「話したいことを何でも話してください」
話者2:じゃあ、ちょっと本題に入りますか。テーマは何でもいいので、岡田さんの話したいことを何でも話してください。どうします?
話者1:ありがとうございます。話したいこと? うーん、そうですね。
話者2:いや、ぜんぜん、何でもいいですよ。
話者1:すみません。思いつかなくて、ちょっと待ってくださいね。うーん……。
話者2:本当に何でもいいですよ。難しく考えてもらう必要はないので。じゃあ、先週、お客さんとの商談があったと思うんですけど、それについて話します?
話者1:あ、はい。商談が、うーん……いや、実はあれ、なんて言うんですかね。
話者2:(話の途中で)お客さんの反応は、ぜんぜん良かったですよね。もう一押し足りなかったですけど。
話者1:そうですね。
高圧的なコミュニケーションになっていないか
話者2:どうなんですかね。もうちょい資料がわかりやすかったら、もしかしたら(契約が)取れていたかもしれないですね。
話者1:あぁ、そうですね。
話者2:でもね、岡田さんもすごくがんばってくれていましたし、前日も夜遅くまで残って資料を作ってくれていたので。「努力は裏切らない」じゃないですけど、今のままがんばってほしいなと思うので、次また一緒に契約が取れるようにがんばりましょう!
話者1:はい。
話者2:じゃあ、ちょっと具体的に。次、どうします? もっと良くするためにできることが、いくつかあるんじゃないかなと思うんですけど。
話者1:そうですね、まずは先ほどおっしゃっていただいた資料の部分で構成をもう1回見直してみようかなと思います。あとはやはり、どういう順番でお客さんに伝えていくのがいいのかも、自分の中でもう少し深く考えて整理をしていきたいなと。
話者2:順番も大事なんですけど、やはり中身なんじゃないかなと思っていて。何がポイントで、それがあるからどんなメリットがあるのかという部分が、あまり伝わらないんじゃないかなと思うんですよね。これは前も言ったと思うんですけど(笑)、岡田さんの資料は、ちょっとそういう傾向があるかなと思っていて。
話者1:そうですね。ありがとうございます。毎回、言わせてしまってすみません(笑)。気をつけます。
話者2:本当に、お願いしますよ。岡田さんに期待しているので。
話者1:ありがとうございます。がんばります。
(動画の再生が終了する)
部下から考える時間を奪わない
森:さぁ、いかがでしたか? 今のやりとりの中でどんなことが起きていましたか? 印象に残った場面をぜひ教えていただければと思います。
「ここはこうじゃないか?」「いや、これはちょっとおかしいだろう」「あり得ないだろう」みたいなコメントでもいいので(笑)。ぜひいただけるとうれしいなと思います。ちょっとだけ待ってみようと思います。ちなみに、今出ていた2人は弊社のメンバーなのですが、演技力がすばらしいですね。
おっ、さっそくありがとうございます(笑)。(コメントを読んで)「クライアントが考えている沈黙の時間を奪ってしまっている」。そうですね。本当におっしゃっていただいたとおりです。
女性の部下がちょっと考え込む様子があったと思うんですが、上司もがんばって質問しようとするんですけど、沈黙に耐えられずに「じゃあ、こうしようか?」と決めてしまっているところがいくつかあったかと。
(コメントを読んで)「いきなり新婚生活の話」(笑)。そうですよね。「そういえば、新婚っすよね」というものが出てきていました。これはちょっと「おっ?」と思われた方、けっこう多いんじゃないかと思うんですけども(笑)。
上司としては一応、親しみを込めた言葉だったのかもしれないですが、部下がちょっと戸惑っている様子もあったと思います。そうですね、ちょっとリスクが高い言い方をしているなと(笑)。ありがとうございます。
上司が話して、部下が聞く場になっている
森:(コメントを読んで)なるほど。「『どうですか?』って、答えにくいと思います」(笑)。そうですね。上司もがんばって質問しようとはしているんですね。言葉の使い方になるかもしれないですね。
(コメントを読んで)「リーダー側がリードしてしまい、クライアントは本当に話したいことが話せていない」「クライアント自身の気づきにつながらない」。はい。全体的に上司のほうが「こういうふうに持っていきたい」というところがあったような温度感だったかなと。ありがとうございます。
もしまだ考えている方がいらっしゃったらそのまま入れていただけたらと思いますが、ここから少し、みなさんからいただいたことも踏まえつつ解説をしていきます。
一言でお伝えすると、こうですね。「上司が話して、部下が聞く場になっている」。どっちの1on1やねんと。結局、上司のほうがいっぱい話していました。
待っていたら部下から話が出てきたかもしれない
森:例えば、(コメントで)ご指摘いただきましたけど、「僕も新婚の頃は大変だったので、わかります」と。上司としてはアイスブレイクのつもりだったのかもしれないですが、これは部下からすると「おっ? この話か」という。もちろん、その前提の関係性による部分もあると思うんですけど、ちょっとこの状況では部下が戸惑っていたように見えましたね。
「テーマは何でもいい」「どうですか?」「何でもいいですよ」。「『何でもいい』と言われても、何を答えたらええの?」って、問いとしてはあんまり精度が高くないというか(笑)。あえて「何でもいい」と言われると答えづらいですよね。
とか、「じゃあ、先週の商談の話をしましょうか」というところ、これは(コメントで)おっしゃっていただいた部分かなと思うんですけど、部下からテーマが出てこなかった時に、「じゃあ、もうこうしようか」と、すぐに上司が決めて進んだ部分がありました。
もう少し待っていたら、「実はこれをちょっと話したくて……」というものが出てきたかもしれません。まぁ、「かもしれない」なのでどうなるかはわからないんですけど、もうちょっと待っても良かったかもしれない。
また、「前も言いましたよね?」と、最後がちょっと高圧的になっていたかなと。もちろん短い時間だったんですけど、部下から「こうしたほうがいい」とか「こうしたい」ということを引き出せていませんでした。
“問題を解決してあげなければいけない”という誤解
森:ここから、ぜひ一緒に考えていきたいんですが、なんで上司はこういった1on1を行ってしまうんでしょうか?

これは本当にありがちです。今の動画は、いろんな方にも見ていただいたんですけど、「確かに、うちの職場でもあるよ」という声をいただくこともあって(笑)、本当に笑い事じゃない、よくあることだと思います。なんでこうなってしまうんでしょうか?
(スライドを示して)さぁ、「上司の頭の中」ですね。例えば「部下の抱えている問題を解決してあげなければいけない」「目に見える成果を早く出さないといけない」。これは研修やアンケートで実際にあったご意見なんです。
やはり上司の方からすると、その時間ですぐに結果を出したい。部下の問題をなんとか解決して、「次、どうするか?」に持っていかなきゃいけないという前提を持たれている方はかなり多いですね。
これはもちろん業界にもよると思うんですけど、特にヒエラルキー。上司が答えを持っていて、部下がそれを聞くんだというコミュニケーションがずっと続いてきた業界や企業だと、1on1をやっても、これまで築き上げてきたスタンスがあるので、先ほどみたいになってしまう。
部下が自ら考えるのを促していくのがポイント
森:(コメントを読んで)ありがとうございます。「やり方がわからない」「アドバイスしてあげたい」。確かに早く終わらせたいというのも、本当におっしゃるとおりですね。「そもそも時間の無駄だ」「ほかにやることがいっぱいあるやろう」というのも実際にあって、これは特に部下の数が多い上司の方に多いんですね。
あとは「そもそもなんで1on1をやるのかが腑に落ちていない」。これがけっこうあるんですね。「ふだんからコミュニケーションが取れているのに、なんでわざわざ1on1をやらなきゃいけないんだ?」ということですね。
こういった場合は、そもそも会社がどうありたくて、そのための手段としての1on1があって、その中で「じゃあ、何をやってほしいんだ?」「何をやるべきなんだ?」ということがなかなか伝わっていない状況がありますね。
(スライドを示して)冒頭にもお伝えしたように、ポイントはここなんですね。「自ら考えるのを促していく」ということなので、これができないと1on1をやる意味がありません。

これは取り扱い注意なんですけど、こういったことが続いていくと、結局どんどん部下が考えなくなりますし、形骸化してくる。「早く終わらんかな」という時間になってしまうので、取り扱い注意なんですね。
だから上司の不安のモヤモヤを一つひとつ解決していくことが、1on1を成功させていくための秘訣になるんだということをお伝えさせてください。