【3行要約】
・「努力は必ず報われる」という美談は広く信じられているが、現実には100の努力が0になることも珍しくありません。
・経営者で大学教授の荒木博行氏は、努力と報酬の関係には「自動販売機型」や「ホッケースティック型」など9つのパターンがあると分析。
・ビジネスパーソンは自分が信じている努力の神話を見直し、状況に応じて適切な努力戦略を選択する必要があります。
『努力の地図』著者の荒木博行氏がゲストに登場
入江美寿々氏(以下、入江):本日の「ビジネス・ブック・アカデミー」のゲストは、『努力の地図』の著者、荒木博行さんです。よろしくお願いいたします。
荒木博行氏(以下、荒木):よろしくお願いします。
入江:荒木さんは現在、経営者であり、大学の教授でもあり、著者としても活動されているということで、お仕事の幅が広いですよね。
荒木:そうですね。一番苦手なのが自己紹介です。
入江:(笑)。
荒木:面倒くさいんですよ。本当に何から言えばいいのかわからないんですけど。実際に自分で会社を立ち上げて、いろんな会社の学びに関するお手伝いをするという顔があるんですけれども。今言っていただいたように、それ以外にも武蔵野大学アントレプレナーシップ学部で起業家の卵を育てるとか。その他、人に言えないような(笑)。
入江:(笑)。
荒木:それは冗談ですけど(笑)。本を書くとか。あと、この前「Voicy」に出ていただきましたけど音声メディアをやったり、Podcastをやったり、そんなことをやっています。
「努力の構造化」に挑戦
入江:Voicyも4万人以上のフォロワーがいらっしゃいますね。私も出していただいて、ありがとうございました。この本のPRということで、荒木さんが今回、『努力の地図』という本を出すに至った経緯を教えていただきたいなと思うのですが。
荒木:担当編集さんから「荒木さんの努力について本を書いてもらえないか」というオファーをいただきました。ただ、努力の本って世の中に溢れているじゃないですか。僕も努力に関して問題意識はけっこうあったんですけど、その中で僕の持論を語ってもしょうがないなと思って。
どうせ書くんだったら、いろんな人が語っている努力みたいなことをやはり構造的に捉えたいなという欲求は昔からあったんです。つまり、努力は本当に報われるのかとか。
せっかくだったらその問いにちゃんと腰を据えて向き合って、古今東西いろんな人が努力について語っているので、それを解きほぐしていけば、多くの人のなにかヒントになるんじゃないかと。「そんなかたちで書くのはいかがですか?」と逆提案したら、「あぁ、いいですね。それでいきましょう」みたいな。そんな経緯です。
入江:努力の構造化ですね。
荒木:ですね。1個前に僕が書いた本『構造化思考のレッスン』が、ディスカヴァー(・トゥエンティワン)から出ているんですが。そのいろいろ複雑な概念をいかに構造的に捉えるか。「こうやって、このステップでやるといいよ」という本を出しているんですけれども。
それがある種、思考法だとしたら、今回はその実践編みたいな感じです。努力というちょっと難解で捉えどころがないものも、そうやって構造化してみると、いろいろヒントがあるんじゃない? って。そんな感じですね。
努力は本当に報われるのか?
入江:努力を構造化する考え方は、今までにないですよね。
荒木:幸田露伴が、努力について書いていたりとか。努力そのものについて書いている本はいっぱいあるんですが、あまり構造的ではない。そういう意味では、類書はあまりないんじゃないかなと勝手に思っています。
入江:構造化ということで、努力をいろいろな型に当てはめて考えていったりとか。努力から報酬、どういう報いがあるかも構造的に見ていくという内容ですよね。
荒木:そうですね。なので、この本の立て付けをみなさんにご紹介しようと思うんですけど。問いそのものは「努力は報われるのか」。
入江:確かに。
荒木:という、その問いなんです。ちなみにそれをパッと言われたら何て答えます?
入江:いや、私は、きれいな話が好きなので(笑)。「報われる」と言いたいんですけれども。これはかなり個人差があるところなのかなと思いますね。
荒木:うん。まぁ、どうでしょうね。でも最終的には肯定的に語る人が多い気はしますけれども。ただ、その(答えに行き着く)プロセスとか、それなりにいろんな持論があると思っています。でもそれは「何に基づいて語っているの?」というところがあるじゃないですか。
そもそも、今パッと質問した時に、入江(美寿々)さんが頭にイメージした努力というのは、いったい何なのか。「報われるのか」の報いというのは、何を指して報いと言っているのか。というのは、あまり考えられていなかったりするじゃないですか。
入江:そうですね。抽象的ですし、あくまで自分の経験に当てはめて「こうかな?」と考えるだけで。
荒木:ですよね。
入江:あまり説得力のあるものではないですね。
努力は「4階構造」になっている
荒木:僕もそれを実際のエピソードとして若い人に……自分が組織を持っていた時に悩んでいる若いメンバーがいたんですけど。その人に相談された時に「お前、大丈夫だよ。努力は必ず報われるからさ」と言ったんです。でも「本当か?」みたいな気がしていて。つまり、努力はいろんなパターンがあるというのが、第1章で語っていることなんです。努力というのは4階構造になっている。
今度は報い編。報いというのが2×2のマトリクス。これも4種類になっているというのが第2章。第3章が、これだけじゃなくて、実は努力というインプットと、報いというアウトプット。これをつなぐパスが、実は9通りあるという話をしているんですよね。
これを「神話」と呼んでいるんですけど。9種類の神話がある。努力はこう、報いはこう、これをつなぐ神話が9個ある。だから4×9×4の種類の話を、僕らはどれかを選んで努力は報われるとか、報われないとか。時に報われ、時に報われないとか。まぁ、いろんなことを言ったりしていて。その4つ、9つ、4つの話を、この本ではしているという感じです。
努力したぶんリターンが返ってくる「自動販売機型神話」
入江:それぞれ神話にもわかりやすく名前が付いていますね。
荒木:そうなんですよね。まぁ、一番わかりやすいのは「自動販売機型神話」というものです。自動販売機(型神話)というのは、150円を入れれば確実にペットボトルが出てくるみたいな構造ですよね。つまり、それなりの労力を注げば、必ずそれに見合った対価が戻ってくるという構造。だから、100の努力をすれば100のアウトプットが、リターンがくる。200やったら200返ってくるよみたいな、そういう世界観ですよね。
入江:わかりやすいですね。でも、必ずしもこうじゃないですもんね。
荒木:必ずしもそうじゃない。だから、100円を入れたけど何も出てこないみたいなのが、我々の世界じゃないですか(笑)。
入江:人生には多くあります(笑)。
努力し続ければ何倍にもなって返ってくる「ホッケースティック型」
荒木:そう。例えば100円を入れて、200円を入れて、300円を入れたら、一気に3本返ってきたみたいな(笑)。そういう「ホッケースティック型」みたいなものもあるわけですね。ホッケースティック型というのは何かというと、こう(横に)いってギュインッて上がる。このカーブを描く。スタートアップの経営は「Jカーブ」とか言われたりするんですけど。こうなる場合は多いですよね。

これはある種、一定の潜伏期間で、それが閾値を超えるだけの努力をすれば、ある瞬間を過ぎた途端に、すごいスピードでリターンが返ってくるみたいな、こういう神話もあるわけですよ。
だから僕が当時の後輩に向けて、「お前さ、今は報いがきていないけど、やり続ければ、その倍にもなって返ってくるぞ」みたいなことを言ったのは、完全にそのホッケースティック型の神話に基づいて語っている。無自覚でしたけど、そういうことですよね。
入江:今当てはめるとそれ、ということですね。
荒木:そうです。
入江:私もそのホッケースティック型が好きですし、今までそう信じて、努力はそういうものだと捉えて生きてきた部分がありますね。
荒木:そうなんですよね。だからそれは、けっこうきれいな話ですよね。
入江:そうですね。