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今泉清氏出版記念トークショー(全1記事)

強いチームに必要なのは「会話」でなく「対話」 ラグビー解説者・今泉清氏が語るコミュニケーションの本質

数々の名プレーでラグビー・ファンを魅了し、指導者としても実績を上げ、現在はその経験を活かして人材育成コンサルタントとして活躍している、今泉清氏の出版記念トークショーが開催。今泉氏初の著書で、氏がラグビーを通じて体得した「勝つための組織論」を解説したビジネス書『勝ちグセ。ラグビーに学んだ「最強のチーム」をつくる50の絶対法則』に沿ったトークの他に、現役時代のウラ話も交え、組織づくりのために大切なコミュニケーションの本質や、共通の理念をシェアすることの大切さなどが語られました。(この記事は日本実業出版社のサイトから転載しました)。

ラグビーのチーム作りはビジネスに通じる

今泉 清氏:今回の出版企画、当初は早稲田ラグビーの本、ということで書き始めたんですが、書いていくうちに、「ビジネス書としてもいける内容なんじゃないか」というお話をいただき、スポーツからビジネスへ枠を広げることになりました。ですから、ビジネスパーソンの皆さんに読んでいただければ「これってうちの会社の話だ」「私のこと」「私の部署に当てはまるな」と感じていただけると思います。

このトークショーで、特に皆さんにお伝えしたいことは、強いチームになるために必要な「ワンチーム・ワンハート」をどう実現するか。ラグビー選手もよく使う言葉ですが、要はチームの心をひとつにしなければ厳しい勝負に勝てない、ということですね。

口にするのは簡単だし、試合に勝つためとか、チームが生産性を高めて結果を出すためには必要なことだと皆さんも理解してらっしゃると思います。

しかし実際に、それをどう実現していくかということになると、とても難しい。この本にも、ラグビーというフィルターをとおして、「ワンチーム・ワンハート」になるための具体的な方法を書きました。

理念を共有できなければ強いチームにはなれない

振り返れば私自身、40年ラグビーに関わってきましたが、いまでは、対戦する二つのチームのウォーミングアップを見れば、どっちが勝つか大体わかります。

強いチームというのは、監督、コーチが集合をかけるとサッと集まって、作った円陣が小さくてきれいです。そしてみんなが半身になって聞き耳を立て、誰かが話していることを一言一句聞き逃さないようにしようとする。チームがひとつになっていると感じます。

反対に弱いチームは、だらだらと集まって円陣も乱れています。その円陣の後ろのほうでは「あのサインプレーなんだっけ」などと、こそこそ話をしていて、まとまりがない。

ただし、おわかりかと思いますが、小さい円陣を意図的に作っただけで強くなるわけではありません。どうすれば自然に小さくてきれいな円陣ができるのか。そこが大事なんですね。

ところで皆さんのなかで、自分の会社の経営理念、ミッションをすぐに言える方はいらっしゃいますか?

(ほとんど手が上がらない)

「会社の理念とか、あなたの会社の『らしさ』ってどういうものですか?」と質問をされて、それを3秒以内に答えられないと、その人がいる会社の「らしさ」や特徴が、社員に浸透していないな、と判断できます。そういう組織は強いとは言えない。

ラグビーでもそうなんです。たとえば、「早稲田らしさってなんですか?」とか「サントリーらしさってなんですか?」と聞かれた時に、監督と選手の言っていることが違うチームはなかなか勝てないですね。「らしさ」っていうのは、戦い方の指標であり、方法なんです。それをチームのメンバーが理解していなければ強いチームにはなりません。

共通のイメージをシェアすることがコミュニケーションである

私がサントリーにいたときは、早稲田大、明治大、青山学院大、日体大出身の選手たちでバックスを構成していました。ある練習試合で、ラグビーではよく使われる、ある基本的なサインプレーにおける選手の細かい動き方が、出身チームによって微妙に違っていることがわかりました。それが原因になって連携が少しずつズレてしまい、スムーズにボールがつながらない。

そこで話し合って、自分たちが使うサインプレーと選手の動きについて洗いざらいお互いに確認して、それぞれのプレーの目的、方法を共有する作業を行いました。その結果、前の年に負けていた神戸製鋼という強豪チームに勝つことができた。

その時私たちがやったのは、「わかったつもり」をやめて、話し合いによって共通したイメージを作りあげることでした。これがコミュニケーションなんです。

communication という英単語の接頭語は co で「共通のものにする」「シェアする」という意味ですが、単に言葉で意思の疎通ができているからといって、コミュニケーションがとれていると考えるのは危険です。

必要なのは、「なんのために」われわれはこういうプレーをするのか、こういう仕事をするのかというイメージをシェアすることなんです。それが無ければ、コミュニケーションが取れているとは言えません。

会話だけでなく、対話ができる関係性が必要

私たちが他人と話し合いをするなかで、自分が伝えたと思っていることが、実際には正しく伝わってなかったりするのはよくあることです。「わかったつもり」がいちばん怖い。それを防ぐためには、どう伝わっているか、ということを常に確認すべきなんです。

たとえば部下に話をしたとき、「わかりました!」という返事がいいからといって、「よし、伝わったな」と考えないほうがいいですね。特に体育会出身者は、返事だけはいいですから、注意したほうがいい(笑)。

部下に対して話をしたあとに、「いまの話わかった? わかったなら説明してくれる?」などと質問して、確認してください。確認を通じて共通のイメージを浸透させていくことが大切です。

強いチームには、「対話」があります。「対話」は、ただの「会話」とは違います。辞書によれば、両方とも「向かい合って話し合うこと」とありますが、英語で言えば「会話」は conversation 、「対話」は dialogue で、意味が違うんです。英語でいう「対話」は、「違うものをすり合わせて同じものにする」といった意味です。

私たちは会社やチームの中で、コミュニケーションを取ろうとして様々に話し合いますが、「会話」するだけだったらそれは仲間内の、仲のいい間柄での話でしかない。本当は、考え方の違う人たちと話しをして、意見をすり合わせて最終的に同じ方向を向くように努力をしなければならない。これが「対話」なんです。

夢は周りに話したほうがいい

また、「対話」をするときに重要なのが「夢」です。皆さんは、夢を持っていたとしても、それを人に言うと馬鹿にされるとか、親から否定されるだろうとか思ったことはありませんか。

「おまえにできるわけないじゃないか」「おまえにできるんなら世界中の誰にだってできる」なんて言われるんじゃないかと思ってしまうと、だんだん自分の夢を語らなくなりますよね。そうするとその夢は、ほかの誰も理解しない「儚く」て、実現しないものになってしまうでしょう。

もし夢があったら、たとえそれがいまの自分とかけ離れていたとしても、口に出して言わないと現実になりません。夢は抱え込まないで、周囲に話すものです。そうすれば「儚い」から「にんべん」が取れて、みんなの「夢」になります。

イチロー選手が子どもの頃に書いた作文の話は有名ですね。彼の夢が実現したのは、その夢を作文で語ったからではないでしょうか。親がそれを信じて練習を手伝ったりして、いつしかイチローの夢が鈴木家の夢になった。そしてそれが大きく広がって、いまや多くの日本人やメジャーリーグファンの夢になったんです。

言葉が少なくなったら危ない状態

皆さんが子どもの頃に描いた夢はどうなりましたか? まだその夢を持っていますか? それとも諦めましたか?

「諦める」という字の「帝」を調べると、「束ねる」という意味だということがわかります。つまり諦めるというのは、言葉を束ねてしまうことなんです。スポーツの試合などで勝っているときはどんどん声が出ますが、負けているときは言葉が減ってきます。敗色濃厚になってきて勝負を諦めると、誰も何もしゃべらなくなります。語り合うことをやめてしまうんですね。

皆さんの会社やチームは声が出ていますか。たとえば挨拶しても返ってこないようだと、そのチームは危ない状態です。もしそうだったら意図的に、大きな声で挨拶してください。それだけで、少し変わるはずですから。

チームは語り合わないとうまくいきません。そして語り合うなかで、ぜひ自分の夢も周囲に向かって話をしてみて下さい。それに共鳴して、手伝ってくれたり助けてくれる人が現れてきますから。そうすると、自分だけの夢だったものがみんなの夢になって、大きなエネルギーを生み出すでしょう。

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