2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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西頭恒明氏(以下、西頭氏):次の経済誌の視点。ここから直接どんどん広報の皆さんと関わってくる話になると思うんですけれども。経済誌って言っても、一般の雑誌あるいは新聞と比べて、そんなに大きな違いっていうのはないのかなとは思うんですけど、中核としているのは企業であり、そこで働く人、あるいは経営者。人であり、それから経営に関わる技術とか手法とか、制度、仕組みですね。そこをフォーカスするっていうのが、我々の基本的な仕事です。
特に日経ビジネスが立ち位置としてるのは、ビジネスパーソンの仕事に役立つ情報をっていう部分で、そこを特徴にしたいと考えています。最近プレジデントなんかは特にそうですし、ダイヤモンド、週刊東洋経済さんもそうなんですけども、ビジネスパーソンのパーソナルの部分に焦点をあてたような特集企画をする媒体が増えてるんですね。
例えば子供の教育問題、あるいは親の介護とか、自分の資産運用をどうしようとか、英語をどうやって学ぼうかとか。こういうビジネスパーソンのパーソナルな関心事っていうところを題材にしたような、オンとオフで言えばオフタイムに関わってくるような特集をやって、そこで伸びてる部分っていうのがあるんですけれども。
日経ビジネスは、基本的にはオンタイムのところをやる。もちろん、年間の中でときどき介護問題を取り上げたりとか、教育、大学といったものをテーマにした特集を組むんですけれども、基本的な立ち位置は、ビジネスパーソンの仕事というところでやっています。
9月中旬に、「老後クライシス」という、老後の問題をテーマにした特集を組みました。これは今裕福でも、老後そのまま裕福でいられるかわかんないよっていうような、比較的パーソナルなところで投げかけた企画だったんです。
毎号発行したあとに、会社のトップとか、発行人、編集長らがその今回の企画どうだったかっていうのを振り返る場があるんですけれども、日経ビジネスが取り上げるんだったら、この問題に対応してるビジネスはないのかとか。単純に老後が大変だって言うだけじゃなくて、その大変な老後に備えることをビジネスとして捉えてるようなところはないのかとか。そういう指摘も、特集に盛り込めたんじゃないかっていうようなことを、反省会でも話し合いました。やっぱり立ち位置っていうのはそういうところにあるのが、日経ビジネスの特徴です。
次に、必要最低限の情報を開示できるか。経済誌の1番の特徴の部分なんですけれども、実はこれ頂いてる質問の中でものすごく多かったんで、あとで質疑応答のところで詳しくお話したいと思います。
やっぱり我々が記事を掲載するとき、あるいは取材をするとき、数字を重視しています。売上高はどうなのか、利益はちゃんと出ているのか。今はまだスタートアップ、赤字なんだけれども、何年で単年の黒字化を目標にして、何年後に一掃できるのか。そのためのロードマップをどういうふうに描いていくかっていうところは、これはある程度聞いた上でなければ、会社を紹介する記事として取り上げるのはなかなか難しいです。
もちろん会社の経営そのものを取り上げるかたちじゃなくて、この会社にはこんなユニークな制度がありますよとかいうもので取り上げる場合には、必ずしもこういうデータがなければ取り上げませんということではないんですが。
会社の経営そのものを記事にする場合には、そういうデータが不可欠だと思っています。ただそれでも、あとで質疑応答で話しますが、いろんなかたちがありますので。それについてはのちほど話したいと思います。
それから、皆さんが他の一般の雑誌の方とか新聞の方と話をされるときには、そこまで求められてないっていう思いもあるかもしれないんですけれども、「うちはこんな新しい事業始めてるんです、こんなユニークなことをやってるんで、その話を説明させてくれませんか」っていう依頼を受けることがよくあるんですけれども。
そのときに、その事業は非常におもしろい、ユニークですね。じゃあ、そのビジネスモデルで、利益をどこから得る仕組みになってるんですかっていうふうに聞くと、そこがパッと答えられない広報の方ってよくいらっしゃるんですよ。
事業のおもしろさとか、こういうユニークなビジネスモデルなんですよっていうことは説明できるんですが、じゃあそのビジネスモデルからどうやって利益を生み出すのかっていうところまで説明できないっていう方、結構いらっしゃるんですね。
説明されるからには、そこまできちんと踏まえた上でお話してほしいなというのが、我々経済誌の視点としてはあります。
一般紙のときには、こんな新しい事業始めたんですおもしろいです、話題になってますで終わるのかもしれないけれども、経済誌っていうのはそこもマストだと考えてますので、そういうところをきちんと説明してもらいたいなと思います。
レジュメの4つ目のところにもありますけれども、じゃあ似たようなことをやってるライバル社と自分の会社とはどこが違うのか、どこが優位点なのかということも、説明できるような対応をしてほしいなっていうのは、広報の方と話しているときに感じることの1つですね。
そうは言っても、それこそすごくビジネスライクにといいますか、「指標を出してくれなかったら、その会社は取り上げる価値がない」っていうことではなくて。
やっぱり我々も経営者とかキーパーソンになる方が魅力的かどうかっていうのは、取材をする上でものすごく重要な価値、ポイントでありますし、その経営者なりその事業を任されてる人、その事業に関わってる現場の人たちのその仕事に対する情熱とか想いっていうのをすごく持っているっていうことであれば、そういう想いを聞いてみたい、取材で取り上げてみたいっていうふうに思います。
じゃあ、その想いっていうのはどこからきてるのか、どこにその源泉があるのかっていうところにも関心がありますし。ある種の夢みたいなものを語っていただくっていうのも大事だというふうに思ってます。
表面に見える数字だけを追っかけてるわけじゃなくてですね、そういう想いの部分も大事にしてるっていうことは、理解してほしいなと思います。そこら辺が、経済誌の視点なんじゃないかなと思いますけれども。
次はちょっと具体的に、取材をしてみたくなるような提案のされ方とか、依頼のされ方っていうところを。これは私の個人的な部分というところも大きいんで、どの記者にも通用するとか、みんな思ってるかどうかっていうのは別なので、1つの参考として聞いてもらいたいと思います。
ファーストコンタクトのとり方なんですけれども、やっぱり自分たちの媒体のことを知ってくれてるのか、もっと言うと自分のことを知ってくれてるのかっていうところにおいて、大きく受ける印象っていうのは変わってくると思いますね。
企業広報の方はあまりないのですが、PR会社の方なんかでよくあるのは、「おたくの読者プレゼントコーナーにとりあげて欲しいものがあるんですけど」っていう連絡ですね。すいません、うちの雑誌読者プレゼントの欄ないんですよ。
(会場笑)
西頭:とりあえずかけてくるんですよ。そこを見てから連絡してほしい。そういうのがあるかどうかくらいは調べてほしいっていうのは思いますね。
日経BP社の雑誌、日経ビジネスをはじめうちの雑誌の特徴なんですけれども、署名記事が多いです。スタッフライター制っていって、記者が自分の記事に署名を入れて書く記事が基本形となってるんで。
例えば、「西頭さんのこの前の何とかっていう記事読みました」って、「それでこういうことに関心ないかと思って連絡させてもらったんですけれども」とか、あるいはそこまで細かくなくても、「西頭さんって流通担当なんですよね? この前記事で見てそのように思ったんですけれども」っていうかたちで連絡されてくると、そこは、この人は自分の書いた記事のこと読んでくれて、コンタクトしてきてくれてるんだなっていうのが分かりますので。やっぱり話を聞いてみようっていう気にはなりますね。
そこまでいかなくても、例えば外部からのファーストコンタクトで私が窓口になることも結構あるんですけれど、「この前この特集に関わった方に、こういう話をちょっとさせていただきたいんですけれども」っていう、より具体的な提案であれば、比較的それは記者に、「こういう話が来てるから、ちょっと受けてみたら?」っていう話は投げかけますね。
そうじゃなくて、「何とかに関心はありますか」とか、「何とかの発表会を開くので担当者の方にまわしてください」って言われると、まわしはするんだけど、そのときに興味があったら返信してあげてっていう感じで。やっぱり伝えるときの熱っていうものは、正直差が出てきてしまうと思うんですね。
やっぱり何かオファーをされるときには、その媒体を知った上で、ある程度この人に伝えたいんだ、例えばこの記事を書いた人に伝えたいんだっていうところまでフォーカスして提案してくれると、実際に会って取材をしてっていう確度は、相当高まるんじゃないのかなって思います。
自分自身もそういうふうに言われたときには、結構忙しいなって思っても、ちょっと話聞いてみようかなってなりましたし。ここらへんは誰でも、かなり共通してるんじゃないのかなと思います。
「ニュースリリースはあえて完璧にしない」というところなんですけれども、ここは多分、今日お話するところの1つのポイントだなと思います。BP社の中でもWebがすごく重視されてきていて、日経ビジネスオンラインはそういうことがあまりないんですけれども、専門媒体系のWebサイトっていうのは、毎日何十本も新しいニュースを更新していくんですね。
4〜5年前に情報ストラテジーの編集長をやってたときに、IT関係の日経コンピュータとか、そういった雑誌も含めた評価者会議っていうので、半期に1回記者を評価する会議を設けるんですね。記者は自分はどれだけの仕事をしたかっていうのを書いてきて、それを評価するんですけど。「私は1日平均8本記事を書きました」ってくるんですよ。
1日8本も記事かけるか、どうやって取材するのかっていうと、それは多くが、もらったニュースリリースを要約して記事にしましたっていうものなんですね。ここは多分記者も安直になっていて、ニュースリリースを読んでそこから記事にしてしまうっていうことを、当たり前のようにしてしまう。それは、私は記者のスタンスとして間違ってると思うんですね。それはただ、もらったニュースリリースを加工しただけです。
逆に、広報の方たちっていうのはそれを知っているからなのか、極端な例で言うと、記事スタイルのニュースリリースを送ってくださる方がいらっしゃるんですね。このまま記事としてお使いくださいっていうような。
それは、多分記者によって「ラッキー」って思う記者と、「失礼なことするな」って思う記者がいると思うんです。そのニュースをどういうふうに価値を感じてどういうふうに書くかっていうのを考えるのが記者であり、それを評価してどういうふうに記事にまとめさせるかっていうのがデスクや編集長の仕事なので。
そこを「このままどうぞお使いください」って言われて、それを受けてしまうほうも問題があると思いますし、それで載せてもらうっていうことに対しても、疑問を持ってほしいなっていうのは、正直あります。
おそらく、そういう提供の仕方をされて、ニュースリリースが記事になった、出したニュースリリースがこれだけの記事になりましたっていうのは、皆さんの仕事の評価ポイントになるかもしれない。「このニュースリリースが20誌に載りました」とか。
それも確かに評価ポイントかもしれないんですけれども、それだけだと、それを実際に書いた記者とコンタクトできませんよね。関係構築ができない。恐らくニュースリリースを読んで書いた記者っていうのは、言っちゃなんですが、記者としてそれほど熱心な記者ではない。もらったものだけでまとめてしまえばいいやっていうぐらいの考えの記者だと思うんです。
あえて完璧なものにするなっていうのは、ある種の餌撒きなんですよ。本当にきちんと読んで書く記者だったら、ここがわからないから連絡して聞いてみようと。例えば「アメリカで最近流行ってる何とかっていう手法を取り入れました」とだけ書いてある場合。
「何とかっていう手法はこうこうこうで」っていうところまで書いてあればそこから書き写すことができるんですけども、ただ「何とかっていう手法」とだけ書いて送った場合、それを記者が記事にしようと思ったとき、私だったら、「この何とかっていう手法は具体的にどういうふうなのか教えてください。日本企業で他に取り入れてるところって既にあるんですか?」とか「御社が本当に初めてなんですか?」っていうことを聞き返すと思うんですね。それを聞き返したときに、そこから接点が発生する。
そのときはその記事書くのに手一杯だから、例えば1時間以内にこのニュースを上げなくちゃいけないんですよねっていう場合には、それでそのときは終わるかもしれないけど、例えば「これ来週載せる記事だから、明日か明後日30分くらい時間とってくれるんだったら話を聞きに行ってもいいですか」とか、あるいは「お時間あるんだったら30分くらいお時間とっていただければ説明しますよ」っていうことを、皆さんのほうから話していただければ、ニュースリリースをきっかけに取材に来てもらったり、取材を受けたりすることができる。
そのときに、「実はこういうこともやってるんです」っていうふうにどんどん話を広げることができるし、その30分のアポイントメントを、労を厭わずに行く記者っていうのは、それなりの感度を持っている、意識を持っている記者なんで。
そういう記者と接点を持つ、繋がりを持つっていうのが、皆さんこれから仕事をしていくなかで、これから先すごく糧になる。そのときには結果的に載らなかったとしても、記事にされなかったとしても、丸々ニュースリリースから記事になった案件以上の価値を、3ヶ月後、半年後、1年後に生むかもしれないと思うんですね。
だからそれだけで完結して、ニュースリリースだけで記事にできるようなものを作るというのもありかもしれないけども、そういう餌を撒いておくというか。どっか空いてたら問い合わせてみたくなるような、問い合わせざるを得なくなるようなリリースにするのも、1つテクニックとして大事なんじゃないかなと思います。
我々も、さっきも言ってた反省点の1つとして、もらったリリースだけで構成してしまう態度を改めていかなくちゃいけないなって思いますし、お互いがそういうふうに関係を築いていけるといいのかなって思いますね。
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