何気ない会話に潜む偏見
(動画が再生される)
話者1:おぉ、ミホちゃん、いいところに来た。このやり方を教えてくれない? 最近導入したシステムがどうも使いづらくてさ、うまくいかないんだよ。
話者2:あぁ、これですね。えーと。ここをこうやって、こうすればいいんですよ。
話者1:おぉ、すごいな。さすが若い人は違うな。ミホちゃん、最近がんばっているね。「新入社員にしては意外とやるな」って部長連中も褒めていたよ。
それにしても、今年の新入社員はみんなおとなしいよね。声も小さいし、自分の意見もあまり言わないしさ。どう接していいか困るよ。その点、ミホちゃんは積極的だし、残業とか平気でガンガン働いてくれて頼もしいよ。いやいや、女にしておくのはもったいないな。助かった、ありがとう。
話者2:いえいえ、そんなことないですよ。わからない時はいつでも呼んでください。
話者3:ねぇねぇ、さっき部長と何を話していたの?
話者2:「新しいシステムの使い方がわからない」と言うので教えてあげていたんです。
話者3:部長のパソコン嫌いは有名だよね。新しいシステムを導入するたびに、「今のままで十分だろ。なんでいちいち変えるんだ!」っていつも反対するんだよね。説得に苦労するってキムラさんもぼやいていたな。やはり高齢者にITを覚えろって厳しいよね。
話者2:本当、そうです。毎回こういうことがあると、みんなの仕事が増える一方ですよね。
話者3:そうだよね。英語も苦手みたいだし、これからITと英語は必須だと思うんだけどね。覚える気ゼロみたいだし。部長たちはDXとか騒いでいるけどさ、あの人たちこそついていけるか心配だよね。
(動画が終了)
褒めているつもりでも隠されたメッセージが届く
荒金:はい、いかがでしたか。よくある日常の中のケースかなとも思います。部長はワタナベミホさんに手伝ってもらってとっても喜んでいて、うれしそうに褒めているつもりだと思いますが、「女にしておくのはもったいない」とか、「新入社員にしては意外とやるな」なんていうことを言っていました。
でも、この言葉を聞いているミホさんは、なにかしら顔が曇っているところがあったかなと思います。褒めているつもりの部長の言葉の奥に、「新入社員は本来大したことがないよね」とか、隠されたメッセージみたいなものを読み取っているのではないかなと。
あるいは後半、若手2人の会話の中では、「高齢者にはITを覚えろって厳しいよね」というような表現もありました。すべての高齢者はそうだと決めつけているような発言にも聞こえました。
日常の会話の中のなにげない部分ではありますけれども、このマイクロアグレッションというのは、こういった些細な言動、振る舞い、行動の中に潜んでいて、それが相手に対してトゲのような、時には切り傷のようなものを与えていくところがあります。
つい言ってしまいそうな一言を見直してみると
荒金:(スライドを示して)ここに事例が紹介してありますが、少しみなさんにもお考えいただければと思います。チャットに貼り付けますので、みなさんはこの言葉の奥に隠されたメッセージを感じるでしょうか? なにげなく言っているかもしれませんが、受け取った人にとってみるといろいろな思いがあるのではないかなとも思います。
「女性でもがんばれば正当に評価される」とか、「男なのにそんなに長く育休を取って大丈夫か?」「障がいがあるのにがんばっているね」「日本語が上手ですね」。つい言ってしまいそうな言葉ではありますし、言われても何とも思わない人もいるかもしれません。一方で、こういう言葉に対して不快感や違和感を抱く人もいると思います。
もし(チャット欄に)書き込みができる方は、ぜひお願いいたします。わからない方は、自分自身は言われた時にどう思うか。「つい自分自身が日常の中でこういうことを言っていないだろうか?」というところをお考えください。
私は先日、英国領事館で行われた女性の経営者の方を集めたイベントに行きました。そこに留学して5年ほどで、今、英語の補助教師をしていますというイギリス人の女性の方がいらっしゃって、本当に日本語が上手なので、思わず自分でこういう「日本語が上手ですね」と言ってしまって、「しまった」と後から反省することがありました。ついつい無意識に言ってしまう言葉ですけれども、一つひとつ、少し注意をしていくと、その奥に隠されたメッセージがあるかと思います。
みなさん、ぜひこれをお持ち帰りいただいて、職場の中でもどう感じるかをお聞きいただければと思います。
悪気がないのはわかっているけれど
荒金:「女性でもがんばれば正当に評価される」。これを受け取った人は、本来女性は正当に評価されないのではないか? 男性よりも努力をしなければ評価されない。そんなメッセージとして感じているかもしれません。
「男なのにそんなに長く育休を取って大丈夫か」。私の息子に子どもが生まれた際には、喜び勇んで(育休を)3ヶ月は取りたいと上司に報告したそうです。ところが、「えっ、3ヶ月も取るのか?」と言われて、覚悟はしていたものの1ヶ月しかもらえずに、ちょっとがっかりしていました。育休は本来女性が取るもので、男性はそんなに長く取るものではないじゃないか。そういった意識が上司の中にあったのかもしれません。
「障がいがあるのに、がんばっているね」。障がい者は常に弱者であって、通常はそんなにがんばれないんじゃないか。「がんばっているね」と褒めているつもりではありますが、そんな気持ちが相手にとってはこういったメッセージになっているかもしれません。
実際に私は、事故や病気で、あるいは生まれた時から脚がなくて義足を付けている女性たちのグループに講演をしたことがあります。彼女たちの中には、「常にこういうメッセージを受けて、悪気がないのはわかっているけれども、言われるたびにモヤモヤしていました」「こういうことがアンコンシャス・バイアスであったり、マイクロアグレッションということにつながっていくんですね」とおっしゃっていました。
「日本語が上手ですね」。このメッセージの中には、「あなたを日本人とは見ていない」という、そういった言葉が含まれているかもしれません。
小さくな傷も蓄積すると大きな影響に
荒金:「マイクロ」という言葉が付いていますけれども、その与える傷は決して小さいものではありません。一つひとつは小さいけれども、例えてみると、紙で指を切るような小さな切り傷という言い方もあります。新しい紙でスッと指を切った時に、その痛さに顔をしかめるけれども我慢できないことはない。
例えば、蚊に刺されるようなチクッとした痛みですね。しょっちゅう蚊に刺される人とそうでもない人がいると思います。私はどちらかというと夏はけっこう刺されるタイプなんですが、非常に不快です。うちの夫はあまり刺されないせいか、いつも窓を開けて寝ている。というように、この傷を負う人の気持ちは、そうではない人にはなかなかわかりづらいんだろうなとも思います。
一つひとつは小さいけれども、それが日常の中でさまざまなかたちで繰り返される。蓄積していき、それが積み重なっていくと、だんだん傷が深くなり、そのダメージは大きくなっていくかなとも思います。

そして、この傷は、与える側はほとんど意識をしていませんが、与えられた人はなかなかその傷が治らない。あるいは治りかけた頃にまた新たな傷を負ってしまうところがあります。決して放置できるものではないのです。何が大きな問題かというと、先ほどの動画、そして事例を見ていただいてもわかるように、その人個人ではなく、その属性で相手をひとくくりにして決めつけるところがあります。
自分の価値観を正しいとする想像力の欠如
荒金:そして、自分の経験、価値観、考えを無意識に正しいと考えてしまう。「自分にとって大したことではないし、別に気にならない。だから大丈夫だろう」とか、過去にこういう経験があったから、若手に対してはそういう言い方をしてしまう。そういったところもあると思います。
そして、なんといっても、自分の発したその表現、言動が相手にどう伝わるのか、相手がどう感じるのか。相手に対する想像力・共感力、これが決定的に欠如している。
先ほどの部長の表情を見ても、ミホさんは顔を曇らせていましたけれども、それにはまったく気づいていない様子でした。自分としては助かったという感謝の気持ちを述べているつもりで、決して不快にさせようという意図があったようには見えません。
そしてまた、自分の優位性、特権ですね。自分の持っているマジョリティ性に無自覚である。そうすると、その与える影響がマイノリティの人たちにとって非常に大きなものがある。そういったところへの考えが及ばないところもあります。なんといっても、相手を尊重する、相手に対して敬意を払う、そういった気持ちが非常に薄いところがその根底にあるのかなと感じます。
無意識の偏見を放置し続けると起こること
荒金:このマイクロアグレッションを放置すると、だんだんエスカレートしていくと言われています。
「憎悪のピラミッド」という考え方があります。私たちが日常の中で持っているアンコンシャス・バイアスのような、なにげない思い込みや固定観念、先入観、こういったものが積み重なっていくと、マイクロアグレッション、偏見のようなものにつながる。
そして、それを放置することで何か不安なことが起こったり、特に自分が忙しかったり自己防衛に走ったり、そういった時に差別意識や憎悪というかたちでエスカレートしていくところがあります。
そして、この問題の難しいところは、決して個人だけの問題ではなく、社会や組織の中に組み込まれたシステム、構造。あるいは私たちが慣習として長年慣れ親しんできた、そういったものがバイアスを再生産しているところもあります。
例えば男性の育休にしても、私が入社した頃は、男性が育児休業を取るなんてとんでもないという、まったく想像もつかないような時代でした。共働きが増え、徐々に男性も家事・育児を担うようになり、女性と共に育児に積極的に関わる人たちが増えていったわけですが。
管理職をはじめとした上の世代の方たちは、「男は仕事だろう」と。これを「大黒柱バイアス」と言いますけれども、こういったものにとらわれていると、男性の育児休業取得を受容することがなかなかできずに、法律があるから、決められているから仕方がないけれどもなんとなく嫌味を言うとか。
不快な気持ちを隠して、相手の言うことをグッと飲み込む。でもそれが、やはり表情とか態度に出てしまうところもあるのかなとも思います。
決して放置していいものではなく、今、このアンコンシャス・バイアスがみなさんの会社でもある程度認知され、理解されている時だからこそ、その次のステージである、このマイクロアグレッションについてしっかりと理解していく必要があるかなと感じています。