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【特別公開】「デンマーク人はなぜ会議より3分の雑談を大切にするのか」オーセンティックリーダーズ・アカデミアゲスト授業(全5記事)

世間話ではない“職場の雑談”の目的 上司が押さえる 勤務時間に組み込む運用の基本

【3行要約】
・職場の生産性向上が求められる中、具体的な改善策に悩む企業が多いのが現状です。
・デンマーク文化研究家の針貝有佳氏は、デンマークでは勤務時間内の雑談が単なる世間話ではなく、お互いの状況や強みを理解し合う重要なコミュニケーション手段として活用されていると言います。
・日本企業も、従来の会議中心から脱却し、カジュアルな対話の時間を意図的に設けることで、イノベーション創出と生産性向上を実現できるのではないでしょうか。

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勤務時間に行う“世間話ではない雑談”

針貝有佳氏:「閉鎖的で堅苦しい職場では生産性は上がらない」という考え方は、コワーキングだけでなく企業のオフィス作りにも浸透しています。例えば製薬会社ノボ ノルディスク社でも、開放的で風通しが良く、カジュアルでリラックスできる空間を意識したオフィスが整備され、雑談スペースも設けられています。

ここでいう「雑談」は、日本人がイメージする世間話や豆知識の交換とは少し違います。デンマーク流の雑談は、知識がなくてもできる軽い近況報告や、自分の趣味や関心について話すといったものです。その目的は相手の人柄や状況を知り、お互いを活かし合うことにあります。

雑談には「話しやすくなる」「興味や関心が分かる」「得意・不得意を理解できる」「相手の状態を把握できる」といった効力があります。例えば「今週はこの人、少し疲れているな」と状況が分かれば、それを考慮して働き方を調整できます。つまり、雑談はお互いをケアしながら協働するための重要な手段なのです。

デンマークの職場では、こうした雑談を勤務時間にあえて組み込んでいます。年に数回の大きな交流イベントだけでなく、部署ごとに週1回の朝食会を開いたり、オフィスのコーヒーマシンや共有スペースで立ち話をしたりするのが日常です。その中で暮らしや趣味、近況を自然に共有し合い、それを仕事にも生かしています。

デンマーク人が実践する視点の切り替え

さらに雑談は、思わぬブレイクスルーを生むこともあります。ダブルダイヤモンドメソッドの「解決策を見つける」段階では、リミッターを外して自由にアイデアを出すことが重要になりますが、真面目な会議の場では枠にとらわれやすいものです。一方、気軽な立ち話の中では「あ、それいいね」と自然に斬新な発想が生まれやすくなり、結果的に良い解決策につながるのです。

建築家のエヴァさんは、かつて世界的な建築事務所BIG(ビャルケ・インゲルス・グループ)でイノベーションを担当していた方です。現在は独立されていますが、「くだらない会話にこそ原石が眠っている」「大きなイノベーションを起こせるのはプロジェクトの出だしだけだ」と語っていました。

つまり、何かを始める初期段階でカジュアルに会話をしながらブレインストーミングすることが極めて大切だということです。いろんな立場の人と軽く話すことで、自分には見えていなかった問題点や思いつかなかった解決策に気づくことができます。

カジュアルな雑談や対話を繰り返し、いわば壁打ちのように自分の考えを口にすると、相手の反応から新しい視点が得られ、それをまた軌道修正に活かす。この壁打ちを何度も重ねることが重要だとされています。

デンマーク人は非常にポジティブで、指摘や批判を失敗とは捉えません。むしろ「なるほど」と受け止め、改善に向けた手がかりとして歓迎します。「ここは駄目だからこうしてみたらどうだろう」というやり取りを重ねるほど、自分のやりたいことを実現できると考えるのです。

そのため、仕事で行き詰まった時も日本のように無理にデスクに座り続けることはありません。コーヒー休憩や散歩をしたり、早めに仕事を切り上げて余暇やスポーツに充てたりします。職場の仲間に相談したり、まったく別の業界のイベントに足を運んで新しい刺激を受けたりすることも珍しくありません。

要は視点を切り替えることが重要であり、それを自然に実践しているのがデンマーク流です。

従業員10人未満の会社が86.5%でもイノベーション大国

こうしたカジュアルなコミュニケーションが、大きな成果やイノベーションにつながっていきます。少人数のチームで異なる専門性を持ったメンバーがビジョンを共有し、それぞれの強みを活かして協働することによって、デンマーク企業は高い生産性を実現しています。実際にデンマークでは、従業員10人未満の企業が全体の86.5パーセントを占め、250人以上の大企業はわずか0.5パーセントしかありません。

私自身も小さな企業を訪問しましたが、少人数でもグローバル規模のプロジェクトを推進している会社が数多くあります。そこでは、異なる分野の専門家が1つの目的を共有することによって、大きな力を発揮していました。1人の社員が何でもこなす必要はなく、それぞれがプロフェッショナルとして特定の役割を担い、違う分野のエキスパートと協力し合うことで成果を出しているのです。

ソフトウェア企業のCEOイェスパー氏は「オフェンスが得意な人はオフェンスに集中すればいい。オフェンスが得意な人のディフェンス力まで高める必要はない」と述べています。つまり弱みを補うよりも強みにフォーカスし、それぞれの得意分野を最大限に発揮させる組織作りこそが、生産性を高める鍵だという考え方です。

デンマークの企業は、基本的に「信頼ベースで任せる」マクロマネジメントで運営されています。細かく指示を出し、失敗を責め、厳しく管理するマイクロマネジメントとは対照的に、部下の力を信じて任せる姿勢が根づいています。

部下が失敗しても責めることはなく、一緒に問題解決に取り組むという考え方です。部下には役割をしっかり認識させますが、仕事の進め方は自由に任せる。これがデンマーク流のスタイルです。

部下に仕事を断られても前向きなデンマークの管理職

この点で大きく異なるのが管理職の役割です。日本では優秀な人材がそのまま昇格して管理職になることが多いですが、デンマークでは「仕事ができる=管理職に向いている」とは考えません。管理職はスペシャリストではなく、ファシリテーターのようにチームを支える役割と捉えられています。

労働組合運営管理局のトップ、ケネットさんも「各専門分野のエキスパートは部下であって、自分ではない。部下に仕事を断られることもある」とうれしそうに語っていました。管理職は部下を管理する存在ではなく、どう活かすか、どうまとめて成果につなげるかにフォーカスするのが仕事だという認識です。

だからこそ、デンマークの管理職は「自分はチームをファシリテートする存在」というマインドセットを持っています。部下の意見を尊重し、信頼をベースにマクロマネジメントを行う。失敗に対しては寛容で、「とにかくやってみよう。何かあれば一緒に解決策を考えよう」と背中を押します。そしてチーム全体のワークライフバランスを大切にし、誰もが元気に働ける環境を整えることを重視しています。

良い職場環境に共通する要素として、ワークライフバランスが取れていること、ビジョンが共有されていること、組織がフラットで互いを尊重できていること、適材適所が実現していること、そしてマクロマネジメントと教育機会の提供があることが挙げられます。

これらがそろうことで、社員はプライベートを充実させながら、仕事を通じて社会貢献もできていると感じられる。さらに組織内での影響力を持てていると実感できることで、仕事を自分のアイデンティティとして誇りを持ち、やりがいと成長につなげていけるのです。

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