【3行要約】
・メディアやSNSの影響で「犯罪増加」「離婚増加」といった印象を持ちがちですが、実際の統計データは異なる傾向を示すケースが多発しています。
・データ分析の専門家・堀口智之氏は、現代の情報社会において「数字が示す事実」と「体感する印象」の乖離が拡大していると警鐘を鳴らします。
・単純な数値だけでなく内訳や割合、分母の違いまで考慮してデータを読み解き、複数の視点から情報の真偽を判断する習慣を身につけることが重要です。
クリティカルシンキング超入門セミナーの導入
堀口智之氏:本日はお集まりいただきましてありがとうございます。「クリティカルシンキング超入門」セミナーということで本日、どうぞよろしくお願いいたします。
今回のテーマは、「クリティカルシンキング」です。クリティカルシンキング。初めて聞いた方もいらっしゃれば、「聞いたこと、あるよ」とか、すでに知っている、実践しているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
いずれにせよ、今日はクリティカルシンキングの基本的なところから、みなさんと一緒に学んでいきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
今回、私、堀口がお話をさせていただきます。実は2010年に大人向けの数学の教室というものを日本で初めて創業させていただきました。そこから、統計学、データ分析の指導などを社会人に行ってまいりました。全国各地、企業や大学などいろいろなところで講演をさせていただいております。
統計・データ分析の現場から見えた「クリティカルシンキング」の必要性
今回のテーマ、クリティカルシンキングも当初はやる予定になかったんですよ。ところが、統計学やデータ分析を教えていくと、データの正しさとか、「じゃあ、その情報に対して本当にこれは信じていいんですか?」というようなものが、たくさんたくさんあったわけです。
お客さまに指導するに当たっても、「あれ? これ、ちゃんと体系的に教える場所が必要だよね」ということで、今回のセミナーの開催に至っています。具体例も後ほど説明させていただければと思います。
大人向け数学教室とメディアでの活動
私自身、数字力とか、数学、確率、データセンスを身につける系の本などいくつか出させていただいております。会社としては、大人向けの数学教室で、統計学、データ分析を教えたり、「大人の数トレ教室」というかたちで数字から優しく教えたり、企業さんの研修もさせていただいております。あとは数学のイベントや小学生向けの授業なんかも行っております。

本社は渋谷にありますが、今はオンラインで通っていただく方が非常に多いです。メディアにもいくつか出させていただいております。(スライドを示して)こんなかたちで朝の番組、昼の番組、あと深夜番組に出させていただいております。
第1の問いかけ「なぜ凶悪犯罪は減らないのか?」
じゃあ、さっそく、クリティカルシンキングの内容に入っていきたいのですが、その前に1つ質問があります。それは何かというと、「なぜ凶悪犯罪は減らないんでしょうか?」です。
凶悪犯と言えば、(スライドを示して)こちらに書かれているような、非常に凶悪な犯罪の犯人のことで、けっこうニュースでも目にしたり耳にしたりしますよね。SNSとかを見ていても、「わっ、怖いな」と思うような事件が多発している印象があります。
どうですか? 凶悪犯罪ってみなさんの中だと増えていますか? それとも減っていますか? これ、ぜひお聞かせいただきたいんですよ。
約20年前と比べて凶悪犯罪ってどのぐらいになったんでしょう? 1番、半分以下。2番、20パーセント減。3番、ほとんど変わらないよ。4番、20パーセント増。5番、2倍ぐらい。6番、3倍以上ですね。実はこの中に答えがあります。みなさんはどれだと思いますか?

これは、真剣なクイズではありません。「間違えていたらどうしよう」とか、「大変だ」とか、そういうことを考えなくてもまったく大丈夫です。お気軽に取り組んでいただけたらと思います。あくまでクイズです。みなさんは何番だと思いますか?
もちろん正解はあるんですが、みなさんの中の正解が本当に違うんですね。
人によっては、「いや、減っているに決まっているじゃん」と考えている人もいれば、「ほとんど変わらないよ、そんなの」と思っている人もいれば、「めちゃくちゃ増えている」という印象を持つ方もいます。
最近はけっこう気になるニュースがありますよね。外国人がうんぬんかんぬんとか、そういったものも若干ニュースになっていますし、ちょっと不安な日々を送られている方もいるんじゃないでしょうか。
ということで、チャットで回答をお送りいただきましてありがとうございます。いろんな回答が返ってきました。やはり3番とか、ほとんど変わらないっていう意見が、気持ち多いですかね。みなさんありがとうございます。
凶悪犯罪の推移データと「体感」とのギャップ
じゃあ、正解を見ていきたいと思います。どのぐらいなんですかね。ということで、データはこちらです。(スライドを示して)これは、凶悪犯罪の総数認知件数の推移のグラフになっているのですが、こちらは2002年。およそ20年ぐらい前のデータですかね。1万2,000件、1万3,000件、1万4,000件といったところでしょうか。2002年から2004年ぐらいまでそのぐらいの件数があったんですかね。

そこから……あれ? 急激に減っていますね。何だこりゃ? ズンズンズンズン、ズンズンズンズン、とものすごい勢いで減っています。2021年はどうでしょう。4,000件台に突入していますね。あららららら。これ、半分どころか3分の1ぐらいになっていませんか? 1万3,000件から4,000件台。3分の1じゃないですか。めちゃくちゃ減っているんですよ。
意外に思いませんか? なんか不思議な感じがしません? しますよね。SNSやニュースを見てみると、「こんな犯罪が出ました」とか、「また殺人事件が」とか、そういったニュースばかり目に入ってきませんか? すごく「怖い怖い」という印象を持つ方が多いというのは実は納得なんです。
(スライドを示して)こんなデータがあります。令和4年、2022年のデータになるんですが、内閣府の調査によると「この日本の治安ってこの10年間でどうなったと思います?」というアンケートに対して、良くなったと思う方が44パーセント。悪くなったと思う方が55パーセントです。あれ? ぜんぜん違いますね。そう、実は悪くなったと感じる方のほうが多いんです。

だから、先ほどの質問の回答として「犯罪が増えている感じがするよね」というのは、心理的には納得なんですよ。
確かにこの10年で見てみると、2012年ぐらいには7,000件ぐらいあったんですかね。それが今や4,000件台ということで、減っているじゃないですか。半分近くになっていますね。そうなっているにもかかわらず、めちゃくちゃ怖い。「なんか(治安が)悪くなったんじゃない?」という印象を持つ方が一定数いらっしゃるわけです。
おもしろいですよね。真なるデータと体感の間に乖離があるんですよ。これは非常に注目すべきことです。
直近データを追加した時に見える「凶悪犯罪が増えた」の正体
そういった中で、1つみなさんにちょっと嘘をついていました。(スライドを示して)これも見てください。2020年、2021年までのデータをお見せしたんですが、最近増えているんです。ごめんなさい、ちょっと嘘をついていました。2024年、なんと、また7,000件に突入しています。めちゃくちゃ増えているんです。

闇バイトのニュースとか、あったじゃないですか。うわぁ、怖い怖い怖いと思いますよね。だって、4,000件が7,000件ですよ。3,000件も増えているんです。凶悪犯罪がまたまた増えていると。やはり日本の治安は悪くなっているんじゃないか? 20年前と比べるとまだ半分ぐらいなんですけど(笑)、ただそれでも、直近では増えているわけです。
「あれ? 堀口先生、嘘ついたじゃないですか。先生として駄目ですよ」と思うかもしれませんが、また1つこんなデータをお見せしたいと思います。
犯罪の内訳を見ることで印象がどう変わるか
(スライドを示して)こちら。この2020年から2024年に当たって、件数が4,000件から7,000件に増えたよという話をしたんですが、その内訳を見てみましょう。先ほどは4つあるとお話をしました。

殺人が21パーセントから14パーセント。あれ? 減っていますね。強盗……あぁ、ニュースになっていました、強盗ね。31パーセントから19パーセント。めちゃくちゃ減っています。放火、わぁ、怖いですね。18パーセントから11パーセント。えっ? 減っていますね。最後に、不同意性交等。30パーセントから56パーセント。めちゃくちゃ増えています。2倍です。2倍の割合になっているのを見みると、ちょっとまた印象が変わりませんか?
(スライドを示して)折れ線グラフで見ていきましょう。こちらです。殺人、強盗、放火、それぞれの件数はどうなっていますか? このぐらいですね。だいたい500件から1,500件くらいでしょうか。そのぐらいの件数で推移をしていっているようです。2023年、2024年、強盗の件数がちょっと増えていますかね、気持ちね。

でも、増え方が明らかに違うんですよ。何が違うのか。そう、不同意性交等です。これがめちゃくちゃ増えています。1,500件くらいからだいたい4,000件ぐらい。下手すると2、3年ぐらいで2倍以上になってきているわけです。めちゃくちゃ増えている。
「じゃあ、不同意性交は増えたんですね?」というと、これは私の個人的な印象ですが、たぶん違うと思います。そうじゃなくて、こういったものも犯罪として認められるんだということが、おそらく社会的な認知が広がったというのが要因として大きいのではないかなと思います。
そういったこともあり、この不同意性交がめちゃくちゃ伸びているよとなった時、先ほどのグラフの印象がまた変わってきませんか? 2020年から2024年にかけて凶悪犯罪がめちゃくちゃ増えている。確かにそれは事実です。ただ内訳を見てみれば、またちょっと違った印象があるわけです。その内容は決して殺人、強盗ではまったくありませんでした。
もちろんこの不同意性交がマシな犯罪だとか言うつもりはまったくありません。ただみなさんが想像していた「殺人、強盗が増えているんではないか?」ではなかったわけです。ちょっと違う印象を持ちますよね。これがデータを読むということです。
おもしろいですね。たった1つ、この凶悪犯罪のデータを見てみる。これだけなんですけど、おもしろくないですか? ちょっとおもしろいなと思ったらリアクションボタンを押していただきたいんですけど、どうでしょうか(笑)? 非常に興味深いかなと個人的には思っております。