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農業総合研究所・及川智正氏(全2記事)

「世界から農業がなくならない仕組みを作る」駅前のみかん売りからスタートした流通改革

アマテラス代表・藤岡清高氏が、社会的課題を解決する志高い起業家へインタビューをする「起業家対談」。今回は、株式会社農業総合研究所・及川智正氏のインタビュー後編を紹介します。※このログはアマテラスの起業家対談を転載したものに、ログミー編集部で見出し等を追加して作成しています。

大失敗に終わった農家の営業代行コンサルティング

藤岡清高氏(以下、藤岡):起業当初はどのような事業で稼いだのですか?

及川智正氏(以下、及川):生産者に代わって、高級スーパーや百貨店などに生産物を売り込む農業の営業代行コンサルティングのような事業を行いました。

具体的には私が農家の方々を訪問して、より買付価格の高い売り先を紹介して関係を構築し、商流ができたらコンサル料を農家の方々からいただくというものでした。

しかし、このビジネスは大失敗に終わりました。農家の方にとってコンサルティングという目に見えないサービスにお金を支払うという概念がなかったのです。

農家とスーパーをつなげるために、農家から集めたみかんを持ってスーパーに売るとスムーズにスーパーとの契約は取れるのですが、「スーパーとの契約が取れたので今月はコンサルティング料をいただけますか?」と言うと農家の方々から「え!? スーパーをつなげてきただけなのにお金をもらっちゃうわけ?」と言われてしまいました。

農家の方々とは事前に契約を締結していたものの、結局農家の方々はコンサルティング契約という目に見えないものにはお金を支払う気がなく、私は稼ぐことができなくなりました。

そしてお金を稼げずに家に帰ると、お腹を空かせた2人の娘が泣いているという惨状です。これは辛かったです。

お金はもらえないが現物(みかん)はいくらでももらえる

困った末に考えたのが、お金の代わりに野菜・果物(現物)をいただくという方法でした。農家の方に、「お金はいらないからそこに置いてあるみかんを50箱ください」という話をすると「みかんだったら100箱ぐらい持ってけ」と言われます。「現物はくれるのか!」と思いましたね(笑)。

しかも50と言ったら100くれます。「お金を下さい」と言うと、「ふざけんじゃねえ!」と言われますが、現物になると「及川さんお世話になったからたくさん持っていきなさい」となる。

そしてそのもらったみかんを大阪や和歌山の駅前でゴザを広げて売ることで、お金を稼ぐことができるようになりました。

作物をもらい駅前でゴザを敷いて売って現金化するという作業を繰り返すうちに、農家の間で「東京から来たお兄ちゃんに野菜や果物を与えると高く売ってきてくれるらしいよ」と噂になり、多くの農家から作物が届くようになりました。僕は作物ではなく、お金が欲しかったのですが……(笑)。

「農家の直売所」が生まれたきっかけ

藤岡:現在の主力ビジネス「農家の直売所」はどのように生まれたのですか?

及川:農家からお金ではなく作物を引き取っていくうちに、農家の方から直売について相談を受けるようになったのがきっかけです。

「ファーマーズマーケットや道の駅、農産物直売所はいっぱいある。確かにたくさん売れるし儲かるけど土日じゃないと売れないし、車がないとお客さんも来れない。これを何とかコーディネートできないのか?」という意見を数多くの農家から言われるようになりました。

私はそれを聞いて、都会にファーマーズマーケットを出すことを考えたのですが、そのコストを算出したら1億円弱になりました。

しかし、資本金は50万円しかないので、このビジネスを始めるには資金調達が必要でした。しかも当時はVC(Venture Capital)のことをビタミンCだと思っていた(笑)。それくらい資金調達の知識に疎い状況でした。

そのため銀行から借りる手段しかわからないのですが、担保がないため1億円借りるのは絶対無理です。都会のファーマーズマーケットのビジネスモデルは諦めざるを得ませんでしたが、ここでいろいろと考えました。

八百屋をやっていた経験から、お魚とお肉がないところでは野菜は売れない。そうなるとお肉とお魚を売ることが大事になる。それでは都会でお肉とお魚を売っているところはどこかと考えたらスーパーマーケットです。

スーパーのなかに直売所を作って、農家の方が作った野菜、果物、花、お米を、農家が値段を決めて自由に販売し、売上を農家とスーパーと農業総合研究所で分け合うというビジネスモデルを構築しました。

この形であれば農業総合研究所は在庫リスクを負うことなく、場所もスーパーを活用するので資金がなく始められます。

直売所の数は全国に約16,000とセブンイレブンよりも多いと言われております。しかし、どちらかと言うと立地的には地方側にあります。これを自分たちが逆転させて都会でやろうというイメージです。

スーパーマーケットの野菜コーナーを直売所にするという「農家の直売所」の試みは、最初20名の生産者と2店舗で実施していたものが現在(2015年春)は約4,500名の生産者と450店舗で実施するまでに拡大しました。このビジネスモデルは我ながら本当によく思いついたなと思います。

「農家の直売所」のビジネスモデル

藤岡:「農家の直売所」のビジネスモデルを教えてください。

及川:我々は生産者が出荷したものを集める集荷と都心部へのスーパーへと農産物を運ぶ流通を担っています。特徴としては、生産者が「売りたいもの、売りたい店、売りたい値段」を決めるということです。

5,000人くらいいる生産者が、毎日我々の集荷拠点に野菜や果物を運んできてくれます。集荷拠点は我々の直営もしくは業務提携先の運営になります。

集荷拠点では生産者が持ってきた野菜や果物の値段を決めて、我々が開発したバーコード発券機からバーコードを発券し、野菜や果物にバーコードを貼るという作業を生産者が行っています。

そして生産者は自分たちが出荷したい店を選び、サミット○○店行き、ライフ○○店行きなどと書かれた看板のところに農産物を置きます。

そしてトラックで該当する店舗まで持っていき販売します。農産物が売れると、生産者は売上の約65パーセントを受け取ります。残約35パーセントを我々とスーパーで折半するというかたちで利益を分け合います。

野菜・果物は鮮度が命です。翌日の午前中までに売り場に届けることを約束しています。我々はそれを支えるシステムを作っています。

例えば、先ほどお話ししたバーコード発券業務に関するシステムを作りました。バーコードはスーパーによって異なります。イトーヨーカドーのものはイオンでは使えませんし、イオンのものはダイエーでは使えない。

そのため以前は取引するスーパーが増えるたびに、バーコード発券機を買っていましたが、取引先が増えると「どの発券機からどのバーコードが出るのかわからないんだけど……」というクレームが来ました。

そこで1つのシールの発券機から世界中のスーパーマーケットのバーコードが簡単に発券できる仕組みを作りました。

これを作ったおかげで生産者が使いやすくなり、さまざまなスーパーと直取引ができるようになりました。我々の会社が伸びている要因は、入口でバーコード発券システムを作ったことにあるのではないかと思います。

ほかにも生産者が自分たちの作物が売れているかを確認できる仕組みも作っています。委託販売なので農家の方々は自分たちの農産物が売れているかどうか不安になっています。

しかも集荷拠点と販売拠点は車で2、3時間は離れているので、農家の方々が自分の商品が売れているかどうか見に行けない距離です。

新しい農産物流通のプラットフォーム

そこで我々はスーパーから毎日レジ情報をいただき、生産者向けのポータルサイトで売上情報が見れるようにしました。そこでは何がどれだけ売れ、どのスーパーで売れ、何が売れ残っているのかという売れ筋情報や、大根を一番高い人は150円、安い人は50円、平均このくらいで売っているという価格情報、集荷場のライブ映像、などを提供しています。

つまり、ポータルサイトによって我々はいろんな情報をリアルタイムで反映する仕組みを提供し、生産者が出荷先を決定したり、価格帯を決めたりするのに役立てていただいております。

我々は単に流通会社ではなく、最終的に目指すのは新しい農産物流通のプラットフォームを構築することを目指しています。

やること・やらないことをしっかり決めてシステムをブラッシュアップし、最終的には農業をやるには当社のシステムを使わないと農業はできないくらいのスタンダードとなるシステム作りを目指しています。

農協や道の駅のシステムとの違い

藤岡:既存の農協や道の駅のシステムとの違いを説明いただけますか?

及川:我々のシステムは農家側から見た場合、自分で値段を決め、出荷先を決め、好きなものを作ることができる。この点が最大のメリットです。

市場への出荷だと、自分で値段が決められませんし、出荷先も決められません。また自分で好きなものも作れません。産地を形成しなければならないため、農協が生産作物を指定し、それ以外のものは流通できません。

また、形の悪いものB級品・C級品も出荷できません。我々の流通はまったく逆です。売れ残りのリスクはありますが、今まで捨てられていたかたちの悪いものやB級品・C級品もおいしいものであれば、お金になるというところが我々の仕組みです。

一方、生活者側のメリットとしては、わざわざ土日に車を使って買い物に行かなくても近くのスーパーマーケットで同じような商品を毎日買えるというところです。

生活者の方に野菜や果物をどこで買っているかというアンケートを取ると、約20パーセントは農産物直売所と答えているそうです。

おそらく土日を使って地方に行き野菜や果物を買っていると思います。そう考えると、車を使わなくても毎日使う近くのスーパーで買えるというのは大きなメリットになります。

ほかには鮮度の良いものや完熟している商品を手に入れることができる点にあります。市場流通はどうしても3、4日かかってしまうので、トマトは緑のトマト、桃は固い桃をとりますが、我々は翌日に届けるので完熟の商品を届けることができます。

またすべてのものに対して生産者の名前がわかり、規格も定まっていないため、選ぶ楽しさもあると思います。

また、市場流通は、100円で農産物が売れるとしたら生産者が受け取れるのは25〜35円、流通日数は3〜4日となります。

すごく悪い流通に見えますが、大量流通・大量販売・安定供給ができ、生産者出荷の手間が少ないという面ではよい流通です。作りさえすればどうにかなるという流通です。

生活者に便利な「道の駅の流通」

この市場流通に代わって出てきたのが、道の駅の流通です。末端売価も都会で販売するよりちょっと安くなり、生活者にとっては非常にいいものになります。

出荷当日にものが並ぶので非常に鮮度がいい。一見するとかなりいい流通ですが、問題点もあります。

例えば、地元に5ヶ所直売所があったら出荷者は5ヶ所回らないとなりません。直売所に出荷した場合、自分で売った農産物が余ったら自分で引き取りに行かなければなりません。5ヶ所行って5ヶ所引き取ってしまえば1日が終わってしまう。

生産者にとっては非常に手間がかかる流通です。また郊外で販売しているので、売れる量が少ないのも問題点です。つまり道の駅は、手取りはいいものの、少ししか売れず手間がかかるという小規模流通だと思っています。

我々の流通はその中間です。市場流通より多くは売れませんが、市場流通よりは手取りがよい。道の駅よりは手取りは悪いけれども、道の駅より多く売れる。これが我々の流通です。

よく「市場流通は悪いか良いか」と聞かれますが、私は「市場流通しかない」というのが悪だと思います。そこに新しい流通を作って、農家の方の選択肢を増やすことが重要と思っています。

もう1つ、生活者も選べる仕組みも作りたいと考えています。今スーパーに行ってリンゴを買おうと思ったら赤いリンゴか緑のリンゴ、ふじか王林、というように種類に応じてリンゴを選ぶと思います。

私たちがやりたいのは、同じ赤いリンゴ、ふじという種類であっても市場直送か生産者直送かというように、流れてくる流通の違いによる選択肢を与える仕組みです。この選択肢をスーパーと生活者に提供していきたいと思います。

またスーパーがいろいろな産地を選べる仕組みを作っています。産地ミックスをすることによって商品の偏りをなくして1年間を通じて売り場を保つことができるというのは我々の強みの1つです。

始めは和歌山で農産物を集め大阪で売っていましたが、和歌山県は夏が暑くその時期に商品がなくなるため、産地直送コーナーを作っても1年を通じて売り場を保てないという問題が発生しました。

そこで長野に産地を作ることで、この問題を解決しました。またいろいろな会社と業務提携をし、現在は集荷場を拡大しています。初めは集荷場を自社でやっていこうと考えましたが、さまざまな問題が発生したため提携を結ぶ戦略に変更しました。

例えば神姫バスというバス会社と業務提携し、バス会社で野菜と果物を集めてもらい、我々がシステムと販路を提供するという仕組みを行っています。

また、淡路島ではパソナ、奈良県では近鉄の関連会社と提携するなど、地元に根付いた会社に集荷業務をお願いして我々はシステムと販路を提供するという、役割を決めた業務提携を行っています。

あとは農園のプロデュースなどのコンサルティング業務をやっています。自前で農地を持った経営をしていないので、我々でやっていることはすべてコンサルティングだと考えています。

世界から農業がなくならない仕組みを作る

藤岡:御社の経営理念について教えてください。

及川:「持続可能な農産業を実現し生活者を豊かにする」というものです。私は自分で農業をやり、農協にも行き、市場にも行き、自分で八百屋もやって、スーパーにも営業に行きました。するとみんな同じことを言います。

それは「野菜や果物は儲からない」「農業は儲からない」ということです。儲からないというのは、たぶん資本主義の世の中で「ありがとう」と言われていない産業なのではないかと思います。「ありがとう」が言われていないのでなければ、私はなくなるべきだと思います。

しかし私は、農業は日本国民の胃袋と心を満たす産業だと思っています。そのため、未来永劫日本から、世界から農業がなくならない仕組みを作る。これが我々のビジョンであり、私の人生のビジョンです。

農業がなくならない仕組みを作る。これは農家を守るための何かではなくて、日本に食べる人がいて、世界に食べる人がいて、彼らの心と胃袋を満たすために農業が衰退しない仕組みを作っていく。なくならない仕組みを作っていく。ここに注力したいと考えています。

「及川さんの会社は農家を助けていますよね」と言われることがありますが、単に農家を助けようとは思っていません。農家を助けるのではなく、農業がなくならない仕組みを農家と一緒に作ろうと思っています。

「及川さんの会社いいですね。地方活性化につながっていますよね」とも言われますが、地方活性化や環境問題のために活動しているのではなく、我々は農業がなくならない仕組みを作り、そこに特化する会社になりたいと考えています。

そのためには、我々のビジョンである「ビジネスとして魅力ある農産業」を確立して行くことが不可欠と考えております。

そのなかで、たまたまうまくいったのが「農家の直売所」という事業でした。20名・2店舗から始まって、今では4,500人・450店舗になったので、たぶんみなさんから「ありがとう」と言われているんだと思います。

まずはこの事業をメインで拡大して行き、5年後にスーパー2,000店舗、生産者20,000人まで広げたいと考えています。

それができたら最終的には作ることから食べることまで、農業に関すること全てコーディネートできる会社になりたいと考えています。

自分たちで生産をしたり、種屋さん、苗屋さん、肥料屋さんをしたり、もしかしたら販売をしたり。農業に関わるビジネス全てをやるつもりです。それができたら海外にも広げるつもりです。このモデルだけではなく、他のことも海外でやりたいと考えています。

農業総合研究所が求める人物像

藤岡:最後に、及川社長が農業総合研究所に求めている人物像を教えて下さい。

及川:1つは元気があり、自分の目標と会社の目標を重ねることができる人間だと思います。もう1つは「ありがとう」をちゃんと言える人間です。

「ありがとう」の反対語は「当たり前」です。何でも「当たり前」と思ってしまうと、おそらく「ありがとう」という言葉が出てこないと思います。

いろいろなことに対して当たり前じゃないという気持ちを持って、「ありがとう」が言える人間が欲しいと思います。

そういう感覚を持った人間と働きたいと思います。私は別に社員が欲しいわけではなく、仲間が欲しいと考えています。

私が一生懸命農業をどうにか変えたいと思っていても24時間しか働けないので、やはり同じ気持を持った仲間と一緒に働き、彼らの時間とともに、大きな波を作って農業を変えていきたいなと思います。

農業ビジネスは体力的にも精神的にもけっこう大変で、苦しいビジネスのではないかと思います。

また、簡単に儲かるビジネスではありません。しかし農業は絶対に必要ですし、農業が衰退すると世界の人々が困窮します。故に我々がやらなければならないこの農業ビジネスは意義のあるものと考えています。このような考えに共感してくれる方の応募をお待ちしています。

藤岡: 及川さん、素敵なお話ありがとうございました。

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