【3行要約】・アイデアが論理的でも「昔考えたことがある」と言われてしまう……そんなユニークさ不足の課題が多くのビジネスパーソンに起きています。
・光村圭一郎氏は、特にベンチャー企業のテーマは考え抜かれており、少し考えただけでは新しい評価を得られないと指摘。
・「4象限発想法」で対角線上に飛ぶことに加え、幅広い情報収集と簡潔な伝え方の工夫が優れたアイデアに必要だと語ります。
前回の記事はこちら なぜ「筋は良いけどありきたり」なアイデアになるのか?
光村圭一郎氏:ここまで、筋良く考えるという1つ目の大切なポイントについて話してきました。ただ、これだけを押さえていると、筋は良いけれどありきたりで「よく考えるとだいたいそうなるよね」というアイデアに落ち着いてしまうことがあります。
それに対して、やはりユニークさというものを加えていって、もう少し斬新さだったり、今まで見たことがないなというようなものに至って初めて、「これはいいアイデアだな。新しいアイデアだな」と評価されるのかなと思います。

特にoutsightにおいては、ベンチャー企業が出してくれるお題自体が、ベンチャー企業自身がよくよく考えてきたテーマです。ちょっと考えた程度の案では、「それ、筋はいいんですけど、私も昔考えたことがあるんですよ」という評価にとどまってしまいます。
outsightでも日々の仕事でも、新しいアイデアを出す時には、そのことについてよく考えている人ですら思い浮かばなかったような、新しいところに発想を見いだしてほしいと考えています。そういう意味で「ユニークに考える」ということが必要になってくるのだと思います。
この「ユニークに考える」ということ自体は、非常に難しいと言えば難しいところです。発想法に関する本を読んでみると、本当にいろいろなパターンが紹介されています。例えば、少し前にはデザインシンキングという言葉がはやりましたし、昔はジェームズ・ヤングが『アイデアのつくり方』という本を書いていて、古典的な考え方がたくさんあります。
ここで例に挙げているように、強制発想法という考え方もあります。「いかにも組み合わせが悪そうなものを、あえて無理やり組み合わせてみたらどうなるか」という発想をしてみるやり方です。あるいは制約条件を付与して、その縛りの中で乗り越えようとする過程で斬新さを生み出していくやり方もあります。
“対角線”に飛んでユニークなアイデアをつくる「4象限発想法」
このように、発想の方法はいろいろあって、「これが正解だ」というものはないのだろうなと思っています。
ただ、それを言ってしまうと話が終わってしまいますので、ここでは僕がよく使っている方法として「4象限発想法」をご紹介したいと思います。

4象限発想法とは何かというと、まずは下に示したように縦軸と横軸を組み合わせて4つの象限をつくり、横にずらしたり反対側に動かしたりすることで、もともとのアイデアとは異なる領域に行ってみようという考え方です。
このような4象限の図は、物事を分析する際やコンサルタントが使う手法として見たことがある方も多いと思いますが、アイデア発想にも応用できると考えています。
やり方としては、まず考えたいテーマについて特徴を見いだすところから始めます。例えば、重いもの、高いもの、便利なもの、個人的によく使うものなど、物事には何らかの特徴点があります。そのうちの1つを選びます。
特徴が1つ見つかれば、その対義語が浮かびます。重いなら軽い、高いなら安い、便利なら不便、個人的に対しては公共的といった具合です。言葉にはたいてい対概念があります。
特徴とその逆の概念が2つそろえば、縦軸と横軸で4象限をつくることができます。そして、この象限の別の場所、特に反対側に移動することで、アイデアが生まれやすくなるという考え方です。
中でも対角線の位置に移動するのが、最も遠い領域に行くことになり、ここでユニークな発想が生まれやすいのではないかというのが基本的な考え方になります。
歩行をアシストするロボット義足の別領域への応用
ここでも、少し例を用いて説明したいと思います。これもoutsightで出てきたお題を援用してお話しします。

この時は、ロボット系のベンチャー企業が登壇しました。彼らがつくっているのは脚に着ける義足です。代表の方が以前、足が不自由になった経験があり、その歩行をアシストするロボット義足を開発している会社でした。
これは非常に良い商品で、この義足のおかげで足が不自由な方でも元気に歩けたり、場合によっては走れるところまでいけるという、すばらしい製品です。
ただ、それだけではなかなかマーケットが広がらない。良いことをやっていても収益につながりにくい。良いことを続けるためには利益が必要だという背景の中で、「このロボット義足の技術を応用して新しい商品を生み出してほしい。しかし、自分は義足のことばかり考えてきたので、新しいアイデアが出ない」というお題が参加者に提示された、という状況でした。
このロボット義足の技術的なコアは何かというと、転びそうになった時に瞬時に逆方向へ力をアシストしてバランスを取る制御技術です。右に傾けば左へ傾ける動きをサポートし、最終的に中立へ戻す動きです。
今回のテーマは技術を応用することなので、まずこの技術を“固定された前提”として置き、他の要素を4象限マトリクスの中で別のエリアへ移しながら、新しいアイデアを生み出せないかと考えました。
「ターゲット」と「目的」の2軸の反対を考える
そこで出てくる発想の1つが「ターゲット」です。もともとは障がい者の方に使っていただくことを想定していましたが、「障がい者」がターゲットであるなら、その対概念として「健常者」がターゲットになる可能性もあるのではないか、という仮説が浮かんでくるわけです。
もう1つは、目的という観点で考えてみることです。障がい者の方には歩行にまつわる「不」がある。つまり「不安」や「不便」といった課題があり、その解消のために義足を使う。いわゆるマイナスをゼロに戻すための用途で、既存の商品のつくり方や売り方もその前提にありました。
それに対して、「不」があるなら、その対として「快」の追求があってもよいのではないか。ゼロからプラスへ大きく振る目的で使ってみてもいいのではないか、という発想が浮かびます。
つまり、ターゲットと目的という2つの軸を置いてみると、もともとは右上、障がい者の「不」の解消に位置づけられていたものに対して、「障がい者の『快』の追求だったら何ができるか?」「逆に、対概念としての健常者の『不』の解消で何かできないか?」といった仮説が生まれてきます。
障がい者の「快」の追求で言えば、障がい者の方でも楽しめるスポーツ器具として、歩くだけでなく走る、飛ぶといった動きへ発展させるアイデアが出てくる。逆に、健常者で「不」を抱えている層、例えば高齢者に対しては歩行アシストとして応用できるよね、という方向性も見えてきます。
ただ、こうした“少し横にずらしただけ”の発想だと、まだユニークさが足りない。理想は、もっと反対側へ飛ぶことです。
そこで私が考えたのが、「転びそうになっても転ばない、誰でも楽しめるBMX自転車」の開発でした。健常者がより喜びや快感を追求できる領域で、義足という枠を離れ、この制御技術を自転車に応用してみたらどうか、という発想です。これはベンチャー経営者の方からも良い評価をいただきました。
このように、反対側まで飛んでみると、義足を深く考えてきた人からすると、「確かに、そういうターゲットやニーズもあるんですね」と意外性のあるアイデアが出てくる。こうしたレベルでユニークさを備えつつ、一方で先ほど述べた“筋の良さ”も両立したアイデアを生み出すスキルを、outsightで身につけていただきたいと考えています。