【3行要約】
・新規事業の必要性は理解されているが、実際には75%の人が創造性を仕事で活かせていないという現実があります。
・柴田雄一郎氏は、日本の経済成長率が世界176位まで落ち込み、人口減少が加速する中で、従来のビジネスモデルでは立ち行かなくなると指摘。
・企業は個人・チーム・経営者の3つの壁を乗り越え、主体性・創造性・情熱を重視した組織へのリノベーションを今すぐ始めるべきとのことです。
作る人も買う人も減少する時代へ
柴田雄一郎氏:では、本質的な理由として、なぜ新規事業が必要なのかという点についてお話しします。みなさんも「新規事業をやらなきゃ」と思って今日ここに参加されていると思いますが、この出発点を明確にしておかないと、「なんとなく必要だから」で取り組み始めても、たぶん続かないんですね。
本質的な課題として、まず経済が成長していないという現実があります。1980年代、日本の国際経済成長率は世界で2番目でしたが、2020年には195ヶ国中176位にまで落ち込んでいます。つまり、日本は今「成長しない国ランキング」でワースト30に入っているということです。
もう1つの深刻な要因が、人口減少です。私が以前RESAS(地域経済分析システム)をつくった時にも衝撃を受けたのですが、人口の推移をビジュアル化すると一目瞭然です。
明治維新以降、日本の人口は右肩上がりで急増してきました。そのカーブとほぼ同じ傾きで、今度は人口が減っていく。つまり、成長の角度と同じスピードで衰退していく可能性が高いということです。単純に言えば、2004年には1億2,000万人いた人口が、100年後にはその3分の1になるだろうと予測されています。すでに実際に下がってきていることは、データを見れば明らかです。
私たちは「日本の産業は常に進歩してきた」と思いがちですが、実はそうではなくて、イノベーションが起きて進歩したというより、人口増加に支えられてきた部分が大きい。今あるものに少し付加価値を乗せれば、人口が増えていたからこそ、「買ってくれる人」も増えて、売上も上がっていった。極端に言えば、そういう構造だったのではないかということです。
そうなると、人口が減れば買う人も減り、さらには作る人もいなくなる。深刻な問題です。例えば、つい最近出たデータでは、1949年のベビーブームの出生数が270万人だったのに対し、2023年はわずか72万人。つまり、高度経済成長期を支えた世代の4分の1まで出生数が減少しているということです。

経済は成長せず、人口は増えない。この2つの要素を踏まえれば、「これまでどおり」では絶対に立ち行かなくなるのは当然です。
もっと具体的に言えば、2004年に10本売れていた商品が、4分の1に減ってしまえば、売れるのは2.5本。売上が激減すれば、どれだけ営業努力をしても限界がある。作る人も買う人もいなくなるわけですから、「このままでいいはずがない」と思うのは自然な流れです。
手遅れになる前に始める会社のリノベーション
では、何をするべきか。ここが経営課題として問われるポイントです。今まで成長していた部分が衰退していく以上、どこかでその穴を埋める必要がある。その手段として考えられるのが、根性で売る、販路を海外に広げる、価格を下げて競争力を高める……といった策ですが、これらはどれも限界がありますし、持続的ではありません。
だからこそ、小さなところから1歩を踏み出して、スモールスタートで新しい会社に変えていく必要があります。

この経営課題を解決するためには、組織全体で「みんなで変わっていこう」という雰囲気をつくって、会社自体をリノベーションしていく。それを今、始めなければ、手遅れになるのではないかと感じています。
事業の変革というのは、企業のカルチャーや社風、これまでのスタイルを変えていくことです。そして、新しい事業によって、これまでの足りない部分を補い、新たな価値を生み出していく必要があります。
生産性の高い事業を継続できるようにする、人材を確保しながら合理化を進めていく、そして新たな収入源をつくる。これらを実現するために、DXがツールとして必要になってくるのだと思います。
つまり、新規事業と事業変革は、20年後も事業を継続させるために欠かせない要素になっていく。そのことは、ここまでのお話の流れからご理解いただけるのではないかと思います。
ここまでの社会と、これからの社会を比べてみると、人口は減少し、社会全体も衰退傾向にあります。そして、かつて当たり前だったカリスマ経営やヒエラルキー型の組織構造は、今やさまざまな分野で崩れつつあります。例えば、芸能界やテレビ業界を見ても、ピラミッド型のトップダウン構造がどんどん壊れてきている。
その代わりに、自律分散型の組織構造が広がりつつあります。経営指標としては、ウェルビーイングのような新しい価値観が重視されるようになってきました。
また、行動面では、利他的な行動が評価されるようになっています。これまでの経済は「作って売って捨てるという循環」で成り立っていましたが、今は循環型経済への移行が必然的に進んでいます。メルカリやブックオフといった存在もその象徴です。
私が子どもの頃は、親に「人の着古したものなんて着るもんじゃない」と言われたこともありました。いわゆる古着に対する否定的な価値観がありましたが、今では古着は当たり前になっている。こうした「循環すること」が自然に生活に入り込み、スタンダードになっています。Z世代に至っては、それがすでに完全に実装されているわけです。
未来を生き抜くための3つのスキルセット
このような大きな変化に対して、企業が適応できなければ衰退していくことは明らかです。ゲイリー・ハメルという人が書いた『経営は何をすべきか』という非常にすぐれた本があります。その中で語られているのが、これからの時代に必要なスキルセットについてです。
生産性を重視してきたこれまでの組織では、専門性に特化し、勤勉で従順な人が高く評価され、「とにかく作れば売れた」という時代がありました。しかしハメルは、この本の中で、これから重要になるのは「レベル4、レベル5、レベル6」のスキルだと述べています。

それが、主体性・創造性・情熱の3つです。
主体性とは、心理的安全性やエンゲージメントと深く関わるもので、自分が会社の一員として参画しているという感覚を持てること。創造性は、
先ほどお話ししたアート思考やデザイン思考など、クリエイティブな発想を指します。そして情熱は、内発的動機に基づいた行動のこと。自分が本当にやりたいことだからこそ、長く続けられるという前提です。
ハメルは、このようなレベル4以上の人材を集めて組織に実装しないと、企業は衰退していくと述べています。つまり、これまでの「当たり前」の働き方や組織のあり方を、レベル4・5・6に引き上げていくことが、これからの企業にとって避けられない課題になってきているということです。