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地域社会の再設計から考えるアジアの未来(全3記事)

「民主主義、人権、債務」すべてゲームで学ぶことでアジアの問題解決力を養う

2015年10月15日に六本木アカデミーヒルズにて開催されたイベント「Innovative City Forum」。そのなかの「国際交流基金アジアセンターセッション 地域社会の再設計から考えるアジアの未来」というセッションでは、山崎亮氏、永田宏和氏、ラッティゴーン・ウティゴーン氏の3名が、デザインを通じて市民の課題解決能力を養っていく方法を議論しました。なかでも効果的なのは楽しいゲームをしながら学ぶこと。「地球温暖化」「民主主義」「人権」などの問題に根本的に取り組んでいくための画期的なゲームについて、ラッティゴーン氏が紹介します。また永田氏は地域をデザインするにあたって「風、水、土」で役割を分けて取り組むポイントについて話しました。

ゲームの楽しさを通じて、問題解決能力を養う

山崎亮氏(以下、山崎):続いて、ラッティゴーン・ウティゴーンさんにお話いただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

ラッティゴーン・ウティゴーン氏(以下:ラッティゴーン):みなさんこんにちは。ラッティゴーンと申します。タイでプレイ・アクティビストとして、おもちゃやゲームなど、遊べるものをいろいろつくっています。

私の主な仕事は、民主主義、金融、法律などの難しいトピックなどを取り上げて楽しいことに変えるということです。

楽しいゲームを使って、子どもたちに通常は難しいとされる問題の理解につとめてもらうことをおこなっています。そのことで、彼ら自身が問題解決をおこなえるということを理解して、問題を持ち帰り、アクションに移してほしいと思っています。

いま世の中はものすごいスピードで変化をしていますが、その結果、さまざまな問題が生じ、複雑な様相を呈しています。温暖化の進行ひとつをとっても、悪循環や複雑な絡み合いがありますが、人々はキャンペーンなどいろんなやり方を通じて解決方法を模索しています。

同時に、その問題を解決するためには根本を直さなければならないということに気づきはじめています。そして、根本解決のためにはまず子どもに目を向け、エンパワーをすることが一番簡単なやり方だと考えています。

彼らに質の高い遊びを教え、それを通じて社会の一部を理解してもらうということですね。

本日はいくつか例をあげて、社会変化をどのように促すことができるかをお見せしたいと思います。まず「Eco Go Game」です。これはお互い協力をしあって、温暖化から世界を救わなければいけないというものです。

右側に海水の高さが示されていて、これをどんどん低くしていくのが目的で、この中には「ライフサイクルアセスメント」の考えが取り入れられています。この知識を用いることで、材料の資源の採集や、製造を通じたエネルギー消費や汚染などをどのように避けることができるのかを学ぶことができます。

このゲームの中には資源の採集、製造、輸送、使用、廃棄の5つのサイクルがあって、プレイヤーはこのボードを使って5種類のカードを集めていきます。そしてそのカードをどのように活用するのかを考えなければなりません。

エコフレンドリーであるカードは、高いポイントを獲得することができ、その結果、海水の高さが下がっていきます。

ライフサイクルアセスメントの考え方を導入させる

ラッティゴーン:もうひとつの例は、この男の子の場合は、「輸入されたコットンを使います。それを小さな工場に持ち込んで、スカーフを製造してもらう。それがトラックによって運ばれ、最終的には廃棄される」と説明しています。

だけど、これは良くない例ですね。5ポイントしか獲得できないので、水位が変わりません。

これに対してライフサイクルアセスメントの考え方を導入した場合、ここに、エコフレンドリーのカードを導入します。たとえば、輸入したコットンを国内で生産されているものに変更、そして工場ではなくDIYで製作します。

そのことで輸送という段階が省かれます。そして最終的にはリユースに至るカードを選びます。地元のコットンで自分のものをつくり、使わなくなったらリユースする。そうした場合、さきほどの5ポイントが16ポイントになり、水位は3枚分を取り除くことができます。

このゲームを見て「楽しそうだけど、だからなんなんだ?」と疑問が生まれるかもしれません。そこで、ゲームの効果を垣間見た具体的な例を紹介します。

以前、当時9歳だった私の姪っ子とスーパーマーケットに行ったとき、私は彼女から「この商品はどこからきているの?」という質問を投げかけられました。私は「わからないから見てみよう」と言っていろんな商品を手に取ってみてみました。

すると、たくさんの輸入品で占められているとわかるんです。それに対して彼女は「輸入品じゃなくて、国内生産したものを使いたい。そうすると、水の高さが下がるよね?」と言ったんです。

このゲームをやると、実際にわかってくるんですね。正しい教育をすることで意識を高めることができると感じました。

「民主主義とはなにか」を学ぶために

ラッティゴーン:そして、次に説明するのはとある財団が作成した「SIM Democracy」です。タイではここ数年間、たくさんのデモが起こり、過去5年間で6人も首相が変わってしまったという状況です。現在でも軍事政権が国を掌握しています。

人々がみんな民主主義を求めていますが、いまだに対立は続いています。そこで、この「民主主義」とはどういうものなのか、という疑問が生まれます。

お互い反目し合っているなかでは、本当の民主主義は教科書のなかだけに存在しているような状態なんです。そういった、現実には理解することのできない民主主義を、シミュレーションゲームを通して理解できないかということになりました。

ここで、あるニュースで取り上げられたビデオをご覧いただきたいと思います。政治的な変化によって、タイにおいては「民主主義とはなにか?」という疑問が生じています。この学校では、SIM Democracyというゲームが取り入れられています。

その目的は、民主的なかたちでどのように政府を応援することができるのか。また、民主的とはなにかを分析できるようになっています。

民主主義というのは本から学ぶものではなく、ライフスタイルから学ぶものです。実際の体験を通して理解しなければなりません。そういったことから、シミュレーションで疑似体験することを考えました。これはSIM Democracyを生徒が初めておこなっているところです。

非常に真面目なトピックですが、これを制作したのは「Friedrich Naumann Foundation」というNPO法人です。タイの選挙管理委員と提携をし、こういった教育のワークショップをおこなっています。

国内200の学校や大学でこのゲームはおこなわれていまして、どうやって国を統治するのか。あるいは正義とはなにかを学ぶことができます。

ゲームのなかではボードそのものが1つの国で、学校、警察、森などに分かれ、それぞれを守っていかなければなりません。まずこのなかで首相、政府といった様々な役割を選んでいきます。最初は難しいと感じる人もいるかもしれませんが、やっていくうちにだんだんと原理がわかってきます。

「参加」「社会貢献」「積極的な市民参加」「政府の評価」「モニタリング」などのキーワードがありますが、最終的な結果によって、自分たちがどのような成果を上げたのかを見ることができます。

ゲームを3つの段階に分けて考えてみる

ラッティゴーン:SIM Democracyはたくさんの教育者が関心を寄せていまして、現在、東南アジア各国の大学でも取り入れられています。タイでは、いろんな国を旅行し、その国民としての意識を高めることをしてきました。

こういったゲームをした後にどうやったらこのゲームを最適化できるかを考えてきました。私はこのゲームを3つの段階に分けました。ゲームをする前、最中、後です。

人々はこのゲームをする前に、民主主義はなにかと考えます。そのプレイヤーのすべてが身のある経験をすることが大事です。そして特別なトレーニングをおこなったコーチがそれぞれのテーブルにつき、それぞれがきちんと体験をしているということを確認していきます。

また、いろいろなマニュアル、インストラクター用のビデオ、様々な支援ツールを準備しています。そしてゲームの後がもっとも重要なステップです。ここで、プレイヤーが実社会でどういった行為をおこなっていけばいいのか。

そこでの関連付けをおこなうことができるんです。このゲームをしても現実と結び合わせることができないと意味はありません。

「参加の意味はなにか」ということが重要です。ゲームのなかであれば、1人のゲームプレイヤーとして、隣に首相が座っているというような状況を簡単につくり出すことができます。

なにが欲しいのか、といった要望もすぐに出すことができるのですが、国の一市民として、どうやったら政府に自分に意向を伝えることができるのか、ということを考えてほしいと思っています。

また、このゲームは高校での教育ツールとして使われますので、教職員用のマニュアルも存在します。教師も、ファシリテーターとして参加することになります。そして参加ということに関していえば、教師はこの支援ツールを使っていろんなレベルの「参加」を示すことができるんです。

一番最初は無知や無関心。そして次は言葉だけ。その次は市民団体を結成するという段階です。もしくは政党を立ち上げる。または暴力的な行動に出る。そういったことを教室のなかで議論することができます。

ミャンマーでは選挙のシミュレーションもSIM Democracyで

ラッティゴーン:最近は、タイ国内のみならず海外からも関心が寄せられるため、いくつかの言語によるいろいろなデザインが提供されています。最も成功している例が、ミャンマーのSIM Democracyです。たくさんのミャンマーの人々がこれを使用しています。

もうすぐミャンマーで選挙がありますが、このゲームで実際の選挙のシミュレーションをおこなっているそうです。若い人たちだけが使っているわけではなく、軍事、軍部、議会の閣僚もこのゲームでシミュレーションをおこなっているということです。

そして「World Forum for Democracy」という会議があるのですが、このゲームは社会をよりよい方法に導いていく点で評価され、ベスト・プラクティスのひとつに選ばれました。

一方、SIM Democracyをプレイすると、その世界に欠けているものがあることに気づくと思います。それは「人権」です。このオープンな社会を形成する段階で、人々がお互いの意見を尊重するということは不可欠で、人権を表明する自由、情報を入手する自由も必要です。

そこで私たちは、Friedrich Naumann Foundationや司法省と協力をして、新しい人権のゲームをつくりました。入門版で、基本的なコンセプトを勉強するためのゲームで、子どもたちは自由、プライバシー、教育を受ける権利を学ぶことができます。

年齢制限は6歳以上。人権の教育は幼い頃からおこなうほうが良いため、そうしました。

人権をテーマにしたゲーム「RIGHTS CARD」について

ラッティゴーン:こういったキーワードを勉強した後、もう少しレベルの高い「RIGHTS CARD」という人権をテーマとしたゲームもおこなうことができます。これは問題に対して、人権を重視するアプローチのための解決策を導き出すというゲームです。

赤いカードは問題、あるいはシナリオカードと呼んでいます。緑は解決策のカードです。それぞれのカードの右上に数字がありますが、この赤いカードの数字は、これだけの点数があれば問題を解決できるということを示しています。

そしてこの場合、赤いカードには問題が書かれています。ここでは「マーティンがクラスメイトでワークグループをつくるときに、必ず最後にしか参加できない」と書いています。誰も彼を歓迎していない。

そして、「どうしたらこの問題を解決できるのか?」ということです。現実の世界も同じで、人権問題を解決するにはアクションが必要ですよね。そこで、緑のソリューションカードを見て、問題のカードに必要な6点以上の点数を集めることにします。最初の4点は「勇気をもって立ち上がり、質問を投げかける」とあります。

要するに、社会のなかで意見を言う権利とともに、クラスの問題をはっきり発言するということです。そして2点と書いているカードは、「友達と相談し、この問題を解決する」とあります。この2つのカードで6点の問題が解決できます。

人権についての考え方は各国で差異がある

ラッティゴーン:人権というのはグローバルな問題ですので、ゲーム作成においては、様々な国から専門家を集めて、いろいろなお手伝いをしてもらいました。そうすると、このゲームを他国で行うためには、一部分を変えたり、付け加えたりといった作業が必要であることに気づいたんです。

たとえばこのカードはプライバシーに関するものですが、これをドイツの専門家に見せたら「監視カメラのカードを使ってはどうか?」と言われました。なぜなら現在ドイツでは、監視カメラを街に設けると、「プライバシーは侵害される。本当に治安はよくなるのか?」という意見があがるそうなんです。

ですが、タイではそんなことを気にする人は誰もいません。その他にもドイツでは同性結婚や、個人データの取り扱いについても入れてほしいという声がありました。私は、人権の問題はもはやドイツに存在しないと思っていたので、とても驚きました。

他方、ネパールでは「もしかしたら、このカードはやめたほうがいいかもしれない」という声がありました。それは、身体障害を抱える男の子が入居する施設に、身体障害者のためのトイレがないという問題です。

専門家は「この問題はちょっとネパールには合わない。もともと身体障害者用のトイレが存在していないから、こんなカードがあると『ネパールでは人権なんて無理だ』と思ってしまうだろう」と言うんですね。

SIM Democracyは人権という共通なユニバーサルな問題を扱っているから、1つのカードが通用すると考えていたのですが、そんなに簡単ではない。「ローカライゼーションは終わっていない」ということに気づかされました。だからこそ、そうした問題に対してはまだまだカードゲームが必要だと思っています。

債務者がカードゲームで学べること

ラッティゴーン:また、ゲームを通じた活動は、若い人に大きな影響力を持つことにも気づきました。するとある人が「政治や大人に使ってはどうか?」と言いはじめたんです。タイの司法省には法律センターがあり、その中には債務者らのための訪問支援センターがあります。

あるとき、同センターから「カードゲームがほしい」と依頼を受けました。なぜなら、タイでは例えば5000人の調査をすると、51.5%が不正な借り入れを受けている。さらにはこの解決策が見つかっていない状態だからです。

まず、なぜこのカードが必要なのかを示すため、タイのある農家の方の実話を見ていただきましょう。この男性には、妻と2人の子どもがいました。貧しい暮らしのなかで、奥さんが突然病気になってしまいました。

そこでお金が必要になるも、銀行ではまともに取り合ってもらえず、仕方なく土地を担保にお金を生もうとするも、担保にするには時間がかかる。

そんななかでも奥さんの病気は待ってくれないので、村で一番お金をもっているヤクザのような人のところにいきました。そうすると「この紙にサインをしてくれたら貸してあげる」と言い、まっさらな紙を渡してきました。農家の人はとにかくお金がほしかったので、仕方なくこの紙に自分の名前を書きました。

みなさん、どういうふうな結末になるかおわかりですよね? この農家の人はすべてを失ってしまいました。これはたくさんの人たちから聞いた多くの悲劇のひとつにすぎません。

ゲームに参加することによって知識を得られるサイクルをつくる

ラッティゴーン:さて、ゲームの回答者ですが、彼らをいくつかのグループに分けてみました。まず、上のほうは安定した収入のある人。左側は都心に住んでいる人。右側は地方に暮らす人。下側は、安定した収入のない人。

彼らの共通項や、それぞれにどんなストーリーやバックグラウンドがあるかも調べました。そして、左下の貧しく、教育水準が低い人たちにも理解してもらうため、できるだけシンプルにストーリーを考えました。

そして、ゲームの目的はなにかということなのですが、このゲームをやる人が金銭に関わる基本的な法律を理解すると同時に、実際にゲームをする人がお金を管理する経験を得ることができるというものです。このゲームは質問と答えを返すというようにできています。

たとえば「近隣の人からお金を借りることになりました。金額を書くときにどうやって書いたらいいでしょうか?」という質問があります。Aは金額の前と後にハイフンをつけています。Bはハイフンは後ろだけ。Cはハイフンなし。

みなさんはどれが正解だと思われますか? 正解は、Aです。BやCですと、悪意がある人は他の桁を足してしまうことができるんです。実際こういった事件がタイで多発していまして、無知が大きなトラブルを引き起こすということなんですね。

タイ政権はこの問題をこれまでに何度も解決しようと試みてきましたが、結局解決できていないままでした。

そしてこのときは、司法省がこのセッションに銀行や法律専門家を招きました。ですので、このゲームに参加しながら、参加者はそうした専門家たちに質問もできるんです。つまり、知識のない人が、法律的、金銭的なサポートを受けることができる。ここで、負の連鎖を断ち切れることになりました。

さまざまなアプローチのゲームを提供する意味

ラッティゴーン:現在われわれが制作しているゲームも、簡単に紹介させてください。こちらは、お互いに助け合うコミュニティ、そしてそれによって商品の価値を高めて、コミュニティを豊かにしていこうというもので、経済理論もこのなかに入っています。

また、こうしたゲームやおもちゃのデザインを業界の人、若い人たちに教えているのですが、彼らに教える際には、デザイナーとしての彼らの潜在性に気づかせることに留意しています。

これは、おもちゃのデザインをするセッションなのですが、若い人たちは漫画や西洋文化などに興味を持つ傾向にあるのですが、ここでは、昔からの伝統的なストーリーを現在に生き返らせるということをやっています。同じことをインドでもおこなっています。

それからもうひとつ政治に関するものとしては、目の見えない人たちに点字を理解してもらうためのゲームもおこなっています。ABCというコードがあり、それを理解したら宝箱を開けることができるといった仕組みです。

中にはお菓子が入っているので、若い人たちは頑張って開けるんですね。そういったかたちで、目の見えない学生や子どもたちと点字を繋いでいます。ここでは、点字クッキーも作れます。最後にはお茶を飲みながら「点字って素晴らしいね」とお祝いをするんです。

いま、私たちはテクノロジーの恩恵を受けています。そのことで、デザインのカスタマイズや商品の小ロットの生産も可能になりました。数人のためにもデザインをしてものをつくることができますし、ゲームのデジタル化もできます。

いまはまさに新しい教育の時代で、そうした技術を個人のためだけではなく、社会のために教育をおこなう時代が訪れていると思います。そんな動向に参画できることを非常に誇りに思っています。以上です。

パネルディスカッションがスタート

山崎:では、パネルディスカッションをはじめましょう。お二人からは期待通りの、最初にちょっとお話をしたような「市民参加の20年ごとの経緯」をお話しましたけど、まさに市民が反対運動をするわけではなく、要望や陳情を伝えるだけではなく、自分たちで動き出して社会を変えていく。

しかも適切なパートナーシップを、そのつど見つけて一緒に活動を起こしていこうというときに必要なこと。

これが「楽しさ」であり、楽しさを通じて人々が学ぶ、成長することが大切なことなのかなと感じました。永田さんから発表していただいた内容について聞いてみたいことがあります。ひとつは、永田さんご自身は風の人である。

そして水の人がすごく大事であるとおっしゃいました。基本的に、永田さんは誰から声をかけられてああいうプロジェクトに赴くことになるのか。地域の土の人、水の人、どういった人から声がかかるのかをもう少し詳しく教えてくださいますか?

永田宏和氏(以下、永田):両方ですね。インターネットで情報を出していまして、メディアでご紹介いただく機会も増えたので。多いのはPTAのお母さんからの電話で、大げさかもしれないですけど毎週どこかから電話がかかってくるような状態です。

最近は「おやじの会」から連絡がくるというケースもあります。水という話だと「なんとか地域の防災訓練を変えたい。自分たちもその部署で働いているんだけどうまくいかない」という行政の方が偶然うちのプログラムを見つけて、「なんとか人を集めるから支援に来てほしい」みたいなケースもあります。

あとは、東京ガスさんなどの企業がCSRでイベントをやりたいということで、いろんな分野の人からオファーをいただいていますね。

「水の人」はどんなふうに水をまくべきか

山崎:水の人の「水のまきかた」がすごく重要だという話がありましたね。最初はたくさん水をやる。そして根を張って芽が出てきたと思ったら徐々に水の量を減らしていく。それはひとつの考え方だと思いますが、そういうことがわからない水の人たちも多いのではないのかと思うんですね。

それで永田さんがやられているのは「まずは土の人たちが防災についていろんな知識を得る」。これはすごくよくわかったんです。

これによって皆さん自身が学んでいろんなことができるようになるというのはご説明のなかで理解できたのですが、水の人たち自身が、真の水の人になるためにあのプロセスのなかでなにを学んでいるのか。どういうふうに学べることができるのか。それを教えていただけますか?

永田:これは難しいんですね。難しいというのは、水の支援のあり方というのは、素養として持たれているケースもありますし、土の人の中からそういった性質をもった人が出現するプロセスもあります。ただ、きれいごとで「風は潔く去ります」みたいなことを言ってますけど(笑)、水を育てるために部分的にはちょこちょこ通っているケースもあって、水の人としての関わり方や、どのように土の人と寄り添っていくっていうのは、山崎さんもされてるかもしれないのですが、一緒に飲みにいってそんな話をしたり、そういうことでしかなかなか伝わらないんですよね。

現場の体験を一緒にしないといけないですし、実際はやって失敗しないとダメな部分もあって、そういうことを繰り返して育っていってる気がしますね。

東北とかでも、水の人として東京から居つく人もいるかと思いますが、みんなはじめからわかってるわけではないんですよね。

痛い目にあって成長していくというプロセスがあるので、むしろそういう場を僕らがどうやって提供できるか。またはつくることができるかということが重要な気がしています。

「風、水、土」お互いが尊重し合ってシナジーを生む

山崎:なるほど。ラッティゴーンさんのプロジェクトは誰から依頼を受けているんですか?

ラッティゴーン:いろんな分野のクライアントがいますね。最初のころはNPO、NGOが多かったのですが、私たちがやっていることは影響力のあることだと証明していましたので、現在の動向に取り残されたくないという政府からもアプローチがあります。

ただ、商業ベースに乗せることでより早く普及することができるので、今度は企業側からもアプローチがあるといいですね。現段階では、私たちのやることに信頼を置いてくださる方だけを相手にしているので規模も限られているのですが、制作レベルで取り込むことできれば、もっと速いペースで普及できるのではないかと。政府のセクター、民間のセクターに取り込まれることが望ましいと思っています。

山崎:ありがとうございます。そうすると、企業や行政の人たちからも依頼があるということなので、永田さんがおっしゃっていた水の人のから依頼を受けてお仕事にいっているんだと思うんですね。

さきほど「SIM Democracy」では軍部の人が一緒にゲームをやっているとか、借金のゲームのときには銀行員や専門家がアドバイザーに入っているとか、ああいうことはすごくユニークだと思いました。そのことで水の人たちもすごく成長している、学んでいるんじゃないかと思いました。

さきほど永田さんに「水の人はどのように成長するのか?」という質問をしたのですが、ラッティゴーンさんのプロジェクトの場合は、土の人たちはもちろん成長するんですが、それが結局水の人たちを成長させるきっかけになっているのかな、と思ったのですが、そのあたりはいかがですか?

ラッティゴーン:その通りだと思います。メンバー全員が関わることが重要だと思います。お互いから学びあうということ、そしてお互いを尊重し合うことが大事です。

日本のことはわからないのですが、タイの場合、貧富の差や教育水準には大きな差があります。そのため共通の体験も会話もコミュニケーションもないんですね。たとえば学校にいって初めて農民の生活がわかるんです。まったく教育を受けていない人は、常に周りに利用されてしまいます。

いろんな人が一堂に会することでお互いを理解し、尊重することが生まれることを望んでいます。そして、そのことが社会を動かすことにつながるのではないかと思いますね。

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