【3行要約】・会議が長引き生産性が上がらない問題は、多くの日本企業が抱える課題として知られています。
・デンマーク文化研究家の針貝有佳氏の調査によると、デンマーク企業では3分の雑談を重視し、目的を明確にした短時間会議が定着。
・ファシリテーション教育の充実と、フラットな組織文化の構築により、効率的な意思決定システムを作ることが重要です。
前回の記事はこちら やりたいことを実現した人の共通点
針貝有佳氏(以下、針貝):最後に、「やりたいことを実現するために」というテーマについてお話しします。これは今回の新刊
『デンマーク人はなぜ会議より3分の雑談を大切にするのか』の裏テーマでもあります。
どうすれば個人として、あるいは組織の中で、自分がやりたいことをかたちにできるのか。私自身の関心もあって、多くのデンマーク人に聞きました。その中で共通して出てきたポイントがあります。
まず大切なのは、自分をイノベーターだと意識することです。自分の人生は自分でつくっている。人生も組織も社会もより良くするために、自分自身がイノベーターなんだという意識を持つ。デンマーク人はよく「自分で運転するんだ」「運転席に座るんだ」と表現します。自分が物事を動かしているんだという主体的な意識を持つのです。
次に、理想を思い描くことです。世界的に成長したデンマークのソフトウェア企業でも実際に行っていることですが、プロジェクトを始める時には、まず「最終的にどうなっていたら理想か?」を考えるのです。
例えば「憧れのメディアの表紙を飾っているとしたら、どんな見出しで、どんな写真で載っているのか」をイメージする。リミッターを外して理想を描き、その理想に向けて一歩一歩、日々の選択を積み重ねていきます。
また、やりたいことを実現している人に共通していたのが、「気になる人、会いたい人に自分から会いに行く」という姿勢です。フリーで活動している人なら憧れの人に直接アプローチする。組織にいる人なら、立場に関係なく「これをやりたい」と声を上げて上司にノックしに行く。雑談をしながらでも話しかけに行く。
そこから相性が合い、理解してくれる人や応援してくれる人が見つかれば、その関係を大切に育てていく。そういった人との出会いがお互いを引き上げ合う大きな力になるのです。

さらに勇気付けられる言葉として、BIG(ビャルケ・インゲルス・グループ)で活躍する日本人建築家の小池良平さんの話があります。彼は「抱えている問題が大きければ大きいほど、その解決策は画期的でおもしろいものになる」と語っていました。
問題が大きいということは、見方を変えれば、未知の可能性が広がっているということです。大きな問題に向き合うほど、イノベーションが生まれるチャンスも増えるという考え方です。
自分のキャリア開発につながるワーク
針貝:そして最後に、未来を楽観的に信じて挑戦し続けることです。デンマークでやりたいことを実現している人たちは本当にタフです。例えば「倍率30倍」と聞いた時に「無理だ」と考えるのではなく、「30回挑戦すれば可能性はあるんだ」と考える。挑戦しなければ実現するものもできない。だからこそ、楽観的に信じて挑戦し続ける姿勢が非常に大切になります。
だからこそ恐れや不安を出発点にするのではなく、未来を楽観的に信じて勇気を持って一歩を踏み出すことが大切です。その一歩から必ず何かが生まれるはずです。
みなさんにも、より良い人生や社会、そして環境をつくるために、多角的で長期的な視点を持ちながら、良い商品やサービス、さらには自分自身のキャリアを育てていっていただきたいと思います。
ここで私が作ったワークを1つご紹介します。先ほど触れたダブルダイヤモンドというモデルを、自分自身のキャリア開発に応用できると考えて形にしてみました。

まず「今の自分にはどんな問題があるのか?」を書き出します。その中からネックになっている問題を明らかにし、「自分は将来どうなりたいのか?」を描きます。
次に、その理想の自分に近づくためには何ができるのかを考え、リミッターを外してアイデアを出していきます。そして「その実現のために一番大切なアクションは何か?」という鍵となる行動を定めます。このプロセスを通して、自分の進むべき方向や必要な行動が見えてきます。今日は時間の関係で一緒にワークをすることはできませんが、ぜひ後で試していただきたいと思います。
これで講演は締めくくりとなります。『デンマーク人はなぜ会議より3分の雑談を大切にするのか』というテーマでお話ししてきましたが、今日の話の中で「これならできそうだな」と思ったことや、心に残ったキーワードを一つでも2つでも書き出してみてください。そしてそれを、明日からの実践の中で小さな実験として試していただけるとうれしいです。ご質問やコメントがありましたら、ぜひチャット欄にお寄せください。
デンマークの企業文化の変化
河北隆子氏(以下、河北):ありがとうございます。質問がたくさん寄せられていますね(笑)。
針貝:(笑)。
河北:実は先ほどの「キーワードを書き出す」というワークも、もしこの時間でできれば皆さんと一緒に取り組んでみたいのですが、その前に寄せられている質問にご回答いただきたいと思います。軽めのものからいきましょう。
「デンマークではテレワークはコロナ前から浸透していたのでしょうか?」という質問です。
針貝:はい、テレワークはコロナ前から浸透していました。家庭の事情、例えば子どものことや荷物の受け取りなど、そうした理由でもテレワークはOKだったんです。もちろん職種によっては難しい仕事もありますが、できる仕事であれば事情を説明して在宅勤務をするのはごく日常的に行われていました。
河北:ありがとうございます。続いて働き方に関する質問です。オフィススタイルについてですが、先ほど映像でも紹介がありました。「フリーアドレスの職場が多いのでしょうか?」という問いです。
針貝:必ずしも全部がフリーアドレスというわけではありません。フリーアドレスでコワーキングスペース的に使っている企業もあれば、しっかり自社オフィスを構えている企業もあります。規模によって違いがあって、小さな企業ではフリーアドレスが多い傾向がありますね。
河北:ありがとうございます。では次の質問です。「日本では依然として上下関係が厳しい文化が残っていますが、デンマークもかつてはそうだったのでしょうか? また、どうやって今のようにフラットな関係へと変わっていったのでしょうか?」
針貝:これについては、正直どの時点から変わったのかを明確に答えるのは難しいです。ただ非常におもしろい体験をしたんですが、昨日ある学校を訪ねた時に、1942年からの卒業写真が飾ってあったんです。
見てみると当時の学生は男性はスーツにネクタイ、女性はワンピースで、とてもフォーマルな装いでした。それが時代を追うごとに、だんだんと崩れていって、今のカジュアルな雰囲気になっているんです(笑)。
企業文化も同じで、かつては上下関係が強く、かっちりとした組織文化がありました。でも、時代の流れの中で少しずつ変わり、今のようにフラットでお互いを活かし合える文化になってきた。これはデンマークも変化のプロセスを経験してきたという点で、日本にとっても希望の持てるメッセージではないかなと思います。
“収拾がつかない会議”にならない設計
河北:デンマークは戦略的に国家として舵を切った部分もあるのかもしれませんが、同時に市民一人ひとりが「これでいいのだろうか」と考え、ボトムアップ的に文化を変えていったようにも思えます。どちらの要素もあるのでしょうか?
針貝:おっしゃるとおり、両方あると思います。ただ、もともとパイオニア精神が強い社会なので、やはりボトムアップの文化は根付いていますね(笑)。
河北:確かに。
針貝:さらに言えば、デンマークでは農民のための学校というのができて、農民が教育を受ける機会を持ち、社会を良くするためにディスカッションをする文化が育まれてきました。そうした教育の積み重ねも、フラットで対話を重んじる社会のベースになっているのだと思います。
河北:ありがとうございます。今の上下関係の話に関連して、「ビジネスの場でお互いの意見を尊重し合うのはすばらしいけれど、逆に議論が収拾つかなくなることはないのでしょうか? もし収拾がつかなくなった時は、それもまた寛容に受け止める雰囲気なんでしょうか?」という質問も来ています。
針貝:実はその点が非常に重要でして、本の中にも「会議術」として書いた部分なんですけれど、そもそも収拾がつかなくならないように設計されているんです(笑)。会議を始める前に「この会議の目的は何か」ということを明確にして、アジェンダを設定します。
その上で「この議題を議論するには誰が必要なのか」「どの立場の人が必要なのか」を考えて、必要な人だけを呼ぶんですね。そうやってメンバーを絞る。さらに会議には必ずファシリテーターがいて、議論を建設的に進める役割を担います。
また、開始時間だけでなく終了時間も最初に決めておくことも徹底しています。延長はしない。もし時間内でまとまらなければ、その会議はいったん終了させます。その後、それぞれが持ち帰って整理して、また必要な人だけ集めて5分の短い会議をやると、驚くほどスムーズに解決することも多いんです。つまり、長引かせずにコンパクトに回していくのが特徴です。
ファシリテーションは学べる
河北:非常に目的に即した時間の使い方で、アウトプットも明確。無駄を省いていますね。それに加えて、ファシリテーターの役割も大事ですね。ある方も「ファシリテーションにはシビリティ、つまり思いやりや相手を尊重する姿勢が必要」と書かれていましたが、参加者から意見を引き出し合い、活かし合う姿勢が自然と共有されているということなんでしょうか。
針貝:そうですね。興味深い例ですが、コペンハーゲン市の職員に日本人の方がいて、その方がファシリテーターを務めているんです。お話を伺ったら「ファシリテーター用の教育をちゃんと受けている」とおっしゃっていました(笑)。つまり、どうやって議論を進めるかという技術も、しっかり訓練されているんですね。
河北:なるほど。では、それは誰もができるようになるよう教育していくんですか? それとも向いている人が専門的に担っていくのでしょうか。
針貝:両方ありますね。ファシリテーションが得意そうな人には上司が「やってみないか」と声をかけることもありますし、将来的に管理職を目指す人には必要なスキルとして提供されます。つまり、適性を見ながら教育の機会を与えていくというかたちです。
河北:なるほど、ありがとうございます。