推し活支援企業Oshicoco代表・多田夏帆氏が、熱狂する“推し”の消費行動とコミュニティの特徴を解説。マーケターが持つべき“推し活的視点”や、近年の推し活マーケティングの特徴、今後の推し活マーケティングの現在を語ります。
常に推し活マーケティングの情報を発信
藤田祐司氏(以下、藤田):事前に来ていた質問があります。推し活マーケティングの第一人者として活躍されていて、日々どんどん極めていらっしゃると思うんですけども、その軸で多田さんが日頃から意識していることってあるんですか?
多田夏帆氏(以下、多田):「自分の実践として」ということですかね? それとも「第一人者として」としてか、どっちも答えればいいですかね(笑)?
藤田:そうですね。「第一人者として」も、両方の軸で答えてもらってもいいです。
多田:このように推し活について解説や説明をさせていただく機会がありがたいことに多いので、その立場として気をつけていることで言うと、言葉の定義ですね。
やはり推し活がよくわからない方というのは、「推し活」と「オタク」と「ファン」、あとは「好き」と「趣味」の違いがちょっとぼやぼやしている方が、お話ししていると一番多いです。
さっきも「『好き』と『推し』の違いってこうです」とお話しさせていただいたんですが、言葉の説明をして推し活の理解を正しくしていただけるように、というのは日々意識をしています。
あと、私が実践で気をつけていることで言うと、やはり自分の思いの発信の質と頻度です。
Oshicoco社の「PR TIMES」のプレスリリースを見ていただくとわかるんですけど、かなりの頻度で発信をしています。本当に多い週はもう毎日プレスを発信しているんじゃないかというくらいです。
やはり「推してもらうためには」というのをさっきからずっとお話しさせていただいていて、ファンを固まりとして見ないとすると、それぞれに向けた発信が必要となりますよね。
同じ作品のファンでも刺さる情報は違う
多田:一言でファンと言っても、何が刺さるかは違ったりします。過去の実績が刺さる方もいれば、データ調査みたいな数値が載っているものを見るとやりたくなる人もいれば、「私たちが日々どういうことを考えて仕事をしています」みたいな思いの発信が刺さる人もいるんですよね。なので、それぞれのファンに向けて情報発信をやるようにしています。
その結果、週に何本もプレス発信やnoteの更新をするんです。でも、やはり「ある程度の量を担保することによって初めて出会えるお客さんっているな」というのは実感として思っていて、発信の頻度と質を高めていくことはすごく実践しています。
ただ、これは弊社がまだまだスタートアップで、これからもっと多くの人に知っていただく立場の会社だからこそやっていることでもあるので、すべての企業さんが「とにかく量を」ということではないと思っています。名の知れた大企業の方がいきなりめちゃめちゃプレスを出すのはたぶん違います。
状況によってやるべきことは違うと思うんですけど、弊社の場合は量をかなり担保していて、「推してもらうためにはこんな人たちにこんなコンテンツを出せばいいんじゃないか」というのは日々考えています。
西川ハルミ氏(以下、西川):「毎日プレス発信、すごい!」というコメントもいただいていますね。
藤田:実際、すごいですよね。
多田:それだけの思いと、あとは数字も実績もやはり発信しないと伝わらないです。弊社はまだスタートアップなので、推してもらえるポイントも「ここでーす!」というのを自分たちから言っていかなきゃいけない立場なので、そこはすごくやっていますね。
藤田:そうですよね。先ほどレイヤーの話があったことに関してのコメントだと思うんですけれども、「ファンの推し度合いが千差万別です」と。
なので、ライトな人は緩いけど、ヘビーな人はライトな人に押しつけるような発言があったりするので、荒れる。レイヤーがあるからこそ逆にマウントがあったりとか、たぶんそういう例だと思うんですけども。
このあたりって、企業が推し活マーケティングをしていく上で注意できることが何かあるものなのか。それとも「推し」という活動自体がどうしてもそういう構造になってしまうものなのか。
「すとぷり」に学ぶファンとのコミュニケーション術
多田:そうですね、構造としてはらんでいる部分は一部あります。新規・古参問題と言うんですが、巨人対阪神とか、新規と古参とか、やはり一種の対立構造の中で推し活が盛り上がる部分もあります。なので、それによるメリットが勝っているうちはそれでもいいのかなとは思うんですよね。
「このメーカーさんの商品に対して、こっちの商品のほうがいい!」みたいなことを言ってくれる濃いファンの人って、たぶんどこかでは必要なんです。だけどやはりそれによって企業イメージが悪化したりとか、コミュニティが荒れてしまうのは良くないので、企業ができることとしては適切なルールや指針を出してあげることなのかなとは思います。
IPでも会社でもそうなんです。IPですごくうまくやっているなと思うのは、「すとぷり」さんという、あまり顔を出さずに歌やライブ配信をやられている2.5次元アイドルの方たちです。
子どものファンの方もすごく多いので、全部ふりがなが振られた「推し活の楽しみ方」みたいなのをサイトに出されていたりするんですよ。それがすばらしいので、ぜひみなさん、検索してみていただけたらと思います。
それはIPの例ではあるんですが、そういうふうにコミュニティの指針を出してあげるのは、企業側からある程度やってあげたほうが平和になると思います。
藤田:なるほど。ありがとうございます。
西川:確かにそうですね。オンラインとかSNSで勝手にコミュニティみたいになっていて盛り上がっていくのはあると思うんです。こちら側もガイドラインじゃないですけど「こういうふうに活動してくださいね」という、直接的に言わずに何かできることがまだまだオンライン上でもあるんだなと思いましたね。
マーケターが持つべき“推し活的視点”
西川:ちょっと番組も終盤に差し掛かっています。マーケターの方が今回多く見てくださっているのでこちらの質問もおうかがいしたいなと思っています。「マーケターの方が持つべき推し活的視点」というのは多田さんの中でどういうふうにお考えですか?
多田:一般的なマーケティングと推し活マーケティングの違いで言うと、やはり損得勘定だけじゃない部分に刺しているところが明確な違いです。やはり応援しているとかビジョン・ミッションに共感しているから、推して誰かに広めたくなるところにつながっていきます。

これまでの損得勘定で刺そうとするマーケティングだけでは刺さらない層、もしくは生活者たちが現れてきており、これだけ価値観が多様になってきているので、はっきり白黒と損得とかって言えない時代になってきているのもあると思うんですよね。
その時に、特に若年層を中心に、「応援したいから」とか「共感しているから」という観点で買うものを選んでくれる方たちが今出てきているところが、今回のこの1時間のポイントかなと思っております。
「推されるためには」というところだと、やはりビジョン・ミッションや、何のためにこの商品を出したのかをどれだけ発信できるかだと思います。
藤田:ありがとうございます。ちょっと最後にお話をうかがいながら、思いついちゃった質問が1個あるんですけど……。
多田:はい。もちろん。
藤田:推し活マーケティングというのが3年ぐらい前から広がり始めて、今、かなり広がっていると思います。要はマーケティングの手法って進化していくと思うんですけど、この先、どういうふうに推し活マーケティングが変化していくのか、どうなっていきそうだと考えていますかと。
例えば多田さんの感覚の中で、「実はもうすでに3年前と比べると変化しているんですよ」とか「この先どうなりそう」みたいな、そういうお考えやアイデアをもしお持ちだったらおうかがいできればなと思いました。
推し活マーケはどのように進化するのか
多田:まず1つ目が、IPコラボ系の推し活マーケはこの数年で本当に業界が広がったなと感じています。
最初はけっこうわかりやすい領域でした。お菓子を買ったらファイルがついてくるとか、そういう若年層に身近なものや業界が多かったんです。けれど、それこそさっきお話ししたとおり、もう外食産業も当たり前に推し活コラボをずっとやっている状態になっていたりだとか。
あと、例えば化粧品も、これまでだったら「こういう効能があって」みたいな説明をしていたところが、大谷翔平君とコラボして、表参道に旗を掲げることでファンが買ったりだとか。でもそれで、化粧品に興味がなかった層の獲得には成功していると思うんですよね。
そういうふうに業種・業界が広がってきたと、この数年で本当に感じています。そういうコラボ系は今後も業種・業界が広がっていくんじゃないかなと。「そこも推し活みたいなことができるんだ」とみんなが気づいていくと思います。
あと、2つ目に、例えば弊社は保険の会社さんと、推し活のインフラを作っていくような「推し活保険」を、キャンプやコンサートで遠征する人たちに向けて作らせていただいたんですね。やはりコンサートって雨でけっこう中止になっちゃうんですよ。でも(中止になったのに)かかってしまうホテル代を補償する保険なんです。
そういうふうに保険の業界とか、今までだったらあり得ない業界の進出しており、実際に金融業界の方からのお問い合わせも増えています。
私たちの人生やインフラにより近いところにも、「推し」が言われるようになる、当たり前になっていくのはあるんじゃないかなと思います。
アイドルやアニメの例がわかりやすいのでそのお話を取り上げちゃうんですけれども、それだけではなく、例えば地方創生みたいな文脈でも、けっこう「推し」の話をされていたりもします。
生活に密着した領域への展開が期待
西川:推し活保険!
藤田:それはいいですね。推し活をする人にとってはすばらしいわけじゃないですか。
多田:そうですね。やはり天候トラブルとか、子どもが熱を出しちゃったとかってあるので。
藤田:確かに。だから、今まであまり結びついていなかったところに推し活マーケティング的な手法が入ってくる、本当に身近になっていくということですもんね。
多田:そうですね。やはりこれまではモノがあって、それに対してファンを作ろうみたいなところだったのが、「何かすごい熱量を持っているファンのコミュニティがあって、そこに刺しにいこう」みたいな感じで、少しずつ順番が変わってきている最中なので、どんどんそっちが主流になっていくんじゃないかなと思います。
西川:これからも推し活を起点に、考えもしなかったところとの業界の新しいビジネスが出てきそうですね。今後もちょっと楽しみですね。ありがとうございます。
西川:それでは、あっという間に1時間が経ってしまって、ちょっと時間も過ぎてしまいました。最後に多田さんからマーケターのみなさんに伝えたいコメントを一言いただければと思います。
多田:あっという間の1時間で、お話を聞いていただきありがとうございました。本当に推し活マーケティングは最近出てきたところもありつつ、やはり私たちがそもそも持っている、「誰かを応援したいな」とか、共感して感動して、だからその選択をするという、人間が本来持っている気持ちに訴えかけるものだと思っています。
コロナ以降やSNS以降、変わってきた社会にすごくフィットするものなので、新規層とかこれまでアプローチできてないお客さんにアプローチしたいという方々は、今日のお話でヒントになるものがあれば、ぜひ実行していただけたらなと思っています。