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「妊婦にも、子どもにも、育休中パパにも厳しい社会に未来はあるのか?」 『マタハラ問題』(筑摩書房)刊行記念(全6記事)

「過激なことはせず、ゆっくり正論を言っていく」 子育て・働き方問題の打開策

2016年1月に書籍『マタハラ問題』を出版したNPO法人マタハラNetの代表・小酒部さやか氏、コピーライターの境治氏、働くママ(サラリーマンママ=リーママ)の力を社会に還元することを目指すリーママプロジェクト代表・田中和子氏の3名が「妊婦にも、子どもにも、育休中パパにも厳しい日本社会」の問題点と、その打開策について語り尽くします。

日本は本当に会社中心だった

境治(以下、境):さっき田中さんが言ったことと重なるんですけど、本当に会社中心だったんですよね。

それはひょっとしたら日本の社会のステップの中でしょうがなかったかもしれないんだけど、皆が農業や漁業をやっていた80年くらい前っていうのがあって、そこからこうなっていったんですよね。皆が都会に出て行って。

これはこれで美しいというか(笑)、会社村で頑張っていこう、みたいなことで高度成長は支えられていたし、その周りでお母さんたちが幼稚園で子供育てといてください、みたいなことだったわけなんですよね。これはこれでうまくいってたんだけど、要するに今はこれでうまくいかなくなっている。

僕は、結局いろんなことって損得とかインセンティブで動くと思ってるんですけども、これでいいよってインセンティブがずっとあったんですよ。僕の世代ぐらいまでは明らかにあったのね。

でもそれでうまくいかなくなったから、今運動が起こってることで。「むしろこっちじゃん」っていう声が今もう挙がっていて、つまり子育てを中心に考えないとまずいんじゃない? だって子供減ってるじゃん、って。

子育てを中心に考えなかったからこういうことになり、子育て村と会社村ははっきり線があったわけよ。こっちからこっちに行って、満員電車にベビーカーで乗るから摩擦になっちゃうんですよね。

日本人は市民レベルで国を変えた経験がない

田中和子(以下、田中):そこ、東京と周辺って感じ。

:そういう風にも言えますね。だから「ここに入ってくるな!」って会社村は言ってたわけ。「それはちょっと間違ってたね」っていう人がこういう考え方で、むしろ子育て中心に考えないと子供が増えないっていうのは、今敏感な人はわかってるわけですよね。

だから、それを鈍感な人にもわからせようってことだと思うし、もっと言うと、2年前にさっき言ったブログが話題になっていろいろ勉強してわかったんだけど、日本だけなんだよ、ベビーカーを満員電車に乗せるのはいかがなものか、なんて議論が起こるのは(笑)。

それは欧米でも起こらないし、アジアでも起こらないんだって。中国みたいにぎすぎすした感じがあっても起こらないんです。それはこうだって皆わかってるから。でもね、日本は忘れちゃったんだと思うんですよ。こうじゃないと子供が増えないってことをね。

だから、もう1回僕たち反省して、子育てを中心にいろいろ考えないと、子供がへってるじゃないですか。そしたら、社会縮小して。

これってお金儲かると思ってやってるわけですよ。でも今、これを続けるとお金儲からなくなるの、今の人口減るって形になると。これ儲からなくなるから、これもうやめようぜって。こっちでお金どうやったら儲かるか考えようぜ、って話だと思うんですよね。

それからもう1個、さっきの成功体験みたいな話でいうとね、まずさっきのダイバーシティ的な考え方のほうが儲かるねって会社は出てきてるんで、そういうことをもっとみんなでピックアップしていきたいと思うし、僕もやろうと思ってるし。それは2人とも言ってたことなんだけど。

もう1つね。成功体験で言うとね、日本人は市民レベルで国を変えた経験がないんですよ。明治維新は、西郷隆盛は頑張ったけど、武士同士の小競り合いとも言えるわけで、普通の市民はずっと黙って暮らしてきたわけで。「なんか上が変わったなぁ」って。

田中:うーん、そうね。大革命はないわね。

:そう、本当の革命は実は起こしてないんだよね。革命を起こしてこれなかったっていうのは、相当大きな意識のギャップになってると思ってて。僕コピーライターなんで人をよく言おうと思ってるんだけど(笑)。

田中:えー(笑)。

:お二人をよく言おうと思ってるんだけど(笑)。もう本に書いちゃったけど。

田中:ありがとうございます。

:リーママ、マタハラ出過ぎな日記書いちゃったんだけど。

僕ね、この2年間くらい取材してきて、そういうことが今ぽつぽつぽつぽつって。

小酒部:起こってきてますよね。

「日本死ね」のブログからつながったこと

:これ、つながるんじゃねーのって思ってたら、今こういう経営者がそれをつなげようとしてる。だからね、今、大きな成功体験を日本が得ようとしてる、機会が来てるのかもしれないし、そこはちょっと女性を立てようっていう(笑)。

男性ももちろん大事なことだけど、男性も変わらないといけないんだけど、ここは女性が主役だってことで譲ろうかって(笑)。そのほうが多分変われるんですよ。

これ僕ね、リアルに考えたのは、山尾志桜里議員が非常に浮上していて、どこかの記事で読んだんだけど、山尾さんが民進党の党首になるって説があるときに、それをイメージしたらこれ相当変わるなって思ったの。

今の岡田さんとか、維新の会が小競り合いしてるのホント興味ないし、そんなことやってたら皆興味ないじゃないですか。でもそこで山尾さんが党首になって、子供たちが一番大事な社会にしようって言ったら、変わるんじゃねーのって。

小酒部:政権逆転するかもしれないですね。

:大きな声では言えないけど、そういう可能性本当にあるだろうと。

小酒部:そうですね。

:僕、安倍政権をそんなに攻撃するつもりないんだけど、いろいろまずいところがあって、今本当に焦ってるわけですよね。ここは本当に山尾さん軸に政権が変わると、これ初めての革命なんじゃねーのと思うんです。

発端は名もないお母さんの「日本死ね」だっていうのが大事で、山尾さんがずっと言ってたらあんまり革命感がないんだけど、あのブログがあることでここから全部つながっていけるわけですよ。

田中:すごい。現代社会の教科書にあれが載ったらすごいなぁ。

:そうそう。そういう可能性は本当にあると思ったの。だからね、すごく期待してるし、そこへ向けて僕もちょっと模索をしてるんだけど。

田中:(笑)。

:いろいろね、メディアを利用できないかなとか。

田中・小酒部:(笑)。

:そういう可能性はあるなと。だから、質問とはちょっと違うかもしれないけど、今非常に大きな成功体験を日本社会が大変できる目の前かもしれない。

田中:今日の非常に貴重なご発言をいただきつつ、キーワードとして「Me=私」をどう大切にするか、ということかなと。Meを大切にしつつ、でも微妙にMeを消して、Meの言いたいことをうまく伝えるって、すごく日本人的な考え方かな、って。

過激なことはせず、ゆっくり正論を言っていく

小酒部:日本のちょっと前のフェミニストって、ものすごく強い女性ってイメージで。

フェミニストっていえば「はい、女性がぎゃーぎゃー言ってるのね」みたいな男性や社会のイメージがあって、女性といえばヒステリーで、みたいな。

今そうじゃないんですよね。このリーママとかマタハラとか保育園に通すも、Meもそうですし、なるべくでかいパイを取りに行くとか、過激なことはしなくて、ゆっくり正論を言っていくっていう。

この流れはすごく通じるっていうか、大きな流れになっていくと思うんですよね。

:Meを消すっていうと消極的なようだけど、うまく「ふふっ」て笑いながら言いたいことはちゃんと言うみたいな。

田中:そうそうそう(笑)。さっきの話みたいに、取材は自分で受けないけども、周りが取材を受けてくれているっていう。

小酒部:マタハラでいうと、これはマタハラだけじゃないんだ、介護につながるんだと。子育てに優しくない国は、介護にも優しくないし、障害者にも優しくないんだって言っていくと、でっかくなっていくんですね。

あとマタハラ問題は、すぐ人権問題、労働問題ってされるんですけど、私は経済問題だって言ってるとでっかくなっていくんですよ。

そのへんのワードの使い方、なるべく人を巻き込むように言っていく、メディアにそう書いてもらうっていうのも大事ですし、さっき言ったみたいに出来てる企業を巻き上げていくっていう。

私ちょっと思ってるのが、学生さんたちにNPOかっこいいとか、NPOに就職したいとか、そういうムーブメントもつくれたら素敵だなぁと思うんですよね。

さっきの副業っていうところでいうと、プロボノ(注:各分野の専門家が、職業上持っている知識・スキルや経験を活かして社会貢献するボランティア活動全般。また、それに参加する専門家自身)さんっていうのが今名前が出てきたりして、やっと皆さんに知られてきたワードだと思うんですけども、社会貢献の活動が増えてくる国っていうのが、やっぱり思いやり溢れてる国なんですよね。

ぜひそういうところに副業っていうのを使っていってほしいし、でっかく変えていきたいなと思いますよね。

皆で助け合うことが大事

:僕たちが民主主義や個人主義を誤解してたところがあって、人に迷惑をかけないで自分が努力することを頑張っていったら、自分はちゃんとできるから、みたいな思い込みみたいなのがあって、それがとくに団塊の世代だったんだけども(笑)。

田中:(笑)。

:そうじゃないんだよ、と。つまり、もっと皆で助け合うっていうのが大事なんだよ、と。

団塊の世代はそうやってたら一番うまくいった世代なので「ちょっと頑張ったらできるんだから、お前も頑張れ」みたいなことを言うんだけど、生活保護みたいな話を聞くと「それは努力していないからだ」って言うんだけど、もうちょっとそこじゃないんだよっていう状況になっててね。

むしろ、欧米の社会を見ると本当に助け合うんだよね。ノブリス・オブリージュ(高貴なる者に伴う義務)とかいう、経済的に余裕のある人はそれを社会に使おうとか、普通にあるんだよね。そういうことをやっと僕たちは考えられるようになったのかなと。

小酒部:逆に海外をうまく使うっていうのがあって。

:なるほど。

小酒部:私、日本から何も賞をもらってないんですよ(笑)。

田中:あら(笑)。

小酒部:日本から受けたバッシングで、(アメリカ)国務省がくれた。国務省がくれると、明らかに(日本)政府が動くわけですよね。今回、国連が夫婦別姓の問題とか、マタハラ、セクハラも言ってくれましたけど、日本に勧告入りましたよね。

やっぱり日本は黒船に弱いところがあるので、上手に使っていくと、ここも大きくして行けるポイントかなと思います。

田中:日本って言ったときに、それは政府のことなのか、政治家のことなのか、また別のことなのか……(笑)。

小酒部:私たち、です。

田中:そうですね。私たち自身ですね!

お二人ともありがとうございました!それじゃあ、お時間もちょっとオーバーしてしまいましたので、この後個別に質問などありましたら寄っていただきつつ、今日はお忙しい中お二人にお越しいただき。

小酒部:皆さん、集まってくださってありがとうございました。

:ありがとうございました。

田中:ありがとうございました。

(会場拍手)

:僕の本については、彼が宣伝を。

担当編集者:今日お話されたこと以外にもたくさんの事例とか、取材した内容とか含めて書いていただいてますので、読んでください!

:もっと強く言えよー。

(会場笑)

田中:皆さん、今日は本当にありがとうございました。

小酒部:ありがとうございました。

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