前から大阪に移りました。きっかけとしては、そんなにじっくり考えたわけでもなく、漠然と「留学したいな」もあり、自分の環境が恵まれていて留学することができた。
行ってみて、やはり移動に対する心理的なコストや、出不精な感覚は、どんどんなくなっていったんですよね。それもあって、今こうして呼ばれてヒョイヒョイと東京に出てきて話しているのかもしれないです。それもたぶん、持って生まれたものではないかもしれない。今まで移動してきたことが、僕のなかでの精神的なものも含めて、スイッチング・コストを下げてくれている。
じゃあ、みなさんはなにを考えればいいかというと、いろいろ選択肢があるときに迷うと思うんですよ。「Aにしようか」「Bにしようか」というときに、今と状況を変えてみる。
とくに地理的な環境を変えるような選択肢で迷ったときは、行ってみるほうが長期的にはリターンが大きいことが多々あると思うんです。池見さんが「湘南に移って、だいぶ人生が変わった」という話もそうですけれど。環境を変えるとは、スイッチング・コストを下げる非常に有効な戦略じゃないかと僕自身は思っています。
そうは言っても、個人レベルでできることには限界があるので、社会全体としてスイッチング・コストを下げるような仕組みも重要です。場合によってはコストを下げるだけではなく、インタンジブル・アセット……無形資産を蓄積するためになにかできないかと、僕は最近よく考えているんです。
実は、イギリスなどの海外には、国内のどこかの大学に留学する「国内の交換留学制度」があります。これ、日本にはないんですよね。海外の場合、とくにヨーロッパは、国を越えた交換留学制度も非常に充実しているんです。
浜田:EUになって、すごく盛んになったと言われていますよね。
安田:そうですよね。アメリカ国内でもありました。学部生にもあったし、大学院生にもあった。日本の場合は国内、それもたとえば国立大学同士なんて、カリキュラムや単位の調整もすごく楽なはずなんですけど、ないんですよ。
なんでこんなことを言っているかというと、まず交換留学で半年や1年、別の地域の、それこそぜんぜん自分の地元でもなければ、今通っている大学とも場所が違うところに行くと、これまでとは違う経験ができますよね。
浜田:そうですよね。人脈としても、今までとは違う人と知り合いになれる。
安田:人も違う、そこで刺激を与え合う。さっき、昭恵夫人からも下関のゲストハウスの話が出ました。今、地方創生がキーワードになっていますけど、地方になにが足りないかというと、お金じゃない。人が足りない、アイデアが足りないんです。
みなさん、自分自身でイメージしていただきたいんですけど、例えば、東京生まれ東京育ちで、仕事も東京でやっていて、突然「下関に来てください」と言われたとする。「アイデアを募集してます」と言われて、行く気になるかということなんですよ。自分が知らないと、そこで起こる心理的なスイッチング・コストがものすごい大きいんですよね。
でも、若いころに半年や1年間、下関に住んでいたり、自分が青春時代を過ごしていればわかる。そのうえ、いい働き口があって自分が必要とされていれば「そこに行こうか」という気になると思うんですよね。
浜田:確かに、若いときにある程度、強制的とは言わないまでも、システムとして半年くらい違うところの大学に行くと、老後の選択肢も増える。
安田:そこでインタンジブル・アセットを積み重ねるとともに、移動経験を獲得できるので、精神的なスイッチング・コストを下げられる。今後、長期計画になりますけど、地方創生もそうやって、要は日本人の数を増やすのはなかなか大変なので。数を増やせないのであれば、地元を増やすしかないんですよ。そこで、移動を増やす。
移動を増やすために、一番社会的にコストが少ない時期はいつなのか。高校まではなかなか親元を離れて行くのは難しい。社会人になっちゃうと、転勤で行くことなどを除けばない。大学の4年間は、すごく有効活用できるんじゃないかと僕は思っています。ここをぜひ、政治家の方などに変えていただきたいと思うんですけど。
浜田:昭恵夫人、どうでしょうか? 今の意見は。首相に伝えていただくことはできますでしょうか?
安倍:いいと思います。
(会場笑)
養老(孟司)先生が、「現代版の参勤交代をすればいい」というお話をされていました。霞が関の官僚の方々に、1年間くらい、まず地方に行っていただくのがいいんじゃないかということです。それはすごくいいアイデアだと思いました。学生の国内交換留学もすごくいいと思います。伝えておきます。
浜田:ありがとうございます。実際に行って、住んで、暮らしてみると、自分のなかの選択肢がそれだけ増えます。「こういうところに住めるんだ。また老後も行きたいな」という選択肢も増えますよね。
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