意味のある切り口にするために必要な視点
この切り口のつくり方ですが、今回はターゲットと目的を置きました。ただ、ここに置ける切り口は無限にあります。「では何を置けばいいのか?」となるわけですが、当然ながら意味のある切り口でなければいけません。
そこで先ほどお話しした「構造」が重要になります。筋良く考えるとは、こうした構造を理解し、意味が見いだせるような組み合わせをつくることだと考えています。この点を意識して設計していく必要があります。
先ほども触れましたが、筋の良さには理由があります。それが単なる思いつきではなく、「なぜ良いアイデアなのか」「どんな思考プロセスでその結論に至ったのか」をきちんと説明できる時に、初めて筋が良いと言える。その説明可能性が裏付けになるということです。outsightでは、そのレベルを身につけてほしいと考えています。
もう1つ、outsightでプラスアルファとして考えるべき点があります。ここまで“筋良く考える”“ユニークに考える”と、思考そのものについて話してきましたが、実はそれだけでは足りないという話です。
どういうことかというと、「考える」という行為は料理にたとえると“調理”にあたります。

どれだけ腕のよいシェフでも、素材がなければ調理はできません。同じように、よく考えるためには良い素材が必要です。

そしてもう1つ。調理した後は、食べてもらうために“盛り付け”が必要になるということです。右側のイラストが本当においしそうに見えるかどうかはさておき、見た目よく盛り付けられていて初めて料理として完成する。この考え方です。
良い素材とは何か?
「良い素材とは何か?」という点について、outsightを土台に少し説明したいと思います。outsightでは繰り返しお話ししているとおり、1週目に事業紹介Dayがあります。ここでベンチャー企業がプレゼンを行い、さらに参加者が質問を重ねることで、さまざまな情報が引き出される。つまり、この場でまず“良い素材”が一通りそろうわけです。
ただ、ここで集まる素材は全参加者に公平に与えられる情報でもあります。自分だけが特別な隠し玉や、おいしい調味料を持っているわけではない。みんなが同じ素材を手にすると考えると、そこから差をつけていくには、この共通素材以外のものを組み合わせる必要があります。
そこで出てくる1つ目の追加素材が、自分自身で調べて得た情報です。着眼点を多く持ち、解像度高く物事を捉えられるほど、「これは調べたほうがいい」「これは確認しておくべきだ」という視点が自然と増える。その結果として、調べて得た情報をアドオンしていくことが可能になります。
とはいえ、この作業には時間も労力もかかります。限られた時間の中で何を調べるかを思いつくこと自体が難しい場合もあるので、ここだけで勝負するのは現実的ではありません。
もう1つの追加素材が、自分がもともと持っている情報です。経験や知識、背景として蓄積されているものを組み合わせて考えることで、ほかの参加者との差をつくることができる。この“元から持っている素材”をどう生かすかが、アウトプットの質を大きく左右する部分だと思っています。
これはoutsightに限らず、日頃の仕事にも直結する話です。与えられた情報に対して、自分で調べた内容を足し、さらに自分がもともと持っている知識や教養をアドオンしていくことで、ユニークに考える力が生まれる。これはみなさんも実感されるところだと思います。
すると、「さあ考えよう」とスタートする瞬間から差がつくのではなく、その前段階で大きな差やアドバンテージがすでに生まれているわけです。日頃からどれだけ情報に触れ、蓄え、それを広く深く持っているかによって、ユニークさの土台が形作られている。その状態でアイデア発想に入れるかどうかが、結果に大きく影響します。
だからこそ、日常的にどんな情報に触れるのかを意識することが重要だと感じています。情報の質と幅を意識的に高めていくことで、発想の出発点そのものが豊かになっていくということです。
アイデアを300文字でまとめる意味
一方で、盛り付けについてですが、outsightではアイデア提案を300文字でまとめる必要があります。

これを実際にやってみるとよくわかりますが、アイデアを書き出し、根拠も含めてまとめようとすると、最初の稿はほとんど必ず300文字を超えてしまう。すると、必要な要素まで含めて言葉のレベルで削ぎ落とし、凝縮して書き直していく作業が求められます。
短い言葉で必要な内容を十分に伝えるというトレーニングにもなりますし、outsightは1回あたり50〜100人ほどが参加するプログラムなので、経営者の方々はその人数分のアイデア案すべてに目を通し、フィードバックをくださいます。当然ですが、読みやすい文章は頭に入りやすく、読みにくい文章は雑に扱われてしまうこともあるわけです。
だからこそ、読みやすくわかりやすい表現にまとめることが重要で、先ほどの料理の例でいえば「盛り付けをきれいにする」部分にあたります。ここがアイデアの価値を伝える上で問われてくるポイントです。
これは日頃の会社の仕事とも同じです。A4一枚でコンパクトに説明しろと言われても、本当に必要な要素にそぎ落として伝えるのは意外と難しい。また、読みやすい形式に整理されていないと、忙しい経営者はそもそも目を通してくれない。その意味で、このoutsightは「どうまとめるのか」を実践的に鍛える場にもなると思います。
繰り返しになりますが、さまざまな物事に興味を持ち、情報を集める。そうして得た素材をもとに解像度高く、ユニークに考え、最終的に相手にわかりやすく伝える。これらすべてがoutsightで高い評価を得るために必要な要素であり、同時に日常の仕事でも役に立つスキルです。

本を読んで「わかった気になる」こと自体は難しくありませんが、実際に自分の頭を使い、手を動かしてみると、最初はできないことに気づきます。その気づきから「ではどうするのか」を積み上げていけるのが、outsightの良さだと思っています。