Z会の『速読速聴・英単語シリーズ』発刊25周年を記念して開催された本イベント。本シリーズを教材として使用して、海外で活躍するトップアスリートへの語学指導経験を持つタカ サカモト氏が、英語学習の重要性や学習法について語ります。本記事では、語学学習を継続させるための「発音」や「英文の読み方」のポイントを解説します。
「発音記号」が読めるようになると有利
タカサカモト氏(以下、サカモト):ちょっと時間もアレなんですけど、今までインプットの話をしているじゃないですか。ただ、とはいえみなさんも最終的にはしゃべりたいじゃないですか。インプットと言いながらも、同時にアウトプットの練習もできるんですよ。なんでかというと音読が大事だと思っているので、実は意外と大事なのは発音なんですね。
インプットのためにも重要。要は基本的に言語は音なので、例えばの話、「ミルク(日本語の発音)」と言っても英語圏の方には通じないんですよね。「milk(英語の発音)」と言わないと通じない。
だから片仮名発音というのは……何ていうんですかね。今もう帰り道に海外の方に道を聞かれたら片仮名発音だろうが何だろうが別に元気よくしゃべればいいんですけど。ただ学習の途上においては、やはり英語を英語として発音することにはこだわったほうがいいと思います。
ただ、別に英語の発音というのは英国、米国、欧州、オーストラリア、ニュージーランドであったり、南アフリカであったり、シンガポールであったり、インドの英語があったりという意味でいろんな英語があるので、どれが正解というのはないと思うんですけど。
基準としては、ネイティブの人とか英語話者に一発で通じるような発音を目指すのがいいかなと思います。だから厳密にきれいな発音とは言えなくても、少なくとも一回で通じることを目指すのは大事かなと思います。
そのためには、ここはちょっと面倒かもしれないですけど、発音記号とフォニックスは一応やっておいたほうがいいと思います。発音記号は辞書で調べたら横に書いてあるじゃないですか。「th」だったら縦丸に横に入っているの(θ)とか。あれは何かと言うと読み仮名ですね。
漢字も、最初は振り仮名がないと読めなかったじゃないですか。発音記号というのは一言で言うと振り仮名なので、あれを見ると音声がなくても発音がわかっちゃうんですよ。
だから、ちょっと最初はしんどいかもしれないんですけど、発音記号が読めるようになると、本当に見ただけで音が全部わかる。あるいはキャッチした音を発音記号で書けるようになると本当に楽です。要するに音をキャッチできるので。と言うと高度な感じで萎縮すると思うんですけども、一応発音記号とは仲良くなったほうがちょっと有利ではあります。
発音の練習は「ChatGPT」を使う

サカモト:あるいはフォニックス。フォニックスは何かというと、「a」「b」「c」というのは、「a」は文字の名前ですよね。「b」も文字の名前ですよね。実際には「b」は「ビー」と言うんじゃなくて「ブッ」と言うじゃないですか。「p」は「ピー」と言うんじゃなくて「プッ」と言う感じですけど、これをフォニックスと言うんです。
これを覚えてネイティブの言葉のつづりを見た時に、例えば「milk」と書いてあったら「m」「i」「l」「k」、「milk」というふうに発音を当てていくんです。これが英語のもう1個の読み方で、これはあんまりおもしろくないかもしれないんですけどやってみる価値はあるのでぜひ。
YouTubeとかで「phonics song」とか検索すると、子ども向けのやつとかも出てきます。「A is for Apple, a a Apple」みたいなやつなんですけど、そんなのをちょっとやってみてほしいなと思います。
ここはさすがに技術的な話をしたんですが。発音が大事ということの一番のポイントは、発音できるようになってくるとたぶんみなさんテンションが上がるんですよね。楽しいじゃないですか。しゃべれるようになりたいということは流暢になりたいから、自分が「Siri」とか「ChatGPT」に英語で話しかけて普通に通じたらたぶんちょっとテンション上がるじゃないですか。
人を相手にするならちょっと恥ずかしいと思うんですけど、本当に今はChatGPTという最高のツールがあるので。まぁ、Siriでもいいんですけど機械に話しかけてみる。だから簡単に言ったら、機械に話しかけてわかってもらえる発音だったらいいんですよ。
発音ができるようになってくると音読がストレスじゃなくなるんですよ。「私は発音が良くないから読むのが恥ずかしくて」みたいなことをおっしゃる方がすごく多くて、そこはちょっとがんばってもいいかなとは思います。
そうするだけで音読することが気持ち良くなってくる。やはり人間は気持ちのいいことは続けたがるので、もう言われなくても音読をし始めます。そうなると勝手に、楽しいから。そのスパイラルに入ってくれればけっこう楽かなと思いますね。
一番大事なのは想像力
サカモト:というわけで、今日の講演の結論なんですけど、その中で一番大事なのは実は想像力だと思っています。
結局しゃべれるようになりたいということを考えるんだったら、それはやはり未来の話じゃないですか。今その場面は目の前にはなくて、いつかやってくるその日のことを考えてやっていかなきゃいけないのが語学の最大の関門でもあるので、その場面をいかに想像できるか。未来に対する想像力もそうです。
あとは、英語を生きたものにしていく上で想像力は大事なんですね。ただ「受験英語は無味乾燥で」とか言うじゃないですか。なんか「机で、紙で、文字で」みたいな。ただこれも考え方1つで変わります。
例えばこれは受験じゃないんですけど、さっきの松本先生の緑色の本(『速読速聴・英単語 Basic 2400』)ですね。これは緑色の本の旧版です。今はver.4で、これはver.3の1ページ目の1個目の英文です。せっかくなので音声を流しますね。
Ben:Mom, do dogs dream?
Mom:That's a good question, honey. Let's look on the internet.
Ben:Yeah, let's do that.
サカモト:以上です。これがテストだったら何をするかと言うと、基本的に和訳ができたらOKじゃないですか。でも僕は授業の時、選手たちに何をしているかというと、ちょっと考えてほしいんですけど、お母さんが「That's a good question, honey.」……ちなみにこの(前の文の)意味は大丈夫ですか?
話者3:犬は夢を見ますか?
サカモト:そうそう、どんな質問だよって感じなんですが。
(会場笑)
英文の背景をイメージしてみる
サカモト:「いい質問ね、ハニー。ネットで見てみましょうか?」と。「うん、そうしよう」と。僕はこれ、ちょっと気になったんですよね。みなさんは今からこれをネットで見るじゃないですか。2人はどのデバイスで見たと思いますか? タブレットかパソコンかスマホか、どれで見たと思います?
正解はないから、思い浮かぶものを言ってください。タブレットだった人。じゃあ、パソコンだった人。じゃあ、スマホだった人。OKです。(話者3に対して)ちなみにどれにしましたか?
話者3:自分はパソコン。
サカモト:パソコン? どういうシチュエーションでした?
話者3:部屋で団らんしているような。
サカモト:で、パソコンを開いたという。なんでパソコンがそこにあったんですか?
(会場笑)
サカモト:団らんしている時に、パソコンはなくないですか? みたいなことが僕はけっこう大事だと思っていて。もちろん別に間違ったことはおっしゃっていないんですよ。ただ生きた言語と考えていったら、ここが僕は大事だと思っています。もっと言うと、このお母さんは疲れていると思っています。
だって、想像してみてください。「お母さん、犬は夢を見る?」といきなり言われてみたら? こういうことを聞く子は毎日聞くんですよ。明日はたぶん「キリンの首はなんで長いの?」とか絶対聞くんですよ。
浮かんだイメージについて選手たちと議論
サカモト:しかもいきなり。例えば、「Mom, sorry for bothering you, but I have a question.」とか言ってくれればいいですよ。「ちょっとごめんね、聞きたいことがあるんだ」って。でもいきなりこれですからね。「何、何?」みたいな。これが毎日なんですよ。お母さんは聞かれた瞬間、「はぁ……」と。でも、良くないと。(だから)息子の純粋なこの質問に対して、「That's a good question, honey.」と言っている可能性があるなと思ったんですよ。
で、「Let's look on the internet.」。お母さん、絶対サボっていますよね。だって例えば、「What do you think?」とか聞いたほうがいいんですよ。「あなたはどう思う?」って。それこそ今流行りの探究が広がるじゃないですか。だけどそうなっていない。
これはたぶん、こんなことを毎日聞かれているなと。パソコンだとしたら、お母さんが家に持って帰った仕事をやっていた時に(息子が)ちょっと聞いてきた。で、「That's a good question, honey.」と言って、タブをもう1個開いて「Let's look on the internet.」とやったんじゃないかなと。
(会場笑)
サカモト:これがスマホの場合は団らんかなと思うんですよ。ソファでテレビか何かを見ていて、「うーん、もう(今日やることは)終わった」と休んでいた。そうしたら、寝る前の子どもが急に来た。あと寝るだけというところで子どもが来て、「はぁ……」って、もう(スマホを)渡している可能性がありますね。
でも、このストーリーで僕の中でグッと来たのは、この子が純粋そうなことなんですね。この声を聴いてくださいよ。
Mom:……honey. Let's look on the internet.
Ben:Yeah, let's do that.
サカモト:めっちゃ素直じゃないですか。この子はすごく純粋な子なんだろうなと思って。こういう浮かんだ疑問(をすぐ質問するところ)が、いわゆるハテナ期みたいな子なんだろうな、みたいなことを選手たちと議論するという。
(会場笑)
文脈を想像することで学習が深まる
サカモト:ちなみにこれをあらためて調べると、これは旧版と言ったじゃないですか。だからこの英文は、ちょっと前の英文なんですよね。だから僕らと、この文が書かれた当時とたぶんインターネットに対する捉え方が違うんですよ。
だから今でいうChatGPTですよね。「じゃあ、ChatGPTに聞いてみようか?」だったら、親のほうもちょっとテンション高めじゃないですか。出版された時期を考えると、おそらくこれはたぶんインターネット検索自体が、今の我々の生成AIみたいに(出てき始めた時期だと思います)。
僕が人さまの書かれた参考書を勝手にいじり倒しているだけなので失礼な話なんですけども。ただ、そういうつもりでもう1回聴くと、ちょっとお母さんの声が疲れて聴こえるんですよ。
Ben:Mom, do dogs dream?
Mom:That's a good question, honey. Let's look on the internet.
Ben:Yeah, let's do that.
サカモト:ちょっと疲れて聴こえますよね。
(会場笑)
サカモト:みたいな感じで(英語学習を)やっているんですね。「想像力」と僕が言ったのは、将来しゃべれるようになった自分を想像しようみたいなのはもちろん大事なんですけど、目の前の字が並んでいる英文に対して、その奥にはやはり世界があって何かしらの場面と文脈があるんですよね。そういったものを想像しながら楽しめるようになってくると、この1文しかその日にやれなかったとしても、けっこう深い学習になるんですね。
ベンの野球チームは勝っている? 負けている?

サカモト:もう1個あったんですけど、これは「It's your turn at bat. Go out there and hit the ball hard. We need a home run.」とコーチが言いました。で、ベン、(さっきと)同じ子が「OK,coach. I'll do my best.」。で、コーチ、「You can do it. Just go for it.」。
ちょっと駆け足なんですが、このチームは勝っていますか、負けていますか? 勝っていると思う方。負けていると思う方。そう、これは負けていると思うんですよ。だって「We need a home run.」と言っているんですよ。
で、今回のベンは強打者でしょうか? そうじゃないでしょうか?
(会場笑)
サカモト:じゃあ、強打者だと思う方。そうじゃないと思う方。おっ、ありがとうございます。じゃあ、ちょっと実際の声を聞いてみましょう。
Coach:It's your turn at bat. Go out there and hit the ball hard. We need a home run.
Ben:OK, coach. I'll do my best.
Coach:You can do it. Just go for it.
サカモト:まぁ、ちょっと打てなさそうですよね。
(会場笑)
サカモト:犬の(夢の)ことを聞いていたくらい純粋そうなベンなので、あんまりゴリゴリした感じじゃないんですよ、この子は。「We need a home run.」と言うとホームランを期待しているみたいに聴こえるじゃないですか。でも僕、ベンは代打だと思っていて、おそらくもうこの試合は負けがほぼ確定している。
だから逆に言うと、ベンはたぶん野球チームに入っているけどレギュラーじゃないんですよ。負けが確定しているから逆にベンに打席を回せるチャンスだったんですよ。ベンはなかなか試合に出られないので、もう勝敗がついているし「ここだったら打席に立たせてあげられるわ」と。
ただ、やはりそこで「負けが確定しているから行っておいで」なんて指導者としてあり得ないわけですよ。だから「It's your turn at bat.」。
コーチとの会話からベンのポジションを予想
サカモト:あとは、なんで代打だと思ったかというと、「Go out there and hit the ball hard.」、要するに野球のベンチ、ダッグアウトは野球の大リーグとかでちょっと下がったところがあるじゃないですか。あそこから出て行って「ボールを強く叩くんだよ」って、すごく基本的なアドバイスをしているんですよ。大谷(翔平)選手に絶対こんなことを言わないじゃないですか。
(会場笑)
サカモト:あそこに出て行って、「お前、しっかり打てよ」と。「You can do it.」って、これも大谷選手に言わないですよね。「Just go for it.」、「がんばれ」とは言わないと思うんですよ。実際ベンは「I'll do my best.」、「がんばります」「ベストを尽くします」と。あんまり自信がないんですよね。
でも僕、これが素敵だなと思うのは、コーチは「We need a home run.」という、「俺たちはホームランが必要だ」と。つまり「君に逆転の望みを託したよ」という非常に前向きなメッセージでベンを送り出しているということ。
これを僕は指導者としてすごく美しいなと思って、野球選手と「ベンのポジションはどこかな?」「たぶん9番ライトだね」みたいな話をしています。
ちなみに僕は今日、これを準備している時に、本物の強打者が緊迫した場面でコーチに同じ「We need a home run.」と言われた時に、何て返すかをちょっと考えていました。学校で習うような一般的な表現で僕でも思いつくようなのだったら「You can count on me.」「任せてくれ」……そういう王道の表現があるんですけど。
やはりさすがChatGPTで、「それもいいけど男前な格好いいフレーズがいろいろあるよ」と言ってきて。
1つ目、「I've got this.」「これは俺の仕事だ、任せてくれ」。あとは「Say no more.」「何も言わなくていい」。あと「I'll bring us home.」。ランナーも含めてホームに自分たちを俺が連れて帰って来てやるという感じですね。あとは、「Let me end this.」「俺が終わらせてやる」。
いろいろあるわけですよ。でも完全に脱線しているから、こういうやつはテキストが一向に進まないんですけど。これはいつ使うのかという話なんですけど、ちょっと覚えたなと。
想像力を駆使して読みまくり、聞きまくる
サカモト:というような感じでチャラチャラと脱線しながら英語をやって、この感じを選手にも共有してもらっています。すみません、時間をオーバーしちゃいましたけど。

最後にまとめなんですが、読みまくり、聞きまくるというところはもうしょうがない。何らかの方法で、何らかのタイミングでやるしかない。願わくばとにかく覚えちゃうぐらい。ただそれより大事なのは想像力を駆使して読みまくり、聞きまくること。これがあるだけで日々の勉強そのものが楽しくなるので、普通に楽しいって感じられて幸福度が上がると思います。正直、英語力より幸福度が上がったほうがいいんじゃないかなと。

そして使いまくる。これがしゃべれるようになっていくために必要なことなのかなと思います。それはもうコップに水を注いでいくのに近いんですけれども、インプット、インプット。やがて右側にあふれていった時にちょっとしゃべれるようになると思いますね。
そうしたら、また次の器に注ぐ。またちょっとあふれて、しゃべれる(ようになる)。それを繰り返していくとだんだん器が大きくなるので、まあまあしゃべれるようになっていきます。
それでは、ちょっと時間をオーバーしちゃいましたけど。というような話でインプット重視でわかる人を目指す、読むと聞くをがんばってみよう。そのためにこの参考書がおすすめだよというお話(笑)。あとは想像力を駆使して、勉強そのものを楽しめればいいんじゃないかなというお話でございました。お付き合いありがとうございました。
(会場拍手)