経験学習プロセスを1人で完結させるのは難しい
一方で評価面談は、どちらかというと目標を決めて進捗管理をして評価をする。上司が主体となって目標のフィードバックをしたり、「じゃあ次、半年後にどういう状態になっているんだ?」というふうに主導することが一般的には多いんじゃないか。じゃあ、この1on1の背景にはどんな考え方があるのかを1つご紹介します。
「経験学習モデル」という考え方があります。これは人がどういうプロセスを経て成長していくのかを表しています。(このモデルによれば)4つのプロセスを経て学びを獲得し、成長すると言われています。
それは経験、振り返り、概念化、実践の4つのプロセスです。この振り返りと概念化が1人ではなかなか難しい部分で、1on1で定期的にやっていくのがポイントになります。
じゃあこの振り返り、概念化とは何ぞや? ということをもう少し具体例で紹介していきます。ある営業の方の例だと思ってください。「顧客訪問(の実績が)10件だ」「がんばってプレゼンした。ただ、成約にはつながらなかった」という状況があったとします。
ここで、「じゃあ次はもっと(増やして)、20件訪問しよう」ではなく、いったん「この経験がどうだったの?」ということを考えていく。これが振り返りですね。
1on1で振り返りと概念化の精度を上げる
例えば「(自分の)話し方はどうだったのか?」「その時の自分の状態はどうだったのか?」「お客さんの反応はどうだったのか?」「結局は自分が話したいことを話してしまっていたかもしれないな」思考や感情の棚卸しをするとその時の事実や状態が見えてくる。

そこでとどめずに、さらに、「それはつまるところどういうことなんだろう?」と考えるのが概念化です。意味づけという言葉でも表すことはできます。
そして、「お客さんのニーズがわかっていなかったか。これを先に理解すると、もっといいプレゼンになるんじゃないか」ということを考えた。じゃあ次は、「とりあえず訪問」ではなくて、「まずはお客さんの情報を集めてみよう」というふうに行動も変える。こういったサイクルをグルグルグルグル回していくことがポイントです。
1人で仕事をしていると、この振り返りの時間がなかなか取れなかったり、先ほどバイアスについてもお伝えしましたけど、概念化をする上で、自分だけの視点に限られたり。
そういうのを、例えば「お客さんはどうだったんだろう?」という問いや、別の視点からのフィードバックをもらうことで、言語化して仕事の質が高くなっていくということです。結果、人の助けを借りながら自分で考えていくことができるようになります。こういった経験学習を回していくことがポイントになります。
1on1を導入する企業が増えている4つの背景
じゃあ、どういう背景があってこの経験学習、1on1を企業がこぞって導入しているのか。
簡単に触れておくと、VUCAの時代で社会がどんどん変わっていき、どう生きていくのかという価値観が多様化していて、一人ひとりの目指すものが、本当にその人それぞれになっている。例えば、場所に縛られない働き方が増えた。他にも、業務の個別化。部下がやっている仕事も、上司がやったことがないことが当たり前のように増えてきたと思います。

だからこそ、自分で考えて行動することが必要不可欠ですし、かつ、どんなキャリアを歩んでいくのかも、上司が部下に答えを提供できない。だから自分で考えて行動することが必要です。
ということは、上司として何が必要なのか。その部下を深く理解して、一人ひとりに合った成長の支援をしていくこと。こういった文脈の中で、上司と部下の対話の機会である1on1が増えてきたところがあります。
実際、ある1on1を実施している企業の人事担当者向けのアンケート結果では「コミュニケーションの機会が増えた」「部下のコンディションが把握できている」という声、コミュニケーションとか関係性のに関するところが多いんですが「部下の成長が見られる」といった効果も挙げられています。
検索数は5年で約4倍に
ここ数年でどんどん1on1を実施する人が増えているんですね。実際、Googleの検索ボリュームもちょっと見てみたんですけど、1on1というテーマはかなり増えています。
見方としては、2024年の5月ぐらいを100、一番検索された状態だとした時に、2019年だと約4分の1ぐらいの検索ボリュームだった。それだけ1on1に対する注目も高まってきていることがデータとしても言えることをご紹介させてください。

じゃあ、どんな企業が1on1を導入しているのかというと、ここはもうかなり有名なんですけども、やはりヤフーさん(現在はLINEヤフー株式会社)ですよね。
これは日本の1on1の導入の先駆けとなったと言われているんですが、今でも9割ぐらいの社員の方が1on1をされてます。
楽天さんも2017年から全社的に1on1をやっている。楽天さんが特徴的なのは1on1の中では上司から部下への指導は行わないと決めているんですね。それだけ自分で考えることを大事にされているからだと思います。
企業によっては1on1の中でティーチングもやる。ティーチングというのは、教えることもやりますし、部下から引き出していくコーチング的な関わり方をやるところもあって、本当に会社の目指す姿であったりコミュニケーションの状態次第だと思うので、楽天さんの1on1はなかなか特徴的かなというところです。
幅広い業種で導入が広がる
これだけ聞いていただくと、「IT企業だからできるんじゃないか?」と思われた方もいらっしゃると思います。私はいくつかの会社さんに1on1の支援をさせていただいているので、例えば今、1つだけご紹介させていただきます。
あるメーカーさんでも、1on1の取り組みをやっています。背景を少しご紹介すると、これまで年功序列の風土があったが、そうじゃなくて、成果を出した人を評価する風土に変えていきたいと。
長期的な未来を見た時に、もっと現場で一人ひとりが改善策などを自分で考えていける、そして成果を出した人が評価される風土にしていきたいよねということがある。
人事制度を変えたという背景もありますが、制度を変えるだけだと、一人ひとりのコミュニケーションとか行動はなかなか変わっていかないという背景があってご相談をいただきました。今まさに研修であったり、「実際、どうやって1on1を活用しているの?」という対話会を企画するお手伝いをさせていただいています。