【3行要約】
・アイデアが生まれない最大の原因は「インプットの圧倒的不足」にあり、多くの企業が新規事業で迷走する根本問題となっています。
・『クリエイティブ・マネジメント』著者の柴田雄一郎氏は「ときめきメモ」や「トレンドレポート」などの習慣化により、アイデアの種を積み重ねて結合させる思考法を提唱。
・新規事業成功には10年スパンの覚悟と情熱、チームビルディング、そして経営陣の理解と権限委譲が不可欠だと説いています。
経済情報番組の気づきを言語化する価値
柴田雄一郎氏:ここからは、実践に関する要点をかいつまんでお話しします。まず、アウトプット、つまりアイデアを出すには、圧倒的なインプットが必要です。10個のアイデアを出すには、1,000個のアイデア素材がなければならない。つまり、出ない理由はインプットが圧倒的に足りていないということなんですね。
これはデータにも表れていて、日本は先進国の中でも読書をしない率、学ばない率がトップなんです。アイデアが出ないというのは、そういう背景がある。ある企業で「アイデアを出して」と言っても、いきなり出てくるわけではないのは当然のことです。
そのために取り組んでいるのが、
本の最後のほうにも書いた内容ですが、まずは「ときめきメモ」。ときめいた時にすぐメモを取る。私自身も飲んでいる最中にふっと思いついたら、すぐにiPhoneでメモします。さらにそれをツイートしたり、文章化してアウトプットまで持っていく。
人間って、書き留めることでようやく頭に定着するんですね。ときめいたこと、気づいたことはすぐメモを取る。この習慣が大切です。
それから、「なりすまし営業」。これは、自分が営業を担当するつもりで自社の持っている資産や価値を語れるようにすること。アセットマップの作成も重要で、自分たちの持っている資産を洗い出し、可視化します。これらがインプットのベースになります。
本の中で、企業での取り組みとしてご紹介したのが、JVCケンウッドさんの「トレンドレポート」。これはもう数百件を超えていて、ずっと続けておられます。

例えばテレビ番組で『ワールドビジネスサテライト』や『カンブリア宮殿』を見て、「これはおもしろい」「こういうやり方があるのか」と思ったことを、週に1人1本レポートとしてまとめてもらう。それを毎週会議で共有するんです。
こうすることで、インプットの量が格段に増えます。しかも、自社と関係あるかどうかは関係ない。「そういう視点もあるんだ」「そんなやり方もあるんだ」という気づきが生まれれば十分なんです。
ただ、ぼーっと見ているだけでは身につきません。「何がよかったのか」「なぜ感動したのか」を言語化してレポートにする。そのうえで、それをただ発表するのではなく、会議の場では称賛も大事です。「それはおもしろいね」「どうしてそう感じたの?」と対話が生まれることが重要。活発な場を作らないと意味がないんですね。
このように、トレンドレポートによってアイデアの種を積み重ねる習慣がないと、アイデアは生まれません。引き出しがなければ、出てこないということです。こうした習慣を仕組みにしていくことが、実践の第一歩です。
何を生み出せるのかを探るアセットマップ
次にアセットマップについてです。これは、自分たちの会社が持っている資産、つまりアセットを棚卸しして、そこから何が生み出せるのかを考えるという話です。

最近は少なくなりましたが、以前は「飛び地」のような、今の事業とはまったく関係ないところに手を出すのが新規事業やイノベーションだと思われがちでした。けれども、それが本当に現実的かというと、そうでもないケースが多いんです。
例えば富士フイルムが化粧品を出した時、「フィルム屋さんが化粧品?」という反応がありました。でも、あれはぜんぜん飛び地ではなくて、もともとフィルムの劣化を防ぐ技術に活用されていたコラーゲン技術を応用したものです。つまり、もとから持っていた技術を別の領域に転化しただけなんですね。
ですから、自分たちの足元をよく見て、何があるのかを把握し、そこから生み出すという視点が、新しいことを始める上ではいちばん現実的だと思います。この考え方は、よくパーパス経営とも重ねられます。つまり、自分たちは何者で、何を持っていて、何ができるのかという原点を理解するということです。
これは、先ほど紹介したゴーギャンの絵の話にも通じます。ある種、哲学的な問いですが、そこを避けて通ることはできません。自分たちの持っているアセットをつなぎあわせて、初めて新しいアイデアが生まれるのです。
インプットを結びつける習慣
では、どうやってアイデアを生み出すか。その具体的な方法については、拙著にいろいろ書いてありますので、ぜひそちらを見ていただきたいのですが、ここでは本質的な部分だけお伝えします。
まず、たくさんインプットするだけでは不十分です。重要なのは、それらを結びつけるという習慣を持つことです。
例えば、イノベーションという言葉を作った経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、「イノベーションとは新結合である」と述べています。また、クレイトン・クリステンセンも、「一見関係なさそうな事柄を結びつける思考こそがイノベーションだ」と言っています。
脳科学者の茂木健一郎さんも、「創造するということは、過去の経験や記憶を組み合わせを変え、結びつきを変えてアウトプットすることだ」と語っています。
さらに、1940年に出された『アイデアのつくり方』という本では、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と明言されています。これは、今でも多くの人の本棚にあるロングセラーです。

つまり、既存の要素を組み合わせ、これまで見えていなかった関係性を見出すことで、新しい発想や結合が生まれるということです。
スティーブ・ジョブズも、「創造性とはものごとを結びつけることに過ぎない」と言っています。彼らがそれを可能にしているのは、多くの経験をしており、引き出しをたくさん持っているからです。そして、そうした引き出しの中からアイデアの種を取り出し、熟考を重ね、かたちにしている。だからこそ、アイデアを出すことができるというわけです。
結合させるための要素をたくさん出す
じゃあ、どうやって新しい発想を生むのか。1つの手法として、私がいろいろワークショップなどで実施しているのが、「結びつける」ということです。
先ほどで言うとアセットですね。アセットマップを書いて、それを結びつけたり、あるいは外にあるものとここにある要素を結びつけることで、オープンイノベーションということになります。まず、持っていないものから作るのは非常に大変です。

だからまずは、自分たちが持っているものをよく把握して、その細部を理解した上で、それと何かを結びつけた時に新しいものが生まれる。これが、みなさんがおっしゃっていた「結びつける」「結合する」ということの本質です。
結合させるには、結合させる要素がたくさん出ていないと、そもそも結合ができません。だからまずはインプットが必要です。インプットがなければすぐにアイデアが枯渇してしまう。これがアイデア創出の基本だと思っています。
アイデアのワークショップを何度も重ねる中で、頭の中で結びつける習慣ができてくると、それがアイデアの誕生につながります。その体験を繰り返すことで、自然と結びつけることを考えるようになり、アイデアが生まれやすくなる。いわば、アイデアを生み出す脳の体質のようなものが形成されていくのだと思います。