【3行要約】・ネガティブに考えすぎてしまう思考パターンに悩むビジネスパーソンは多く、心のコントロール術が注目されています。
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『怒りをチカラに変える方法』著者の青木美帆氏は、ネガティブ思考は脳が生命を守るための自然な反応だと解説します。
・重要なのは思考に飲み込まれず立ち止まり、ニュートラルに受け止めてから自分の大事なものに基づいて行動することです。
『怒りをチカラに変える方法』著者・青木美帆氏が登壇
青木美帆氏(以下、青木):では始めていきたいと思います。今日は、ここに示した流れで進めていきます。まずは、私たちの「脳の反応」を理解するところから始めます。自分がどんな反応をしやすいのかを知り、そのうえで「コントロール度合い」をチェックするワークを行います。
その後、本題に入ります。

「出来事・思考・感情を切り分ける」というワンステップを挟み、みなさんにそのやり方を身につけていただきたいと思います。そして、切り分けができるようになったあとに「自分の大切なものを理解し、それに基づいて行動する」ことを扱います。その際に押さえておきたいポイントもお伝えします。
前回ご参加いただいた方から質問をいただいていましたので、最後にその回答も行います。
ここにある「ACT」という言葉ですが、これは「アクセプタンス&コミットメント・セラピー」という心理療法の1つです。今回のプログラムは、この考え方を応用して作られています。
みなさんも「認知行動療法」という言葉は聞いたことがあると思います。ACTは認知行動療法のあとに登場し、さらに発展したセラピーです。
認知行動療法は、「考え方のクセに気づき、それを現実的で役に立つ考えに修正していく」ことで、気持ちを楽にしていく方法です。そして、ACTは、この流れの中で生まれた“第3世代の認知行動療法”と呼ばれるアプローチで、うつや不安、慢性疼痛、ストレスマネジメントなど、さまざまな領域で効果が検証されており、多くのエビデンスが蓄積されています。
今回は、このACTの要素を取り入れて進めていきたいと思います。
セミナーの3つのゴール
青木:本日のゴールは3つあります。みなさんにはこの3つを持ち帰っていただきたいと思っています。

1つ目は、思考や物事に巻き込まれてしまう状態に、自分でストップをかけられるようになることです。または、周りの人がそうした状態になった時に、うまく止められるようサポートできるようになることも含まれます。
2つ目は、安心して自分の思考や感情と共にいられるようになること。つまり、思考や感情を受け止め、受容できる状態を目指します。
そして3つ目、一番大切なのは「自分の大事なものにしたがって行動できるようになること」です。これは自分自身にも言えることですし、マネジメントをされている方であれば、メンバーにも同じように促せるようになる。その状態を目指していきます。
物事を“薄目で見る”ことの効果
青木:さらに、持ち帰っていただきたいことがもう2つあります。スライドのオレンジの部分にある「物事を薄目で見る」という点です。「何のこと?」と思うかもしれませんが、これはとても大事な視点です。
私たちは社会人になってから、「物事をしっかり分析しよう」「論理的に把握しよう」といった訓練をたくさん受けてきました。その結果、そうした“しっかり見る”思考がとても強くなっています。
しかし一方で、物事の流れに身を任せたり、状況を少し距離を取って柔らかく見るといった“薄目で見る力”も必要です。これはあまり鍛えられてこなかった部分かもしれません。今回は、そのような感覚をつかむことも目的の1つです。この内容については、これから一緒に体験していきましょう。
また、3つ目のゴールとほとんど同じ意味になりますが、私たちは「価値観で動く」ということを大切にしています。自分が本当に大事にしたいと思っていることを、きちんと大事にできるようになってほしい。今日はそのきっかけを持ち帰っていただけたらと思っています。
ACTを学んだ方々からは、「学んでよかった」という声をよくいただきます。こうしたセミナーをすると、必ず印象的な感想をいただくんですね。例えば、「これをもっと早く知っていたら、これまでの振る舞い方が変わっていたかもしれない」とおっしゃる方がいます。
また、「今までは『ポジティブに考えなきゃ』『ちゃんとしなきゃ』と思えば思うほど、できない自分に自己嫌悪していた。でも、そんなふうに思わなくていいとわかって、すごく楽になりました」という声もあります。
さらに、「これまで避けていた場面があったけれど、ACTを知ってからはいろいろなことに向き合えるようになった」と話される方も多いです。こうした変化がまさにACTの効果だと思っています。みなさんにも今日のセッションを通じて、同じような感覚を持っていただけたらうれしいです。
多くの人が抱く「失敗するのでは…」という不安
青木:では、さっそく進めていきましょう。今日は参加型のセミナーなので、みなさんのご意見もぜひ聞いていきたいと思います。
これまでに、「物事を誇大に捉えてしまった」「少しネガティブに考えすぎた」「あんなに心配しなくてもよかった」と感じた経験はありますか? 1つでも構いませんので、ぜひチャットに書き込んでみてください。
北村祐三氏(以下、北村):美帆さん自身には、そういう経験ありますか?
青木:私、しょっちゅうあります(笑)。
北村:しょっちゅう(笑)。
青木:仕事でもよくありますね。最近はだいぶ落ち着いてきましたが、例えば、こうしたセミナーで登壇する時なんかは、「あれを言い忘れたらどうしよう」と不安になって、メモをたくさん作るんです。
北村:(笑)。
青木:結果、準備しすぎて逆にパニックになるタイプです(笑)。
北村:(笑)。
青木:北村さんはどうですか?
北村:僕もありますね。誰かに言われたちょっとした一言が、頭の中でどんどん膨らんでいくことがあります。
青木:あります、あります。
北村:あ、チャットにどんどん出てきていますね。
青木:ありがとうございます。「何事も失敗するのではないかと思ってしまう」。これ、すごくわかります。「何事も」というのがまたポイントですよね(笑)。
北村:あるよねぇ。
青木:私もそう思っちゃいます。「まだ起こっていない出来事をいろいろ心配してしまう」「発信したけれど、反応がいまいちだった」など、ありますよね。そして落ち込んだりして(笑)。
「自分の価値観を大切にすることは、自分軸で生きることだと思うけれど、それを押し付けないようにするバランスが難しい」「価値観を押し付けてしまうのではないか心配」という声もありました。本当にその通りだと思います。「相手の一言を大げさに捉えてしまう」など、共感できるものばかりです。ありがとうございます。
ネガティブに捉えるのは脳の自然な反応
青木:では、これを踏まえていきましょう。実はみなさんが挙げてくださったような反応は、「脳の反応として当たり前のこと」なんです。この仕組みを少し説明しますね。

私たちの脳は、もともと自分の身を守るようにできています。よく「闘争・逃走反応」と言われますが、これは危険を察知した時にすぐ行動できるよう、脳が瞬時に反応する仕組みです。つまり、基本的に物事をネガティブに捉えるようにできているんです。
例えば、毒ヘビが近くにいた時、「あ、やばい!」と思って逃げたけれど、もしそれがヘビじゃなかったとしても問題はありません。でも、「大丈夫だろう」と楽観的にその場にいたら、もし本当に毒ヘビだった場合、命を落とす可能性があります。
だから私たちは、生命を守るために、まず危険を察知した瞬間にネガティブに反応するようになっています。この時、「どうしよう? 本当に危険かな?」と考えていたら反応が遅れるので、脳はいったん思考を止めて体を動かすんです。
つまり、何かを言われた時、失敗した時、うまくいかなかった時に、瞬間的にネガティブに反応してしまうのは、ごく自然なこと。みなさんが挙げてくださった反応は、すべて自分を守ろうとする正常な脳の働きなんです。
大切なのは反射的な“ネガ反応”に気づくこと
青木:では、この反応が落ち着いた時にどうなるかというと、実はネガティブなモードはそのまま続いてしまうんですね。自分で意識しているかどうかにかかわらず、脳は基本的にネガティブな状態を維持したまま、「よし、状況や思考をコントロールしよう」というモードに入っていきます。スライドの青い3つ目の段階がまさにその状態です。
この時、ある人は嫌な感情を感じないように心を閉ざしたり、目の前のことを考えないようにしたりします。別の人は、人や出来事から距離を取ったり、「今の状況を変えよう」と強く主張してしまったり。こうした反応は、実は私たちの脳にあらかじめプログラムされている自然な働きなんです。
ですので、「こうなるのは普通の反応なんだ」と理解してもらえたらと思います。決して悪いことではありません。ただ、思考停止の状態や、ネガティブなまま物事をコントロールしようとする傾向に、できるだけ早く気づくことが大切です。
いったん立ち止まって、「あ、今こうなっているんだな」とニュートラルに受け止め、物事に飲み込まれないようにしてみる。そこから、自分の大事なものに基づいて行動を取る方向に切り替えていくことができるようになります。そして実は、それができるようになるんです。今日お伝えするのは、まさにその方法です。
私たちは誰でも自然にネガティブに考えてしまうものです。大事なのは、それを「変えよう」「押さえ込もう」とするのではなく、「今、自分はこういう状態なんだな」と受け止めた上で、「では、自分が本当に大切にしたいものは何だろう」と考え直すこと。そのうえで行動を取り直すことができるようになっていく、ということなんですね。
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