2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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田中和子氏(以下、田中):なんか前に座っている若者たちがうなずいてるのが、すごく気になるんですけども。今、どのへんに共感していただいたんでしょう?
質問者1(女性):「苦労のポジションに引きずり下ろす」っていうところが本当にそうだなと思ってて。私、8歳と3歳の子供がいて。マタハラ(マタニティ・ハラスメント)も経験して、6年ぐらいフリーランスで働いて、今会社を立ち上げて2年で、赤ちゃんと一緒に働く職場をつくってて、今自分も東京の中心に子連れ出勤をしてるんですけど。
自分自身も子連れで仕事をしているわけで、スタッフも一緒に子連れて働いてっていうのをつくってはいるんですけど、やっぱり自分自身が子供や家族を大事にすると、スタッフから攻撃にあうっていうか。
社長がそういうふうに家族を優先すると、ねたみとかだと思うんですけど、それがちょっと難しいなって思いますね。8割が赤ちゃんのいるお母さんで、皆赤ちゃんがいるからこそ働ける仕事っていう形で活動してるんですけども。
それで本当に、赤ちゃんと一緒に働くお母さんの問題っていうのはダイレクトにうちの協会には来るわけで。そのなかで、旦那さんが「趣味みたいな仕事してるくせに」とかいう反対だったりとか。
境治(以下、境):そんなこと言うの?
質問者1:言いますね。ほとんど、女性が活躍するっていうのを最初に邪魔するのが旦那さん。
小酒部:家庭内マタハラっていうのもあって、ご主人が「保育園に預けるのかわいそうなんじゃないか」って言い出したりとか、義理のお母さんとかお父さんが、「熱出してるのに子供を預けてまで仕事行くって」って言い出したりとか、あったりしますよね。
質問者1:そうですね。あと、それまで専業主婦だったお母さんが、家事育児を疎かにするので、「なんで俺が育児しなければいけないんだ」とか(笑)。「家族の時間減るだろ」とか、そういう風に邪魔をするじゃないですか。
境:僕、若い世代はそういうのがなくなりつつあるのかと。
質問者1:いやぁ、30代くらいの男性でも。
小酒部:逆に、自分のお母さんが専業主婦で、お父さんが働いてくるのが幸せな家庭のあり方って思って育ってきているので、その像を奥さんに投影する。
質問者1:奥さんにも自分の母親と同じようにしてほしいって。マザコンなのかなって思っちゃうんですけど(笑)。
田中:(笑)。今のに対抗意見出して下る方。是非、男性で。
質問者2(男性):今日は妻と2人で応募させていただきました。
田中:ありがとうございます。
質問者2:私たち、夫婦で育休を取得できないかと話してて。
田中・小酒部:おお~。
質問者2:珍しいことだと思うですけど。さっきおっしゃられていた、どうしても自分の母親をイメージするっていうのはわかるんですよ。私の場合は、母子家庭だったので母親が働いていたので、母親が働くのは当然だって自分の印象があったので、妻が今も働いていますけども普通だな、というところもありますし。
そういう環境にいたので、子育てやってみたいっていう思いがあって、結局(育休)取ったんですけども。今お話を伺っていて、すごく合理的というか、大きな動きに取り組もうとしているのはすごく共感するんですけども。
一番動かさないといけないのは50代以降の男性であって、そういう人たちをどうやって動かそうと思っていらっしゃるのかなと。私が会社の上司とかと話していて感じるのは、50歳になったら、あと10年働けば(定年は)65歳ですけど、年金は出るし、生きていくことはできる。逃げ切れる世代だと思うんです。
逃げきれない世代、40代が今一番厳しいので、50代の現状維持でも逃げ切れるっていう世代をどうやって動かしていこうと思っていらっしゃるのか、お聞きしたい。
小酒部:マタハラNetとしては、「じゃあどうすりゃいいのよ」っていうことはいっぱいメールをもらって。「マタハラやめてください」っていうのは簡単なんですけど、では企業はどうすればいいのかと。
私たち、できてる企業さん、マタハラがない企業さんにいっぱい取材に行って、どうやって解決したかっていうのを発信しようとしています。
何社くらい行っただろうな、私が20社くらい行って思ったことは、どの経営者もダイバーシティが重要だとか、働いている人もダイバーシティ、ダイバーシティって言われて、ワークライフバランスが大事だってわかってて、ダイバーシティ・マネージメントまではできてるんだけども、インクルージョンができてないなーって。
最近、菊池桃子さんがインクリュージョンって言葉を言い出して、もっともっと言ってほしいなと思うし、私もこれからメディアさんに、ダイバーシティ・インクルージョンっていうのがマタハラ解決のカギなんだって(言っていきたい)。
境:(何なのか)教えてくださいよ。
小酒部:そうですね。アメリカでですね、90年代くらいにダイバーシティ・マネージメントというのが始まったんですけど、これ失敗に終わったんですね。アメリカだと、女性や有色人種の方々がダイバーシティ人材で、その人たちに働いてもらおうと取り入れた。
ところが、そういうダイバーシティ・マネージメントまではやったんだけども、インクリュージョンまで持っていけなかったから、失敗に終わった。インクルージョンって何かっていうと、一体化なんですね。
ダイバーシティ人材、例えば日本でいうと育児しながら働く女性、この人たちがいることによって、他に人たちにも好影響がもたらされないとインクルージョンされていかないんですよ。
つまり、ブラックコーヒー、同質な状態。そこにミルクを垂らす、白いクリープがくるーっとできる。これはダイバーシティ・マネージメント止まり。インクルージョンはスプーンでかき回すっていう状態にしていかないといけない、と。
マタハラでいうとわかりやすいのはですね、この間(株)ProFutureさんっていうところと企業に向けた調査をして、300社の企業から回答を集めた中で、7割の企業で産休で抜けたぶんのフォローは周りの人たちがする、つまり代替要員が入っていないってことがわかったんですね。
企業の規模は問わなかったんです。1000人規模の大企業でも、7割が代替要員を入れていない。代替要員を入れていなくて、周りの人たちにしわ寄せがいくんだったら「逆マタハラだ」って言葉が出ても当然で、マタハラVS逆マタハラで、労働者同士がいがみ合ってて改善されていかない。
ここで、企業が何をしていかないといけないかっていうと、代替要員を入れないのであれば、産休中で1年間1人分の給料が浮くわけですから、フォローしている人たちにその人の給料を分配する。
それからフォローする社員たちの評価制度の見直し。育児しながら働く社員の多い上司は、マネージメント能力が優れている素晴らしい上司だってことだから、この人に対する評価をつけてあげる。
育児をする人が職場にいることによって、同僚にも対価が変わったり、評価が変わったり、それをマネージメントする上司にも評価がついてくる。これで、初めてインクリュージョンされていくんですね。
境:なるほど。
小酒部:でも、7割の企業でやっていない、気づいていない。これじゃあインクルージョンされていくわけもなく、ダイバーシティの失敗に終わってるんですよ。つまり、育児しながら働く女性を取り入れた、職場が混乱した、ダイバーシティって大変だ、めんどくさい、難しい、どうすりゃいいんだって終わってるのが今の日本だなと思います。
境:なるほどね。
田中:人事制度上、評価制度上のインクルージョンってとても大切だと思います。更に、インクルードされていない、つまり、含まれていないって言い方が実は大切な気付きかもしれませんね。
要は主流的な働き方と、主流的な考え方に、外側から主流じゃない人たちが入って含まれているってことは、含まれている組織と、含まれていない組織を比べるとどのようにより成果が出てるだとか、よりイノベーティブだとか、実績が見えない経営者って多いんじゃないかな。
小酒部:そうですね。まだコストとしてしか捉えられてなくて、ダイバーシティ人材に入られると面倒くさいで終わってるし、実際にやってみたら失敗に終わってる止まりなんですね。
今、Googleさんの記事が日経DUALに上がってると思うんですけど、月に1回連載で記事出させてもらって。(注:小酒部さやかの突撃インタビュー “マタハラはなくて当たり前”の企業はココが違う!(連載バックナンバー))
Googleさんはデータをお持ちで、ダイバーシティ人材がいる組織と、ホモジニエンス(同質な人たち)に同じ課題を渡したときに、同質の人たちのほうが問題解決のスピードが速いかというとまったく逆で、ダイバーシティ、いろいろな人がいる組織のほうがスピーディかつクリエイティブに解決策を出していけたというデータがあるんですって。
なので、こういうところから。あとは海外の事例ですよね。もっと海外がどうやって成功しているかっていうところと。
あとは、今は産休で抜けた人の部分対価の分配をしたほうがいいって一番簡単なわかりやすい例を言いましたけど、インクルージョンできている企業って、そのほかにもいろんな方法でやってるんですね。
例えばペア制度とか、別名ワンタスクツーピープル、ダブルアサインメントって言ったりするんですけども、育児や介護をしながらそういう人とペアを組むことによって、ペアを組んでいる側も休みを取りやすくなるっていうことで、誰かにも好影響がもたらされる。
いろんなやり方があるんですね。ぜひね、その職場でそれを見つけていくことが大事なので、いろんな企業がそこに向かって行ってもらいたいなと。
そのためにはどうするかっていうと、経営者って経営者の意見しか聞かないんですよね。
境:経営者は経営者の意見しか聞かない?
小酒部:(経営者の意見)のほうが聞きやすい。ダイバーシティ・インクルージョンまでできている企業さんたち、実際サイボウズさんとかそうですけども、どんどんそれを経営戦略に変えていって、またよい人材を引き込んで、会社の利益を上げていって、ってやれているので、そういうところの経営者さんたちにどんどん情報発信をしていってもらいたい。
出てきていない企業にどんどん伝えていってほしいと思いますし。メディアさんにも、私が最近お願いしているのは、「マタハラ取材に来るのはいいけども、プラスアルファもう1つセットで、できている企業さん取り上げてくださいね」ってお願いしてるんですね。
こういう話をするとよく「そういうのってね、Googleさんとか、ああいうでっかい企業がやってることでしょ」って思われちゃうんですけど。
でもそうじゃなくて(大企業よりも)中小企業のほうがインクルージョンさせやすいんです。当たり前ですけど人数少ないですからね。100人以下の企業のほうがインクルージョンさせやすくて、実際そういうことできてる中小企業もあるんですよ。
この前、日本レーザーさんの社長さんとお話をさせてもらったんですけど、そこ80人くらいでレーザーを売っている商社さんなんですけど、実際にダブルアサインメント、2人ペアの制度やってますし、同じように産休抜けたぶん、対価の分配っていうのももちろんやってますし、人が辞めないって言ってました。業績ずっと上がってるって言ってました。
私が取材に行ったときに、「どうやってその方法みつけたんですか?」ってインタビューしたら、「小酒部さん、1つ忘れちゃいけないよ。方法論じゃなくて、どうして経営者がそういう考えになったかだ」って。
その近藤社長が言ってたのは、「『金・物・人・情報』を一律に考えている経営者が多い。そうじゃないんだ、『金・物・情報』があったら人はここ三角すいの頂点(TOP)なんだ」と。
「社員が一体、どういうときに一番パフォーマンスを発揮すると思う? 小酒部さん、どう思う?」って聞かれて、「何ですかね、わかりません」って答えたら、「社員が会社から愛されてるって感じたときに、すごいパフォーマンスを発揮するんだよ」って。
田中:それ、子供と一緒だ。
小酒部:ホントですか。いやぁ私ね、インタビューしてて涙が出てきて。こんな素晴らしい経営者さんがいるんだなぁって。
やっぱり経営者の意識改革は必須ですし、そこ大事だなって思いますね。ホント松下幸之助さんとか立派な経営者さんたくさんいたし、「企業は(社会の)公器だ」って言ったり、「人が一番大事だ」って言ってる経営者さんがいつの間にかどんどんいなくなっていっちゃって、ブラック企業っていうことになってきちゃいましたけど、もう1回そういう経営者さんたちにスポットライトが当たってほしいなと思います。
田中:期待されてるってことですかね、愛されてるっていうのは。
小酒部:愛されてるってことは期待されているってことだと思います。
田中:今、塾通いをさせている長男のことが思い浮かんでるんですが(笑)。信頼されてる、自分でもできるんだって信じることで前に進めて、失敗してもいいよ、挽回させてあげるっていうことを感じさせることで、少し背伸びしたチャレンジでも頑張れるのかな、って。
小酒部:経営者の人に「産休とか休みばっかり取らせたら、社員たちがあぐらをかいて、怠慢になっていく」っていう心配を一番されるんです。そうじゃないんですよね。制度を、よりワークライフバランスを充実できている企業さん、法律以上の制度をやっている企業さんのほうが、何もやってない企業より2.45倍利益が高いっていうデータがあって。
違うんですよね、制度(休み)を取らせたら甘やかすことになるんじゃなくて、制度を取らせることによって、愛されてるんだ、期待されてるんだってところを、社員に学ばせてあげてほしいなって思いますね。
田中:そうね。ただ、制度はやらないといけないと思ってる企業は多くなっている中、社員への期待値って言う話は人と人の間柄の構築ですよね。それは直属の上司からの評価であれ、人事制度やもっと個人的なところでも、期待を感じられるというのは制度だけでなく運用の仕方、伝え方にも鍵があるかなと思います。
例えば育休を取るママさんに、単に「はい、本日より育休開始です」って言うのではなく「あなたは1年半休みますね。保育園がこんな状況だからなかなか戻れないかもしれないけど、待ってるからね。その後ぜひ働いてもらいたいから」っていう風に言うと、ただもうがむしゃらに頑張ると思うんですよ。あぁ、私は会社から求められているんだ、って。
小酒部:恩返しすると思うんですね、社員はその企業に。そこをうまく使ってほしい。使うっていうと変ですけど。逆に会社で育休とられたとき、会社の反応とかどうでした?
質問者2:うちはもともと休みのとりやすい会社だったので、直属の上司が部長だったので、その旨を伝えたら、そもそも育休が取れるのかって話と、(妻と)一緒に取れるのかって確認があって。
「取れます」って調べて「こういう方向性になります」って報告したら、「取れる制度があるなら取ったほうがいい」ってことで快諾していただいて、その後部長と面接してお話して、この待遇で考えます、ってことで。
小酒部:男性での初めての育休取得者ですか?
質問者2:日本ではそうですね。外資系なので。
小酒部:インクルージョンの1つが、女性だけが育休を取っているというと女性が肩身の狭い思いをする。男性の育休取得っていうのが、インクルージョンの1つのポイントだと思うんですよね。
田中:リーママプロジェクトで、この冬にかけて東京都さんでね、育休中、育休明けママのための「笑顔で働き続けたいママのためのプログラム」という講座をワークショップ型でやらせていただいていて、いろんな言葉や声をいただいたときに、ほとんどの参加者が「パパに育休を取ってもらいたいか?」と聞いたら手を挙げたんですよ。
取ってもらいたいか、取ってもらいたくないかでいうと、取ってもらいたい。ただそこには条件があって、パパがそれで減給にならない、あと昇進が遅れない。パパへの期待はすごく大きくて、そこに家庭内の評価っていうのが若干見え隠れもしつつ(笑)。
ママの恐れとして、ここで「育休取ります」って言ったら、旦那さんの会社での立場が危うくなっちゃうんじゃないのかなとか。そういう不安はありましたか?
質問者2:あんまり……。
田中:外資系っておっしゃるけど、外資系だから大丈夫だってこと?
質問者2の妻:当時はまさか1年取ると思っていなかったので。「育休取る。報告したよ」って言って、「どのくらい取るの?」「1年」って言うからびっくりして。
田中:事後報告(笑)。
質問者2の妻:私の会社でも、男性3ヵ月くらい取る人はいたので、勝手にそれくらいなのかなと。1年取るって言うから「大丈夫なの?」って聞いたんですけど。あまり昇進とか、私たち自身が興味がないというか、考えなかったから。
考えないというか、もちろんしたらいいのかもしれないですけども。「それでダメだったら、会社としてダメなんじゃないか」って本人も言ってましたし、そうなのかなって。
質問者2:それマイナスポイントになるくらいだったら、会社を辞めたほうが。
田中:素晴らしいですね。
質問者2:会社も会社の生存戦略があるんですよ。生き残り戦略があって。従業員も従業員の生存戦略があるんですよ。やっぱり会社が赤字で、従業員も削らなきゃいけないとなったら、それはどうしても削られるんですよ。
であれば、個人の従業員であっても、自分がどのように生きていきたいのか、長期的な目標というか、根本的に考えないといけないかなと思うんですけど。それに沿って、会社とうまく共同生活というか、うまく共存して生きていけばいいんじゃないかなと。
それで途中でダメになったら、別のところ見つければいいんじゃないかって話で。
境:そうそう。僕ね、それが一番大事だと思うんですよ。会社の前に俺がいるよって。会社に合わせる俺がいるんじゃなくて、会社の前に、俺がいて、奥さんがいて、子供ができるねっていうことに対してどう考えるかで。
皆ね、会社がいるから俺がいるんで、会社に合わせないといけないって考えちゃうから、息苦しくなってぎくしゃくしちゃったりするんだろうけど。
田中:今の若者世代ってもうちょっと「会社より俺が先」じゃないですかね?
境:どうですかね?
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