【3行要約】・多くの人が憧れや情熱で仕事を選びますが、理想と現実のギャップに苦しみ早期離職するケースが後を絶ちません。
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『科学的な適職』著者の鈴木祐氏は、研究データから「好きな仕事より淡々とできる仕事の方が続く」と指摘。
・ビジネスパーソンは情熱に頼らず、継続的にスキルを積み上げられる環境で働くことを優先すべきでしょう。
『科学的な適職』著者の鈴木祐氏が登壇
入江美寿々氏(以下、入江):みなさんこんにちは、クロスメディアの入江です。今回の業界ビジネスチャンネルはこちら、『科学的な適職』著者の鈴木祐さんです。よろしくお願いします。
鈴木祐氏(以下、鈴木):よろしくお願いします。
入江:このチャンネルは「業界ビジネスチャンネル」という名前なので、基本は「○○業界」というところでやってきたんですけど、鈴木さんのお話にある「適職」というのは、どの業界で働く方も知りたいところだろうなと。
鈴木:確かに、これは全業界をカバーしていますからね。
入江:そうですよね。なのでスペシャルバージョンと言いますか、ビジネス教養として今回はお送りしていきます。鈴木祐さんは、弊社でも何冊も本を出してくださっていて、こちらの『科学的な適職』が新しくなって最近発売されて、それ以外にも
『最高の体調進 化医学のアプローチで、過去最高のコンディションを実現する方法』とか、売れている本がたくさんあります。
鈴木:売れましたね。
入江:ありがとうございます(笑)。鈴木さんの肩書は、サイエンスジャーナリストということになるんですか?
鈴木:そうですね。科学的な論文をいっぱい読んで、専門家にインタビューして、それをまとめているという感じですけどね。
入江:すごいですよね。プロフィールを読むと、「10万本の科学論文の読破。600人を超える海外の学者や専門家へのインタビューを重ねてきた」と書いてあって。
鈴木:すごそうに見えますけど、別にそれは20年ぐらいやっていますからね。普通はそれぐらいになりますよ。
入江:その前は、出版社に勤務していらっしゃったんですね。今回はこの『科学的な適職』について。私も初めて見た時に、「え? 仕事が科学的に選べるんだったら、こんなに苦労しないでしょ」と正直思ってしまったんですよね。
鈴木:なるほどね。
入江:学生時代から「何の仕事を選んだらいいのか?」と、血迷ってきたんですよ。
鈴木:みんなわりと直感で選びますもんね。
入江:みんな選んできた基準がいろいろ違うと思うんですけど。「仕事選びで陥りがちな7つの幻想」という言葉がこの本の中にあって、正直「私は幻想ばっかりで、今まで仕事を選んできたんじゃない?」となってしまったんですよね。
鈴木:たぶんこれにはまっている人は多いですよね。
仕事選びで陥りがちな7つの幻想
入江:本の中で、「7つの大罪」という言葉で7項目、よくありがちな幻想を書いていらっしゃいます。
鈴木:多くの人がはまりがちな、「これを基にみんな仕事を選ぶだろう」というものを7つ選んで、「全部、間違いですよ」と言っている章があるんですよね。
入江:きちんとした科学的な研究データに基づいているということなので。その中で今回は4つをピックアップして紹介しようかなと思います。まず1つ目が「好きを仕事にする」。
鈴木:うん、よく言われるやつね。
入江:2つ目、「給料の多さで選ぶ」。3つ目、「業界や職種で選ぶ」。4つ目、「仕事の楽さで選ぶ」。5つ目、「性格テストで選ぶ」。6つ目、「直感で選ぶ」。7つ目、「適性に合った仕事を求める」。「いや、もう全部当てはまっている」と思ってしまいました(笑)。
鈴木:たぶん普通に考えたら、こうなりますよね。「好きを仕事にしようぜ」とか、みんな言うしね。
入江:よく聞きますよね。私もまさに、「好きを仕事にする」というところでやってきた部分もあったので。
鈴木:なるほど。
入江:まず、「好きを仕事にする」がどうして幻想なのか、というところから教えていただきたいなと思っています。
鈴木:これは前提として、仕事を好きになるのは別に悪いことではないんですよ。仕事を選んでから、その仕事を好きになるのは問題じゃないんですよね。要するに、自分が好きなことがあったとして、それに合致するような仕事を選ぶのはよくないと言っているだけなんですね。
なんでよくないかというと、まずたいていの人が好きなことって漠然としていると思うんですよ。「人の目につきたい」であるとか、「ちやほやされたい」であるとか、そういったことを言う人が多いんですけど。
入江:(笑)。なるほど。
「好き」を仕事にした人よりも、地位・収入・満足度が高いタイプ
鈴木:だいたい人が好きなことって、そこにそもそも需要がないんですよね。だいたいの仕事は、何かしら人のサポートをしたりとか、地道な計算をしたりとか、書類作業をこなしたりとか、地味な作業の積み重ねなので。そこに「好き」を求めちゃうと、たいていの人が自分の好きという理想と現実のつまらなさの落差にギャップを感じてガッカリして、だいたいパフォーマンスが落ちるんですよね。
研究でもよく出てくることですね。やはり好きを求めて仕事にした人と、とりあえずやってみて何年か続けた人だと、「とりあえずやってみて地道に積み重ねた人」の最終的な地位や収入、人生満足度とかが高かったりするんです。
入江:それは絶対ありますよね。
鈴木:まぁ、ポキッと折れやすいというのはあると思うんです。
入江:あまりにも理想を高く見積もっているというか、「こういうものだ」という憧れみたいなところもあって選ぶと……。
鈴木:そうですね。(僕は)出版社にいた時代がありまして、その時はまだちょっとマスコミは威力があったので、やはり夢を持ってくる人がいたんですけど(笑)。
入江:華やかなイメージがありますよね。
鈴木:華やかなイメージを持って入ってきた人がいて、そういう人ほど、やはり3ヶ月ぐらいで辞めていったという。あくまでも自分の体感ですけどね。そういうのはあるなと思うんですよね。
入江:わかります。私は新卒で航空会社に入ったんですけど、CAとかは子どもの頃から憧れてなる子が多くて。
鈴木:確かに。
入江:でも、先輩が言っていたことを今思い出すと、「憧れて入ってきた人より、仕事として割り切って、『まぁこれもいいかな』という感じで入ってきた人のほうが、意外と続いている説はある」と。
鈴木:そうだと思いますね。CAさんなんかは特に、感情労働と言われるぐらいですからね。
入江:実際の業務は、やはり地道なこととか見えない雑務も本当に多いので、そういうところでたぶんギャップを感じるのかなと思います。
鈴木:「好き」と言うと、良いところしか見られなくなっちゃうので。
入江:そうですよね。いくらマイナス面を言っても、もう視野が狭くなっていて(笑)。
鈴木:そう、視野が狭くなっているので、「これは最高の仕事だ!」と思っちゃうから。
入江:「これしかない!」となりますもんね。
鈴木:やはり、理想がものすごくガーッと膨らんじゃうんですね。
入江:一見美しいんですけどね。
「情熱はないけど淡々と仕事をする人」のほうが生涯年収が高い
鈴木:「これが仕事になったらどんなに楽しかろう」と思うんだけど、たいていの仕事はつまらないので。
入江:たまに良いことがあるくらいですよね。
鈴木:そう、表面の上澄み1割が楽しいだけなので、割り切ったほうが強いですよね。
入江:割り切り派のほうが、スキルが伸びるという話もありますね。
鈴木:そうですね。やはり割り切っている分だけ、心が折れにくい。「こういうものだったら続けるしかないな」という気持ちで臨むので、逆にその分スキルは伸びやすいんでしょうね。
入江:好きなものって、最初に選んでいる時は情熱的じゃないですか。でもその気持ちはけっこう落ち着いてきちゃったりするんですかね?
鈴木:そうですね。情熱に関しては難しいところで、情熱がある人と情熱がない人の仕事ぶりを比べていくと、最終的にだいたい一緒ぐらいに落ち着くんです。
入江:(笑)。情熱は最初だけですかね。
鈴木:そう。なぜかと言うと、やはり情熱は波がすごくあるので、ガーッと行くんですけど、疲れてガーッと落ちるんですよ。ならしていくと、情熱がなくて淡々とやっている人とあんまり変わらなくなってくるんですね。もしくは、こっちのほうがバーンアウトしやすいので、最終的な生涯年収とかで見ると、意外と(情熱がある人のほうが)低い傾向がありますね。
入江:じゃあ淡々とやっていく人のほうが、最終的には良い。
鈴木:淡々とやらないと、積み重ねられないというところがあるので。嫌なことを積み重ねられる人のほうが強かったりしますよね。