【3行要約】・「努力すれば報われる」という精神論が、実は組織の支援不足を隠し、現場を疲弊させる「ガンバリズムの罠」を生んでいます。
・1万人調査を基にTORiXの高橋浩一氏は、目標未達チームの多くが「勝ちパターン」や「KPI」といった共通言語を欠いていると指摘します。
・顧客の「検討します」という仮面の裏にある本音を読み解き、科学的な「クイックレスポンス」で競合と差別化する具体的な営業戦略をお伝えします。
前回の記事はこちら 「購買者の仮面」を外すことが営業のポイント
高橋浩一氏:そして4つ目、「とにかく安く」の仮面というのは、見積もり提案を出しても「とりあえずもっと安くなりませんか?」と言われる。ありますよね。がんばってギリギリの値下げをするだけだと消耗戦です。
お客さまの判断基準の問題なんですね。ですから値段を下げるというソリューションではなく、価格以外の判断基準を作ることが重要です。これが「とにかく安く」の仮面ということになります。
そして5つ目、「検討します」の仮面というのは先ほど申し上げましたように、「とりあえず社内で検討してみます」。別に検討するから言っているわけじゃなくて、とりあえず言っているだけです。一時しのぎの現実逃避をしたいというのがお客さまの本音です。
ということで、助け舟としての小さな一歩をちゃんと提示する必要があります。例えば潜在的不満があるけど言えないんだったら、その潜在的不満が言いやすいような促しをしてあげるということですよね。
だいたい成果が出ないローパフォーマーの方は、「ありがちなこと」という縦の1列に書いておりますけれども、仮面をつけたお客さまのセリフを真に受けて、本当にそのまま行動してしまいやすい。
ですが実際その仮面の裏側には本音がありますから、ちゃんとそれを汲み取った行動をするのがハイパーフォーマーの行動です。私はこのあたりを
『営業の科学』という本の中で一通り体系的に書きました。ただ432ページという非常に分厚い本なんですが(笑)。
営業における急所というのは「購買者の仮面の裏にある素顔である」と。本音ですよね。この急所を外した努力、要するに仮面をつけたお客さまの表明的なセリフに対してがんばっても、報われにくいわけです。
目標未達のチームは「勝ちパターン」がない
ですから急所をとらえて仮面を外してもらうための武器を身につけると、努力の効率が大きく上がりますよってことを本の中で書いております。ただ今日はこの中から大事なエッセンスのところと、プラス本には入れていないような、ちょっと生々しい話をみなさんにしていきたいと思います。
営業組織作りについて考えていきたいんですけれども、目標達成が当たり前のチームと目標がいつも達成できないチームの違い、どんなものが思い浮かびますか? さっき「支援しない」ということを言いましたけれども、ほかにも明確な特徴があるんですね。
それは何かと言うと「共通言語の有無」という話なんです。例えば「あなたの所属するチームでは、営業で成果を上げる勝ちパターンとして、どのようなものがありますか」という問いを投げかけた時。

またブルーはハイパフォーマンスチーム、ピンクがローパフォーマンスチームというふうに分けておりますけれども、真ん中を抜いていますね。一番上のチームと一番下のチームを比べると、明確な違いが出るのは勝ちパターンの有無です。
目標未達チームは4割近くが「うちのチームには勝ちパターンはありませんよ」と回答しています。ハイ達成チームに比べると4倍以上回答が多いんですよね。ゾっとしますよね。「うちのチームは勝ちパターン、特にないです」みたいな方が半分近くいるわけです。
さらに「あなたの所属するチームにおいて、頻繁に話題に出てくるKPIや重要アクションは何ですか」ということを聞いた時も、目標未達チームは36.2パーセントということで4割には届きませんが、でも3分の1は超えていますね。「うちのチーム、別に頻繁に話題に出てくるKPIとか重要アクションって特にないですよ」って答えているわけです。

マネージャーの方々、どう思われますか? 「いやいや、そんなこと言っても『あれやりなさい』とか『これが大事だ』ってしょっちゅう言ってるはずなのに」。でもこれが目標未達チームの現状なわけですね。
ハイパフォーマーに共通する「クイックレスポンス」
ということで今日お伝えしたいことは何かというと、共通言語ってものすごく大事なんだということです。ただその共通言語の重要性を声高に叫ぶだけでは変わりませんので、具体的な共通言語のヒントを、この講演の中でいくつか提示をさせていただきたいと思います。
まず1つ目についてですけれども、レスポンスなんですね。こちらは営業の方々5,003人に、営業スキルについて聞いたんです。「直近6ヶ月の間、お客さまとの関係を深めたり、キーパーソンとのアポイントや当社への依頼を獲得できた成功体験として、どのようなものがありますか」と聞いています。

そこでまたブルーが目標ハイ達成者ということでハイパフォーマー、ピンクが目標未達者のローパフォーマーということで比べているんですけども、抜粋してお見せすると、ハイパフォーマーは「問い合わせや宿題への早いレスポンス」が非常に多く、回答としては1位項目だったんですね。
明確にローパフォーマーとは差がありますよね。10ポイント近く差があります。で、ローパフォーマーの方々は「成功体験は特にないですよ」っていう回答が多いです。クイックレスポンスというのは、営業の側からすると非常にインパクトが大きいということです。
対面商談に匹敵するぐらいお客さまとの関係構築に影響
またお客さまの側から見てどうかということも、データを見ていきたいと思うんですけれども、今度は1万人のお客さまに対して「営業担当者との関係構築において、下記の要素はどの程度影響しますか」ということを聞いているんですが。

ここにおいても1位は「対面商談で話した回数」。調査の時期が2022年なので、だいぶコロナとは言えども、お客さまと対面で会えるようになってきてから採ったデータなんですけどね。対面商談で話した回数はインパクトが大きい。営業との関係構築においては大いに影響がありますよ、という回答が一番多いです。
さて、2番目に多かったのがレスポンスです。レスポンスって、対面商談に匹敵するぐらいお客さまとの関係構築に大きく影響するんだということですね。そういうことを聞いても「レスポンスなんかふだんから言ってるよ」、こういう方がいらっしゃると思うんです。
じゃあ具体的に、どのくらいの時間だったら早いレスポンスと言えるのかを見ていきたいと思います。お客さま10,303人に聞きました。「あなたが営業担当者に『不明点の問い合わせ』や『対応のリクエスト』をした時、レスポンスの早さはどのくらいが望ましいですか」ということですね。
具体的に「1時間未満」とか「1時間以上4時間未満」とか「4時間以上1日未満」とかに区切って選択肢を作りました。私がちょっと聞き方で工夫をしたのが、これはグラフが上下2段になっているんですけれども、「まず最初に返事が返ってくるまでの時間」についての感覚を聞いたのと、下側のグラフで「お客さまの疑問や課題が解決完了するまでの時間」ということで聞いたのと、2つあるんです。
7割の顧客は「1日未満」で返事がほしいと思っている
たぶん多くの方は「クイックレスポンスを意識していますよ、だいたい1日以内に返事を返していますよ」と、こういう方が多いと思うんです。
これがお客さまに聞いた時に、まず最初の返事が返ってくるまでの時間ということで「1時間未満」「1時間以上4時間未満」「4時間以上1日未満」「1日未満」までの回答を足し合わせると、だいたい70パーセントぐらいのラインです。

ですから7割のお客さまは、1日未満で返事が欲しいと思っている。逆に1日を超えるとちょっと遅いと思われるリスクがあるわけですね。これはたぶんみなさんの感覚ともけっこう近いんじゃないでしょうか。
ただ私がすごく印象的だったのが、「1時間未満」と答えたお客さまは21.2パーセントということで、けっこう多いなって思いましたね(笑)。「1時間以上4時間未満」も24.2パーセントということで、これだけで半分弱に到達するわけですよ。お客さまってかなりせっかちなんだな、というのが私の実感です。
みなさんに注目いただきたいのは下のグラフなんですけれども、「こちらの疑問や課題が解決完了するまでの時間」が、だいたい70パーセントのラインが「2日未満」なんですよ。ということはお客さまの疑問とか課題があった時に、2日を超えた解決は遅いと感じられる可能性が高いということですよね。
ということで、最初の返答は1日。これはたぶんけっこう意識されている方が多いと思うんです。ただ解決するまで2日というのは相当ハードルが高いので、これこそ組織で共通言語として掲げるに値するものじゃないでしょうか、ということです。
レスポンスが速いだけでは顧客は満足しない
クイックレスポンスは「返信1日」「解決2日」。特にこの「解決2日」が難しい。だからこそ、ここに取り組むことによって、競合に対する大きな差別化にもなり得ます。
さて、クイックレスポンスの話を1つ目でしてまいりましたけれども、中にはこういう方もいらっしゃるかもしれません。「お客さまからの要望を満たしたいんですが、全部満たせない時はどうしたらよいのでしょうか」ということです。
目標がなかなか達成できない営業の方は、要望に対してそのままリアクションする傾向があります。それは例えば、お客さまが「この6ヶ月プランを7ヶ月にしていただくことは可能でしょうか」と、こういうセリフがあった時に、ついつい真正面から早く答えてしまう。
「すいません、難しいんです。当社では6ヶ月というプランになっておりまして」……これって例えば、仮にレスポンスとして早かったとします。スピードは早かったとしても、どうでしょうか。お客さまの満足度は上がるでしょうか、という話ですよね。
これってすごく落とし穴になりがちなところで、この営業の方って誠実に、真面目にリアクションするわけなんですよ。何も間違ったことを言っていない。でもお客さまの目的が達成されないわけですよ。
成果が上がらない営業は「真面目さを武器にする」
営業1万人調査をやって私がとっても興味深いなと思ったのは、成果が上がらない営業の方の傾向として、とにかく「真面目さを武器にする」というのがはっきりとした特徴として出ていたということなんですね。
真面目さって営業としては美徳なんですけれども、もう少し言葉を足すと、ハイパフォーマーも別に真面目さを武器にする傾向は強いんですが、ローパフォーマーは「真面目さ以外の武器が少ない」という特徴がはっきり出ているんですね。
ですから真面目さは大事なんですけれども、やはり真面目さ以外の武器がないと厳しいんじゃないか。じゃあハイパーフォーマーはどうやっているのかというと、こんな感じの答えをしています。
「この6ヶ月プランを7ヶ月にしていただくことは可能でしょうか」「なるほど、おっしゃる背景をもう少しうかがってもよろしいでしょうか?」。これを見ていただくと、ちゃんと答える意図はあるんだけれども、なんでそういうことをおっしゃっているのかをちゃんと聞かせてくださいよ、ということです。

そうしたら「実はうちのトップがこういうことを言っているんです」「であれば、代替案としてこれはどうですか」ということを出しているわけです。こうすることによってお客さまの目的を達成することができますよね。
ハイパフォーマーは、お客さまの裏にある意図を把握しようということが、ローパフォーマーよりもなされている傾向がありました。これが営業1万人調査で出てきたところです。