【3行要約】・AI時代で営業の価値が問われる中、多くの企業が「人×AI」による差別化に悩んでいます。
・元キーエンス森氏は、AIによる効率化で営業の時間配分が変わり、顧客理解と商談力がより重要になると指摘。
・営業は顧客と企業をつなぐ翻訳者として、データ活用と標準化された仕組みで属人化を防ぐべきだと提言します。
前回の記事はこちら 「AI×人」で差別化するには、人の価値を定義し直す
澤田隼氏(以下、澤田):そういった中で、双方を活かしつつどう活用していくか。はっきりしてきたからこそ「AI×人」で差別化できるか。その時代での人の価値って何なんだろう、というところを今日は森さんにがっつりとお話ししていただければなと思いますので、よろしくお願いいたします。
ここから森さんにバトンタッチをさせていただいて、人が武器になる営業力とは何かだったり、キーエンス流でそこを考えていくとどういったロジックがあるのか、というところをお話しいただければなと思います。森さん、お願いします。
なぜ今「キーエンス流」が注目されるのか
森賢弘氏(以下、森):ありがとうございます。先ほど自己紹介させていただいたとおり、「キーエンス流」みたいなところは、たぶん今バズワードになっていて、みなさまもよくご存じなのかなと思っています。
本日は「AI×人」という観点で、営業が進化していく時代において、私たち営業パーソンが何をしていかなければならないのかをお話できればと思っています。その中で、私が以前在籍していたキーエンスでの経験や、現在取り組んでいる事業も踏まえつつ、みなさまに持ち帰っていただけるエッセンスをお伝えします。
今日は、3つのお話の流れで進めていきたいなと思っています。1つ目は、今、澤田さんからおっしゃっていただいた、AI時代における営業の価値ってどこなのか、というポイントです。
先ほども言ったように、最近、「キーエンス流」みたいなのがかなりバズワード的にはやっていると思うので、「じゃあ、そもそもキーエンス流って何なん?」みたいなところや、なぜ注目されているのか、というところや、営業の価値みたいなところからお話しさせていただければと思っています。
最後に、「じゃあ、AIの時代における営業パーソンや組織づくりにおいてどんなことをしなきゃいけないのか?」をお話しさせていただいて、本日の営業パートを進めていきたいなと思っています。
AI時代の営業価値は2軸「顧客視点と会社視点」
森:まずは、AIの時代における営業の価値。僕は2軸あると思っていて、ほぼ結論になりますが、顧客側から見た価値と、会社側から見た価値です。
今のAI時代やネット情報社会において、顧客はすでにスマホやPCを通じて、ありとあらゆる情報が手に入るようになっています。AI時代がさらに進めば、わからないことがあればAIに聞いて、レコメンドされたものを買うという時代も来るのかなと思っています。
その中で「お客さんにとって営業の価値って何か?」と考えると、本人が気づいていない、あるいは気づいてはいるけれど、どう解決していいかわからない課題を整理してあげること。そして、それに対して最適な選択肢や解決策を、営業がどれだけ提示できるか。そこが、今後お客さんにとって営業が出せる価値なのかなと思っています。
会社にとっての営業価値「適正価格で必要な相手に届ける」
森:会社にとっては、情報化社会が進み「AIに聞けば何でもわかる」ような世界になれば、結局、価格競争に巻き込まれたり、コモディティ化した商品が「安さ」や「機能」だけで判断されて売れなくなったり、という状況になっていくと思います。
その中で、営業が介在することで、本当に必要としているお客さまに届けられたり、実際にはもう少し必要な機能を見極めて、より高い金額で売れたりするケースもあると思っています。そういったかたちで、適正な価格でお客さまに届けることが、会社から見た営業職の価値なのかなと思っています。
なのでこれまでもそうだと思うんですけど、単純に売るとか、お客さんに提案する、という視点ではなくて、そもそもお客さんが何をしたいのかとか、どういうビジョンで事業をしているのかとか、課題は何か、みたいなことをしっかりと理解・解釈してあげて、そこと自社を紐づける翻訳者であることが、私が考えるAI時代における営業の進化なのかな、と思っています。
AIで時間配分は変わる
森:ここを結論として、話を進めさせていただければと思うんですけど、営業の価値がそういったところにあるとして、AI時代における営業の姿がどう変わっていくか、と紐づけてお話しさせていただきます。
先ほど澤田さんがおっしゃったとおり、(スライドを示して)「従来の時間配分」と書いてある部分がAIに代替されたり、もしくはサポートとしてAIを使うことによって作業工数が減ったりすることで、非常に圧縮されると思っています。

僕がいたキーエンスは、けっこう筋肉質な企業だったので、もともと(スライドの)右に書いてある「AI時代の時間配分」みたいなものが、すでに確立できている気がしているんですけれども。
通常の企業はそこまで仕組み化されていなかったり、中小企業の場合は、1人の営業職がいろんな業務をしなきゃいけないこともあると思うので、実際にはそうなっていなかった。
AIの登場によってこういった業務が圧縮されることで、確実に商談や顧客とのコミュニケーションに、より多くの時間を割けるんじゃないかな……というか、割いていかないと勝てないんじゃないかな、というのが僕の見解です。
なので、作業時間が小さくなることによって、より顧客や商談などの時間が増えていくんじゃないか、というのが、今起きている営業組織や営業自体の変化なのかな、と思っています。
増えた時間は「量」に振るべきなのか
澤田:今、気になったことがあるんですけど。今、参加している方々って「AI×(掛ける)」というテーマでやっているからこそ、AI時代の営業の価値をもちろん聴きに来ているとは思うんですけど。
AIを活用した時に、生産性を上げたり、提案本数を馬鹿みたいに伸ばしたり、というのは、やりたいことではあると思うんですよね。売上を上げる、イコール、そういうところにつなげたい、というのも、やりたいことではあるとは思うんですけど。
ただ、この勢いで「商談・顧客とのコミュニケーションが80パーセントになりますよ」みたいな話になると、個人的には少し引っかかっていて。結局、営業の質をちゃんと上げて、顧客に使える時間を増やしましょう、となった時に、「×量(掛ける)」みたいな考え方だと、正直、「どこまで増やせるんだろうな?」という気もするんですよね。
例えば、これ全部使って30パーセントが80パーセントになった場合、倍以上になっているわけじゃないですか。そうなった時に、1顧客当たりにかける時間をどれだけ増やして、顧客の量をどれだけ増やしていくのか、みたいなところで、森さん的に「こうしたほうがいいんじゃないか」とか。
顧客の量は増やさずにコミュニケーションの量をめっちゃ増やしたほうがいいよね、なのか。正解はないと思うんですけど、ざっくり考えているところってあったりするんですかね?
基本は「新規」を広げることに使う
森:もちろん企業やフェーズなどによるかなと思っているんですけど、ベースとしては、新規を広げることを、この増えた時間で考えたほうがいいかなと思っています。
企業規模によって変わってくると思いますが、わりかし僕がいたキーエンスもそうですし、大手の企業や中小企業って、やはり既存クライアントとのコミュニケーションが、営業においては半分以上占めていると思っています。
澤田:飛地開拓(アップセル・クロスセル)とか、そういうのも含めてやるために、既存企業は信頼があるからさらに使っていこう、みたいな感じということですよね?
森:うん。
澤田:確かに、確かに。
森:いろんな要望ももちろん飛んでくると思うので、わりかし既存クライアントの対応には、けっこう時間が取られていたりもするのかな、と見ている中で、やはり新しいお客さんを獲得しようとすると、獲得コストもそれなりにかかる、というのが1つありますね。
あと、長い時間をかけて信頼関係を築いていったり、調整をしていって、やっと1件取る、というのが新規のお客さまだと思うので、そうすると、取りやすさに逃げちゃって、既存からリピートを取るとか、既存の隣の領域だけちまちま攻めていく、みたいなことになってくると思うんですけど。
この浮いた時間や、できる時間ってもともとなかった時間なので、新規のお客さまをきちんと開拓していくとか、新しい市場を見ていく、みたいなことに時間に使えると、事業としてはかなり生産性が高い、筋肉質な状態になるんじゃないかな、とは思いますね。
澤田:前提として、既存顧客もきちんと厚く増してやりつつ、それ以外のところを1つひとつ増やしていける、という状態を作る。効率化した後にそういうところを目指していきましょう、新規にきちんと力を入れつつ、既存顧客も広げていける状態を作っていきましょう、ということですね。
森:そうですね。そこは会社によって違うと思いますけど、僕はそういう新規の領域や新規のお客さんをきちんと広げていけるかどうかが成長につながっていくのかな、とは思っています。
勝敗を分ける「商談力」:役に立つ人として認知を取れるか
森:こういう商談やコミュニケーションが増えていく中で、先ほどお話しした「(営業は)お客さまと企業をつないでいく翻訳者になる」みたいなところでいくと、僕が今後、一番重要になってくると思っているのは、商談力です。
具体的に言えばいろいろな力はあると思うんですけど、今後、営業組織とか会社単位とか、営業職1人ひとりが勝敗を分けてくるのは商談力、その場の力だと思っています。
じゃあ、この商談力はそもそもどういうものなのか、という話なんですけど。すごくやんわり言うと、お客さんにどれだけ「この人、役に立つな」と思ってもらえるか、という認知を獲得する力だと思っています。
要は、AIの登場で情報の非対称性がほとんどなくなり、顧客と営業のあいだに大きな差はなくなりました。顧客側のリテラシーは高く、自分たちの業界知識も深い人が多い。そうなると、営業が十分な知識を持たずにPRや訪問、打ち合わせを重ねても、営業に知識がなかったり、話が散らかったりした時に、「何を言っているの?」という食い違いが生じやすいと思います。
一方で、顧客が知らない情報を持ち込み、的確に提案できる営業は「役に立つ」と評価され、いざという時に相談される存在になれます。抽象化して言えば、「この人は役に立つ」とどれだけ認知を獲得できるかが私の考える商談力の定義であり、ゴールです。
商談力を鍛える2つの領域「事前準備とその場の発揮」
森:それを鍛えていくためには何が必要か。(スライドの)左と右で分けているんですけど、左側は事前に付けられる力です。事前情報や事前の準備。仮説を作ったり、お客さんはどんなことが必要かなと考えることや、お客さんの過去の履歴の情報を見たりすることも事前準備かなと思っています。
あとは、ヒアリング力みたいなところ。お客さんのことを把握できるかどうか。本提案にいく前に、どれだけ初回商談でヒアリングができているかもそうですし、そもそもお客さんの組織の構造がわかっているかなど、プロービング力みたいなところが、事前に得られることです。
(スライド)右側のプレゼン力、情報取得・把握力とか、クロージング力みたいなところは、どちらかというと商談の場で発揮する力だと思っています。ここはお客さんの課題と、サービスやプロダクトをしっかりと紐づいて提案できるかどうかとか、最終的にしっかりとクロージングまで持っていけるかどうか、という力で構成されています。
これを総じて商談力にして、「この人、役に立つ」という認知をお客さんから獲得できるかどうかが、AI時代における営業に必要なスキルとして定義できるんじゃないかな、と考えています。