75パーセントの人が創造性を仕事で活かせていない現状
経済が衰退し、将来が予測不能な状況の中で、「今までのやり方ではもう限界だな」と感じた方も多いと思います。物はすでに飽和しきっていて、「これ以上新しいものなんて出てくるのか?」という感覚になる。しかも、人口は減少し、経済も成長しない。VUCAの時代で何が起こるかわからない。そしてAIは日々進化し、もうついていけないと感じる人も増えている。
そうなると、これからの企業にとって必要不可欠なのが、新規事業やイノベーションを生み出す「創造性」だということになります。
これまでの教育は、「あらかじめ正解が決まっていて、それを見つける」という発想が基本でした。しかし今は、「新たな正解を自分たちでつくる」という時代に入っている。
でも、私たちはそんな教育を受けてきていないわけです。試験で点を取るというのは、あらかじめ答えが決まっていて、それを覚えて答えればいいというものでした。そういう世代に対して、「自分で問いを立てて、自分で新しい答えをつくり出す」ということが求められるようになってきた。
これは世界的にも同じ傾向が見られます。例えば、ダボス会議(World Economic Forum)では、毎年「ビジネススキル・トップ10」というものを発表しています。2015年と2023年の比較を見ると、2015年には10位だった「クリエイティビティ」が、2023年には第2位まで上昇しています。

つまり、世界が今、最も必要としているビジネススキルの2位がクリエイティビティだということです。
さらに、「雇用の未来レポート」では、今後5年間でロジカル思考(分析的スキル)よりも、創造的スキルを持った人材へのニーズが43パーセントも増えると予測されています。これは日本の総務省も同様の見解を示しています。AIがますます進化する時代において、人間的資質や企画発想力、創造性の重要性が高まるだろうと述べています。

ところが、あるアンケート調査によると、実際に「仕事の中で創造性を発揮できている」と答えた人は、わずか25パーセント。つまり、75パーセントの人が創造性を仕事で活かせていないという状況です。
これはある意味当然とも言えます。というのも、これまでは「新しく何かをつくる」よりも、「今あるものをどう売るか」に企業活動の主眼が置かれていたからです。創造的なスキルやビジネスを経験したことのある人は、ほとんどいないわけです。そうなると、単純に「新規事業が生まれない」という事態に直面します。
新規事業の創出を阻む3つの壁
では、なぜ新規事業が生まれないのか。その理由はいろいろありますが、大きな要因のひとつは、アイデアの発想がなかなか出てこないということ。そしてもうひとつは、新規事業を生み出すスキルを持った人材が、組織の中にいないということです。
新規事業がなかなか生まれない理由については、人材の質に問題があるとされることが多いのですが、実はそれだけではありません。私はその理由を3つの「壁」として整理しています。

1つ目は、個人の壁です。先ほどもお話ししたように、これまで創造性というのはビジネススキルとしてあまり重視されてきませんでした。経験やノウハウ、アイデアを生み出す能力、検証力、実行力といったスキルが足りない。そういった部分が、個人の壁になっています。
ここで私は、「人才」という表記を使っています。ものを書く時も「人材」とは書かないようにしています。これからの時代、「材料」のように扱われる人材というのは、だいたい人工知能に仕事を取って代わられていきます。
誰でもできる、代替可能な人員は必要なくなってきていて、むしろ人の才能を生かしていかなければならない。才能を伸ばすようなスキルセットを、みなさん自身や組織の中に実装していかなければならない。だから私は「人才」と書いています。
これは先ほども触れた、ダボス会議の会長であるシュワブさんが「タレンティズムの時代」と言っていたことにも通じます。まさにタレント、人才が重要になってくるということです。
2つ目は、チームの壁です。これは新規事業部署のようなかたちです。企業カルチャーの中で、どうしても新規事業部のモチベーションが上がらない。それから、心理的安全性。アイデアが出ても「そんなアイデアなんか絶対無理だよ」と1回でも言われると、もう2度と話さなくなる。これは心理的安全性が担保されていないということです。
心理的安全性も、実際自分でやっていて感じるのですが、なあなあになることではないんですね。本気で喧嘩してもいい。「わかりません」と言えること。それに対して「どうして」「どうして」と聞き合うこと。これはすごく大事なことです。「どうしてですか」と聞ける環境でなければならない。それが心理的安全性の重要なポイントです。
あとはエンゲージメント。「ここでやりたい」「この会社で自分の何かをつくりたい」「自己実現したい」。そういう思いがあるからこそ、この会社を愛しているし、みんなと一緒にやっていける。そういった環境をつくる必要があります。
新規事業を前に進めるためのマインドシフト
そして3つ目の壁が、経営者の壁です。これもかなり重要な問題です。経営者から見ると、「新規事業部が生み出せないのはあいつらのせいだ」と言う人もいるかもしれませんが、そうではありません。
経営者にも問題があって、意思決定が遅かったり、ちゃんと評価していなかったりする。つまり、新規事業というのは非常に重要な、今後の企業の重要課題であるにもかかわらず、「なんかやらせておく」とか、「俺は過去にこうやって成功したんで……」みたいな話をしても、今は通用しないわけです。

あと、目的と手段が逆転している。これもよくあります。DXをすることが目的になってしまっている。でも、本来は「何をしたいか」があって、それを実現するための手段としてDXを使うはずなんです。
新規事業も同じで、新規事業をやること自体が目的ではなく、「何のためにやるのか」という目的があって、そのために新規事業という手段を取るべきなんです。それが逆転してしまっているということなんですね。
だからこそ、マインドシフトを変えていかなければいけないんですが、これはもう長年染みついてしまっているので、なかなか簡単には変わりません。そういった考え方を変えていくために、私が今、伴走支援として関わっている企業でも、理解と協力、対話、あるいは外堀を埋めるといったさまざまな手法を使いながら、じっくりと取り組んでいます。