第2の問いかけ「離婚は増えているのか?」
じゃあ、そういった中でもう1つみなさんに質問していきたいと思います。(スライドを示して)こちらです。離婚って増えていますか? ここ10年の国内の離婚数は増えていますかね? A、増加傾向。B、横ばい。C、減少傾向。はい、チャットでお送りください。どうでしょうか?

これも、人によって印象が異なるんですよ。先日経営者向けの講演をさせていただいたんですね。新潟のほうでしてきた時に、同じ質問をしました。「国内の離婚って増えていますか?」と聞いたわけです。そうしたらみんな口をそろえて「増えています」って言うんですね。
「へぇ」と思いながら聞いていて、その理由を聞いたら「身の回りで離婚が増えているんですよ」というリアルなご意見だったり、最近のドラマや芸能人ニュースから「気持ち増えているんじゃない?」という印象を持つ方が多いわけです。
離婚件数データが示す「大きく減っている現実」
じゃあ、こちらもデータを見ていきましょうか。(スライドを示して)こちらです。離婚件数の推移ですね。2001年に約28万件、29万件あったものが、今どうなっていますかね。18万件、19万件ぐらいですか。めちゃくちゃ減っています。正解だった方もいらっしゃいますね。でも、ちょっと間違っていた方もいらっしゃった。離婚数はめちゃくちゃ減っているんですよ。

こういう話をその経営者の方にもお話ししたんですが、みんなびっくりするわけです。こういうのも心理的なバイアスがかかっているんですね。
どういうことかっていうと、この10年間の中でみんな年を取るじゃないですか。年を取ると結婚する人も周りに増えて、同時に離婚する人も増えるんですよ。だから(離婚が)多くなる印象になるんです。おもしろいですよね。「身近な人が離婚したから、増えているんじゃないか?」。でも、データを見てください。めちゃくちゃ減っていますよ。
「件数」と「割合」を分けて考える視点
でもここで鋭い人はふと思うわけです。「ちょっとこのデータ、おかしくないですか? だって、最近結婚する人も減っていません?」と気づく人は気づくんです。すなわち、離婚件数を見ていきましたが、そうじゃなくて割合を見ていくのはどうですか? つまり結婚した人のうち離婚した人は何パーセントぐらいなんでしょうか?

ということでみなさんにお見せしましょう。(スライドを示して)こちらです。これを離婚率と呼びましょうか。婚姻件数に対しての離婚件数ですね。2001年からデータの推移を見ていくと、実は割合はほとんど変わっていません。ずっと35パーセントから40パーセントぐらいの間です。これを、行き来している感じ。ほとんど変わらないんですよ。およそ3組に1組が離婚しています。

その割合はなんとこの20年以上変わっていないんです。んっ? ちょっとおかしいですよ。何がおかしいかというと、さっき離婚は減っているという話をしました。でも、これは変わっていないじゃないですか。あれれ? なんかちょっと表現がおかしい気がします。
つまり何が言いたいかというと、先ほどは「ここ10年の国内の離婚は増えていますか?」という質問をしました。この質問って、横ばいも正解だし、減少傾向も正解なんですよ。2種類の答えがあるんです。
つまりみなさんがちょっと疑問に思わなきゃいけなかったのは、「それって件数ですか? それとも割合ですか?」という視点です。この視点がなければ間違えませんか? わからないですよね、どっちが正解か。両方正解なんですよ。

逆に言うと両方間違いなんですよ。件数で言ってきたら割合のほうで言っちゃえばいいとか、両方間違いにすることができます(笑)。おもしろいですね。
人口減少も含めて「どの分母を見るか」を問い直す
データを見ていくのはなかなか難しいです。先ほどお話ししたとおりで、婚姻件数はめちゃくちゃ減っています。(スライドを示して)こちらです。2001年は75万組の夫婦が誕生したよというところから、2024年はなんと50万組を切っています。めちゃくちゃ減ったわけです。結婚する人自体が減っています。

でもここで、まだ疑問に思ってほしいんですよ。ここで終わりではありません。なぜかというと、最近こんなニュースがありますよね。そう、少子高齢化です。
子どもの数が減っているんですよ。日本の人口が減っているんです。ということは、日本人口が減っているから離婚件数が減っているなんていう仮説はどうですか?
「結婚する人が減っている」ではなくて、「人口が減っているから離婚件数が減っているだけなんだ」という意見って、どうですか? これもありじゃないですか。
じゃあ、ちょっと見ていきましょう。(スライドを示して)これは日本の総人口の推移に対しての離婚件数の推移です。ということは、これも一応離婚率みたいなものなんですよ。だって、これは日本の人口に対しての離婚件数じゃないですか。「婚姻件数に対しての」ではないわけです。でも、これも定義できますよね。これも離婚率になるわけです。

これ、見ていくと、あれ? 減っていますね。ということは、日本の人口の減り具合よりも速く、離婚件数が減っているわけです。日本人口の総人口減少のインパクトはそこまでではなくて、離婚件数のほうが減り具合が速いよと言っているわけです。おもしろくないですか? こんなふうにデータを見ていかなきゃいけないんですよ。データを正しく読むって実はめちゃくちゃ難しいです。
「離婚した割合は増えていますか? 減っていますか?」という質問の場合でも、結婚している人に対してどうか。あるいは日本の人口に対してどうかを観察しないと結論が出ないんですよ。

それぞれの値の増減を観察したり、もしくはこの2つの関係性、あるいは割合で見ていったらより正確に離婚が増えているか減っているかはわかるじゃないですか。ここまで見ないと駄目だよと言っているわけです。よろしいでしょうか。
データを見るって難しいですね。実はこれがクリティカルシンキングです。だいぶクリティカルシンキングの紹介が遅くなりましたが、楽しめましたかね? なんとなくその意味とおもしろさが伝わったのであればなによりです。