【3行要約】
・企業の新規事業推進が求められる中、「0から1を作る人材」の不足や経営陣の丸投げが原因で失敗するケースが多発しています。
・『クリエイティブ・マネジメント』著者の柴田雄一郎氏は、創業者世代の退場により既存事業拡大に長けた人材ばかりが残ったと分析。
・新規事業の成功には「3つの思考」をメタ認知でバランス良く回すマネジメントが重要だと語りました。
『クリエイティブ・マネジメント』の著者・柴田雄一郎氏が登壇
柴田雄一郎氏(以下、柴田):こんにちは、柴田と申します。よろしくお願いいたします。
本の内容ってかなりお話が長くなりますが、このセミナーは時間の関係でかなり圧縮していますので、まずは流して聞いていただけたらなと。聞いてる時に「これはわかんない」とか「この時はどうしたらいいんだろう」っていう疑問は、質疑応答の際にお答えするので、チャットにご質問を寄せていただければと思います。
まず簡単な自己紹介ですが、ずっと新規事業ばかりに携わってきました。

基本的にはソフトバンクさんとかトヨタさんとかファミリーマートさんとかの企業のIT系の新しいシステムやWeb、開発などのDXデザインですね。私自身はむちゃくちゃ文系で、プログラムとか一切書けない人間ですが、なぜかこういったテクノロジー系の新規事業をやっています。

一方で、鎌倉の隣の町の逗子。今から10年ぐらい前は少子高齢化率が神奈川県で2番目に高く、消滅可能性都市みたいな状況だったんですけど。その逗子で、アートフェスや子どもフェスなど地域のコミュニティデザインをして、7年ぐらいかけて神奈川県の「住みたい町ランキング」で関東2位になって、今は非常に移住が推進されています。
テクノロジー系の新規事業や地域活性化に携わったほか、熊本大学と京都芸術大学の非常勤をやって、オンラインとリアル合わせて、だいたい2万人ぐらいの方に受講いただいています。受講だけで終わる場合もありますが、それをきっかけに新規事業の伴走支援に入ったりもしています。
企業研修では、こういった企業さん向けの研修を行ってきました。

2021年にはJTさんの新規事業立ち上げにおける壁打ち支援を1年間担当しました。また、JVCケンウッドさんの新規事業の伴走支援も行っています。それから、伊藤忠丸紅住商テクノスチールさんのDXラボ。これは次週、担当の方と一緒に「実際に何をやっているのか」について詳しくお話しする予定です。
こういった新規事業の伴走支援では、それぞれフェーズがまったく異なりますし、どこまで支援するか、どこをゴールにするかによって内容が大きく変わってきます。そうした中で、それぞれのプロジェクトに合わせた支援を行っています。
また、クリエイティブ・マネジメント・オフィサーとして、建築DXの分野にも携わっています。例えば、自動走行のためのデジタルツインを用いたシミュレーションなどですね。ほかにも、AIやデータ解析を手がけるAvintonジャパンさん、イノベーション創出のためのSaaSを提供するIdeaScaleさんなど、スタートアップ企業の支援も行っています。
キャリア初期に携わった新規事業の損失総額は200億円
いろんなことをやってきたんですけれども、2004年ぐらいまでの間に、さまざまな取り組みをしてきました。

例えば、今のiPhoneのようなコネクテッドプレイヤーを、iPhoneが登場する3年ほど前に開発していたこともあります。

当時は音楽配信や動画配信など、いろいろな事業を手がけていたのですが、2004年までの間で、私が関わったスタートアップの損失総額は200億円ほどにのぼってしまいました。幸いにも、私自身は経営側ではなかったため、直接的な損失を被ったわけではありませんが、とにかく失敗を繰り返していた時期です。
ただ、その経験を重ねる中で、少しずつ失敗確率が減っていきました。そこからは、トヨタ自動車さんのIoT関連の新しいコンテンツに携わったり、2008年には、トヨタの独自メタバースの構築を企画からプロジェクトマネジメントまで担当しました。

そして、ビッグデータのビジュアライズにも取り組みました。2015年に内閣府や経済産業省、中小企業庁などと連携して作ったWebサイトでは、日本全国の人口や産業などの多様なデータを集約・見える化しました。

このプロジェクトは地方創生のためのデータベースとして、今でも稼働していて、非常に活用されているようです。これもアート思考でアジャイル開発を行った事例で、また機会があれば、「どうやってそれをつくったのか」もお話しできればと思います。その後、2022年には中小企業庁のDX推進に関するリサーチなども手がけました。
そして、5月5日に
この本が出ました。

アイデア創出やアート思考の再定義といった内容を意識して書いたんですが、なぜかAmazonのKindleチャートで「リーダーシップ」部門の5位になっています。リーダーシップというカテゴリで評価が高かったようです。
多くの企業で新規事業がうまくいかない根本理由とは
今日のテーマについてですが、多くの方がコロナ禍をきっかけに「新規事業を立ち上げなければ」と思ったり、「立ち上げたけどうまくいかない」「どう進めていいかわからない」「何度やっても失敗している」と感じているのではないかと思います。あるいは、「まずはアイデアソンから始めよう」としても、それが続かない。
こういった問題が、さまざまな場面で起きているのではないでしょうか。その背景にある課題のひとつが、「設計ができていない」ということです。「とりあえず新規事業をやる」といったかたちで始まってしまっている。

よくあるのが、経営陣が「新規事業をやらなきゃ」と言って、とりあえず人を集めて「なんかやってみろ」と丸投げしてしまうパターンです。その結果、先のことを考えずに動き出してしまう。アイデアソンも、アイデアを集めるまではいいのですが、その先の設計がなく、「このあとどう進めていけばいいのか」が決まっていないと。
もうひとつの課題は、経営者の新規事業に対する理解の浅さです。本当に重要な取り組みだと捉えて動いている企業は、実はそれほど多くありません。また、経営者自身に経験がないために、「どう進めていいかがわからない」という状況に陥ってしまう。
これには、すごく簡単な理由があります。いわゆるイノベーションや新規事業を手がけてきた「創業者」という存在が関係しています。今の日本の経済発展を支えてきた創業者たちは、現在の企業組織の中にはほとんど残っていません。
おそらく、今会社にいる多くの方々は、「1を10に、10を100に、100を1,000にする」といった、すでにあるものをスケールさせる役割を担ってきた人たちです。
そうなると、新しいものをゼロからつくるというよりも、既存の製品やサービスをどう売っていくか、そこにどう付加価値を乗せていくかということに重きが置かれてきたわけです。そういった人材は組織内に十分います。
しかし、「0から1をつくる人材」は、今の組織の中にはほとんど存在していないというのが現状です。そんな中で、いきなり箱をつくって、「この中で新規事業をやれ!」と言われても、それがうまくいかないのは当然なんですね。
そうした背景がある中で、「クリエイティブ・マネジメント」という考え方を取り入れることで、新規事業の成功確率を高めることができるのではないかと考えました。
これは、私自身の経験や、さまざまな本から得た知見などをもとに体系化していったもので、それが「クリエイティブ・マネジメント」という概念です。
新規事業の成功確率を高める「3つの思考」
この出発点ですが、根本的で本質的な問いがすごく重要です。この「問い」の重要性については、後ほどあらためてお話ししますが、私自身の出発点となった問いは、「社会はこのまま衰退していくのではないか」という強い危機感でした。これは間違いなく衰退していくなと感じたんですね。
その中で、本当に必要なのは何か。それが「ソウゾウリョク」だと考えました。
この「ソウゾウリョク」は2つの意味を含んでいます。1つはクリエイティビティ、つまり新しい価値を生み出す創造力。そしてもう1つはイマジネーション、つまり人や未来を共感から思い描く力です。相手の気持ちやこれから起こることを想像する力。この2つの力が、これからの時代に非常に重要だと感じています。
クリエイティブ・マネジメントという概念の基礎も、まさにこの2つの力から成り立っています。まず、創造性=クリエイティビティは「アート思考」として、自分起点で「何かをつくりたい」という内発的な動機から生まれます。
そして想像力=イマジネーションは「デザイン思考」として、顧客が何を考えているか、何を求めているかという深層を理解しようとする視点です。
さらに、それらを客観的に評価して実現に近づけていくためには「ロジカル思考」が必要です。これは論理的な筋道を立てて、現実の中でかたちにしていく力です。

アート思考、デザイン思考、ロジカル思考の3つを行き来しながら回していくことが、1つの体系として非常にわかりやすいのではないか。そう考えてまとめたのが、この本です。私はこの3つを融合させ、「クリエイティブ・マネジメント」と呼んでいます。
新規事業に欠かせない「思考のマネジメント」という視点
ここで重要なのは、「マネジメント」という言葉から連想されるのが一般的には「人をマネジメントすること」だという点です。もちろん、人をマネジメントするという側面もあります。アート思考の人、デザイン思考の人、ロジカル思考の人、それぞれの個性や能力を活かすという意味も含まれます。
ただ、それ以上に大事にしたいのが「思考のマネジメント」です。

今はアート思考で、自分が本当にやりたいことを考える。そして次に、デザイン思考で顧客のニーズを捉える。さらに、ロジカル思考でそれを現実的に実現していく。
こうした3つの要素を、少し引いた視点、いわゆる「メタ認知」の視点で見ながら、バランスよく進めていくことが重要です。それによって、状況が非常に整理されやすくなります。
アート思考だけで突き進んでしまうと、「自分がやりたいこと」ばかりが先行してしまい、顧客ニーズに合っているかどうかわからない。作ったのはいいけど、誰も欲しい人がいない。そういうケースはよくある話です。それを避けるためにも、この3つの思考を常に頭の中で回していくことが大切なんです。
主催:
ビザスク