【3行要約】・「社長室から出てこない」「ビジョンがない」など、企業の課題となる「ポンコツ社長」の特徴が明らかになっています。
・浅井隆志氏によると、特に2代目以降の社長に多く、危機感の欠如や評価システムの不在が組織の成長を妨げているとの分析を示しています。
・社長もしくは組織のNo.2が事業計画を策定し、会社の魅力を発信することで、厳しさと魅力のバランスを取った組織づくりが求められています。
前回の記事はこちら 実際にあった「ポンコツ社長」に関する相談
浅井隆志氏:次にポンコツ社長の特徴です。「ポンコツ社長」という表現が非常に強いので大変恐縮でございます(笑)。すみません、実は僕の言葉でポンコツ社長の特徴をまとめたわけではなくて、これは(お客さまの会社の)幹部の方からこういうご相談を実際にいただいているのでまとめているんですね。今日ご紹介しているのは、このご相談が非常に多いんですね。
「社長室から出てこない」「出社しない」というところで(笑)、これはちょっと本当に問題かどうか判断が難しいんですが、そもそも社長が出ないで会社が回っているんだったらすばらしいなとは思うんですけどね。

あとはポンコツ社長の特徴としては「ビジョンがなくて関わらない」とか、一番の問題は「厳しさがなくて指摘しない」「評価をしない」というところです。「社長って何もやっていないよね」って言われちゃう状況はやはり一番好ましくないですよね。
僕は馬車馬のように働く社長がすべて正解かというと、決してそうとはもちろん思わないですよ。経営者には経営者の仕事がありますよね。ただ中小企業においては、やはり社長もプレイヤーの責務を担うべきだと僕は思っていますし、ある程度は姿で見せる必要もあるかなと思います。
朝から会社に来る社長・来ない社長の違い
経営者の仕事としては、やはりきちんとビジョンを見せるとか、姿で見せるとか、あとは正しく評価をしていかないといけません。これを怠っているのは僕の経験則からいくと、3代目や4代目の社長にちょっと多い傾向があるなと思っております。
なんで社長室から出てこないのかというと、そもそもやることがないとか、わからないみたいなことがあります。実はとある不動産系の上場企業の社長と以前お話をした時に「社長って朝から会社に行ってもやることがないよね。でも、朝に行くことが重要なんだよね」と、その社長は一応言っていました(笑)。
朝から業務やタスクが社員ほどあるかというとそうではないかもしれません。なので「やることがないから別にいわゆる重役出勤でいいかな」「会社に行かなくてもいいかな」という判断をしてしまう方が、中にはいらっしゃいます。

確かに経営者なので労働者ではありませんし、労働契約の下で働いているわけじゃないので、何時から何時まで出勤しなければいけないということではありません。ですがやはり「率先垂範」(率先して行動し、他の模範となること)という言葉がありますように、姿で見せていくことも重要なのではないかなと思います。正直、ちょっと甘えている社長もいるな、ということですね。
“現状維持でいい”という危険な本音
それから「ビジョンがない」につきましては、本音のところは「現状維持でいいでしょ」という社長はけっこう多いですね。「社長は、課題はないですか? 将来のビジョンはありますか?」って聞いても、格好つけていろんなことを言うんですけど、本音のところでは「まぁ、普通に継続できればいいや」と考えている。
だからやはりこれは特に3代目、4代目の方に多いんですよね。正直、危機感がないんでしょうね。自分で作ってきた経験もないからこそ、維持をしていく。そして次につないでいくのが役目だと。

それはそれで正しいかもしれませんが、だからこそ社員としてはビジョンが欲しいですよね。目的や目標が欲しいし、「会社はどこに向かっているんですか?」というものがないとモチベーションが湧かないですよね。なので社員をやる気にさせてあげるとか、社員の充実を図っていく上でも、このあたりはちょっと見直す必要がありますよね。
厳しいことを言わない社長に危機感
それから、このご相談も非常に多い。「社長が厳しくないし優しい」と。これも傾向として、僕は優しい創業社長なんてお会いしたことがないです。情に厚いという優しさはあるんですけど、仕事においてはすごく厳しいんですね。

言葉は悪いですけど雇われ社長で2代目、3代目、4代目になると、嫌われたくないのかわからないんですけど、厳しいことを言わないんですよ。
背景としてはやはり、もともと同じ会社の部長でポンと社長になったら、実はこっち(社員)のほうが年次が高くて先輩だったりして、厳しいことを言いにくいというのがあります。だから「言いにくくて言えない」みたいな相談も正直多いですね。このあたりは難しいですね。
それから、「評価をしない」(笑)。評価は必要だと思うんですが、評価をしない。社員をただの労働者みたいな感じで見ている社長ってけっこう多いんですね。これは社歴が長い安定企業だからこそ、社員を一労働者みたいな感じで見ちゃうんですよ。
「仕事ってそもそも『何時から何時で、いくらで、この業務内容』という条件で働くんでしょ? 決められた条件で働くんだから、別にモチベーションを与える必要はないじゃない。評価をしなくても別にいいじゃん。だって、見合った給料を払うんだから」みたいな発想の方がけっこう多いですね。
あとはあんまり評価をいじくって賃金を上げたくないというのがあります。賃金を上げたくないという気持ちは正直わかります。これにはちゃんと続きがあります。ただ賃金を上げたくないわけじゃなくて、「業績が落ちた時に賃金を下げるのが難しいから上げたくない」ということなんですよ。

実際は賃金をどんどん上げたい。でも、業績が落ちたら連動して下げたい。それができるんだったら比較的普通に賃金を上げる傾向にあります。けれどもやはり社長なので、業績が不振の時にコストダウンでリストラとか、賃金を一律10パーセント、15パーセントカットなんていうのはやりにくい。
これは「賃金の下方硬直性」と言いますが、上方向には行きやすいんですけど下に下げにくい傾向がやはり背景にはあるというところですね。
育てられた経験がないから指導法がわからない
ポンコツ社長への処方箋につきましては、「やることがわからない」「社長はそういうものだと認識している」「プレッシャーに弱い」みたいな社長は、そもそも幹部をどう育成したらいいのかをわかっていないんですよね。
なんでかというと、自分が育てられた経験もないからです。2代目、3代目、4代目の人の育て方と、幹部の育て方はまたちょっと違うわけですよ。
実際、自分が幹部を育ててきて成果が上がって社長になったというよりは、プレイヤーとして成果が出たとか、代襲でいわゆる家業として継いできてトップに立ったというパターンがあります。なので人を育てて社長になったわけじゃないんですよね。
ということは、幹部育成や管理職育成、社員育成の講習を、ちゃんと社長も絡めて介在していただく仕組みを取っていくのが大事ですね。「勝手にやります」じゃなくて、そこに社長をちゃんと採り入れて介在させていくということですね。
それから「永続できると勘違いしている」「理念やビジョンを作ったことがない」「危機感がない」ということです。すみません、これは非常に言いにくいんですが、実は確かに、当分は永続できるだろうなという会社さんはけっこうあるんですよ。
安定した環境ゆえに若手が育ちにくい
「当分は永続できるような会社」は、だいたい社長が会社に来ないし、社長室から出ないし、ビジョンを発信していません。これがそういう会社の最大の特徴ですね。業界である程度の地位にあり、ある程度ビジネスモデルが確立しているわけですね。
先行者利益を得られる立場だし、後発が投資してその業界に来るか、ちょっと考えにくい業界だったりすると、そういうパターンが多い。ただそういう状況って、やはり若手はモチベーションが湧いて「キャリアをこの会社で積んでいこうか」と思わないんです。
新卒がそう思わないと新卒採用も難しい。若手が育たないということは、5年、10年、20年先ぐらいはいいんですけど、30年、40年先を考えたら当然、その会社は衰退していきますよね。やはりもうちょっと長期で視野を持つべきですよね。
というところで、やはり事業計画を策定していくことが重要です。事業計画は現実を直視していきますので、やはり社長自ら作る、もしくはNo.2の方が事業計画を策定して「社長、こういうことですかね?」と突きつける必要があるのではないか。そこで考えてもらうのが一番よろしいのではないかなと思っております。
魅力がある環境なら厳しさも乗り越えられる
それから、「とにかく社員に辞められたら困る」と、厳しいことを言わない社長もいらっしゃいますね。「ハラスメント(だと糾弾されるの)が怖い」「厳しいことを言って辞められたら困る」と言うんですけど、ものすごく会社に魅力があったら、人間って厳しさを乗り越えられるんですね。

みなさんにちょっと考えていただきたいんですが、例えばめちゃめちゃ横暴で理不尽な社長だとしても、月収1,000万円を稼げたら我慢しません(笑)? ということは、厳しさに代わる魅力を誘因と言いますが、これがあれば乗り越えられるんです。
ということは、厳しさを出して辞めちゃうのは、はっきり言って魅力が社員に伝わっていないわけですよね。ということは、「じゃあ、うちの会社の魅力って何ですか?」ということを、やはり社長自ら発信しておく必要がそもそもありますよね。やはりこのあたりも社長に突きつけていって、発信してもらわないといけませんね。
それから「モチベーションは不要」「賃金を上げたくない」「十分な待遇だと思っている」。このあたりは社員を労働力としか見ていないということになります。
そもそも「採用媒体に出したらとにかく採用希望者が面接に来る」という一昔前と、今はまったく状況が変わっておりますので、採用市場の変化をまず社長に理解してもらわないといけませんね。
地方の企業でまだまだ多いのが「採用はハローワークです」「そもそも採用にお金をかけません」みたいな企業です。僕からしてみたら「あり得ないな」って言いますね。このあたりもきちんとデータ等を準備して社長に採用市場の変化をご理解いただかないと。
今、採用というのは1人あたり30万円、50万円、70万円、場合によっては中途採用であれば150万円ぐらいの採用コストをかけて社員を獲得するぐらいの投資が必要なフェーズだとお伝えしていくことは必要なのかなと思っています。