【3行要約】
・「ムダな仕事」が蔓延する職場では、ROIの視点が欠如し、遂行度で評価される傾向があります。
・研修トレーナーの伊庭氏は「人が多い職場ではパーキンソンの法則により仕事が膨張し、会議や調整が過剰になる」と指摘します。
・管理職は権限委譲を進め、業務改善担当を設置し、「WATの法則」で意志を明確にしてムダを削減すべきです。
“週休3日のパン屋”で気づいたこと
伊庭正康氏(以下、伊庭):研修トレーナーの伊庭です。今回のテーマは、「ムダな仕事が蔓延する、ダメな職場の特徴」を紹介します。こんなことはないでしょうか? 「これってムダだ」と思っているのに、ずっとやり続けている。そして、会社はIT環境を用意してくれているんだけど、なぜか仕事は減っていない。こういったことがあれば、ちょっとおかしいですよね。

私は思います。「ムダなことに気づいていないのではないか?」。今日は、そこにメスを入れるための切り口を紹介していきます。メニューはこちらです。「ムダな仕事をやりがちなダメな職場」。反面教師で5選、紹介していきます。もし1つでも当てはまるものがあれば、メスをスパスパッと入れてみてください。

先日、ある出来事があり、勉強になりました。京都にある人気のパン屋さんに行きました。昔はローカル線と言われていた郊外に向かう電車の、各駅停車しか停まらない駅です。そこにある小さなパン屋さんは、常に繁盛しているんです。
週休3日制。月・火・水は定休です。これ、すごいですよね。週休3日のパン屋さん。そして、夜は18時45分まで。残業をした帰り道で買いに行けません。あと、「こんなに人気があるならば、百貨店へ進出してよ」と思いますよね。ダメなんです。出店依頼はあるようなんですけども、百貨店や商業施設への出店は、品質が落ちるので全部断る。これがスタンスでございます。
「じゃあ、通販ぐらいやってよ」と思いますよね。ダメです。品質が落ちるから一切しません。「週に4日も開けているんだから買いに来い」。このスタンス、すごくありませんか? いいですよね。私、大好きです。「買いに来い」でございますから、車で40分ぐらいかけて行きましたよ。
危ないところでした。使えるのは現金のみでございます。「あぶな!」ですよね。もしそこで現金を持ってなければ、引き返すところでございました。そう考えると、すごくやることを絞っていらっしゃいますよね。常に繁盛しているんですよ。

そして駐車場。驚きました。30台以上止められます。車が止まりまくっています。私、興味を持ちまして、お給料を調べました。募集条件が載っていました。21万5,000円。「あれ? 低い。あ、違う違う。週休3日だもんね。いいじゃん」と思いました。
ROI(投資利益率)の視点があるか
止めますね。ここから、何か学べることはないでしょうか? 「ムダな職場がやりがちなこと」。今日はそれがテーマですよね。まず、「ROI」を意識できているかどうかが、大きなポイント。これ、絶対に覚えておいてください。ROI(Return on Investment)。投資利益率。

難しい表現はしたくありませんから、簡単に言います。かけた労力に対して、得られる付加価値。もっと言うと、利益でいいですよ。かけた投資、つまり労力に対して得られる付加価値。付加価値って利益のことですかね。利益の率。1労力をかけて、10得るのか、2しか得られないかでは、ぜんぜん違いますよね。
この感覚を持っているか・持っていないか。それに尽きます。なので、これが大事なんですよ。戦略でも一緒です。選択と集中。「これをやります」に集中させて、ROIを高める。
これね、個人も一緒なんですよ。私もそうです。「この行動を取って、果たしてどれぐらいのリターンがあるのかな?」「付加価値を作れるのかな?」ということですよね。自分だけの付加価値じゃないですよ。周囲に対しても、「付加価値があるのかな?」と考えるんです。
「一生懸命」を評価しすぎてしまうことの危険性
しかしながら私が見ている限り、大手企業は、ここが曖昧になりやすいんですよ。私は大手企業に勤めておりましたので経験者の1人です。担当が細分化されているので、がんばっちゃうんですね。過剰な行動を取れるので、結果的に利益率に反映されない行動がたくさん行われてしまう。
「利益率」と言うと聞こえが悪いですけども、価値につながらない仕事が、まん延してしまうということがよーくあるんですよね。じゃあそうならないために、今からメスを入れるべく、チェックポイントをご紹介していきます。
まず、「成果ではなく、遂行度で評価される職場」は注意してください。例えばこういうことですね。結果がどうだったかというよりも、「伊庭さんは朝から出勤して、一生懸命働いてくれているよね」。これはこれで尊いですよ。尊いんだけれども、「一生懸命」を評価してしまったら、あることができなくなるんですよ。見ていきましょう。
“見え方が悪い”という理不尽
「やった感」「遂行度」で評価される職場。実際には、成果につながらない仕事であったとしても、一生懸命やるので、むしろ余計な仕事が増えることもあります。むしろ、少ないタスク、労力で結果を出す人のほうが尊いんですよね。それが生産性です。

でも、それが認められないんですよ。実は私、若かりし頃、これを経験しております。「伊庭ってよく休むよね」。けっこう有休を取っていました。「伊庭って、ぜんぜん残業していないよね。見え方が悪いよ」と言う上司もいました。私は「その考え、ダメすぎる」と思いました。
もっと悪いことを言いますね。私、若い時にとんがっていましたので。表情では、「あ、そうですよね。ちょっと気をつけまーす」みたいな感じでしたけども、「あなたみたいには絶対にならない」ぐらいに思っていました。そのように思えていたのは、その組織の一番トップの事業部長と会話した時。上司が課長だったんですけども、その上の上の上ぐらいですね。
その方とお話しした時に、「いやいや、確かに見え方というのはあるかもしれないけど、成果を求めているので、そこはぜんぜん」という感じだったんですね。「むしろ、少ない労力で結果を出す。これが一番です」と言われていたし、評価にもつながっていたんですよね。
真面目にやる部下ほど報われない状況に
ですので、会社の評価は「少ないタスクであってもいいので、ちゃんと結果を出してね。残業をしないほうが評価するよ」だったんですよね。ところが直属の上長は、「いや、もっとがんばらなくっちゃ。見え方が悪いから」。
これで私、ちょっとムカついておりました。「上司になったら絶対やめよう」と思いまして。ちょっと今、愚痴をしゃべっちゃいましたけども、ただの愚痴じゃなくて、「俺が上司になった時に絶対にそれをやめるぞ」と思っていましたので、やめちゃいましたよ。
ということで、ちょっと話を戻しますね。成果で評価しないと、部下が報われません。目標設定をちゃんと「定量」「状態」というふうに、測定可能な状態にしないと、真面目にやる部下ほど報われません。仕事のための仕事をしている部下が報われるのはおかしいですよね。なので、上司はスパスパッとメスを入れてください。
私、そんなに恨まない性格をしておりますが、1個だけいまだに「なんでやねん!」と思うことがありまして。子どもが生まれる時に立ち会いたかったんですよ。でも、「今日生まれそうなのでちょっと見に行っていいですか?」と午前中に言ったんですよ。「見え方が悪い」と言われたんですよ。
「今、期末でしょ。見え方が悪い。伊庭はもう目標を行っているかもしれないけど、みんな期末で数字を追いかけているから」「ちょっと待ってくださいよ。子どもが生まれるんです」「大丈夫、そんな簡単には生まれない」。こう言われたのを覚えているんです。(実際には)ポロンと生まれまして、私は立ち会えておりません。
その時に、その上司に「生まれました」と言った時に、「あ、生まれちゃったの!? おめでとう。わりぃわりぃ」というふうに言われたことは、いまだに「しばいたろか!」でございますよ。「ああいう上司には絶対ならないぞ」と、私は固く決意をしまして、今日に至っております。
本当に悔しい思いというのは、やはり絶対に繰り返さないことが大事かなと思ったので、今日はちょっと熱めに語りました。