【3行要約】・仕事の「打ち手」がズレてしまう人と、的確な提案ができる人。その違いは現状認識の「事実」と「解釈」の分け方にあります。
・『たたき台の教科書:頭の良さに頼らず一流の仕事をする技術』著者・萩原雅裕氏は、提案のズレを防ぐには「期待する成果」「現状把握」「打ち手」の構造を相手と揃えることが不可欠だと指摘します。
・上司と部下、関係部署との不毛なすれ違いをなくし、建設的な議論を進めるための具体的なフィードバックのコツが分かります。
前回の記事はこちら 実務で起こりがちなズレ
萩原雅裕氏:あらためて、私は仕事をこう捉えています。「期待する成果」を出すために、「現状」を踏まえて、「何をしたらいいかな?」という「打ち手の案」を複数出して、最適なものを1つ選ぶ。

パパッと全部頭の中でやっていることもあるかもしれません。大きい仕事だったら、ちゃんと関係者のみなさんといろいろ調整しながら、ということもあるかもしれません。大小さまざまあるんですけれども、仕事って多くの場面でこう進めているんじゃないかなと思います。
ですが、実務で起きていることはどんな感じかというと、「期待値が明確になっていない」ケースがすごくたくさんあるなと思っていますし、「現状認識がすごくズレている」ケースもあります。なんか提案を持ってこられたんだけど抜け漏れがあるなとか、説得力がないこともたくさんあるなと思っています。
AIの回答がイマイチな理由
これって考えてみると、AIの回答がイマイチなのと一緒だなと思っていて。チャットで何か聞くじゃないですか。「なんかピンと来ないな。しっくり来ないな。これはなんでかな?」と考えると、たいてい(期待する成果を指して)「何が欲しいのかとか、何をしたいのかを明確に伝えていましたっけ?」「あ、ごめんごめん。確かに言っていなかったね」(となります)。
または、こっち(現状認識)側ができていないか。「前提が違うな」「そんなの言われてもできないよな」みたいな制約がちゃんとAI側に伝わっていないか。それでピンと来ない、しっくり来ないような回答が出てくる。こんな構造かなと思います。
1on1で起こる上司と部下の「ズレ」
みなさんは1on1を上司の方、部下の方、メンバーの方とされているでしょうか? 例えば部下の方が1on1で上司の方に何か相談する時は、だいたい何をしたらいいかとか、打ち手の相談に来ているんですよね。
それに対して上司の方が「いや、それはこうなっていなきゃいけないよね」みたいな「期待する成果」の話をする。そして「でも今はこうだよね。できていないよね」みたいな(現状認識の)話をされても、(部下の方は)「で、どうすれば?というのが聞きたいんです」となる話になるケースがよくあるなと思います。

なんでこれが起きるかというと、上司の方は出てきた案が「ちょっと違うな」と思っているんです。「ちょっと違うな」と思っていて、何が違うかというと、たぶんゴール(期待する成果)がわかっていないか、あっちの「現状認識」がズレているか、どっちかなんじゃないかな。だからいいのが出てこないんじゃないかなと思って、「こうだよね、ああだよね」みたいにやっているんですけれども。
この構造が共有されていないと、(部下は)「上司はいったい何の話をしているんだろうな?」と、なかなかかみ合わなくなっちゃうケースもあります。
見せかけの打ち手
(さらに別の例として)見せかけの打ち手みたいなのもあります。これは私のご支援している会社で、すごくやる気のある方がいらっしゃるんですよ。
やる気のある方が一生懸命資料を作ってこられるんですけど……その前にちょっとわかりやすい例でいこう。

例えば、「現状、太っちゃいました。半年で6キロ痩せようと思います。ということは、月に1キロ痩せます」みたいなことを言うんですが、この「月に1キロ痩せる」は果たして打ち手でしょうか?
これはどう考えても打ち手じゃないんですよ。これはただ単に期待する成果を分解しただけですね。「月に1キロ痩せる」は、なんかPDCAの計画っぽいじゃないですか。達成のための計画っぽいんですけど、ぜんぜん計画になっていないですよね。
打ち手というのは、月に1キロ痩せるために何をするのかという話で、「米を減らします」とか、「痩せないのは知っていますけど走ります」とか(笑)。「おかずを1品減らします」とか、そういう話が打ち手ですよね。「月に1キロ痩せる」は、なんか計画っぽいけど、別にこれは達成のための計画になっていないですよね。
なので、目標だけ設定してさっきみたいな見せかけの打ち手で、「よし、『Do』だ!」と走り出します。とやると、「Check」の時に、「え? 待って待って。1キロ痩せるのは、走るという話だったの?」と初めてこの時に気づきます。「いやいや、走ってもさすがに月1キロは痩せないよ。だって、ご飯いっぱい食べているじゃん」という話です(笑)。
「月1キロ痩せるんだったらご飯を減らしたほうがいいよ」とここで気づくのは、たぶんPDCAが回っていないんですね。これはそもそも達成のための計画が合意できていなかったという話だし、そもそも計画ができていなかったという話だということで、1冊目の本の中でこの話をしています。
この分解をちゃんとして、それぞれ「定まっているんだっけ?」と確認するのが大事です。
熱意だけの提案にフィードバックするコツ
やる気のある人の話に戻ります。「今のやり方はダメだと思います。だからこうあるべきだと思うんです」という提案を持ってくるすごく熱意のある方はたくさんいらっしゃるんですね。「こうだと思います」「こうなっているといいと思います」「こうだと思います」と。
ここで「わかった。わかったけど、君は何をするのかな?」みたいな(フィードバックを)返してあげないと、ご本人はめちゃくちゃ打ち手を提案しているつもりになっているんですね。作る方は注意してください。

逆に「うーん、なんか上がってくるのが思っていたのとちゃうな」とか「結局わからないな」という時、これをめちゃくちゃ気をつけてフィードバックしてあげてください。
そうすると、「理想は具体的にわかってきました」と。「ほんで、何をしたらいいと思っている? まずファーストステップをどうする?」みたいな話とか。逆に、「その当事者じゃない他の部門の人に何かをしてもらわなきゃいけないと思っているの?」とか。
(打ち手を)具体化してあげないと、(若手からすると)すごく提案をしているのにわかってもらえないという、すれ違いが起きるんですよね。「いや、それはわからん」と。聞いていたほうは「だって何をするか言ってないじゃん」みたいなこととか。
仕事は構造に合わせて進める
逆のパターンもあるんですよね。「こうしたらいいと思うんですよね」と、(打ち手が)いきなり出てくる。「お? まず、それはどこから出てきたんだ?」「何を見て、どこが課題だと思ったからそう思ったの? その前に、そもそも同じゴールに向かっているのかな?」みたいなのがわからない。
これは別に上司とは限らないですね。お仕事をする相手でも、関係部署でも、お客さまでも、取引先でも一緒です。いきなり(打ち手の)お話をすると、相手はちょっと戸惑っちゃう。こんなことがたくさん起きているので、いったん順番どおりやりましょう。

箱は3個しかないんですよ。まずは「期待する成果」を明確にしましょう。次に左側の「現状」を把握しましょう。その上で「打ち手」を考えましょう。これ、式なので右と左は定数、真ん中だけ変数。1次方程式なので変数は1個しかあっちゃダメなんですよね。
「右も左も真ん中も変数です」になっちゃったら、ぐりんぐりん動きまくって何も解けなくなっちゃうので。仕事の定義は、打ち手を考えて、それを実行する。それを選ぶ、決めることだとするならば、真ん中を議論するためには右と左を定数にして固めてください。
「期待する成果」を具体化するには
これが、ほぼほぼこの本(
『たたき台の教科書:頭の良さに頼らず一流の仕事をする技術』)でお伝えしたかったところなんですけれども。「じゃあ、これを具体的にどうやるの?」というのも、もちろんご紹介をしています。ちょっとだけ今日話しますと、「期待する成果」は、目標とかゴールとか、いろんな表現があると思います。けっこう多くのケースでこれが「状態」で示されがちなんですね。

営業系の方だと一番わかりやすい状態は「売上何億円」とか、そういうやつです。もしくは「シェアをどのぐらい上げるか」とか。違う例だと顧客満足度アップとか、組織の風通しが良くなっているみたいなのでもいいです。6キロ痩せている、でもいいです。これは全部「状態」なんですね。
これだと、まぁ、わからなくはないですよ、ぜんぜん理解しているんです。みんな理解しているんですけど、「結局それは何なんだ?」というところの具体化をしていった瞬間に、いろんな方の認識がバラバラになりやすいんですね。
ここでコツとしては、登場人物を思い浮かべていただきたい。「登場人物が何をしたらこれって成功なんだっけ?」とか、「うまくいっている状態なんだっけ?」とか、「成果が出たって言えるんだっけ?」とか。
「私が〇〇している」の場合もあるかもしれないですし、「お客さまが〇〇している」「関係部署の何とかさんが何々している」かもしれないですし、「たくさんのお客さまが〇〇している」みたいな表現になるかもしれません。
ここを具体化していけばしていくほど、「そこを目指しているのね」という(共通の)認識ができます。
「売上10億円」を分解して考えると
ビジネスチックな話になっちゃって恐縮ですけど、「売上10億円」というのは、1人のお客さんが10億円発注してくれるという絵を描いているのか、10人のお客さまが1億円ずつ発注してくれるのか、100円のものが1,000万個売れますという話をしているのかって、同じ売上10億円と言っていてもぜんぜん違うじゃないですか。
それによって打ち手がぜんぜん変わってくるんですよね。
で、登場人物を出してくると絶対複数人出てくると思います。さっきの例でいえば、1人のお客さまが10億円発注してくれるということは、そのためにうちの部署の何とかさんが何かを仕掛けていて、あっちの部署の人がこんな協力をしてくれていて、取引先がこんなふうに絡んでくれて……というのがきっとあると思うんです。
100円のものが1,000万個売れるならば、流通業者はこんなふうに協力していただいてとか、物流倉庫でこんなふうになっていてとか、店頭でこんなふうになって、お客さまの目に触れる機会が何回あってとか。
いろんな条件がそろわないと達成できないと思うので、事前にいっぱい、いろんなことを分解していく。そうすると「あ、そういうことだったの」みたいに認識のズレが直ることが多いので、これは1つの“手口”としておすすめです。
現状は「事実」と「解釈」に分ける
「期待する成果はそういうことね」となった時に、意外とズレやすいのは左側の「現状把握」の部分です。現状は「事実」と「解釈」の2個に分解してください。
先ほどの「空・雨・傘」の「空・雨」の部分ですね。事実と解釈。事実は、誰が見ても変わらないこと。解釈は、そこから導かれる「なんか雨が降りそうだな」というやつですね。意味とか背景があって、「だからこう考えています」という話です。
というのは、同じ事実を見ていても解釈はすごく人それぞれなんですよ。これまたすごくつまらないビジネスっぽい例ですみませんね。もうちょっと身近な例のほうがよかったかもしれないですけど(笑)、「今期は利益が減っている」という事実があったとします。
利益が減っているのは事実です。これに対して、ある人は「いや、まずいんじゃない? 良くないんじゃない?」と解釈しましたが、別の人は「いやいや、予定どおりだよ」と解釈するかもしれない。「なんでかというと、こうなんだよ、ああなんだよ、こんなことがあって……」、この解釈の違いがあると、ぜんぜん違う打ち手を考えそうじゃないですか。
解釈がズレるのは、立場や役割が違うから
別の例で、これは実際に私が前職で本当に経験したことなんですけど、競合が似たような製品を提供し始めた。
「まずい。すぐに対策が必要だ」と解釈する人もいます。「めっちゃ朗報」と解釈する人もいます。「いや、これはなんならもう競合さんにマーケットを盛り上げてもらおうぜ」「あっちのほうがお金がある」みたいな話です。そんな方向の解釈もできるんです。
この解釈がズレるのは、立場とか役割が違うからです。例えば、担当している役割や部門が違うとズレたりしますし、過去の経験や知見からズレるかもしれません。経験値が浅い人と深い人では、「あ、これは前もあったパターンだから問題ない」という判断ができるかもしれませんし、持っている情報の違いかもしれません。
冒頭でお話ししたような上司・ベテランの方と若手の方の解釈が変わってきたり、社内調整でやたらとトラブるのは、このへんの話が多いかなと思います。
逆に言うと、ここを整えてあげるだけで、話がもうちょっとかみ合いやすくなるので、現状把握するための、ズレをなくすためのTipsを、私はこの本の中で細かくご紹介しています。
ザザッとだけお伝えすると、「フレームワークで抜け漏れを防ぐ」とか「事実質問をする」とか。特に若手の方にお勧めしているのは、さっきのような「持っている情報の違い」がけっこう顕著に出やすい。なので「実は私が知らないような状況とか前提って、何かないですかね?」と最後に聞くだけで、上司の人は「全部伝えたかな?」「もしかしたらここらへんも伝えておいたほうがいいかな?」というかたちで(考えてくれる)。本人が悪気なく伝えていないことってたくさんあるので、そういうのを引き出しやすくなると、ご紹介しています。
フレームワークはいろいろあるんですけど……これを話し出すとですね、5時間半ぐらいかかっちゃうので、ちょっと今日は割愛します(笑)。本の中でご紹介をしているので、ぜひ後ほどご覧になっていただければと思います。
要は抜け漏れを防いだり、ズレをなくすために何か共通の枠組みを持っておくと、「ここってこうですよね」とか、「ここ穴が空いているんですけど、考える必要はないですか?」みたいに、確認しやすくなるという話をしております。