CLOSE

東洋経済主催 経済記者×名物鉄道マンが語る「鉄道ビジネス最前線」(全7記事)

「運ぶ」から「住んでもらえる」鉄道へ “三浦半島の足”京急の大きな挑戦

鉄道ビジネスの現状や各社の取り組みなどを語る「鉄道ビジネス最前線」。今日本で問題視されている少子高齢化や人口減に、鉄道各社はどう挑むのか。鉄道事業以外での「多角化」から、次なる生き残り策についてのトークが行われました。本パートでは、京浜急行電鉄・総務部広報課の飯島学氏が「半島を走る鉄道の特徴」と、生き残るための3つの取り組みについて語っています。

京浜急行電鉄は創業以来初の赤字

司会者:今回、トークセッションでは、スペシャルなゲストをお呼びしております。まず、お二人に簡単にお話をお願いして、その後にトークセッションに入りたいと思います。お1人目、飯島学さまです。

(会場拍手)

経歴を簡単にご紹介させていただきます。京浜急行電鉄株式会社総務部広報課の飯島学さまです。1994年に京浜急行電鉄に入社され、その後、上大岡駅、金沢文庫車掌区を経て、旅客誘致や構内営業、安全対策など、鉄道に関する業務を経験。2011年の3月から広報課に勤務されています。

フジテレビの『ほこ×たて』という番組、DVDの『中川家礼二の鉄学の時間』などに出演するなど、京急グループのPRに務めていらっしゃいます。よろしくお願いします。

飯島学氏(以下、飯島):改めまして、こんばんは。京浜急行電鉄広報課の飯島と申します。ご紹介ありがとうございました。今、ご紹介いただいたとおり、現場上がりの現場育ちということでございまして、まさにこの東洋経済というビルの中に入り、そして経済に精通されているみなさまの前でお話をする日が来るとは、高校を卒業して会社に入った瞬間からこれっぽっちも思ったことはなかったんですけれど。

(会場笑)

ご指名ということで、簡単に京浜急行電鉄という会社がどんな会社かというところと、今、大坂(直樹)さんからお話がありましたとおり、鉄道には非常に厳しい将来と、それにどう立ち向かっていくのかという、そんな2つの視点があるかと思いますので、少しだけお話できればと思っております。

冒頭に申しあげるのも恐縮なんですが、京浜急行電鉄、創業以来初の赤字会社でございます。実は昨年度決算で赤字を計上いたしまして、偉そうに語ることはできないんですけれど、これもまさに鉄道事業が現在抱えている課題の一面を見ているのかなと思っております。また半面、新しい取り組みに向けて進めることも鉄道事業者の一面かと思っております。

当社と私について簡単にご説明させていただきます。まず京浜急行電鉄、当社は東京・品川から横浜を経て三浦半島側へ移ります本線と、一部の支線、そして現在では主力路線になりました羽田空港アクセスを担う空港線と、全長で67.0キロメートルの鉄道事業者でございます。

俗に言うJRさん、それからほかの大手私鉄・中小私鉄、さまざまな会社があるなか、大手私鉄のなかではおそらく下から数えたほうがわかりやすいだろうというような地元密着型の小鉄道だと、我々は自身で認識しております。

現在、我々の主力路線になっております京急電鉄の本線は、東京—横浜の京浜間を結ぶ鉄道として、そして三浦半島方面は湘南地区と当時呼んでいましたが、地元輸送を行う鉄道。この2つの鉄道が合併して、現在の骨格になっている会社でございます。

これに合わせて、もともとは穴守稲荷という神社の参詣輸送でスタートした鉄道だったんですけれど、やがて開港した羽田空港のアクセスを担い、現在では羽田アクセスとして三浦半島輸送との2本柱で走っている会社でございます。

「お客さんが集まる」を期待できない鉄道

今日は、その鉄道というものがどんな課題を抱えているかという視点で、ご説明をさせていただきたいと思います。実は当社は先ほどの図のとおり、半分は半島を走る鉄道でございます。京浜という名前のとおり、半分は東京と横浜なんですけれど、その下は三浦半島に路線を持つ会社です。

調べますと、半島を走る大手私鉄というのは、例えば当社、京浜急行電鉄のほか、名古屋鉄道の知多半島(を走る河和線、知多新線)とか。これを半島ととらえていいかわかりませんが、南海電鉄(南海電気鉄道)さん(の南海本線)ですとか、このようなところが大手私鉄ではございます。そのほか、どちらかというと都市間を結ぶ、もしくは平野を走るような鉄道が多いのかなというところです。

この、半島を走る鉄道というのは1つ特徴がございます。これは左側の図です。平野を走る鉄道を模式化したものなんですけれど、A点からB点まで結ぶ鉄道というものの、平野を走る鉄道はある街に人が集まり、そして街に向かって人が出て行く。またその街に人が集まり、またA点に戻る。こういう構図が一般的に考えられると思います。1番わかりやすいのは、京王電鉄さんの井の頭線あたり。渋谷—吉祥寺ということですね。

実は我々の持っています京浜急行電鉄という会社は、(路線の)半分は半島の会社です。品川—横浜の京浜間を結ぶ都市鉄道でもありますが、その先になりますと三方を海に囲まれている鉄道。この図でいきますと、赤矢印で点々となっているところから、四方からお客さんが集まるという、こういう構図が期待できない、非常に構造上苦しい鉄道だということが言えるわけでございます。

半面、大きな都市に向かって、この住みやすい環境を生かしてベッドタウンとして、高度成長時代には多くの方がお住まいになり、そして我々も宅地開発をして東京への足を務めてきたところです。

この半島鉄道の課題というものの1つ、弱みというのは、流入が一方向であるということ。(反対方向の流れを)しいて言うなら、この三浦半島内で家を建てたりとか、なにか工事をするにしても、職人は必ず賃金の高い横浜を通過して三浦半島に来るという、こういったデメリットもあったりします。

半面、三浦半島の人たちにとってみれば、我々というのは非常に価値の高い、期待されている鉄道になっているんだと思います。島にある汽船会社、(伊豆)大島の東海汽船さんとか、小笠原諸島の小笠原海運さんとか(と同様)、非常に期待されているところなのかもしれません。

半島の足として、人力で電車の遅れをなくす努力

我々、今日は非常にかいつまんでお話しますが、「沿線での取り組みのご紹介」と題しまして、3本の柱で非常に簡単にお話しします。

1つは、この半島で生きていく鉄道会社として、地域の足としてどう期待にこたえていくか。そしてもう1つは、その地域の足たる鉄道がこれからやっていくためには、どうやって人にこの街に長く住んでもらうか。もしくは多く住んでもらうか。そして最後は、そこにどれだけ多くの人に集まっていただくか。

こういう取り組みが、我々は必要なのではないかなと思っております。最後にまたお話するんですが、当社の長期ビジョンというものがございます。一応、1回だけ読ませていただきます。「品川・羽田を玄関(口)として、(国内外の多くの)人々が集う、豊かな沿線を目指す」。これが我々の長期ビジョンです。(本日の話の)1番最後に出て来ます。

まず、3つのうち1番最初、あたまから説明いたします。ここまでなんとなく経済視点のようなお話をしてきながら、ここから突然マニアックな話になるんですけれど、昨年10月に国土交通省を中心とします「鉄道の日」実行委員会というところから、京急の鉄道の運転について表彰をいただくことができました。非常に名誉なことでありがたかったんですが、半分こそばゆいところもございました。(表彰の選考理由は)「高度な安定輸送の実現」ということでした。

これは京急の電車がほかの鉄道事業者と比べて……、と言われるのは、非常になんとも言えないんですけれど、「さまざまな取り組みのなかで、電車の遅れが少ないという数字が出ています」「それは、さまざまな取り組みがあるからです」と表彰されました。実は実際にそうかと問われると、非常に悩ましいところなんですが。

我々が三浦半島という地域内で、京急だけが走っている三浦半島のなかで沿線の方の足を確保するために、粛々と取り組んできたことが評価されたのかなというところです。評価内容に「ハードの工夫と共に、高度なプロフェッショナリズムへの揺るぎない信念にもとづいた、人間優先の運行管理思想を社内隅々まで徹底している」と書いてあります。

簡単に言うと、みんなでラグビーやってゴールに入れようみたいな、そんな感じの鉄道会社でございます。「人の能力を発揮させた運行管理」というタイトルです。鉄道に詳しい方ですと、「ああ」とわかるのかもしれないんですが、(鉄道を)いっぱいご利用されてる方、今日もたくさんいらっしゃると思いますので、簡単にご説明します。

一般に、最近の鉄道の「列車の駅に着いて発車をして、目的地に着いたら折り返す」という作業は、電車の運転士さんが操作するものと、駅の信号機を扱うものの2つで成り立っています。

電車の運転士は当然いるんですが、駅の信号機を「はい、切ってください」、「折り返したら、こちらに行ってください」、「この電車は○○行ですから、右の線路ですね。(もしくは)左の線路ですね」と、こういう運行管理をするものは、現在は一般的にコンピューターで行われています。

非常に投資効率の高い、人件費を削ることができるという、そういった側面もあるんですが、当社はそういった面ではまるっきり逆に見えるような、昭和のころから行われていたのとほぼ同じやりかたを、現在も踏襲しています。人の力によって行っています。指令がいて、各駅に……、信号のある駅、ポイントのある駅に人がいて、電車が来たら信号機を変えるということを現在も行っています。もちろん、保安装置はしっかりしています。

これを行うことで、万が一電車が遅れたりした時に、即時その場の判断で、もしくは電車が遅れるような情報を耳にした乗務員一人ひとりの判断も含めて、1歩早く電車を折り返し運転するような判断ができると。これは、現在の技術ではおそらく人間の方が長けているんだろうというところで、現在もこういう人の力で行う電車の運行管理を行っています。

これはポリシー、理論の問題で、ふだんは人間はやらずに機械に任せていながら、突然異常時に「操作しろ」と言われても、それはなかなかできないですよね。「ワープロを使い慣れてる人が突然『漢字を書け』と言われても書けないだろうというのに近い」と言っている方がいましたが、人事スキームを含めて、システムの構造も含めて、なるべく三浦半島の人たちの足を途絶えさせないような方策を取ってきているということなのかと考えております。

「運ぶ」だけじゃなく、沿線に住んでもらえる鉄道へ

2つ目、定住促進への取り組みです。三浦半島は非常に狭い半島です。多くの方に住んでもらうために宅地開発もするということも、過去には行ってまいりました。一時期、経営が苦しくなるぐらいの大きな宅地開発を行ってまいりましたが、その余地も現在は少なくなりましたし、そう人が増えるというわけでもないというところです。

それでも、さまざま行っています。都市部のマンション開発も行っておりますし、場合によってはITセンターのようなYRPという研究開発拠点の誘致も行っていたり、沿線のスーパーなどのM&Aによって店舗数を増やしたりしています。

1つ、ここは鉄道に戻りまして、定住促進に向けた取り組み、こんなことを行いました。昨年の12月に「モーニング・ウイング号」という、朝の通勤時間帯に座って出勤ができるという電車です。JRの東海道線でいくと湘南ライナーという列車がかなり前から走っていますね。こんな電車を走らせたりします。

三浦半島に住んでいる人が東京方面へ飛び道具として、座って通勤できれば「これだったら、ちょっと離れていても住んでもいいよね」と言っていただけるような電車を作りました。

やはり、こういう取り組みをするというのは、社内的にはとても難しかったりするんですね。ようやく夢叶えまして、平成4年に下り「ウイング号」という、お帰りの夕方ラッシュに走らせる電車を作ってから早10年以上……、20年ぐらいになりましたが、ようやく朝のラッシュに走らせることができました。

ダイヤの工夫とか、快適な通勤輸送とはちょっと毛色の違う、座って通える電車が朝のラッシュでは使いにくいものですから、遊休で空いているのを「これは使えるだろう」と。それから今まで走らせてきたノウハウ、そして信号装置の改良等々を行って、「モーニング・ウイング号」の列車を走らせることができました。

なにを言わんとするかというと、一鉄道事業者が毎日電車でお客さまを無事に運ぶだけではなく、沿線の方を1人でも多く運ぶから、多くの方に住んでもらえるような鉄道に自ら変わっていかなければいけないという意識づけの意味合いも含めて、あらゆる部署の担当者がこの列車を走らせるためのパスを出して、実現したというところに大きな意味があったのかなと思っています。

輸送への意識改革にも影響があると思います。まだまだ三浦半島の人を増やすには、課題は多いと思っておりますし、ほかの沿線に比べて少子高齢化率は非常に高い沿線ですので、一人ひとりが変えていかなければいけない。

そして最後です。我々が、三浦半島という半島を抱えている鉄道としてしなければいけないことは、この「豊かな沿線を目指して」ということです。今までのお話をずっと通すと、課題の解決のためにはがんばっているし、電車を走らせることに関してはなんとかやっているということはわかるかと思いますが、例えば、この京浜急行という会社の株を買うという話になった時に、成長性があるか・ないかと言われたら、どう見えるだろうかと思うわけです。

当社はどういう展開を考えているかというと、ここ(長期ビジョン)に戻りまして、「品川・羽田を玄関口として、(国内外の)多くの人々が集う、豊かな沿線を目指す」ということを挙げています。どういうことかと言いますと、沿線の半島で我々が鉄道をやることは、もう逃れることができない絶対条件でございます。

それをいかに効率的に、かつ安定して、かつ(沿線地域を)快適な街にするかというのは我々の課題で、これはどの鉄道会社も同じだと思います。少しハンディキャップは大きい。

羽田空港を通じて、いかに京急沿線へ人を呼び込めるか

ただ、1つ思い出していただくと、半島を走る鉄道にすべて共通するポイントがあります。京急、名鉄、南海。すべて空港を抱えている鉄道でもあったりします。当社が先人に感謝しなければいけないと思っているのは、この羽田空港に路線を持っていることでございます。

羽田から東京方面へ結ぶ羽田アクセスを1つの柱として、我々はおそらく少子高齢化でも減ることはないだろう、もしくはインバウンド等々で増える余地もあるだろうという、成長性の高い羽田空港に路線を持っていることは、単なる鉄道としても価値はあるんですが、ここから、世界から、日本(各地)から羽田空港を通じて京急沿線へといかに人が呼び込めるかというのが、我々の課題であると思っております。

さらに、品川駅には新しい街が、JRさん始め、できつつあるところでございます。ここに多くの就労者も勤めることになると思います。この就労者に、どこの沿線にお住まいいただくか。それは安定輸送で、かつ快適な鉄道がある、我々京急電鉄の責務ではなかろうかと思っているところでございます。

品川というところに、やがてはリニアモーターカーが来るとも言われております。品川の駅前には、遠い昔に京急電鉄の本社ビルもあって、土地もあり、これから大きな事業をやっていく余地はあるだろうと考えてはおります。

我々が今後目指していかなければいけないことは、まずは快適な通勤ができる方策を一人ひとりの職員含め、鉄道員としてどういう鉄道にしていけるか。そして、いかに安定した鉄道を安全にこなしていくことができるかという、非常に地道なことを続けること(の成果)が、品川・羽田を通じて沿線に再び戻って来るだろうと。こんなことを考えている鉄道です。

駆け足ではございますが、当社という会社が非常に苦しい立場に立たされておりながら、やがては成長するだろうと感じていただけたらと思っているところでございます。三浦半島という(本拠地の)鉄道が本当に大丈夫なのか・否か、ぜひ京急線に乗って、ご覧になっていただければと思います。

最後に、この半島の図に戻して、1つだけやって来るものがあるんです。赤い矢印の1番下のところは、三浦半島。三方を海に囲まれていて人がやって来ないんですけど、マグロ漁船がやって来るんですよ。マグロで今、三浦半島は街おこしをしておりまして。

ぜひ、そんな三浦半島が経済的に、そして1つの私鉄のモデルとしてどうなるのかということを見に、品川駅から3000円ちょっとで「(みさき)まぐろきっぷ」も売ってます。ぜひ、お求めいただいて京急線をご利用いただければありがたいかなと思っております(笑)。以上です。ありがとうございました。

(会場拍手)

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 大企業の意思決定スピードがすごく早くなっている 今日本の経営者が変わってきている3つの要因

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!