【3行要約】 ・
『新 問いかけの作法』出版を記念して、著者の安斎勇樹氏によるウェビナーが開催されました。
・安斎氏はAIの推進や働き方の多様化により、信頼関係構築のコストが増大し、組織の一体感が失われる恐れがあると指摘します。
・ファシリテーターには「問いかけの技術」で内面に迫り、多様な興味を引き出すことで、生成AI時代の新たな協働を実現する役割が求められています。
前回の記事はこちら 意思決定を阻む3つのズレ
安斎勇樹氏:「これ、なんで大変なんだろうな?」といった時に、やはりこのハードル、阻害するものがいろいろあると思っています。その中の重要なものの1つが、僕は「適応課題」と呼ばれるものだと思っているんですね。これを私は「意味のズレ」「期待のズレ」「動機のズレ」と整理しているわけなんですけれども。
まず、「適応課題」って何かというと、これは
『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』の中でも解説しています。世の中の問題・課題って、「技術的な課題」と「適応課題」に分けられます。技術的な課題というのは、解決策が明確で、専門家に聞けばわかるとか、ちゃんと調べればわかるものです。
適応課題というのは、自分たち当事者のものの見方とか関係性を変えていかないと変えられないような課題。自分が変わらないといけない問題ですね。こういうものを適応課題と呼んでいます。
だいたいチームの問題とか、チームで一丸となれないとか、良いものづくりができないとか、目線が合わない時って、一人ひとりの言葉の定義や解釈が違ったり、「良いアイデア」の基準が違うとか、物事に対する意味のズレがある。
ファシリテーターの仕事はズレを解消すること
あとは、背負っている役割とか責任とか権限が歪んでいたり。あるいは認識がズレていることによって、Aさんは「Bさんがやってくれる」と思っていて、Bさんは「Aさんがやってくれる」と思っているような期待のズレだったりとか。
あるいは一人ひとりの動機のズレ。最初はこうしたかったんだけど、やっていくうちに見失われて、自己目的化してしまう、みたいな時間軸のズレもそうだし、一人ひとりの温度差、熱量の差だったりとか。

こういうような、人間のものの見方とか関係性とかモチベーションとか、目に見えない内面で起こっているズレが、「一人ひとりの好奇心を活かして、みんなで物事を楽しもう」という、この理想的なスローガンを邪魔してくるんですよね。これが適応課題と呼ばれるものなわけですよ。
『冒険する組織のつくりかた』の中でも、この話のエッセンスを書いています。「ファシリテーションとは結局、ズレを察知して、可視化して、消し込むことなんだ。こうやってズレを解消するというのが、ファシリテーターの仕事なんだ」ということを書いているんですね。
生成AI時代は適応課題が増幅する
こういったズレが組織的に肥大すると、いろいろな問題が起きてきます。どうやって組織全体でズレを是正していくのか? ズレを解消して整合性を取っていくのか? 実は、これを議論して書いたのが『冒険する組織のつくりかた』の第2章なんです。
組織全体のズレはもちろん大事なんですけれども、こういう大きいズレって、半径3メートルの職場でのコミュニケーションとか、日々のミーティングやちょっとした会話とか、ちょっとした指示の出し方とか、そういうところのミクロなズレが、どんどん増えていくわけです。

これを身の回りで解決していくことが、ファシリテーションの仕事だと思っているんです。なので、「適応課題に起因するズレを解消すること」というものを、ファシリテーションの定義の一部に入れたんですよね。
その上で、共同的な探究を支援していきます。一人ひとりの興味や組織的な興味に基づく、ちょっと長い目で物事を探究していくことを支援する方法論の総称。その1つはワークショップかもしれないし、そうでない方法でもできるかもしれない。制度を作ることや、もしかしたら情報を可視化することでできるかもしれない。
そんなふうにズレを解消することで、一人ひとりの好奇心がちゃんと発揮され、興味が深まっていく。その過程の支援が「ファシリテーション」だと、こんなふうに名付けたんですよね。