2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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岡島悦子氏(以下、岡島):ちょっと観客にも質問を何問か取ってみたいと思います。お願いします。
質問者1:普段取材に行く場合の話なんですけど、いろいろ準備して行っても相手が急に取材中に「落ちる」というか、関心や緊張感がなくなって「外したな」と思うときがあるんじゃないかと思うんですけど。
そういうときに、どうしたら取材の続きをやっていけるかを教えていただきたいと思います。
質問者2:私は社会を変えるためにグロービスに入りました。グロービスに入って思ったんですけど、優秀な人は結構いるんですけど、強欲な人ってあんまりいないんですね。
私は結構強欲なほうでガンガン前に出ていくんですけど、さっき「強欲を突き詰めると破滅にいたる」という話があったので、そのあたりのバランスやどこまでの強欲が許されるのかを教えていただけると幸いです。
質問者3:小説を書かれてて、いろんなアイデアが入ってるんですけど、実際に執筆している場面が想像できないんです。どんなところで思い浮かべて書かれてるのか、教えてください。
岡島:ありがとうございます。まずこの3問ぐらいでいきましょう。
真山:(相手が)取材中に落ちることはまずないです。絶対落としません。逆にさっき私が話したみたいに、何か質問したときに「そんなことじゃないよ」と言う方はたくさんいます。でも、そういう答えも予想しているので「じゃあ、どうなんですか?」と切り返します。
私は、準備してきた質問を使わないほうが良い取材だと思っています。最初に相手が発言した内容や答えに対して質問するのが実は一番いい取材です。
頭が真っ白になったり、聞くことがなくなったりしたときに用意してきた質問を足すだけなので、向こうがハイテンションでやろうが、ローテンションでやろうが、話をどんどんそらす人であろうが、そこはもうそれに合わせて。その人の答えのなかに質問があると思っています。
(2番目の質問は)強欲のバランス。若い人で強欲を意識されてる場合は、「結果さえよければいい」という思いが強いんだと思うんですよ。
でも終わった後が焼け野原になっていたら、勝ったって売る相手はいません。仲間もいなくなると思うんですよ。
だから、いつも周りを見ていられるかどうかが大事でしょうね。強欲を露わにしたら負けです。謙虚な人間ほど本当は強欲ですから。勉強に熱心な人って欲望のほうになかなかいかないので、(あなたの)感じてらっしゃることもわかるんですけど。
強欲を前に出してしまわずに、いろんな自分の知識や雰囲気でオブラートに包みながら根っこに持ってるんです。なので根っこに持つとよい。なぜかというと(いざというときに)へこたれないからです。
岡島:したたかさみたいなものですよね。だから、鷲津を書いてらっしゃるときに、KKLのアルとかを使って最後自分が負けたようにみせて、アメリカ人が喜ぶ形を演出することは、本当は外から見たら強欲には見えないですよね。
真山:本当に強欲なら、メンツなんてどうでもいいんですよ。メンツを気にしている間は、どちらかというと強欲より他のものが欲しかったりする。
その辺は、自分の気持ちの強さを相手にわからせないようにしていったら、もう少し考え方が変わってくると思います。
岡島:オルターエゴみたいなものですかね。ちょっと高次元のエゴというか。
真山:非常にガッツがあるというのであれば、そのガッツを暑苦しいと思わせないところで抑えられるかどうかだと思います。
(最後の質問ですが)どうやって書いているかですね。よく小説の神様がいて降ってくると言いますが、私は有り得ないと思っています。ではどうしているか。
ひとつは、私はいつも世の中のことに関してダメ出しをしています。先ほどお話ししたように、例えばメディアが尖閣問題をとりあげているのに対して、「いや、これは(戦争)起きないだろう」と思うところから始まります。
そして「(戦争が)起きないって証明してみろよ」と自問自答するうちに、そこで(また視点が)変わってくる。それ以前に、尖閣の話するときに、「そもそもあそこで(発生している)国境問題ってどういう意味だろう」ということから調べなきゃいけませんよね。
ひとつの端緒があるとそれを知るために何を知らなきゃいけないか連鎖的につながっていき、小説のテーマの種となることがあります。
しばらくして似たような話が出てきたところで「これって、もしかして何か起きるのかな?」と思えば、「専門書で調べようかな」「amazonでこういう本売ってないかな」と探すわけです。
そういうことを常にやっています。でもそういう塊の中で5つのうちの1、2つくらいですよ。小説までもっていくのは。
ただ、一度きちんと調べたことは他でも使えるんです。例えばM&Aや国際金融、銀行マンの生理はもう取材しなくてもある程度わかってます。ですから昔に比べてたら取材の数が減りました。
岡島:10年やってこられた蓄積ってところですかね。それと関連してうかがいたいのは、元々小説家になりたかったってことなんですけど、新聞記者のときのご経験みたいなのは今の作風などには役立ってらっしゃるんですか?
真山:それは間違いなくそうですね。高校時代に小説家になると決めたのですが、(好きな小説は)その頃から圧倒的に海外の小説が多かった。そして、好きな作家の経歴を調べたらほとんど記者上がりだったんですよ。
「なんで自分は彼らの小説が好きなのか」と考えると、リアリティがあることと、社会に問題提起しているからなんですよね。大変傲慢で不遜な人間でして、それが理由で高校時代に「10年新聞記者やろう」と決意しました。
「取材力とわかりやすい文章と人脈を10年かけて手に入れよう」と思い、大学の受験もマスコミにたくさん入っている大学しか受けなかった。結局、新聞社は2年半で辞めてますけど、小説家になるためにどう取材すればいいかとか、とにかくモチベーションが違いました。
岡島:新聞記者として名前を上げるためではなく?
真山:そうです。「こういう問題があったときに、なぜ自分はここで突破できないんだろう」「デスクはなぜ邪魔するんだろう」「なんでこれだけ一生懸命書いているのに読者は関心がないんだろう」とかずっと思っていましたね。今でも同期で記者やってる人間はたくさんいますけど「すごく濃い2年半をや送ってたよね」とはよく言われます。
岡島:ありがとうございます。
質問者4:コミュニケーションというキーワードを持ったうえで、作家と読者の関係のなかで、どういうふうに読み手の心をとらえ、受け入れられるようなものを見つけているのか、探り出しているのか。手法があれば教えてください。
質問者5:「真山仁」という人生を歩むことになった原体験で、今振り返ってみて「あそこだな」と思うものがあれば教えてください。お願いします。
真山:両方とも難しい質問ですね。読者の心をつかみたいですけど、つかんでるかどうか実はわからないんですよ。少なくとも、グロービスの学生の人(の心)はつかんでいますよね、この人数ですから。でも、世間から言えば、必ずしもこうじゃないので。
岡島:特殊部隊ってことですかね?
(会場笑)
真山:いや、そんなことはないですよ! 日本を担っていく人たちですから! みなさんがひとり100冊ずつ友達に売ってくれればベストセラーですから。
岡島:クチコミ・イズ・エブリシングと。
真山:今日は帰ったら必ずamazonで本かKindle(の電子書籍)を買っていただければ。ここポイントですからね!
それは別にして。読者のニーズに応えるということを考えて書くと多分失敗すると思う反面、もっと広く伝えなきゃいけないということはすごく意識しています。
常に「世間の人はこういうときにどう考えているのか」ということを念頭に置いています。「きっとこういう先入観があって、それをどうやって払拭すればいいのか」「どこから説明したらいいのか」などと考えます。ただ、本当に自分が言いたい部分になると、そこから先はもうこちらがアジるに近い気分で書いています。書き手の思いが強いほうが、小説にうねりが出るから、勢いは大事です。
私はamazonのレビューとかブクログ、Twiterの感想はだいたい読んでいます。「ひどいことを言うなあ」と思うときもありますが、「やっぱり、そういうふうに読まれるんだな」という場合もあります。
うれしいのは、全く意図していないすばらしい解釈をしてくださる読者が結構いらっしゃるんですよね。これはデビューして初めて気付いたんですけど、小説は作家のものだと思ってたんですけど、小説って読む人の数だけ読み方がある。
だから、(本を通じて)コミュニケーションすることは大事だと思っていますし、本が出て、ご希望があれば読書会もやっています。例えば「1冊の本を読んで、仲間20人集まるんで来てください」ってお願いされたら、遠方の場合は「旅費出して」って言うかもしれませんけど、喜んで行きます。
岡島:すばらしい!
真山:「本」というツールによって人が語り合えるのはすばらしいことだと感じてます。ミステリー好きなので、編集者だけを集めたミステリーの読書会をやっていますけど、その時に(他の人が)「こういう読み方するのか!」って思うこともある。こういう経験は非常に大事だと思っています。
岡島:コンテクストがある中で、みんなで共通言語を使ってしゃべるっていう。
真山:小説は「トリガー」なんです。問題意識をどうやって見ていくかの「トリガー」として小説を読んでいただけたらいいなと思っています。
(次の質問なんですけど)「真山仁」をやったことに対しては、正直こんな場でこんなふうにしゃべっている自分をあんまり想像してなかったんですよ。
こもって書いて本だけ出していればいいのかと思っていたんですけど、なかなかそうはいかない。
その一方で、私の場合は、小説家として文体を磨いて美しい文章をめざすよりも、小説を通じて社会に何かを訴えたい気持ちが強いんですよね。「だったら、もっと前に出てしゃべって」と依頼してくださる人が非常に多くなってきて。
報道番組に呼ばれるようになったのを戸惑ってたんですけど、それは「自分の小説を書いて訴えている事と同じなのであればそれはいいのかな」と思い始めました。
岡島:むしろ、相乗効果がある感じですかね? 本があるのと、前に出てしゃべられることとでは。
真山:そう思ってるんですけど、よく(番組に)呼ばれますが本は売れませんね。今日は売れると信じてますからね?
(会場笑)
岡島:『ハゲタカ外伝 スパイラル』、明日発売です。
真山:「外伝」とあるように、芝野が『レッドゾーン』からずっと事業再生に取り組んで、うまくいかなかった東大阪の“マジテック”という町工場が舞台です。
「博士」とよばれる発明王の社長が亡くなったあと、(芝野は)彼に昔お世話になったので恩返しに(事業再生)しようとするのですが、なかなかうまくいかないわけです。
「週刊ダイヤモンド」で『グリード』を連載しているとき、いろんなところに追加取材に行って、いろんな方法を考えてみたのですが、またしても納得できる結末につながらなかった。結局、『グリード』を単行本化するときにマジテックの部分はすべて省きました。
今度こそ、何とか芝野に答えを見つけてもらおうと思って、去年1年さらに取材をして、ようやくひとつの答えを見つけてまとめたのが『ハゲタカ外伝 スパイラル』です。かつて考えたけれどうまくいかなかった失敗談もすべて作中に入れました。
だから今回、鷲津はあまり出てこないんです、でも、多分読まれたら「結局おいしいのは鷲津か」という話にはなっています。
岡島:『グリード』では、まずアメリカのダイナミックな(M&A)、ある意味ウォールストリートの話を俯瞰した「ワシの目」でお書きになり、一方で、今回の『ハゲタカ外伝 スパイラル』ではかなり小さめでリアリティのすごくある泥臭い感じのM&A(を描いていますよね)。
真山:確かに、(大きな会社は)スケール感や読み物としておもしろいし、数兆円単位の時価総額の会社を書くこともスペクタクルが利いていて好きなんですけど、実際はそんな大きな企業より、小さな会社が潰れたり買収されたりするほうが多い。
あるいは(大企業が)大きな空中戦をやってる下でヒドい目に遭っている中小零細企業がたくさんあるわけで、そこを書かないと『ハゲタカ』というひとつのパッケージにならないとずっとこれまでも思ってたんです。
それが何とか今回実現したので、ようやく一枚の『ハゲタカ』という絵ができたかなと思っています。
岡島:鳥の目と虫の目みたいな感じですかね。一方で、日本の技術をグローバルにどうしていけばいいかみたいなことも書かれている。
真山:この小説を書いて気づいたのですが「ものづくり」で大事なのは職人の技じゃないんですよね。職人の技はいずれコンピュータに凌駕されていく。さらに、20年、30年先に一人前となる職人の技を、「明日どうやって食うのか」という状態の町工場は育てられない。
現在を生きるために、今持っている技術を活用するために必要なのは、その技術をプロデュースする人だったり、売っていく人の存在です。
日本政府もそこを忘れていて、「ものづくり大国」と掲げていますけど、職人を育てるだけでは不十分で、このままではもうすぐ全部消えていくと思います。そのあたりのことも小説の中に入れました。
岡島:ありがとうございます。まだまだいろいろうかがいたいんですが、最後に真山さんからみなさんへのメッセージを「本買ってね!」以外でお願いします。
(会場笑)
真山:グロービスでは、学びの際に「志」が大事だと言われているかと思います。しかし、明治維新の人を除いて日本ではこれまで、「志」って人生の中であまり感じない。言葉にすると難しいんですけど、柔軟に考えると「行動規範」のようなものです。
そのためにまず必要なのは知識なんですが、もっと必要なのは勇気です。つまり、得た知識を使えるかどうか。知識を実際に行動に移す勇気が志の源になります。
失敗は辛いですし、いろんなものを失いますけど、本当に志を持って何かを成したいと思われるのであれば、年齢関係なく勇気を持って失敗を恐れずに挑戦してください。
みなさんはグロービスで学ぶことで、武器はすでに手に入れている。でも、その武器を使えないことが多い。武器を有効に使うためには、前のめりに挑戦する勇気が大切です。そこで失敗して這い上がって、結果を出して、(自分のいる)フィールドで10年20年経ってから「志ってこうだったのかな」と振り返ることができるのではないでしょうか。
岡島:結果としてついてくる。
真山:松下幸之助にしても本田宗一郎にしても、20代で志を抱いた人なんて誰もいません。(彼らが)死ぬ前に言った言葉を若い人が聞いたら「あぁ、こういうこと言わなきゃ」と思いますけど、それは70歳になってから言えばいいんです。
大事なのは、恐れず臆さず、勇気を持って挑み、そのための武器を手に入れる勉強をしているというモチベーションを持つことだと思います。
若い人の多くは言葉尻を気にします。そこはあんまり気にしないで、もっと気持ちのモチベーションとして、志をどう据えればいいのかを考えると、もう少し楽になるし、学ぶ姿勢も変わってくるのでは。そういったところに目を向けてもらえればいいのかなと思います。
岡島:ありがとうございます。対談あっという間だったんですが、最後に「ルールを作るか、ルールに使われるか」というテーマにそぐわしい、もうとにかく打席に立てと、そこからいろんなことを培っていったなかで「志」が出てくるというお話をしていただきました。ありがとうございます、真山さんに大きな拍手を!
真山:ありがとうございました。
(会場拍手)
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