「検討します」の仮面
私はこういったところに対して支援をしていく時に、まずこういった現象に少しキーワードをつけてあげたほうが考えやすいんじゃないかということで、「『検討します』の仮面」という名前をつけました。

なぜ「仮面」という言葉を使ったか。「検討します」の仮面というのは、「社内で検討します」とお客さまがおっしゃっているんですけども、本当に検討するためにそう言っているわけじゃない。
「こちらの状況を詳細に伝えるのは面倒くさいから、いったんそう言っておこう」というふうに、何かしらお客さまの意図があって、本音じゃないわけですよね。言わば建前として、そう言っておいたほうが面倒くさくないからだ、ということで行動しているわけです。
もう少し掘り下げると、心理学の世界で「認知的不協和」という考え方があります。ざっくり言うとモヤモヤがあるのが認知的不協和なんですけど、認知的不協和の解消の仕方というのは、自分の不快感とかモヤモヤをすっきりさせるために、ある心の動きをするということなんです。
ちょっと具体的な例を挙げましょうか。ダイエットで言うと「体に悪いから食べるのを我慢しようかな」と思っていても、目の前においしそうな食べ物があったら、だいたいみんな誘惑に負けて食べてしまう。
けれどもモヤモヤしますよね。ダイエットしているはずなのに食べちゃった。それを「ダイエットは明日から」というふうに言えば、自分を落ち着かせることができます。
営業を受けるお客さまにしても、プレゼンを聞きました、提案を受けました。返事をしなくちゃいけないとは思っているんだけれども、でもすぐに返事はできない。何か判断するのが面倒くさい、社内の確認をするのが面倒くさい。営業にまたいろいろ、そういう状況を伝えるのが面倒くさい。
そうなったら取り急ぎ営業には「検討しますのでお待ちください」と言って時間を稼いで、営業を遮断しておいて「何かあったらこっちから連絡すればいいか」と、これが一番楽な状態なんですよね。
「とりあえず楽で安全な選択肢」を取りたがる
ですからこれは人の心理学を見ていくと、もうこういうふうに行動するものだという構造があるわけなんです。お客さまの心理の構造を理解しておくのはすごく大事で、「検討しますのでお待ちください」以外にも、やはりこういう「とりあえず楽で安全な選択肢」を取りたがるお客さまの心の動きがあります。
例えば予算とか検討状況を営業が聞くことってあるじゃないですか。で、はぐらかされることもたくさんありますよね。さて、その時になんでお客さまがはぐらかしたのかということも聞いてみたんですけれども。
上位にある理由は本当に大したことがないんですよ。別に絶対言えないってわけじゃなくて、「なんとなく心配しているから」「なんとなく警戒しているから」。3番目の答えなんかもう笑えますよね。「あたりさわりのない答えを即座に返したところ、それ以上突っ込んでこなかった」と。

ですから、お客さまがはぐらかすのに深い理由はありません、ということなんですね。実際、本当にわからないから話さなかったというケースは6.4パーセントですから、15人に1人です。裏を返すと15人のうち14人は本当は答えられるんだけれども、はぐらかしているということです。
ということで、この「はぐらかす」という現象もある種、仮面じゃないかと。さて、そう考えていったら仮面がいくつかありそうな気がしてきます。ということで、5つの「購買者の仮面」をここで定義したいと思います。
お客さまが「はぐらかす」のに深い理由はない
例えば「予算はまだ決まってないんです」というふうにお客さまがおっしゃってくる。こういうはぐらかしもありますが、ありがちなこととしては「これって聞いちゃいけないんじゃないか」と思って質問を控える方がいるんですけれども、当然ながらお客さまに対する理解が浅いままに提案をしたらズレますよね。
ただ、この仮面の裏にある本音というのは「もし教えることで不利益があったら嫌だな」という単純な損得、メリット・デメリットの問題なんですよね。ですから「教えたほうが得ですよ」ということを示して質問すれば、フィットした提案になりやすい。こういう一連のことを「はぐらかし」の仮面というふうに定義しました。
あるいは新規営業でこういうのもありますよね。テレアポをする、あるいはインサイドセールスの方が架電をする。お客さまが電話口で「アポイントをいただけませんか」って言われたとしても「すいません、とりあえず今は忙しいので資料だけ送ってください」というのがあります。
当然ながらただ単純に資料を送るだけでは前に進めません。お客さまが本当に気にしているのは「レベルの低い営業に時間を使いたくない」という提供価値の問題なんです。いわばこれはテストみたいなものです。ですから単純に資料を送るだけではクリアできないわけです。
見積もりを送るだけではなくラリーに持ち込むことが大事
そうでなくて、その資料を送る所作の中に「私に対して時間を使う価値がありますよ」という根拠を混ぜる必要があります。というのは、お客さまが「忙しい」と言うのは、単純に時間的な忙しさの話をしているかのように思える。
例えば「いつだったら大丈夫になりますか?」みたいなことを聞いても「そうですね……とりあえず1ヶ月後ぐらい」。でも1ヶ月後に電話しても、また同じやり取りが繰り返されるわけですよ。ですから時間の問題じゃないんです。価値の問題ということなんですね。
3つ目、「いきなり」の仮面。仮にアポイントをいただけました、連絡ができました、つながりができました。でもなんとなくすぐには案件化しない。こういうお客さまは多々いますよね。なんですけど、思い出したようにいきなり連絡が来ることがあります。その時に「すぐに見積もりください」。
「ちょっと待って、もうちょっとちゃんとじっくりヒアリングさせてください」とか「ディスカッションさせてくださいよ」って言いたいんですけれども、この時に焦ってすぐ見積もりを送るだけだと、当て馬で失注してしまいます。
お客さまの心理は「話が早い営業と話を進めたい」というのがありますので、だいたいこういう時ってつながっている既存の営業、競合がいるわけなんですよね。ということは競合をいきなり提案内容で上回るのは難しいので、まずテンポ感とかスピード感で「私はラリーができる相手なんです」ということを示す必要があります。
だから見積もりを送るだけでは良くなくて、ラリーに持ち込むことが大事なんですね。往復運動をお客さまとの間で作るということが重要です。