【3行要約】 ・
『新 問いかけの作法』出版を記念して、著者の安斎勇樹氏によるウェビナーが開催されました。
・効果的な質問テクニックとして、具体的な数値で聞く、クローズドクエスチョンとオープンクエスチョンを組み合わせる、選択肢を用意するなどの方法があります。
・安斎氏は、これらのテクニックを活用することでより充実した会話が生まれ、相手の本音を引き出すことができると提言します。
前回の記事はこちら 日常でも使える質問のテクニック
安斎勇樹氏:私のここまでの話をまとめると、15年前に自分が同じワークショップを何十回も繰り返して、何百人からデータを取ってA/Bテストをした結果、「質問1つでこんなに変わるのか?」と気づいて研究生活がスタートし、博士論文まで進みました。
その後は「100年後のシチズンのデザインを考える」「4万6,000人の資生堂の社員に理念を浸透させる」というような大きなプロジェクトの時こそ、小さい質問に工夫を凝らす。質問1つで劇的に変わるから。これをある種の職人的にずっとやってきたのが、このコピーに詰まっているわけなんですよ。
今、シチズンさんや資生堂さんの事例をお見せしましたが、大きな話だけじゃなくて、日常の些細なところでできることなんです。
「特にない」と答えざるを得ない質問の例
やはり、世の中には「特にないですね」って答えたくなる質問が、めちゃくちゃ使われているんですよ。みなさんも経験はないですかね? まず代表格は、上司が企画案を持ってきて「何か改善案とか、フィードバックはないですか?」ってやつですね(笑)。
だいたいの確率で「特にないですね」「いいと思いました」みたいな(笑)。この質問には「特にないですね」って言いたくなる魔法がかかっているんです。もう、問いかけの専門家が言うので信じてください。
他にもありますよ。「この会社で何かやりたいことないの?」みたいな(笑)。「いやぁ、そうですね。今のところは特にないですね」「ちょっと考えておきます」みたいなね。
あとは、善意で「何か食べたいものある?」と聞くと、「うーん。特にないかなぁ」と。「じゃあ中華でいい?」「いや、中華はちょっと」「お前が『何でもいい』って言ったんだろ」みたいな、戦争の引き金になる質問ですよね。
「この会社でやりたいこととか何かないの?」「いや、特にないですね」「うちの部下は主体性がないな」みたいな感じで、すごくネガティブなことにつながるわけですよ。これは「特にないですね」しか出てこない魔法がかかっているんですよ。
「ユーザーだったら何点?」と聞き方を変える
聞きたいことは一緒でも、ちょっと工夫すればいいんですよ。例えば上司がいきなり、作った企画案に「フィードバックはないですか?」と。「フィードバック」という言葉も重いじゃないですか。偉い人がするものだという思い込みが世の中的に多いですよね。
こういう時は、例えば「この企画って、あなたがユーザーだったら、100点満点で何点をつけますか?」と聞くわけですよ。そうすると、ユーザーのせいにできる。「私じゃなくて、ユーザーの目線で見たら70点ぐらいですかね」みたいな。点数で聞くというのもポイントです。点数なら絶対に答えられるわけですよ。
Zoomミーティングでこんなこと「フィードバックはないですか?」と聞いたら、みんな画面オフ、ミュートですよ。「いないのかな?」みたいになります。だけど、「ユーザー目線で見た時に、100点満点で何点か、チャット欄に書いてもらえますか?」と言ったら、絶対に書いてくれるんですよ。(参加者が)いればね(笑)。本当にいなかったら書けないですけど。
クローズドクエスチョンだけでは話が終わってしまう
これはこの本のこだわりで、多くの質問に関するノウハウって、けっこう「クローズドクエスチョンをやめろ」と書いてあるんですよ。
「オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンがあります。クローズドクエスチョンは、イエス・ノーで答えられるとか、答えが完結しちゃうものです。これでは盛り上がらずに話が終わってしまいます。オープンクエスチョンで自由に聞きましょう。そのほうが答えやすいし、自由度が高いし、盛り上がります」。
これは噓です。そうではなく、クローズドクエスチョンの後にオープンクエスチョンを挟むんですよ。これがけっこう重要で、「100点満点で何点ですか?」って、それだけでは終わっちゃいますよ。
終わっちゃうんだけど、いったんみんなに70点とか60点とか85点とか書いてもらって、「85点? けっこう高いですね。理由を聞いてもいいですか?」と言えば、点数をつけたばかりだから理由を話せるわけですよ。
「一方、○○さんは60点とけっこう低いですけど、理由を聞いてもいいですか?」「そうなんですね、なるほど。○○さんはどうですか?」「今、みなさんの平均を取ったら70点ぐらいだったんですけど、75点ぐらいに上げたくないですか? 5点上げるとしたら、どうでしょう?」と言ったら、気づいたらみんなが企画案にフィードバックしているんですよ。
これが問いかけの工夫で、(スライドの)左で100回聞いても絶対に出てこないですよ。だけど右で聞いて、理由を聞いたら、みんながこの企画案にフィードバックしちゃっているんですよ。何度も言うんですけど、これが「質問1つで劇的に変わる」という話なんです。
質問を分解すれば答えやすくなる
他にも、「この会社でやりたいこととか何かないの?」「いやぁ、特にないですね」と言っている主体性のない若者にこう聞いてみてください。「この1年でやったプロジェクトって、これとこれとこれがあったよね。強いて挙げるなら、AとBとCでどれが一番おもしろかった? あるいはどれが一番つまらなかった?」と選んでもらってください。
そうしたら、「いやぁ、悩むなぁ。でも、強いて挙げればBですね」「え、なんで?」と言うと、そこで語られる理由に、その人が何の仕事をおもしろいと思っているのか、何を大事にしているのかが表れるわけですよ。それを読み取って解釈すれば、「そういう仕事をもっとやりたいんだな」と。それがやりたいことじゃないですか。
だから、質問が悪いんですよ。問いかけのポイントは、ちゃんと絞ることです。思考の探索の範囲を絞ってあげる。主体性を確実に発揮できる足場をかけるんです。この場合だったら点数をつけてもらうとか、3つから選んでもらうとか。トランプを3つ指して、「どれがいい?」と選んでもらう。これで主体性を発揮できるわけですよ。
「中華と和食とイタリアンならどれ?」と聞かれたら、「うーん、和食かな」と言って、あらかじめ中華を排除できます。
そんなふうに、「特にないですね」を誘発する問いかけを使っちゃっていないだろうかと、ちょっとブレーキを掛けて、問いかけの工夫を凝らしてみる。これが「質問1つで劇的に変わる」ということです。
質問1つで冒険的世界観に変えるというのは、なかなか時間がかかるかもしれませんが、半径3メートル・5メートルでコツコツやっていくことが、自分たちのコミュニケーション、関係性、会議の空気を変えていきます。
チームの関係性を変えていくと、気づいたら心理的安全性も上がっていく。そして、気づいたら冒険的なチームになっていく。そうやって、確実に実行できるところから始めていきましょうというのが、この『新 問いかけの作法』という本なんですね。

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