【3行要約】・英語は「学習」ではなく「経験」するものだという考え方が、多くの人の英語習得の壁を打ち破る鍵になります。
・英語講師のオールライト千栄美氏は、英語上達には明確な目的と動機が必要で、「やりたいことがあるから英語が後からついてくる」と語ります。
・日本人特有の「知らない人と話す恐怖」を乗り越え、困っている外国人に声をかけるなど、実践的な経験を積むことが英語力向上の近道なのです。
前回の記事はこちら 英語は「学習」するものではなく「経験」するもの
落合絵美(エイミー) 氏(以下、エイミー):最後におっしゃっていた「英語は学習するものじゃなくて経験するものだ」というのが、本当にすべてだなと思いました。ご経歴とご自身の経験をたどっていきたいなと思うんですけど、海外、イギリスに行ったのは大学でですか? お仕事の関係ですか?
オールライト千栄美氏(以下、オールライト):いや、ぜんぜん。大学時代は東南アジアがすごく好きで、東南アジアを放浪していて、英語は本当に話せなかったです。英語が耳に入ってもぜんぜん理解もできなかったし。ただ自分の知らない世界に興味があった。
留学もしたことがなかったし、そのまま英語とはまったく縁がない仕事に就きました。それこそNHKの『ラジオ英会話』を聴いてやった気になるだけで、具体に落としていなかった。まぁ、今なら(あの時)テキストを買ってやらなくても良かったかなと思います(笑)。
普通の会社だったんですけど、私だけ夏休みを2週間は取っていました。だいたいそこから、ちょっと様子がおかしい感じでしたけれども。
エイミー:様子がおかしい(笑)。
(会場笑)
海外のボランティアに参加するも「英語は一言も話せなかった」
オールライト:普通、夏休みは1週間なんですよ。でも営業職だったので、ふだん仕事をがんばって、いい成績を取る代わりに2週間休みを取るという。そこは「誰にも文句を言わせない」と決めていたんですね。新入社員の時から2週間休みを取って、アメリカやカナダに行っていた。
そこでは旅行するんじゃなくて、ボランティアや、何かのプログラムやプロジェクトを見つけて参加する。例えばカナダで大学のゼミのボランティアに参加したり。ボランティアだけど経験のためにお金を払うんですね。
私が「英語をやりたいな」と思ったのは、25歳ぐらいだったと思います。2週間、フロリダでマナティーをレスキューするボランティアに参加したんです。マナティーはそのへんに浮かんでいて、あんまり頭は良くないので、ドブみたいなところにはまってしまうんですね。
マナティーを保護して、水族館に持っていって、傷がないか見てあげるという。実はその時、私以外は全員カナダやアメリカから来た大学生だったんですが、私は一言も(英語を)しゃべれなかった。
でも順番的には、しゃべれるからそれをやるんじゃなくて、やるからしゃべれるようになるんです。
#英語は「目的」がないと上達しない
オールライト:英語が話せると、視野が広がったり自分の世界がすごく広がったりする。これはナントカ英会話の宣伝文句ですよね。でも実はまったく逆です。「これをやりたい。だから英語があとからついてきた」なんですね。そうじゃない人で英語が上達した人を見たことがないです。
「これをやります」があって、たまたまそれがイタリア語でした、フランス語でした、英語でした。だから、そのやりたいことがなければ、英語に時間を割かなくてもいい。英語に時間を割くことは、その時間を他のものから奪うことになるので。もしかしたら、もっと自分がやりたいことがあるのかもしれないじゃないですか。
だから「英語ができるといいですよ」ということは、私は一言も言ったことがないです。「もっと違うことをやったほうがいいんじゃないですか?」と言うことのほうが多いかもしれない。
エイミー:根底は子どもの頃の飽くなき好奇心がつながっている感じですかね。
オールライト:そうですね。別に学校の先生は何もしてくれないですね。
エイミー:(笑)。
オールライト:なんていうんだろう。すべてを学校で解決してくれなかったのが、私はすごく良かったと思っています。疑問はたくさんあったけど、変に答えをくれなかった。
中学の先生のことですごくよく覚えているのは、中学3年の時に、覚えなきゃいけない熟語で「out of order」があったんですね。先生が「out of order」の後、日本語で「故障中」と書いたんですよ。
それで、「こっちはoutなのに、なんでこっちは『中』なの?」と思って、「これから先生が説明してくれるんだな」と前のめりになっていたら、「はい、次にいきます」と。
エイミー:それはそういうものだと(笑)。
学校ですべてを教えてくれなかったことが「逆に良かった」

オールライト:そういうものだと。「そんなことを聞く人は誰もいません」という感じで(笑)。でも疑問はいっぱい持ち続けていればいいと思います。それを答えてくれるのが先生の役目でもないし、親の役目でもない。疑問を持っていたことが良かったと思っています。
中学の同窓会でも、先生に「先生たちは、何も与えてくれなかった」と言ったんです。ただ先生に本当に感謝したいのは、先生たちは、私から何も奪わなかったこと。
エイミー:すばらしい。言いたいことが2つあるんですけど、先に私の話をすると、私はこれまで28ヶ国ぐらい、趣味で遊びに行っています。私も知らないことを知るのが好きなので、あちこち行っているんですけど、ノリと勢いとジェスチャーで来てしまい、英語が身につかないタイプでして。
さっきのボランティアに参加したり、積極的にコミュニケーションを取ったり、興味を持って何かに取り組んだりしないと、行っただけじゃ身につかない(笑)。慌てて文法の本を読んでも、そりゃ身につかんわなと、すごくよくわかったというのが1つ。
失敗が怖くて英語を話せない人へ
エイミー:で、ここからが本題です。今、学校の話で「疑問に答えなかった」ということだけど、今日の参加者の方から、いくつか事前に申し込みの時に質問もいただいています。
要は苦手意識が染みついちゃって、「飛び込め」とか「行ってこい」「経験せよ」と言われても、「いや、やっぱり怖い」「踏み出せない」「勉強はしているんだけど、実践まで行き着かん」という方たちは、一定数いそうな感じなんですね。そういう苦手意識が染みついちゃった方は、どうやったら一歩を踏み出せるんですかね?
オールライト:本当に、そういう商売もありますからね。
(会場笑)
結局、英語はマーケット的には心理作戦なんです。コーチングと言うじゃないですか。コーチはマインドセット。だから、英語とコーチングは日本ではくっつくわけです。
でも、これから出てくるかもしれないけど、私が知っている限り、他の国でその2つがくっついていることはない。
ただマインドセットで、「間違ってもいいから」「間違っても怖くないよ」とかから「人格を変えましょう」「性格を変えましょう」まで行き着くことがよくあって。うーん、どうなんだろうな。そりゃ怖いんですよ。誰も間違えたくないし。
そもそも日本人のディスアドバンテージ(悪影響をもたらす要素)は、知らない人としゃべらないから。英語をしゃべることは、イコール、絶対に知らない人としゃべることじゃないですか。知らない人に何をしゃべったらいいか、まずわからなくないですか?
大西徳昭氏(以下、大西):それは、さっきの枠を変えることなんですよ。僕らの日本人の日本的なOSの中にはまっている間は、どんなことをやっても、なかなか結果が出ない。だからOSを変えるところにつながるんだよな。
「困ってる外国人」に話しかけられるか?
エイミー:どうぞ。
(会場笑)
カメラがそこにあるので、先生には前に出ていただいて。
大西:どうもこんにちは。
オールライト:これを乱入と言います。
(会場笑)
大西:乱入しました。どうも。私はVoicyのパーソナリティをやっていて、千栄美さんには月1回、私の番組で話をしてもらっています。弟が英語業界でお世話になっているにもかかわらず、僕はかなり英語産業に対しては批判的です(笑)。
人の悩みや弱みにつけ込んで、小銭稼ぎをしている人たちが多いなというのが正直なところです。中には真っ当なものもあるんですよ。でも真っ当じゃないものも多くて。
昔、僕は日本郵船という国際海運会社で働いていたので、英語を使って仕事をするのは当たり前。要するにできるとかできないじゃなくて、できないやつは仕事ができないという。そういう環境で叩き込まれたから、いや応なしだったんですね。
当時、僕も大学を出るまでは、まったく英語を話すチャンスがなかった。だから最初はできなかった。千栄美さんとそういう話をすると、僕も日本人だから間違えたら恥ずかしい。いろいろな英語セミナーをやっているので受講者のみなさんにはとにかく「場数です」と言うんだけど。
「いやー、場数なのは、わかるんだけど、ちょっと恥ずかしくて」という返答が多い。だけど最近よく言っているのは、今これだけインバウンドの人たちが多い中で、別に英語が母語じゃない人も山ほどいるわけです。僕は東京に住んでいるので、電車の中には困っている外国人がいっぱいいる。そういう時に話しかける勇気を持てるかどうか。
別に見てみないふりをするという、いつもの僕らのパターンでもいいんだけど。そこでおせっかいにちょっと声をかけてみる。言葉が通じなかったら、手を引っ張って連れて行ってあげるぐらいの負荷をかけることで、自分の今まで凝り固まった日本人としてのOSが………。
別に言語のOSだけじゃなくて、日本人の文化としてのOSを飛び越えることが、めちゃくちゃショートカットにできるんじゃないかなという感じがします。