【3行要約】・多くの企業がナーチャリングを実践していますが、実際は顧客に嫌われる結果を招いているケースが多発しています。
・営業コンサルタントの向井俊介氏は、ナーチャリングの目的を「プロダクトへの興味」ではなく「ネガティブからゼロ(嫌いではない状態)」に戻すことに置き換えるべきだと指摘します。
・向井氏は、AI時代こそ大切な人に手料理を振る舞うように相手を想い、個別の背景を汲み取った「思い」のあるコミュニケーションが差別化のカギとなると提言します。
前回の記事はこちら ナーチャリングは興味のない状態から始まる
向井俊介氏:最後の5分ほどですね。トップの人たちは、プロセスの進め方も違います。このプロセスについてもいろいろあります。ただ時間の都合上、1つだけお持ちしました。それは「ナーチャリング」です。
「ナーチャリング? うちもやってるよ」という方もたくさんいらっしゃると思います。ナーチャリングは育成と表現されますが、残念ながら育成になっておらず、むしろ嫌われているナーチャリングばかりをやっている企業があまりにも多いようにも見えます。どういうことかをお話しします。
これに思い当たる企業は、ぜひ改めていただくとより良くなるので、私は個人的にここが日本企業の一番のレバレッジポイントだと思っています。
まず、リードを取りますよね。で、リードの状態はお客さまがどういう状態かというと、興味がない状態です。なぜか? 興味があったら問い合わせをするからです。なので、問い合わせをせずにリードの状態でいるということは、みなさんの売り物には興味がないんです。まずここが、大事な出発点です。
営業サイドが勝手に商談と思っているだけの時間
名刺を交換してくれた、もしくはウェビナーに参加してくれた、展示会でブースに寄ってくれたんだから多少は興味があるだろうと思うのはわかるんですが、そこは客観的に見ましょう。その後、問い合わせにつながっていないんだったら、興味がないんです。
この興味のない相手に対してメルマガを送るんです。興味がないんです。なぜなら、興味があるのだろうと思っているから、プロダクトとか製品の案内とかアップデート情報とかをご案内しちゃうんです。興味がないんです。
その後、なぜかアポイントを取りにいくんです。不快なんですね。「なんで時間を取らなきゃいけないの? けっこうです」。結果的に、業界として数パーセントぐらいのアポ率になっていますね。
でも、情報交換、ディスカッション、事例紹介というかたちでアポイントを取りにいくので、営業が乗り込んでいくわけです。「初回商談だ」と言って、ご丁寧に提案書まで用意して行くんですね。お客さまは不快ですよね。「情報交換ですよね?」という。なぜかわからないけどデモンストレーションを見せられて、なぜかわからないけど金額まで提示されて、「いかがでしょうか?」と言われる。なので買わないんですよ。
ネガティブな状態をゼロに戻すのがナーチャリング
こういうプロセスの営業組織がすごく多い。特に何が問題かというと、お客さんの状態を見てほしいんです。ずーっとネガティブなんですよ。なので、このネガティブな状態をできる限り川上の段階でポジティブに変化させたい。これがナーチャリングです。
なので、多くの企業に定義を聞くと、「自社のプロダクト、サービス、製品に興味を持っていただきたい」というのをナーチャリングの目的に据えていらっしゃるんですが、ハードルが高過ぎると思いませんか? だって、相手は興味がないんですよ。
なので、プロダクトとかサービスに興味を持ってもらうのは後でよいという考え方が、私が研究でトップの人たちにデプスインタビューをして知識として整理をした中での1つの非常に有益な結果でした。
いかに「もう1回会ってもいいかな」と思えるか
具体的に何をするか? リードを獲得する。興味がないところからスタートです。その方に対してナーチャリングもやっていくんですが、目的はお客さまに、「うん、嫌いではないよね。メールをオプトアウトするほどでもない。なんならもう1回会ってもいいかな」と思ってもらえるような、ネガティブな状態をゼロに戻すのをナーチャリングの目的に据えていただく。
こちらとしても商売でやるわけなので、その上で見極めていくんですね。ボランティアじゃないですから。なので、「この方は本当に商売になるんだろうか? 今、この方が抱えていらっしゃる業務範囲や問題は、こちらで何かしらの貢献ができるんだろうか?」といったことを見極めていくわけです。
その上でコミュニケーションを継続していく中で、「あっ、この人たちとはちょっと実際に会ってもいいかな」と思っていただくようなコミュニケーションをしていくと、結果的に面談が取れるんです。商売の話の商談ではなく、ただのアポイントです。面談です。
お客さまがリードの状態なら売り物に興味がない
そこで人が分かれようと同じ人であろうと、「あっ、この人、大丈夫そうじゃん。知識もあるし、業界のこともすごくわかっていらっしゃる。確かにこの方と会話していく中で、この課題を潰していくといいかもしれないな」と思うと、商売の話に進みますよね。そして提案して受注するという、以降の流れです。
とにかくお客さまがリードの状態なら売り物に興味がない、というのがまず大前提に立たなきゃいけないことです。こちらが心得ておかなきゃいけないのは、向こうは営業と会うことに対してネガティブな感情を持っているということ。なので、まずは「嫌いじゃないよね」という状態にしていく。「話をしてもいいよね」という状態にしていくことが、とても重要ではないかという考え方です。

じゃあ、メルマガという手段が本当に適切なのでしょうか? 百歩譲ってメルマガでいいとしても、自社製品、サービスのご案内とかアップデート情報。自社サービスをどういうふうに使ったらどんなにうれしかったか、そういった成功事例のコンテンツ。本当にそれで「嫌いじゃないな」と思ってくれるんでしょうか?
大切な人に手料理をふるまうとしたらと考える
最後に1つ、このナーチャリングのコンテンツを作るというところに対して、ぜひみなさんがネクストステップが踏めるようなお話をして閉じたいと思います。
考えてみてください。みなさんがもし大切な人に料理を振る舞うとしたら。ふだんから料理をする方はすごくイメージがつくと思いますが、そうではない方はちょっと想像しながら考えてください。
まず、何をするかです。すごく大好きな人、大事な人にですよ。ご家族なのか、ご友人なのか、パートナーなのか。まず、「何が好きなんだろう?」と想像しますよね。もしくは「最近、何が好きなの?」とかちょっと聞きますよね。相手の好きなものを想像します。相手の好きなものを作ってあげたいですよね。
で、「こういうものが好きなんだろうな」と思ったら、相手が好きな食材を集めたり、買いに行ったりします。そして、調理方法ですよね。「どうやったら喜んで食べてもらえるんだろうか?」ということを考えると、薄い味が好きなのか、濃い味が好きなのか、脂が多めなのか少なめなのか。この調理の味付けも相手に合わせていきます。
失点をしない準備を重ね、相手に興味を持つ
そして、相手が心地よく感じるように提供しますよね。相手の帰ってくる時間とか提供する時間をまったく考えずに作って、冷めた状態でなんか出さないですよね。相手の時間に合わせて、相手の状態に合わせて、なんなら一声でもかけながら、そしておいしいお酒なのかドリンクなのかと合わせて提供していく。こういうちょっとエモーショナルなところまで訴求していきたい。

この流れと、実はナーチャリングのコンテンツの作り方、もしくはコミュニケーションは、同じだと思ってください。どういうことかというと、まとめの前の1個、最後のページですね。
「話してもいいな」と思ってもらえるようにするために、最低限のビジネスマナーは必要ですよ。言葉遣いだったり、見た目だったり、振る舞い、所作、そして事前のメール等での連絡の文面、やり取り、言ったことをやる、約束を守る。このあたりは最低限のビジネスマナー。失点しないという状態を作った上で、先ほどの料理と一緒です。
まず相手に、人として興味を持ちましょう。「何が好きなんだろう? どんなことに興味があるんだろう? 相手にとって喜ばしいことって何なんだろう? 何を差し上げると喜んでくれるんだろう? 『へぇ』って読んでくれるんだろう? 『おぉ』って思ってくれるんだろう?」。そういった情報を整理する。
AI時代に営業が大切にすべきこと
そして、ただその情報をお渡しするだけだったら、生成AI時代の今、大して差別化ができないんです。それを相手に合わせてアレンジしましょう。
「何々さんのご業務の状況や業界の競争環境、お役割を加味した時に、この情報のこの部分がこのように重要だと思います」といったことを、ちゃんと意見として伝えていく。
大切な人に料理を振る舞うのと同じプロセスなんですが、(スライドを示して)実はこの2と3の部分は今、生成AIで作れてしまいます。そして大事なのは1と4なんです。みなさんが人間として営業活動をやっていく上で、今は2と3は効率化できます。
とてもいい時代なんですけれども、3の状態で出してしまうとなんの味もしない、もしくは冷えた料理になります。それは相手のためを思って、相手にどのような状態になってほしいのか、それを自分の意見として感情を動かしていくようなコミュニケーションにするためには、こちらがちゃんと読み込んで意見にして、思いを伝えるところまで昇華させないと、なかなか届かない。
そうなると、「1対nのメルマガが、必ずしも良いツール、手段ではないよな」と思っていただけるかと思います。
相手を人として捉え、思いを込めたコミュニケーションを
なので、特に今日の話は数の少ない従業員数が、多めの企業に対するB2Bの営業活動においては特に意識していただきたいですし、スモールの、何十万社も国内にターゲットがいるんだけど、といった場合であっても、一人ひとりの営業パーソンの相対しなければいけない数は知れていると思います。
優先順位を付けたり、「今日はこの人たちに連絡をしよう」と決めたりすればいいだけなので、その方々に対してちょっと時間を割くだけでいいんです。ちゃんと思いを持って、「売り込まない」。人として捉えていく。そして「話してもいいかな?」と思われる状態を目指したコミュニケーションをしていく。
この研究を通じて、そして私自身が恥ずかしくない結果をビジネスパーソン時代に出してきた中で、すごく大事にしている部分の、今日は3点をご紹介させていただきました。
ぜひこのあたりは、数字を本当に達成していく、継続的に利益を出し続けていくという非常に重要な役割を担う営業パーソン、営業組織において、すごく重要な土台だと捉えていただけると幸いです。以上になります。ご清聴ありがとうございました。