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まずは、ゆるーくやってみよう。~地域に飛び出す、公務員っぽくない公務員の挑戦~(全2記事)

「まず、小さく始める」誰にも真似できない自分だけのキャリアの作り方

日本各地を飛び回り、多岐に活動する“公務員っぽくない”公務員、塩尻市職員の山田崇氏。しかし、彼の行動の源には地域への熱い思いがあります。地方の課題が多様化・複雑化している今の時代、「地方自治体はやりがいがある」と山田氏は語ります。塩尻市役所、商工会議所、青年会議所、nanoda…とさまざまな場所を拠点に活躍し、そして元ナンパ師の称号を持つ山田氏。自分だけのオリジナルキャリアを作るために必要なことは、「まず、小さく始めること」。シブヤ大学と西武渋谷店のコラボレーション講座「Think College」のログです(授業詳細)。

「好きなまちで自分らしく暮らす」ために

山田崇氏:また、地方版総合戦略を策定して、地方創生先行型交付金を私の担当課の仲間が、広域連携で今、提出しています。なにを出したかというと、女子大生限定のインターンシップです。これは国の交付金を活用して、今年やります。

地方の中小企業の経営者は、実は男性ばかりです。そうすると、女性のアイデアや意識が欠落している部分があるかもしれないということでやったのですが、なにしろ女子大生が来るだけで社長が元気になります。それで地方がちょっと元気になるのではないかと(笑)。

書いてみるものですね。塩尻だけではなく、松本広域44万の圏域で地方創生を一緒にやっていこうと、人材定着事業を展開するきっかけとなりました。こんなことをやっています。

私は、京都移住計画で好きなキャッチコピーがあります。それは「好きなまちで自分らしく暮らす」。

塩尻というのは東京、名古屋、京都からも近く、交通の要衝として中山道69の宿場のうち5つがある、そんな町です。

私は、100人から移住の相談が来たら、99人は交通整理してあげようと思います。長野におもしろい人がいる、松本のほうがいいかも、いや上田に「hanalab(ハナラボ)」というコワーキングがあるよ、下諏訪にはマスヤゲストハウスがあるよ。そんなことを紹介して、その人が向いている、合っているところを紹介できればなと思っています。

時間外に自分のできる範囲で活動中、信州移住計画

私は、信州移住計画を県の補助金を取ってきてスタートしました。その時のプレゼンで、博報堂の審査員の方から「山田さん、それは県の事業と何が違うの? 全県対象でしょう。外から人を呼ぶのでしょう」と言われました。

そこで、ズバンと言ってやりました。「県と違うのは、私がひいきをすることです」。自治体はひいきができません。だけど、しっかりと人々と向き合って話をして、「あなた」という紹介ができることを時間外でやっています。

私がこんな動きをしたら、信州のおもしろい人たちと繋がってきました。それは信州だけではなく、京都は京都移住計画を作っています。宮崎てげてげ移住計画、新潟移住計画、福岡移住計画……。こんな仲間にも、紹介してもいいかなと思っています。

そうやって若者たちが元気に挑戦できる、自分が自分らしく暮らせる町に住むことが日本全体を元気にするのではないかなということを時間外で、自分のお金でできる範囲でやっています。

「日経MJ」にも、カラーで1面に載りました。超嬉しいですね。これは「リトルトーキョー」、今移転中ですが、そこで私がバーテンを4回やらせていただいた時の様子が載りました。

目の前にいる住民の福祉のために 地方自治体の仕事

地方創生の話をちょっとしましょう。なぜそうなったか。それぞれの地方の課題が多様化・複雑化してきています。

明治大学政治経済学部の、私が大好きな牛山久仁彦先生は長野県諏訪市の出身ですが、この先生に約8年前に会った時に、「ヤマちゃん、地方自治体は何でもできるようになったよ」と言われました。

その時、2000年4月に施行された地方分権一括法によって、地方自治法第1条第2項に追加された目的条項を紹介いただきました。地方公共団体は広く担うものである。地域における行政を自主的かつ総合的に。何のためか。住民の福祉のために。

それぞれ目の前にいる人たちの課題が、複雑化して多様化してきています。それは、地域の住民に1番近い地方自治体の職員が、しっかりニーズや課題を見つけて紐解いていかなければいけなくなってきたということです。

昔は日本地図の下に板を敷いて、ちょっと国を上げられたかもしれない。でも今はそうではないということを、私は牛山久仁彦先生に教えていただいて、地方自治体はやりがいがあるなと思ってやっています。

nanodaで相反する2つの課題を同時に解決

私は村上春樹さんが大好きで、彼が翻訳したスコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』の著書がいう「本当の天才は」という一言がすごく好きです。「相反する2つの課題を同時に解決する能力」。

今、商店街には若者が少なくなっています。この課題だけを解決するのではなく、実はnanodaは自治体職員の人材育成で始めたのですが、仕事でのスタートアップはできないけれど、自分が興味をもったことを時間外で自分のおかげで「◯◯なのだ」でスタートアップできるようにしようということで、「しおラボ」という勉強会を2011年に1月にスタートして、毎月やっています。

市役所には、目をキラキラさせた優秀な若い人たちが入ってきます。だけれど上司がヘボいのです。すぐスポイルされてしまうのです。

いま塩尻市役所も、東大、早稲田、慶応が入ってくるようになりました。大学でフィールドワーク、アクティブ・ラーニング、いろいろなことをやってくるのですが、市役所に入ったらなかなかできない。もしできたとしても、3年で部署が移ってしまう。その2つの課題を同時に解決できるのではないかと思い、nanodaをやっています。

営利と非営利、マクロとミクロ、両方を意識して

2月17日、私はコクリ!プロジェクトにも参加して、榎本さんにも参加していただいて、いろいろな企画のブラッシュアップをさせていただいています。田坂広志さんも同じようなことをおっしゃっていたので、いつも紹介させていただいています。「矛盾とは、世界の発展の原動力である」。

営利・非営利、マクロ・ミクロ、どちらか一方を見るのではなく、振り子のように両方を解決する、両方を意識しながら発展的に考えていく。こんなことを私も市役所で、昼間であればマクロに、公共の福祉のために公平、公正にやらなければいけないのですが。

それだけではなく、やはり1人が何を困っているのか。私が空き家を借りている大家さんの鈴木章司さんが、空き家を4年間抱えて何を困っているのか。その現状に身を置いて、自分がその解決をしてみる。それを仕組み化するのが、行政の職員の役割でしょう。この2つをいつも忘れないように、うまくバランスをとってやります。

田坂広志さんに会った時に、「何ていい人なんだろうな」と思ったのですが、こんなことがたまたま私が生まれた塩尻でないところでも起こっているので、ぜひこのような話をさせていただいて、公務員になりたい学生、もっと言えば公務員と一緒に何かをやってみたい民間の方や、今日来ている時間外に自分の時間を使って何か学びたい、何かをやってみたいという人たちが、ちょっとでも勇気を出してやってみる、そんなお手伝いができればいいなと思っています。

もし何かをやりたい人がいたら、私をナンパしてみてください。

対面ではなく、隣に立って一緒に行うことの重要性

そんな話をしていたら、京都府で開かれた日本協働政策学会で話をさせていただきました。

協働というのは、対面でするものではないなとすごく感じています。今日、私が仕事で、皆さんが市民活動をしている方たち。これは最悪なパターンです。私だけがお金をもらっているのです。しかも、時間外勤務手当をもらっています。100分の125。これが10時を過ぎると100分の135をもらってやるのですよ。

皆さんは、交通費を払って、大切な時間を割いて、本当はデートができた、彼氏と家族と過ごす時間を割いて、ここにきているのです。その時間とお金の感覚を知らずに、市の職員は平気で準備をせずにこのような会議をするのです。

それを、私はやってはいけないと思っています。自分がまず、皆さんと同じ立場に立ってみてやってみる。そして同じ方向を見る。

「恋は対峙するのではなく、同じ方向をみるもの」。これはシェークスピアの言葉を引用させていただいています。対面ではなく、隣で一緒にやることを「協働」というテーマで、させていただいています。

やってみないと分からない、計画的偶発性理論

1つだけTEDで話した計画的偶発性理論を紹介します。「個人のキャリアの8割は、予想しない偶発的なことによって決定される」。

渋谷は私のステージです。19歳、初めてナンパした場所です。千歳会館、よく行きました。何を言っているかというと、こういうことです。

私は今日この場で、シブヤ大学のトップページに出たいから始めたわけではないのです。たった1軒の空き家を、まず自分のできる範囲で開けてみようと思ったら、3年半後、こんなことになっています。要は、やってみないと分からないのです。

今日は割愛しますが、このリンダ・グラットンの『ワーク・シフト』に書いてあるように、あなただけの本当のキャリア、オリジナルのキャリアって何なのか。コンピュータに取って代わられない仕事、それと安い賃金で海外に出て行かない、本当の仕事とは何なのか。

でも私は、一時期松本に住んでいた児童文学のいしいしんじさんの『トリツカレ男』のほうが超おすすめです。ジュゼッペという男の子がペチカという女の子を助けるのですが、ジュゼッペはたくさんの趣味をもっています。ペチカを助けると思わずに、でも最後、奇跡的にその趣味の連続が大好きなペチカを助けるのです。そんなことを、ぜひ皆さんにお話したいと思います。

商工会議所の人たちと出会い

それと最後は、私が時間外でやっていて、市の職員だけではなく、商工会議所で3年間お世話になった紹介を、いつもこの金額を使ってさせていただいています。1366万4300円は塩尻市長の年間の報酬、70万円は商工会議所会頭の年会費です。

商工会議所の会頭、副会頭、議員、約90人います。塩尻で約1950人の会員さんがいます。皆さん無報酬で、本来自分の携わっている仕事を傍らに置いて、たとえば車で30分かけて商工会議所に来て、「山田くん、こんなことをしたらどうだろう」と言う人たちなんです。

かたや市長は1300万円の給料をもらって、町はこうあるべきだと言っています。私はまったく知らなかったのです。私だけだったのです、商工会議所でお金をもらって税金で仕事をしているのは。

剛力彩芽を呼んだのは、「a-nationをしたい」という1人の社長の声でした。だけれど前例がない。今までの商工会議所ではお金がないので、そんなことができるわけがないと言ったのです。

私はたまたまエイベックスの担当者と東京で会うことがあったので、その社長の話をしました。自分で自分の前にハードルを立てない。その社長の考えを、とにかくやるんだ。税金もらっているから。

そうしたら、オスカープロモーションからエイベックスに引き抜かれた方がいて、剛力彩芽のマネージャーをやっていた。剛力彩芽がサードシングルを出すから剛力彩芽だったら行けるよ、と。すぐ社長に電話しました。「社長、剛力彩芽、どうですか。今、エイベックスの担当者と話をしています」。

当時、私は退職金の金額を聞いたら結構もらえそうだったので、できるなと思って、社長と一緒にやろうとしました。結局、私は1円も払わずにすみましたが、そんなふうにいつも商工会議所でやっていたことを3年間の経験から覚えています。私だけだったのです、昼間、お金をもらって仕事をしていたのは。

私の大好きな75歳の山田正治会頭には、いつもこうやって励ましていただきました。「山田くん。やってみなければわからないよ、これからは。若い山田くんたちの時代だから、とにかく挑戦しなさい。手柄は全部、山田くんのもの。失敗したら私のせいにしなさい。私はもう75歳。山田くんの失敗は、全部墓場に持っていくから」。これはやるしかないっしょ。

オリジナルな自分のキャリア作りのために一歩を踏み出す

このようないいメンターに恵まれています。次は私がなる番です。そして、若者を応援する大人を増やすことで、好きな町で自分らしく暮らす若者が、生き生きと増えていくのではないかなと思ってやっています。

皆さんもぜひ、自分だけのオリジナルなキャリアを作るために、とにかくちょっとやってみる、誰にも真似できないものをやってみていただきたいなと思っています。

市役所の職員でありながら、JCもやっています。nanodaをやって、元ナンパ師という称号。こんな市役所の職員は私だけですよ。

ぜひ皆さんも、オリジナルな自分のキャリアの一歩に向けて、連続スペシャリストを目指して何かをやってもらえたらいいなと思います。

私もnanodaを始めて、そのときはこうなるとは思っていませんでした。勉強会のテーマは「魅力ある商店街を考える」だったのですが、2012年の3月22日、17回目の勉強会をしました。商店街振興、活性化のために、市の職員、商工会議所の職員がいろいろなことをやっています。

だけど、その対話の勉強会から浮かんできたのは、自分が商売をしたことがなくて、住んだこともないのに、本当に現状の問題が分かるのか。想像で施策をしていい時代はもう終わったのではないか、ということでした。

2008年まで人口が増え続けたと木下斉さんが言っていました。「そこまではどんなに国や行政が失敗しても、たんに経済成長が飲み込んでくれただけ」。

これからはそうではないのです。もう人口は増えません。課題先進地があるだけです。特に日本は1番早くシュリンクしていく。これはアジアの中でも、世界中からも注目されています。だったら、まず何が起きているかを知っていなければならない。だけれど、オリジナルではありません。

慶応義塾大学の板倉杏介さんがやっていた「三田の家」の最後の2年間を、私も会費の1万円を払って参加してきました。詳しくは『黒板とワイン』という本を見てください。三田の家はもうありません。私は形見分けの黒板をもらいに行きました。今、それが私たちのイベントのプチボードにもなっています。

こんなことでnanodaをスタートしました。

自分でできることから小さくスタート、それがnanodaだった

コクリプロジェクトで知り合ったボブ・スティルガーの、この6月3日に発売された本は超おすすめです。彼は世界的なファシリテーターです。

震災以降、日本の未来の成功の定義が変わったということを、ボブは言っています。震災以降、何が起こったかと言うと、地域を超えて連携する、自分たちの地域だけではない。行政を待たない。私も当事者として自分でできることから小さくスタートしてみよう。それがnanodaだったのだなということを、ボブに会って感じました。

『TURNS』でも、こんな素敵な写真を紹介していただきました。何をやったかは、TEDでご覧いただければと思います。

私がやったのは、「まず、小さく始める」。出勤前の平日朝7時から8時まで、シャッターを開けてみよう。1万1000円の家賃を払って。これだけです。実は今、4軒空き始めています。1軒目は人が住んでいて、2軒目はアトリエ、3軒目は設計事務所です。

最近ふと思ったら、わたしがお金を払っていないのです。それで、これから皆さんにディスカッションしていただきたい。6年間閉まっていたビジネスホテルを、私たちは半年かけて掃除機かけてきれいにして、いま私が2階、3階の合計8部屋を月7000円で借りています。どんなことをやるのですかと聞かれます。何も考えていません。

まず借りてみる。借りて何が起こるかということを、今私が新たなnanodaの次のステージとしてやっています。

ぜひ今日のディスカッションでは、このビジネスホテルでこんなことをやればいいんじゃない、私はこんなことをやってみたいということを、皆さんにお話していただければなと思っています。

山田崇でした。ありがとうございました。

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