【3行要約】 ・研修で学んだことを実践に活かせない悩みは多くのビジネスパーソンが抱える課題であり、「抽象と具体の往復」能力の差が成長の差につながっています。
・グローセンパートナーの島森俊央氏によれば、経験学習の定着には「視点」の複雑性を高め、文章を書く習慣を持つことが重要で、特に20〜35歳の発達期に身につけることが推奨されています。
・島森氏は人材育成とは個人の能力開発だけでなく、経験を安心して語れる環境を整え、意味づけの問い直しができる「ラーニング・スペース」を提供することが重要だと提言します。
前回の記事はこちら 経験を学びにする「意味づけの問い直し」
島森俊央氏:(スライドを示して)やはりポイントはここですね。失敗・批判・葛藤・揺らぎに直面した時に人が取る行動としては、作戦1「人のせいにする」、作戦2「自分の問題として抱え込む」、作戦3「意味づけを問い直す」という3つがあると思います。少し解説をしていきたいと思います。

(作戦1の)人や環境のせいにするのは防御・正当化なんですけども、感情を切り離したり無視したりすると意味づけが起きないので、学習は起きないと言われています。
あとは一方で(作戦2の)「自分の問題として抱え込む」という方もけっこういらっしゃると思います。これは反省や自責みたいなかたちで感情を内側で抱え込み続ける。(この場合、)自己解釈は起きるが枠組みは更新されないので学習にまでは至らないと言われています。
(作戦3は)「意味づけを問い直す」です。立ち止まって探究をして、感情を情報として扱って、前提・定義・見方が更新されるのが経験学習だと言われています。つまり、他責化したり、自分が反省したりするだけでは終わらせないように、作戦3を選択できる環境や仕組みが人材育成にとってとても大切だと言えます。
経験学習が定着すると行動の選択肢が広がっていく
あとは、経験学習が定着するというのはどういうことなのかを、少し図で説明していきます。経験学習は性格や能力の違いではなく、「経験をどう意味づけ、次の行動につなげるか?」という回路を持っているかどうかの違いです。イメージなんですけども、行動の選択肢が増えていくのが成長だとコルブさんは捉えています。
この(スライドの右側の)直線的な場合は、「忙しい!」「仕事が悪い!」「上司が悪い!」「仲間が悪い!」と人のせいにばかりしています。すると、直線的な選択肢しかないんです。

けれども、具体的な経験の時に感情を情報として受け取れる余裕があると、「あれ? この仕事はおもしろさがあるな」(と感じます)。自分を客観視する余白があると、「どこにおもしろさを感じているのかな?」。(さらに、)意味づけを仮置きする余白があると、「企画の仕事は向いているかも」「じゃあ、今度やってみよう」。
こういったように、少し余白を持って内省することによって、選択肢の幅が広がっていくのが成長だという捉え方ができます。
そういう意味で、人材育成において振り返りをする余白の時間を確保したり、経験を通じて前提や見方の意味づけを捉え直したりすることができたらめちゃくちゃいいなと思っています。なので、それを習慣化させることが大切ですよとお伝えをしています。
他者の視点を取り入れることの重要性
次に、「“思考の質”が高まる経験学習」について、「抽象度と複雑性が上がると現実の捉え方が変わる」というところからお伝えをしていきたいと思います。
これ(
『【新解釈】マネジメントの本 ~自分が変わると周囲が変わる「内省型リーダーシップ」~』)は私の書籍なんですけども、(この本の中で)「相互変容1on1」と呼んでいるもの。

「1on1が『面倒』と感じられるのは、目的の置き方を誤り、マネージャーの問題解決の場になっているからです。本来1on1は、人材育成のために双方の認識が変化する時間です。特に重要なのはマネージャー自身の気づきを得ること。部下の話を丁寧に受け止めることで安心感と余白が生まれ、部下の成長意欲が育ちます。1on1はマネージャーの成長を促す貴重な時間だと捉え直すことが大切です」。
ということで、「マネージャーが成長する時間でもあるんだよ」と伝えています。
これに対して先ほどの4つの段階で言うと、「(比較的)シンプルな思考」に関しては、目的を変えるという発想はなく、部下をどうしたらいいのかがやはり気になる。それで、次の段階(である「調整・工夫ができる思考」)では、目的をマネージャー側に置き換える発想には半信半疑。両者が歩み寄れる方法を探りたい。
同じ概念でも発達段階によって捉え方が異なる
次の「構造を扱う思考」になると、行動変容が上から下へ広がる点にも納得し、仕組みとして改善したいと思っている。さらに上(の「多視点・統合的な思考」)になると、「(1on1はスキルではなく)組織内の学習システムであって、マネージャーの自己変容が文化を変える(メカニズムに注目する)」というかたちで、文化にまで手が届く。そんなかたちで、同じインプットでも捉え方がぜんぜん違うと考えていただければなと思います。
ちょっとここで実験をしてみたいと思います。抽象度と複雑性の実験です。「下記の3つの文章をお読みいただいて、抽象度・複雑性が高そうな順番でチャットに投稿してください」という練習をやってみたいと思います。「Ⅰが一番高い、Ⅱが2番目に高い、3番目にⅢが高い」みたいなかたちで出していただければと思います。

回答は、Ⅰ、Ⅲ、Ⅱの順番で抽象度・複雑性が高いです。赤字にしていますけども、抽象度でいうと「思考プロセス」「価値観」「前提」「構造的課題」など、個別の出来事を超えた枠組みで表現されているかどうか。複雑性は「思考の深さ」「学び」「スキル」「文化」「個人」など、複数の要素が結びついているかどうかで判断していただければと思います。

何が言いたかったのかというと、抽象度と複雑性の測定は誰もが暗黙的にできる・やっているというところをお伝えできたらなと思っています。そういった意味で、「あ、この人は抽象度・複雑性が高そうだな」というのは、実はみなさんもアセスメントする力を持っています。
論文でも同じような実験をしていて、リーダーシップについてのインタビューをしています。この(スライドの表の)一番上の複雑性が高い方は、ポイントが3つに分かれたり、循環したり、1個1個の要素の抽象度が高かったり、みたいなかたちでLAS(Lectical Assessment System:レクティカ社が開発した測定のアセスメントツール)は測定をしています。
思考の質を高めるには「視点」に注目する
では、どうしたら抽象度・複雑性が上がるのかというところで、セオ・ドーソンさんの論文によると「視点取得」と「視点探索」と「視点調整」という言葉が出てきます。Perspective(視点)という言葉は、日本の中ではあまり重要視されていないと思うんですけども、レクティカの中ではかなり大切なキーワードになります。視点を取得し、視点を探索し、視点を調整・統合していくという流れになります。

まず視点取得についてお伝えをすると、他者や状況を想像し、相手の立場や考えを理解しようと推察するというかたちになります。「相手はどう考えているのかな?」「この状況だと、こんなことをシミュレーションしているんだろうな」と推測する力です。
視点探索は、推察にとどまらず実際に聞いてみて、確認して、理解を深めるというかたちで、相手がどう考えているのかをきちんと確認していく作業になります。それをやることによって、自分と他者の異なる点を整理・統合し、新しい全体像や共通理解を作る。これによって複雑性や抽象度が高まっていきます。
抽象度の高さや視点の複雑性は、知識を増したり考え方を教わったりするだけでは高まりません。他者の視点を想像したり、実際に問いかけて確かめたり、異なる見方・前提を関連づけて統合したりするという一連の思考を何度も実行せざるを得ない経験を通して初めて構造として身につきます。やはり経験学習の定着が一番だと思っており、そこの定着を推奨していきたいなと考えています。
文章を書くことが思考の抽象度を高める強力な方法
ちなみにコルブさんの論文にはこんなことが書いてあります。「具体的経験を通して感情の複雑性が増す。省察的観察をすることによって知覚的複雑性が増す。意味づけをすることによって象徴的複雑性が増す。積極的実験をすることによって行動的複雑性が増す」ということで、けっこうコルブさんも複雑性の話に言及しています。

あとは「書くことの必要性」についてです。文章を書くことは思考を客体化し、構造化し、抽象度を上げ、視点を増やし、メタ認知を発動し、感情と認知を統合し、内省を深め、意味づけを進化させ、まさに「発達そのものを実行している」と言えます。わかりやすく言うと、書く時間をしっかり取っていただきたいなと思っています。

私が恵まれていたのは、コンサルティング会社に勤めたら、仕事の8割ぐらいが書く仕事だったことです。そういった意味で、書くことが多い業種と、書くことがあまりない業種とがありますので、書くことが少ない業種に関しても、ぜひ書く習慣(を身につけて)経験学習が定着できたらなと思っています。
人材育成とは「学びが起きる環境を整える」こと
ちなみにコルブさんが「ラーニング・スペース」というのを提唱しているので、少しご紹介をしていきたいと思います。(これは)人が学ぼうと思い、感じたことや考えたことを安心して言葉にし、試してみることができる場のあり方を指します。

学びは、その人の能力ややる気だけで決まるものではありません。行動してみること、振り返ること、感情に気づくこと、考えを整理することが自然に起こる場が存在するかによって、大きく左右されるということです。
つまり人材育成とは、人を変えることではなく、学びが起きる環境を整えることが大切だと思っています。また、人は経験するだけでは成長しない。経験を語れる安全な場があって初めて成長ができるということで、これからご案内するグルリ(グループリフレクション)で、ここをやっていきたいなと思っています。
発達のゴールデンタイムという表現をしていますけれども、LDMA(Lectical Leadership Decision Making Assessment)的には、発達はこんなスピードで進みますという診断の結果が出てくるんです。
やはり45歳ぐらいになるとなだらかになっていきます。「20歳から35歳(ぐらい)の発達が45歳(以降)に影響」とありますので、やはり経験学習はこの時期にぜひ定着をさせていきたいなと思っています。