「型」があるから属人化しない、フィードバックすること自体が仕組み
澤田:へぇ。ありがとうございます。たぶんみなさんもちょっと思ったと思うんですけど、正直、右の準備みたいなのとか、今お話しされた「データが追える状態」になっていることだけでも、すごいと思うんですけど。
これって結局、「追わなきゃいけない」となった時に、体系化・仕組み化でいうと、データをたくさん追える人は売上が上がっていく、みたいに属人性がめっちゃあるなと思っていて。
キーエンスの中でも売上が上がらない方っているとは思うんですけど、でも、キーエンスが営業で困っている感覚って、ほとんどないじゃないですか。属人化している感覚もあまりない。
なので、すごく思ったのは、(スライドの)右側に書いてある守・破・離の営業の型とか、徹底した外報とか、準備みたいなところって、営業職に差はあれど、「ボトムはここまでやらなきゃいけないよね」というラインがあるんだろうな、ということです。
それに加えて、属人性のあるざっくりとした「報告してね」とか「何々してね」じゃなくて、「何を報告するのか」、それこそ「上司がどうフィードバックしなきゃいけないのか」まで含めた型が、すごく共有されてきているんだろうなと思いました。だから(スライドの)右側って、けっこう「3つで表せない」ぐらい重いというか(笑)。
森:そうですね。間違いないと思いますよ(笑)。
澤田:でも、定性をきちんと型にしているということですもんね。勝ちパターンとして、それが受け継がれる文化にしているということですもんね。
森:そうですね。もちろん、属人化していないよ、という話ではないと思っているし、それを完全に排除するのは逆に難しいし、もったいない、みたいなところもあると思います。
一定の型はあるものの、「上司ごとにきちんとフィードバックをする」とか、そもそも「フィードバックをすること自体」が型になっているんですよね。毎日フィードバックする、というのを含めて、みんなが当たり前にやっているので、データの扱いや外報も仕組みとして回っていく。それが強みなのかな、とは思いますね。
澤田:ルーティンにはなっているけれど、それが形骸化せず、きちんと「型」として機能している。しかも自由度があって、回せばきちんと成果につながるし、成果が出なかったら「じゃあ次はどうする?」と次のループに入っていける。たぶん、その流れの中でいろんな仕組みが生まれている、ということですよね。
森:そうですね。中身は自由設計だけど、外報という箱は用意してあって、やり方がある程度決まっている中で、あとは話すことは自由、みたいな感じです。
澤田:そこにデータや売上を上げている上司のデータの見方や型、思考が入ってくる、みたいなイメージなんですね?
森:そうですね。
澤田:ありがとうございます。「顧客理解×価値提案」みたいなところがキーエンス流、ということですよね。完全に理解……完全ではないですけど、理解しました。
森:(笑)。
データをどう蓄積し、提案に変えるか
森:そういうところが、やはりキーエンスの強さの正体かなと思います。澤田さんが今言っていただいた「データって溜めるのがムズくない?」とか「そこ、属人化しない?」っていう話はたぶんあると思っています。
データの重要性や、「ではそのデータをどうやって蓄積するのか」といった話もできればと思っています。SFAを導入してもうまくいかない、というケースは私自身もよく耳にします。
そもそも、なぜデータを集めるのかという点ですが、営業は結局「タイミングのゲーム」だと思っています。いわゆるBANT情報、つまり予算・決裁者・導入時期(Timeframe)・ニーズといった要素がありますよね。
どれだけ良い商品でも予算がなければ購入には至りませんし、予算が十分にあっても、商品に価値を感じてもらえなければ買ってはもらえません。さらに、いいと思ってくれる相手に提案できなければ、やはり購入にはつながりません。
つまり、「誰が・いつ・何を決めるのか」、そして「誰に・いつ・何を提案するのか」が非常に重要になります。ここで言う組織構造や決裁フロー、いつ予算申請が行われるのか、いつ予算が執行可能になるのか、といった“タイミング”に関する情報です。
少なくとも、こうした情報は自社の顧客データとして蓄積しておくべきだ、というのが私の考えですし、キーエンスでもよく言われていることです。
タイミング情報は「聞く」
澤田:これ、イメージとしては、受注が決まった時や、ある意味うまくいかず提案が通らなかった時など、何かしら動きがあったタイミングの情報が蓄積されていく、という感じなんですか。個別に細かくヒアリングするというより、「連絡が来たタイミング」などが企業ごとに固まって、「この業界のこの業種だと、だいたいこれくらいの決裁スパンだよね」といった統計になっていくイメージですか?
森:これは、確実に聞きますね。
澤田:あっ、聞くんですね。「いつそうなるんですか?」みたいな。
森:打ち合わせの場で(聞きます)。キーエンスの場合は、製造業に特化しているので聞きやすいところはあると思います。製造業って基本的に設備を入れるタイミングとセンサーが売れるタイミングがイコールなんですよね。設備を入れるタイミングって絶対、予算消化の時期が決まっています。
人事とかも新卒採用は絶対、決まっているじゃないですか。要はサマーインターンのタイミングがあって、たぶんちょうど今ぐらいが「来期の予算をどうしようか?」という時期。もうちょっと前かもしれませんが、そういうタイミングがたぶんあると思っていて。で、使う時期も絶対決まっているじゃないですか。製造業も同じように決まっているんですよ。
「じゃあ、設備が入るのはいつですか?」「ここです」と。「じゃあ、設備の仕様が決まるのはこのタイミングですね」。「設備を作り始めるタイミングが次にあるので、その設備を作り始めるタイミングから1ヶ月後ぐらいにはセンサーがないと設備を作れないっすよね」という話になるわけです。
「そうすると、どれぐらいまでに決裁を回しておかないと予算が取れないですよね」という話になるので、予算申請のタイミングと、センサーが売れるタイミングと、どのセンサーを使うのか、仕様を決めるタイミングを絶対に押さえられるんですよね。
澤田:はいはい。1個空けば穴が空いていく、みたいなことですよね。わかりました、ありがとうございます。
森:めっちゃ具体的に話すと、タイムスケジュールみたいなものをお客さんと一緒に書いて確認をしています。データみたいなところも含めて、ここらへんは少なくとも把握していくといいんじゃないかなと思っています。
入力が回る仕組み:評価とインセンティブで縛る
森:あとは「じゃあ、入れよう」みたいなところは、ぶっちゃけ、結論、評価とどれだけ紐づけられるかだと思っています。
キーエンスの場合は、定量評価とアクション評価と定性評価がありました。「じゃあ、新規の担当者訪問件数ってどれぐらいなんだっけ?」とか「新規のお客さんとの名刺交換の件数、どれぐらいなんだっけ?」とかを、評価指標に加えているアクションの評価指標があって、そもそもSFAやCRMに登録されていない、という段階で評価の対象外になっちゃうので、そりゃ登録するよね、という話だと思っています。
もちろん定義を作ってきれいに構造化して「そうやって入れていこうね」って運用のルールを決めて、運用でまず徹底させる、というのは前提として大事なんですけど、やはり人間なので面倒くさいことはやりたくないと。
なので、そこらへんはインセンティブや評価みたいなところで、しっかりと縛っていくのが、僕が入った時は、わりとキーエンスの中でもう当たり前に行われていた、という感じですね。
課題の解像度を上げた先にクロージングがある
森:データを処理して、そのデータからきちんと価値のある提案を出すにはどうするか、みたいなところなんですけど、ここには2つのプロセスがあると思っています。まずは提案の構造を理解しましょう、という話です。
サービスに買うという気持ちが紐づいてくるんじゃなくて、そもそもお客さんの課題とか、お客さんの仕事の内容とか、業務解像度みたいなのを上げていった先に最終提案があるんじゃないかな、と考えています。
事前準備の段階で、お客さんの仕事の内容とか、どういう業務プロセスで、どんなKPIを追っていて、ミッションは何で、みたいなことはある程度把握できると思っているので、そういったところを事前準備して「『あるある』でこういう問題、あなたたちは抱えていますよね」という話から、お客さん特有の固有の問題をきちんと引き出してきて、そこから深堀っていく感じです。
その深堀った課題に対してしっかりと提案する。がんばって機能を追加で説明する人がよくいると思うんですよね。お客さんが解決したい課題は決まっているのに、自分が話したいことがめっちゃあって、プロダクトの話を超したい、みたいな人もいると思うんですけど、これは(お客さんが)冷めるタイミングかなと思っています。
きちんと問題を発掘して、それを分解して、解像度を高めてあげたら、あとは「そこを解決できますよ」と言ってあげるだけで、「いくら?」とクロージングできると思うので、この提案のタイミングで、過剰スペックを無限に話し続けちゃうとか、商品の話をしちゃうとかは、ちょっとナンセンスな感じになっちゃう。
基本はこういう順番があるんだ、というのを認識していただいて、自社の売れる型を作っていくとか、落とし込んでいくのがいいんじゃないかなと思っています。
ロープレと同行で「生の情報」から鍛える
森:もちろんこの中にも細かいステップや細かいスキルなど、必要なものは含まれていると思うんですけど、そこを気にするというよりかは、全体の流れをがっつり把握していただいて作っていく。
この中で、型をある程度作成した状態で、もうとにかくここは……ちょっと投げやりかもしれないですけど、がんばりましょうと。
澤田:(笑)
森:正直、営業に関してはもう徹底です。いかにロープレを練習できるかというところと、守ることだけがすべてではありませんが、ある程度型になるまではきちんと守・破・離を守っていただく。
あとは生の情報でフィードバックする。よくフィードバックとか1on1とかをすると思うんですけど、結局その若い営業の方のフィルターが通った情報しか入ってこないと思うので、きちんと同行してあげて、お客さんに接しているところをフィードバックしてあげましょう。いかにこの型を作って徹底するか、みたいなところが、提案では大事だなと思います。
AI時代でも「理解と伴走」が信頼につながる
森:今キーエンス流をバッと深堀ってきたんですけど、結局、AIの時代においても、深い理解と、きちんと伴走してあげる、というところが深い信頼につながっていきます。
「AIに聞いたらレコメンドされる」という時代が、もうすでに来ているので、きちんとお客さんのことを深く理解してあげて、その上でどういうことができるのかとか、何を求めているのか、を(考えた上で)きちんと伴走してあげる。それこそが信頼につながる商談力だと思っているので、ここを高めていくことが、次の世代や次の時代に必要な営業パーソンの像なんじゃないかなと思っています。

今後使っていける、みたいなところでは、業界知識・顧客知識をきちんと入れましょう。1個聞くんじゃなくて、きちんと深くヒアリングしましょう。あとは、組織の構造や意思決定構造をデータとしてきちんと理解しましょう。
これを商談の現場でやってもらいつつ、企業や組織としてはデータの蓄積や分析など活用ができる箱を用意してあげて、しっかりと運用に乗せましょう。
あとは、当たり前の型が浸透するように、同行もそうですし、ロープレもそうですし、しっかりとフィードバックの場を作りましょうというのが、直近で求められていく営業の姿だったり組織の形なのかな、と思っております。
澤田:ありがとうございます。
森:私から、いったん営業の部分は以上です。