一代で東証プライム上場を成し遂げた木下勝寿氏の仕事術や、北の達人コーポレーションの社員の働き方などを通して、「リアルな北の達人コーポレーション」をお届けする「北の達人チャンネル」。本記事では、過去の実績はあるが今の現場を知らない上司の対処法や、AI時代の部下の必須スキルについて語ります。
昔はすごかったが、今は現場から離れて実態を知らない上司
——最後に4人目は「偉そうな勘違いカリスマ上司」。特徴は、昔はすごかったが今は現場から離れており実態を知らない。「俺の経験からすると」と昔話を語る。「俺のやり方で成功したんだからお前もやれ」と言う。現場感覚がずれていることに気づいていない。こんなタイプの上司はどう攻略すればいいでしょうか。
木下勝寿氏(以下、木下):この上司はお客さまに例えると、言葉は悪いですけども「時代遅れの大手企業のベテラン購買担当者」ということになってきます。営業とかをやっていると「昔はこれで成功したんだよ」と語るベテランの購買担当者に出くわす場合がけっこうあります。
彼らは「俺の経験ではこの方法がベストだ」と思い込んでいるんですね。市場環境とか市場のトレンドは変化しているので、そのやり方は通用しなくなっていきます。
ただ、こういうタイプは正面から「でも今は違いますよ」とか「今は通用しませんよ」って否定すると、もちろん機嫌を損ねて取引が破談になってしまう可能性がありますので、うまく持ち上げながら新しいほうに誘導していくのが腕の見せどころです。
古い経験を否定せずに、新しい現場感覚を受け入れさせる
木下:このタイプの上司も同じように、古い経験を否定せずに新しい現場感覚を受け入れさせることが鍵になってきます。まず攻略法としては「過去の成功を尊重しながら現状との橋渡しをする」ということですね。
勘違いカリスマ上司の最大の特徴は、自分の過去の成功体験を否定されると猛反発します。なのでまずは過去の成功を持ち上げるのが基本戦術です。例えば「今はそのやり方では通用しません」みたいな感じで言うと「何を!?」って話になります。
なので「確かにそのやり方で成功されたのはすごいですね。でも今の市場に合わせるなら、さらに○○を加えるとより効果的かもしれませんね」というかたちで、これをちゃんと繰り返すと「俺の成功体験も今に活かせる」と思ってくれます。
上司を過去の成功事例として利用する
木下:そして次にもう1つ、「上司を過去の成功事例として利用する」ということです。この手の上司は成功事例として持ち上げられるとすごく気分が良くなるんですね。「◯◯さんが昔やったように……」と言うとすごく喜びます。
成功した過去の話を現在の環境に当てはめるかたちで、新しい方法を取り入れるほうに誘導していくのが効果的です。「○○さんが当時成功されたのって、市場のニーズを的確につかんだからですよね。今の市場は○○みたいな感じですが、その市場のニーズのつかみ方を活かして今のトレンドに適用するとどうなるんでしょう」と聞きます。
上司の過去にやった手法そのものを認めるのではなくて、適切な手法を選んだ選択肢を認めるということですね。それによって「ではこのケースの場合はどうなんでしょう」ってことで「このケースではこうだな」と、過去の成功手法と違う手法を選んでもらうようにする。

そのために手法そのものを認めるのではなくて、手法の選び方を認めることによって、今の状況に合った選択肢を選んでもらうようにしていきます。
上司の経験と現場のデータを融合させる提案をする
木下:そして3つ目、「上司の経験と現場のデータを融合させる提案をする」ということです。このタイプの上司は現場に基づいた直感的な判断を好むのですが、データを取り放題の現代ではデータに基づいた戦略が不可欠になってきます。
しかし真正面から「データを見てください」と言うと感覚派の上司は興味を持たなかったりします。そこで「経験を活かすためのデータ分析」というスタンスで上司を巻き込みます。
「○○さんの経験からして、この施策はありだと思われますか?」「実は最近のデータでこういう動きがあるんですけども、○○さんのご経験では今回どうしたらいいと思いますか」と聞きます。
経験を聞くんですけども、ただ「こういうデータがあって、このデータの読み取り方がわからないんです」という聞き方をします。「これは○○だな」と上司の人が言うと、もしかしたらこのデータとぜんぜん関係ないことを言うかもしれません。
その時も「なるほど。しかしデータではこう出ているんですけども、だとするとこのデータは間違ってそうですよね。なんでこんなデータになったんでしょうかね。何か間違っているんでしょうか」。
上司からすると「いや、データの取り方に問題があるんじゃないか」「実はこういうデータの取り方をしているんですけどね」みたいな感じでやると「どれどれ」と見てきます。
ここで、この方があくまでもデータを否定するようだったら、もしかしたらちょっとこの人はポンコツなのかもしれません。一緒にデータを見ながら「なるほど、でもこれは一理あるよね」というちゃんとした柔らかさを持っているのであれば、ここで一緒にデータを見ながら手段を選ぶことができると思います。
上司の名前を借りて上級管理職に提案をする
木下:次に4番目ですね、「上司の名前を借りて上級管理職に提案をする」。このタイプの上司は自分のやり方が通じると思い込んでいるので、上級管理職に直接働きかけると「俺を飛び越すな!」ということで機嫌を損ねるだろうと思います。
そこで上級管理職に「この上司のおかげで自分が育った」ということをアピールする目的で「◯◯さんのアドバイスのおかげでこういうやり方をした」みたいな感じで「◯◯さんに鍛えてもらったんです」って言い方をすると、この方も気持ちよくなって「じゃあぜひ言ってみなさい」となってきます。
この内容が正しければ、上司はあなたを育成したことが上級管理職から評価されて、あなた自身が上級管理職からちゃんと一人前と見なされますので、次の管理職候補になれます。
現場を体験させる仕組みを作る
木下:次は「時代の変化を上司に気づかせる仕掛けを作る」ということです。カリスマ上司は自分が現場から離れていることに気づいていません。なので現場を体験させる仕組みを作るのが重要なんですね。
そしてそれによって自分の知識が古くなっていることに徐々に気づいてもらいます。具体的な方法としては現場視察の機会を作ります。「○○さんの目で市場を見てもらいたいです。これをどう見るか教えてください」みたいな感じで、現場のフィードバックを直接見せる感じですね。
顧客の声を直接見せたりして「お客さまの意見としてこういう変化が出ています。◯◯さんはどう見ますか」とか、社内勉強会で最新の情報を見せて「最近のトレンドについて全員で学ぶ機会を作りませんか」ということで、全員の学びとして誘います。

このようにして上司が市場の変化に自ら気づく環境を作っていきます。「俺の知識もアップデートしなきゃな」と考えるようになっていきます。
すべてがこのようにうまくいくわけではありませんが、まずは上司を営業窓口の担当者と思って、あなたが上司の上司に認められるよう、上司を味方にするにはどうするべきかを考えて、ぜひ取り組んでみてください。
——木下社長の攻略法が天才的すぎて、聞きながら私、笑いが止まらなかったんですけど(笑)。私も個人的にはこのタイプの上司が苦手だったんですが、聞いているとうまく攻略できるようなイメージが持てました。ありがとうございます。
木下:良かったです。これを聞いているみなさんの上司は、これまでの4パターンのどれかに当てはまっていましたでしょうか。もしほかに「こんなタイプの人がいる」ということがあれば、ぜひコメント欄で教えてください。
中間管理職には「7割正しくて3割できていない人」が任命される
木下:では最後に、実はこれからますます上司の攻略が不可欠になってくるんですね。なぜなら今後、上司の攻略ができない人は仕事がなくなっていくからです。これを詳しく説明します。
私は上級管理職で社長なので、上司の上司の立場にいます。私自身は中間管理職を任命する立場です。もちろん仕事がちゃんとできる人を管理職として任命しますが、100パーセント正しい人って残念ながらいないんですね。
中間管理職に任命する人はだいたい7割正しくて、3割間違っているような人を任命しています。それでも一般的な社員の人よりはまだまだマシな方を任命しているはずです。中間管理職の下にいる人は、7割の正しい部分をその上司からぜひ学んでください。
一方で正しくない3割の部分を今回学んだノウハウで攻略して、乗り越えてきてもらいたいんですね。私は上司の上司なので、ちゃんとこの人ができてない部分を攻略して乗り越えてきてほしいと思います。
そして上級管理職の立場の人は、それを乗り越えてきた人を次の管理職候補として見ているんですね。中間管理職には7割正しくて3割できていない人がだいたい配属されますので、3割を乗り越えてぜひ上がってきてほしいなと思います。
不完全な管理職をうまく攻略するのも部下の仕事
木下:みなさんの立場からすると「いや、そんなこと言わずに10割できる上司を用意しろよ」と思うかもしれません。しかし今の時代は、10割できる管理職の下には人間はつけないんですよね。10割完全に正しい指示をできる人の下には、人間ではなくてAIをつけるんです。
間違った指示をしないので人間でなくてもいいんです。AIにやってもらえばいいんです。なので人間というのは不完全な管理職の下にしか、つける必要がなくなってきたんですね。そしてその不完全な管理職をうまく攻略して、味方につけて乗り越えていくこと自体が、人間の役割になってきます。
これからのAI時代は、不完全な上司を攻略できる人しか必要なくなってくるんです。なので不完全な上司をサポートするのも仕事なんです。上司は不完全で当然なんだ、それをちゃんとサポートして攻略していくのも仕事なんだ、というつもりで取り組んでみてほしいなと思っています。
攻略して乗り越えていく人は次の上司になって、それを反面教師にして、また良い上司になってください。