まずは相手のためになる「GIVE」をする
豊間根:SPINの1、2、3、4のさらに前に、そもそも「この人と話したいな」と思ってもらうとか。
岩本:いや、大事ですね。
豊間根:「この人だったら、参考になる話をしてくれそう」とか。だからたぶん、状況質問の前に1回、「GIVE」があると思う。「私はこういうことを伝えられて、あなたのお役に立てます」「ああ、ありがたいね」と。人間の返報性の原理といって、何かいいことをしてもらったら、「お返ししたいな」という気持ちが出てくるから、「じゃあ話してあげようかな」とか。
だから、SPINは営業トークというか、ヒアリングとかニーズの引き出しという活動のごく一部に過ぎないんだよね。自分が相手に何をしてあげられるのかとか、本気で相手のことを考えて、今この瞬間に何をすべきなのかというところにフォーカスするのが本質なのかなと思いますけど、どうですか? クボちゃんさん。
岩本:(笑)。
久保田:そもそも大前提の話、SPINのトークに入る前に、関係構築とか、相手のことをちゃんと知ってあげるとかっていうところが重要だなと思いました。逆に、豊間根さんも、新規営業を受ける側になられていると思うんですけど。
豊間根:よくある、よくある。
岩本:確かに。
“情報提供が相手の価値になる”と考える
久保田:SPINないしは、「営業体験としてすごく良かったな」とか、「これは知らなかったけど、気づかされたな」というものはありますか?
豊間根:質問に直で答えないんだけど、2人とも営業をやっていると、「営業って本当にお客さんのためになっているのかな?」と考えることがあると思うんだよね。でも、基本的にはなると思っていて。
例えば、問い合わせフォームに送りまくる、フォーム営業ってあるじゃないですか。あそこから来るとさ、ニーズを持っているお客さまからの問い合わせと営業の区別がつかないから、基本的には迷惑なんですよ。一応、「提案協業」という専用のフォームを用意していて、「そっちからお願いします」と言っているんだけど、それでも問い合わせから来る人がいる。
岩本:(笑)。
豊間根:でも、(俺自身も)1回あるソリューションを、問い合わせフォーム営業から実際に使ったことがある。だから、本当にニーズがパチっとハマると、そもそもそういうサービスがあると知らせることが価値になる機会はぜんぜんある。

前提のマインドとして、その人自身が気づいていないマインドを掘り起こして、うれしい状態にさせることはいいことであるというマインドを持ったほうがいいと思っています。
心のどこかで「なんだか売りつけているな」「この人、欲しくないんじゃないかな」と思い始めると、態度とか、言葉の端々に出るんだよね。そこのマインドをまず持つというのが、大事かなと思っているのと。
営業の極意はマッチングアプリにあり?
豊間根:あと、逆にすごくハマらなかった営業で言うと、急に聞かれるんだよね。だから「マッチングアプリでしょ」と思っていて。私はマッチングアプリで結婚しましたけど。
岩本:言っていいんですか、これ?(笑)。
豊間根:まあいいんじゃないかな。マッチングアプリで、ファーストコンタクトってどうする? 「どうする?」とか言っていいのかな? クボちゃんって、マッチングアプリをやったことはある?
久保田:あります。
豊間根:あれでさ、一番最初の一言ってどうする?
久保田:あいさつと、プロフィールに書いている、何かしら共感できそうなことを一言ぐらい添えて送ります。
岩本:おお、すごい! モテそうですね。
豊間根:いや、いいっすね。それってやはり、「共感」だと思うんだよね。興味を持って、相手のことを知って、自分とつながる共通領域を見つけて、まず話のネタを作りにいっているわけじゃないですか。営業のファーストコンタクトもそこだと思っていて。
「多摩市出身なんですか? 地元一緒ですね」とか、「ボードゲームお好きなんですか? カタンめっちゃやってます」とか、「『グランメゾン東京』見ました? めっちゃいいですよね」みたいな。
そういう、まず1回心を許すみたいな、いわゆるラポール形成みたいなところをされないまま突然、「御社は今、不動産に入って何年目ですか?」と言って、「いや、なんでおたくにそんな話をせなあかんの? 営業する気満々やん」みたいなのは、ちょっと腹立つよね。
商談の場だけではない、長期的な視点を持つ
岩本:でも、これでけっこう私は難しいなと思うのが、最近はそれこそオンラインの会議が増えてきて、形成する場がない問題もあるなぁとか思ったりもします。急にみんな「はじめまして」みたいなところに出てきて、あんまり(お互いを)知らないまま、唐突の会話になっちゃう人もいると思う。
豊間根:だから、それこそ雑談力とかね。
岩本:そうですよね。やはりまずはそのあたりの力を付けて、1の前に0があり、というところからのスタートなんですかね。
豊間根:いろんな見識を深めていくのも大事だよね。
岩本:大事ですね。結局、インプット。
豊間根:そう。引き出しが多いと共感の手札が増えるから大事ですよね。営業体験って、やはり長くて複雑なんだよね。
SPINは1個のフレームワークで、重要は重要なんだけど、そこだけにこだわるより、全体の体験というか、相手の人の人生を想像して(笑)、人生の全体像の中で、今、パンとご縁で一緒になったこの瞬間がどういう時間になるのか? から考えると、するべきことが見えてくるような気がするな。
岩本:確かに。
3年越しに依頼した理由は“いい人”だから
豊間根:そこで受注にならなかったとしても……例えば俺、サントリーを辞める直前に家を買ったんだよね。その時に、某大手不動産会社の人がめっちゃ付き合ってくれて、20件ぐらい見たのかな。
岩本:すごい(笑)。
豊間根:めっちゃ申し訳なかったんだけど、結果的にその人から買わなかったんです。知人がつないでくれた、ベンチャーの不動産会社の人に仲介してもらって。だから俺、すごくいい人だったから20件も内見に付き合ってもらったのに、その人から買えなかったのがずっと心残りだったんだよね。めっちゃプライベートな話だな(笑)。
岩本:(笑)。
豊間根:家を売るかどうかを考えた時に、3年越しに「あの人にお願いしたい」と思っていたんだよね。
岩本:3年越しに覚えていたんですね。
豊間根:そうそう。というふうに、やはり積み重ねなんだよね。その瞬間に売上にならなくても、人との接点をつなげて積み重ねていくと、知らないうちにそれがどんどん膨らんでいって、自分の資産になって、社会資本になっていくはずだから。視座をちょっと上げて、今この商談の中で、SPINをどう成功させるかというよりは、自分の周りに……。
岩本:長い営業歴を見た中で、それがどうなっているか。
豊間根:営業歴というか、人生だからね。俺、人生と人生のぶつかり合いだと思っているから。
岩本:仕事は人生と人生のぶつかり合い。
豊間根:そうよ。ある人の人生があって、ある人の人生があって、そこを交錯したタッチポイントが商談なわけですよ。ここを考えると、何かもっと本質的なことができるんじゃないかなという気はするな。俺、すぐ精神論になるんだ(笑)。
岩本:(笑)。
豊間根:「明日から使えるフレームワーク3選」みたいな感じにならないの。これ、良くないね。
「人生と人生の交錯する瞬間が商談」
岩本:(笑)。でも本当にそのとおりだと思いました。やはり今の時代って、転職とかもけっこうありますけど、やはりその会社でバリューを残せなかったとしても、次のところに行った時に、そのお客さんがまたいるとか、いろいろなご縁ってあるじゃないですか。
豊間根:せやねん。
岩本:という中で、「ちょっとこの商談は成功しなさそうだから、今の場だけをやっていればいいよ」とか、「ちょっと売りつけになりそうだな」とか、そういう人もいると思うんですよ。いろいろあると思うんですけど、やはりそこにも真剣に向き合って、「この人が幸せになるためには、どういうことをしてあげたらいいかな」という目線で考えると、最終的にはちょっとつながることもあるってことですよね。
豊間根:そうなんですよ。人生と人生の交錯する瞬間が商談であるという認識を持つ。俺はそうだと思っているよ。
岩本:すごくいいですね。すてきな考え方。
豊間根:だからシリョサクっていう会社もそうだと思っていて、今シリョサクTVの運営メンバーがいるけども、俺の人生もあり、ヒロカの人生もあり、クボちゃんの人生もあり。
それがたまたま交錯して、今この瞬間があると思っていて。それがみんなにとってもいい時間にならなきゃいけないと思っているんだよね。離れたとしても、それがいい糧になっていかなきゃいけないなと思っていて、そういう思想を持つといい気がする(笑)。
岩本:深いな(笑)。
豊間根:ふか! これがImplication(潜在的な影響や意味)か。
岩本:(笑)。これがImplicationかも。
今この瞬間を、どれだけいい時間にするか
豊間根:そうですよ、だから営業って売るってよりかは、人とのつながりを作る仕事だと思っていて、結局「ご縁」なんですよ。だから常に人当たりがいいし、だからご機嫌でいることも大事ですよね。『運転者』って本があるので。
岩本:この間紹介したやつですね。
豊間根:常にご機嫌でいて、ご縁をつなぐ、恩を恩で返すって。なんか俺、スピリチュアルだな。スピ系になってるかも。
岩本:壺を買わされる?(笑)。 占いとかやり始めちゃう?
豊間根:最近は考えれば考えるほど、思想の話になっちゃうんだよね。
久保田:SPIN話法をできる・できないは、そもそも大前提のお話だったりとか、主語を大きくすると「人生」とか。
豊間根:大局観を持って今に集中する。徹底的に相手の気持ちになる。この交錯する瞬間を、どういい時間にするかを考えることを積み重ねていくと、結果的にいい結果が出る気がしますね。ということで、みなさんも人生と人生を交錯させてみてください。