推し活支援企業Oshicoco代表・多田夏帆氏が「推し活マーケティング」の具体的な事例を紹介します。一般的なマーケティングとの違い、ファン作りに必要なコミュニケーションの視点など、推し活マーケティングを導入するメリットと注意点を解説します。
若者を動かす「推しカラー」
藤田祐司氏(以下、藤田):さらにご質問が来ております。大石さん、ありがとうございます。「推し活マーケティングにおいては、ユーザーのSNS投稿などが広告代わりになる仕組みなんですかね? 広告の多さにうんざりしている人も多い中、良いマーケティング手法だなとあらためて感じました!」
多田夏帆氏(以下、多田):そうですね。そのあたりについてはちょっと資料があるので、ぜひ共有させていただいて、お話しできればと思います。
藤田:ぜひ、ぜひ。
多田:(スライドを示して)これは「推しを絡めた商品や推しとのコラボ商品で購買意欲がどれだけ刺激されているか」というアンケートを採った結果なんですけど、「自分の『推し』に関係ある商品はできるだけ購入したい」とか「自分の『推し』とのコラボキャンペーンしている商品はつい買ってしまう」とか。
あとコラボではなくて、推し活には推しカラーという概念があります。「このキャラは何色」みたいな感じで、戦隊ものみたいにアニメのキャラやアイドルにはそれぞれ色が決まっているんです。
その色を意識して商品を買っているかどうかだと、10代の女性だと半数は色を意識して商品を買ったことがあると答えるくらいです。実は色のカラーバリエーションでも推し活のマーケティングってできるんですね。
推し活とUGCは好相性
多田:ちょっとUGC(一般ユーザーが投稿するコンテンツ)の話になりますが、そういうふうに推し活を絡めてマーケティングを行うと、大石さんがおっしゃったUGCがめちゃめちゃ出てくるのが、推し活マーケティングの効果になっていきます。

(スライドを示して)これは弊社の事例です。展望台がある商業施設さんの来場者増加施策として、推し活で使えるフォトスポットを弊社が作らせていただきました。
推し活をされている方たちって、ぬいぐるみとかアクリルスタンドと言われる推しグッズを日々持ち歩いているんです。それがかわいく撮れるブースを作ってあげたところ、これまでUGCがぜんぜん出なかったものが、月間数百件〜数千件のUGCが出たんです。
飲食店で推し活メニューを開発するお仕事をさせていただいた時も本当にご好評いただき、2店舗で1,000点を1ヶ月で販売しました。飲食店さんでのハッシュタグ付きの投稿がものすごく増加した事例もありました。
推し活をしている人たちって、プライベートのアカウントじゃない推し活アカウントをSNSで持っているんですよ。なのでそこでの発信をめちゃめちゃしてもらえるので、推し関連の施策はUGCをすごく上げてくれるものを作ることができますね。
西川ハルミ氏(以下、西川):それは「推しのアクリルスタンドを持ってかわいいカフェに行ったよ」というのをできるだけ多くの人にシェアしたい気持ちから、そういう(プライベートとは)別の推し専用のアカウントを作ったりして写真を投稿する感じですか?
多田:そうですね。あと「自分の思い出のために」というところもありますね。
企業発信ではないメッセージが自然に拡散
西川:なるほど。でも確かに、最近すごくキャラクターがコラボとして食事のメニューに入っているカフェをよく見る気がします。やはりここ数年ですかね。
多田:そうですね。ファミリーレストランでも、「何皿食べたらこれがもらえる」とか「この期間に来店すると何円以上でクリアファイルがもらえる」とか、本当にこの数年でコラボメニューが増えたかなと思っておりまして。
やはり、コロナの影響が大きかったかなと思います。外食産業だけじゃないですけれども、コロナの影響で集客がなかなか難しくなった時に、すでに熱量を持っているコンテンツとコラボすることでお客さんに来ていただく手法がすごく盛り上がったのはありますね。UGCも増えるので、宣伝も勝手に広がるところが推し活マーケティングの強みかなと思います。
藤田:しかも、そうやって広がったものって、メッセージが自然じゃないですか。企業体が何かを言うと「そりゃ、そう言うよね」という感じにどうしてもなってしまうと思うんですけど、魂の乗った言葉が拡散していくってすごいことですよね。
多田:おっしゃるとおりですね。
フォロワーを巻き込む情報発信がおすすめ
藤田:いわゆる推し活をされている方たちが拡散してくれるという話がありました。ちょっとそんな流れで、事前にいただいていた質問の中に入っていたんですけれども、逆に「SNSの活用法について。毎日何かをあげたほうがいいのはわかるが、話題が尽きてしまう。毎日ストーリー更新するコツはありますか?」というような質問がありました。
推し活マーケティングってそもそも毎日上げたほうがいいのかとか、頻度のバランスもあると思うんですけども、この質問だと多田さんはどんな観点をお持ちですか?
多田:たぶんこれは企業のサービス、商品、もしくは企業自体のアカウントか何かかなと思います。必ず毎日やらなくても大丈夫なんですけれども、やはりなるべく頻度は高いほうがいいと思っています。
話題が尽きるのはもう本当にどの方も経験することかなと思います。1個おすすめの方法というか、それこそ推し活をしてもらうために大事な要素があって、それはお客さんとのコミュニケーションを取ることです。
Instagramだったり、あと、Xだと「Peing-質問箱-」というサービスだったり、「マシュマロ」とか外部のサービスでも(お客さんとコミュニケーションが取れるツールが)いろいろあります。フォロワーさんから質問を募集して、それに回答していくインターネット上の文化があると思うんですけれども、それがおすすめです。
やはり自分だけでコンテンツを作っていくのはなかなか限界が来ると思うので、フォロワーさんからご質問をいただいて、それに答えて更新していくとかなり楽です。あとフォロワーさんとの交流もできます。
それは企業のアカウントでも、「この人 / この企業は、質問に対して真摯に答えてくれるアカウント / 会社なんだ」という、いい印象しか残らないです。そういう交流をすることで、「推されるために、一般人の何でもない私にも回答してくれるんだ」と、すごく感謝の気持ちを持って応えていただけると思います。コツとしては「質問箱」の活用ですね。
藤田:なるほど。それはいいですね。
多田:これはもうすべての企業さん、サービス、経営者のみなさんのSNSでやるべきかなと思っています。
藤田:エンゲージメントも高まりますね。
距離感を縮める工夫が好感度を生む
多田:日本の著名な経営者の方々のXを見ていると、質問箱を使ったりとか引用リプライで返信したりとか、やられている方がいると思うんです。
それは本当に推し活の観点でも効果的と言いますか、会社の社長ってやはり普通はなかなかお話しできない存在だと思っているので。社長じゃなくても企業のアカウントでもそうなんですけど、そこが回答してくれるのはすごくうれしいです。好感度を上げることができるし、それを通して先ほどのビジョン・ミッションの発信もできると思うのでおすすめです。
藤田:ありがとうございます。逆にファンや推してくれている方たちとの距離感の軸で言うと、「関係性はすごく大事だよね」ってなっている時に、一方でややもすれば距離感が近すぎるとか、漢字の「押し」、プッシュが強すぎる感じになることもあるのかなと思うんです。
「押しつけないマーケティング」あえて今そういう言葉を使っていますけども、このあたりってどういうところを意識するとよいのかをおうかがいできればなと思います。
自社のファンを細かく分類する
多田:これはファンをファンという固まりで捉えないということだと思います。自社のファンやIPのファンでもそうなんですけど、固まりで捉えてしまうと、実はその中にはいろんな感情でいらっしゃる方がいるのに、それこそ押しつけというか1個のメッセージになるので、刺さらないものになってしまうんですよね。
IPとか、自社をいいと思ってファンになってくれた人たちというのは、たぶんいくつかにブロック分けできると思うんです。固まりではなく一人ひとりにいろんなストーリーや感情があると思うので、そこを意識することがすごく大事だと思います。
なので、「1つのファンの固まりに対して1つのメッセージで一気に対応して終わり」ではなく、いろんな価値観や状況の方がその中にいることを意識して、「こういう人たちにはこういう発信でこういうメッセージを」とか「この人たちにはたぶんこの言い方のほうが刺さる」というかたちで(発信する意識が大事です)。
ファンの中にも実はレイヤーが(いろいろあり)、すごい濃いファンもいれば、まだライトな層もいるし、いろんな感情を持っている方がいます。「そこに対してこれを」とすることが、押しつけじゃないかたちになるんじゃないかなと思います。
「時間軸」に着目したセグメント
藤田:なるほど、そうですよね。ファンの方たちもどれぐらいのエンゲージメントなのか、それぞれ違いますよね。
多田:そうですね。一言でファンと言っても本当にかなり濃淡があります。今ちょっといい質問をいただいていますね。
西川:こちらの方ですね。「ファンを固まりで見ないというのはすごく大事ですね! ファンのレイヤーってどう分析していますか?」。確かにそうですね。
多田:すごくいい質問をいただいて、ありがとうございます。まさに今ちょっとお話ししかけた濃い層とライトな層はどういうかたちかというと、いろんな考え方があると思います。
まずは、最近知ってすごく好きになってくださった方と、ライトだけどずっと好きでいてくださっている方がいると思っていて。知ってからとか好きになってからの時間という軸がファンの中に1個あると思います。
あとはファンの方でもいろいろタイプがあるんですけど、情報を受け取ってそれを自分の中で深掘りしていくことが好きな人もいれば、その「好きだ」という気持ちをどんどん発信するのが好きな方向性の人もいます。
レイヤーというよりかはタイプ分けという感じなんですが、「布教するのが好き」みたいな層もいれば、「自分の中でその情報をたくさん仕入れて深めていきたい」みたいなタイプの人もいます。
なので時間軸と、どんな行動をそのファン活動の中でもよりするのかという部分ですね。レイヤーというよりかはタイプ分けをしてあげられるといいのかなと思います。でも施策ベースで考える時は、やはり時間軸はけっこう大事かなというのは1つありますね。
西川:時間軸という発想がいいですね。新しい視点だなと思いました。どうしても「好き」の度合いで考えちゃったりするんです。でも、確かに好きになったタイミングで入ってくる情報が違うと、購入までのスピード感も変わってくるのかなと思いました。そこの視点をこれから取り入れてみたいと思います。
多田:ありがとうございます。