【3行要約】 ・2025年11月21日の
『新 問いかけの作法』出版を記念して、著者の安斎勇樹氏によるウェビナーが開催されました。
・組織論は長らく軍隊的・戦争的思想に基づいていましたが、今や「会社中心のキャリア観」から「個人の内発的動機重視」へと大きなパラダイムシフトが起きています。
・安斎氏は「質問ひとつで劇的に変わる」という実証研究に基づき、創造性を引き出すには合意形成を意図的に遅らせるような問いかけの技術が有効だと提唱します。
前回の記事はこちら 組織論には軍隊的な考え方が食い込んでいるのでは
安斎勇樹氏:先ほどお話ししたとおり毎年、本を出していて。2025年の1月に
『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』という本を出版しました。これがある種、私の30代の集大成になるような書籍として、かつ、初めて組織論の本を書きました。この本も、もしかしたら読んでいただいている方もいらっしゃると思います。

この本は、私の中でずっと
『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』とか
『問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術』とかで、ずっとモヤモヤしていた問題設定が非常に言語化されまして。
それが何かというと、これまでのビジネスとか経営論っていうのは、あまりにも戦争的、軍事的だったと。戦略・戦術・ロジスティックス。こういったものは軍事用語ですし、実際に人材育成、トレーニングの方法論とかも、兵隊を育てる時に使われていたトレーニング手法や理論がベースになっていたりします。
組織論には軍隊的、戦争的な考え方が、かなり深層に食い込んでいるんですよね。これが、今は非常に問い直されていると思っています。キャリア論も大きく変わって、ひと昔前はいい会社に入って長く働く(ことが当たり前でした)。会社で出世していこうと考えたら、短期的に「これがやりたい、やりたくない」って、あまり言わないほうがいいとか、そういう感情を職場に持ち込むものじゃないとか。
「24時間、働けますか?」に「はい」と言った人が出世するみたいなね(笑)。今のは大げさな側面もありますけど、多少ならずあったわけじゃないですか。そういった、いい会社に入って長く働いて給料を高めていくという会社中心のキャリア観。
100年続く自分の人生を、どうハッピーにできるか?
そうやってミドルエイジでマイホームを購入するみたいなことが、ある種、家族を食べさせる最良の手段だったところがあった時に、今は前提が大きく変わっています。人生100年時代、そして働き方のバリエーションが多様化しています。1つの会社で長く働くより、転職や副業、兼業、独立も当たり前になって、「週3日間は会社で働いて、残りはフリーランスです」という人も増えています。
「100年続く自分の人生を、どうやったらハッピーにできるかな?」という選択肢の中に会社があるみたいな。天動説、地動説並みに、キャリア観がパラダイムシフトしている中で、人々の内発的動機とか、自己実現欲求とか「会社と自分が合わない」みたいな感覚とか。
「モヤモヤしているんだけど、どうしよう」とか、そういったことのプライオリティが上がってきているんですよね。そうすると欧米では、どんどん会社を辞める時代になっています。これは2021年のあとにグワッと急激に増えてきています。
仕事における意味とか、こだわりとか、「こういうことを大事に働きたいんだよね」とか「こういうことに、あまり時間を使いたくないんだよね」とか「夜の時間を大切にしたいんだよね」とか。
「私」がやる意味が問い直されている時代
あるいは「どうせやるんだったら、お客さんと上辺じゃない信頼関係を構築したい」「仲間として働きたいんだよね」みたいに、一人ひとりが仕事や人生において大切にしていることが違うわけですよね。
「なんで、この仕事をするのか?」「なんのために、これを作るのか?」。そういったことが、非常に問い直されている時代になっています。なおかつ、生成AIの時代です。そうなった時に、人間がやる意味。私がやる意味みたいなことも、これまでよりも考えなきゃいけない。
私はこういった世の中の変化を、この『冒険する組織のつくりかた』という本の中で、80年間ぐらい続いた軍事的な世界観が問い直されていて、「冒険的世界観」とでも呼ぶべきような(ものに変わっていますと書きました)。
我々はネジや歯車じゃない。「兵隊じゃないんだ、人なんだ!」「一人ひとり違うんだ!」「違う内発的動機を持っていて、違うことにこだわっているんだ!」と。
そういった自分の好奇心とか、興味とか、内発的動機を資源にしながら、短期的に勝つとか奪うとかじゃない、長い目で物事を探究していくような世界観に切り替わっています。これを私は「冒険的世界観」と名付けて、『冒険する組織のつくりかた』で叩き台を示したわけなんですね。
軍隊型のチームから、冒険型のチームへ
こういった中で、『問いかけの作法』が意味を持っていた。そして『冒険する組織のつくりかた』がアフターコロナの処方箋として読まれ、1つの軸となったことによって「この本(『問いかけの作法』)の意味合いって、ちょっと変わってくるよなぁ」と思ったんです。
なので、問いシリーズのコロナ禍における姉妹本というよりは、今の時代に冒険する組織を作るための、冒険シリーズの技術本として位置づけたいというのが、今回の改訂を行った最大の理由になっています。
なので、この表紙をよく見ていただくと、帯に「軍隊型のチームから、冒険型のチームへ」という言葉が出ています。旧版を読んでいただいた方はご存じだと思うんですけど、完全トップダウンのファクトリー型の組織から、半トップダウン・半ボトムアップのワークショップ型組織に切り替えていこうという図を使って「工場じゃないんだ! 工房なんだ!」みたいな文脈を書いていたんですね。
ワークショップの研究をずっとしていたので、これはこれで気に入っていたし、「これが好きだった」という人もいると思います。ですが、今回はこの図式を完全に文脈から削除して、軍隊と冒険という文脈にリプレイスしているんです。