2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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マルゴ・キャリントン氏(以下、キャリントン):では、若いパネリストの方々に意見をうかがいたいと思います。
リチャード・ステンゲル氏(以下、ステンゲル):なさってることは、すべて素晴らしいことばかりだと思います。そして、私たちが言っていることすべてを体現なさっていると思います。皆さん社会アントレプレナーでいらっしゃいますよね。日本の社会のため、人々のために立ち上がっている方ばかりです。
これは新しい考え方であると同時に、とても古い考え方でもあります。(ベンジャミン・)フランクリン、私たちの(国の)建国の父の1人でありますが、「良いことをすることによって、良いものを作っていこう」「自分たちのためになることをすることで、ほかの人々のためにもなるように」という考えでした。それは21世紀にも通じるものだと思います。
キャリントン:(先ほどのプレゼンテーションで)オーナーシップが重要だ、参画をすることが大切だ、ということをおっしゃっていましたが、それについてのお話はございますか?
藤井宏一郎氏:議論のために日本語でお話しします。オーナーシップということですけど、ちょっと大上段な議論をさせていただくと、今、日本の市民社会の在り方とか行方は、テストされている時期にあると思ってます。
市民社会というものは日本にはずっとなかったと。シビル・ソサエティは(日本の)ウィーク(ポイント)だと言われてきたわけですけど、歴史的に考えてみると、もともと日本の戦前というのは、前近代的な国家システムがあったわけで、そのあとに日本が本当に進歩的になろうとした時に、日本の進歩的な人たちが基本的に赤い人たち、いわゆる共産系の人たちだったわけですね。
日本で本当に市民が立ち上がると言うと、プロレタリアートが立ち上がるみたいな共産主義革命の議論と本当の市民社会みたいな議論が混乱して存続してきたという状況が、50年代、60年代までずっと続いてきたと。欧米のように相手は資本家じゃなくて本当の相手は政府なんだと。
経済的に困窮してきて、高度な福祉社会が維持できないから、市民社会が立ち上がらなくちゃいけないという議論と、市民自身がそこら辺を活性化してきたのが90年代ですよね。
そこで、日本にハーバーマス型の新しい市民社会みたいな議論がのっかってきて、95年に阪神大震災が起きて、日本のボランティア元年だったわけじゃないですか。98年にNPO法ができて、そこから今まで来てるわけなんですね。
90年代終わりに日本の市民社会が立ち上がったはずなんだけど、本当に今、アメリカ、ヨーロッパみたいな状況になれているかというと、まだまだなれてないと思っていて、制度的な対応が絶対必要だと思います。
税制やNPO法がまだまだ使いにくいということとか、ファンディングに関するさまざな問題、われわれも社会的投資とかをいろいろやろうとしてますけど、そこを本当にオーバーカムできるのかが重要で、その時に、今の日本が非寛容な、保守的な社会になりつつあるということが心配です。
織田友理子氏(以下、織田):私は患者会としての活動なので、病気の人たちが集まって活動してるんですけど、本当はこうした団体が声をあげていかなければいけないはずだけど、声をあげて政府に届けても、(政府ではなく)結局そうした(声をあげた)人たちがボランティアでやらなければいけなかったり。
本当に日本のNPOとか、NPOの前の任意団体ももちろんそうですけれども、アメリカと比較したら差は歴然として、アメリカの患者団体は、自分たちの病気は自分たちで治す、いっぱいお金を集めて研究者に資金をつけて研究させて、その病気を治すという活動をしているんですけれども。
なんでこんなにアメリカと日本が違うのか? 法律的なものもあると思うんですけど、やはり人々の意識がぜんぜん違うと思いますし、そういったことを気にしてみたいなと思っていました。
ステンゲル:先ほどベンジャミン・フランクリンの話をしましたけれども、アメリカは、日本に比べたらずいぶん歴史が浅いですが、民主主義としては非常に経験が長いです。
私はフィラデルフィアに何年も住んでいました。ベンジャミン・フランクリンの故郷ですけれども。1750年代にベンジャミン・フランクリンは最初に市民の消防隊を作ったわけです。コミュニティのボランティアたちを集めて消防車を作って、消防活動をしたわけです。
以前は、世界のどこにもそういうものはなかったので、その意味でフランクリンは多くのイノベーションをしました。それから図書館の貸し出しも始めたわけです。
本が欠乏しているという状態の中、18世紀のアメリカでもそうですけれども、ヨーロッパでは、個人の図書館を持ってるような貴族が(本を)持ってたわけです。フランクリンはそれを見て、もっと一般の人たちが読めるような本を集めて図書館を作ろうではないかということになったわけです。
なぜアメリカの社会はそのようなことができたのかと思われるかもしれませんけれども、やはり200年間そのような歴史があるわけです。ヨーロッパでもアジアでもそういう考えはあったと思いますけれども、慈善活動や博愛主義というのは、一夜にして突然生まれるわけではありません。
これは私たちが外交で広めようとしている考えでもあります。これは重要な絆です。社会の人々の絆を強めるものだと思います。まさに非寛容の真逆の価値観だと思います。スピーチをしてしまいましたね、申し訳ありません(笑)。
(会場笑)
今村久美氏(以下、今村):そうはいっても(日本も)最近いい感じだと思います。私が15年前にNPOを立ち上げた時は、大学を卒業する時に友達から「ちょっと痛い人」みたいな感じで、「ちゃんと就職活動しなよ」なんて言われるくらいだったんですけど。
最近、特に震災以降はすごくビジネスセクターの方々が関心を持って、今日みなさんが集まっていただいてるみたいなノリが少しずつできてきていて。
もしかしたら、200年遅れで日本も社会が「良いことっていいかもね?」って思えるような同調圧力が少しほぐれてきているのかなという、「大事なことはみんなでやってかないといけないよね」というところに気づき始めているのは、法律的にも、寄付税制の改善も含めて進んだのかなと思っています。
藤井さんがGoogleを辞められてこういう業界に入られたのもその1つだと思うし、みんなが自分のキャリアを意義のあるものに使っていきたいと思うようになってきているノリを、すごく感じています。
藤井:みなさんのおっしゃる通りで、僕は問題提起という意味で悲観的なことを言ってしまいましたが、やっぱりここ数年で相当変わってきてますよね。
東日本大震災は大悲劇でしたけど、やっぱりあれで日本が変わった部分はすごく多かったなって思っていて、もともとNPO法が成立したのは95年の阪神大震災を受けてで、それからまた15年経って、東日本大震災で日本の市民社会というかNPOセクター、社会起業家みたいな人たちを含めた新たなステージに入ってきているのかなとすごい感じますね。
今の20代の若い人たちと話すと、東大とか慶應とかものすごいいい大学の人たちが、「NPOに行きたい」とか、「社会企業を立ち上げる」みたいなことを平気で言うんですよね。
僕のころはそういうのはほぼあり得ない話で、いい大学に行ったら日本の大企業に行くみたいな。もしくは官僚になるか、弁護士になるか、外務高官になるかしかなくて。
僕の少し下の世代は、欧米の投資銀行とか欧米のコンサルティング会社に行くのがカッコよかった世代というのがあって、アメリカでも結局そうですよね。
オキュパイ・ウォール・ストリートの後で、ハーバードの学生がどんどん、「社会企業になるのがカッコいい」と言うのって聞くじゃないですか。同じトレンドが日本でも絶対きてると思いますね。
今村:ちょっと立場が違うかもしれないんですけど、逆の視点で見ると、嫌な仕事を嫌な上司のもとでやんなきゃいけないという、若い人たちの前提が崩れたのは、単純に「それをやっても未来が保証されてないよね」という実感があるから。
昔は「ちゃんと下積みをすれば登りつめていけるんだ!」という前提があったと思うんですけど、それがなくなった今、大事だと思うことに命を使いたいと思うというか……。ただ、それが逆に格差を生んでいるとも思っています。
その包摂感を日本がどうやって残していくのかというところの議論がすごく大事だと思うんですが、チャレンジしやすくなっているのは、「嫌なことやってもしょうがない」というあきらめもあるのかなとは思います。
キャリントン:今日来られなかった人たちからも質問が来ていますので、見てみましょう。「いろいろな社会イノベーションにしても、NPOにしても、女性にとっていいのではないか」と。
「特に日本の企業社会は、ワーク・ライフバランスの問題やハラスメントの問題などもあると女性には難しいから、かえってそういったほうがいいのではないか」というような意見も出ています。今日は女性が2人いらっしゃってますので、お話をいただけないでしょうか。
先ほど出たようなシステムは、女性の活躍の場になり得るんでしょうか。いかがですか?
藤井:私、女性ではないですがしゃべってみたいと思います。NPOが女性にとって男性よりもやりやすいということは特にないと思います。
(女性にとっても)大企業にいるメリットはあります。日本のNPOはまだ資金が潤沢ではありませんので、ギリギリのところで生活をしている人たちがいます。
なので、女性にとってそれがいいかどうかという点から考えても難しいです。財務上の難しさがありますので、それは難しい。文化的には働きやすいところかもしれませんけれども。
今村:どうですか? 女性だから苦労したっていう経験はありますか?
織田:ぜんぜんないです。
今村:(私も)そうなんです。私も出産してすぐなので、もしかしたらここから始まるのかもしれないんですけど。
やっぱり日本もパラダイムが変わっていて、いま大企業が制度を変えていく取り組みをされているんですけど、NPOを立ち上げた私たちにとっては、女性だから苦労したというよりは、(男性と)そんなに変わらない感覚があるというのは、大企業と比較してやりやすい場ともとれるかもしれない。(大企業を)経験をしていないので、相対的な比較はできないかもしれないですね。すみません。
織田:いえ、それは私もまったく同意見です。私は障害者ですし、大企業に勤めたら状況が違うかもしれないですけど、女性だから大変だという経験は本当に思い出せない。
今村:なので、保育園をもっと増やすとか、国としてもっと進めてもらいたいことはあるけども。逆に、マイナスをチャンスに変えられる機会が日本の中でも少しずつそろってきてるから、私たちはそろった段階で参入した立場として、今すごくチャレンジをしやすいという感覚を持っているのかもしれないですね。
織田:例えば、育児、出産、介護とかいろんな問題があって、そうした問題をどう解決していくかという、マイナスをプラスに変えていくというものが、NPOに当てはまるかなと思って。
私の場合も、障害者で車いすで、マイナスなことがたくさんありますけど、だからこそできることは何だろうという活動なので、大企業よりNPOのほうがやりやすいんじゃないかなって思ってます。
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