「SPIN話法がうまくできない」というお悩み相談を受け、シリョサク代表の豊間根青地氏と外資系IT営業の岩本紘佳氏が座談会形式で考察します。示唆質問が難航する場面の突破法、そして“商談は人生と人生が交錯する瞬間"というマインドセットまで、営業活動に役立つヒントを紹介します。
4つの質問で課題解決を導くフレームワーク
豊間根青地氏(以下、豊間根):仕事をもっと。
岩本紘佳氏(以下、岩本):おもしろく。
豊間根・岩本:シリョサクTVです。お願いします。
豊間根:今日は「SPIN話法がうまくできない人へ」ということで、ヒロカ、「SPIN話法」って知ってる?
岩本:知らなかったです(笑)。
豊間根:たぶん営業の人には有名なフレームワークなんだけど。営業じゃない人には知らない人もけっこう多いと思うので簡単に説明をすると、営業の商談・トークの進め方で、お客さんの隠れた課題とかニーズを引き出して、自然な流れで解決策の提案まで持っていくためのフレームワークなんですね。

S・P・I・Nが、それぞれ「Situation」「Problem」「Implication」「Need-Payoff」で、それぞれ「状況質問」「問題質問」「示唆質問」「解決質問」と略されていて、要は「現状がどういう状態なんですか?」「それじゃあ今、どういう問題点があるんですかね?」「それがどういう影響をもたらすんでしょうか?」と言って課題を引き出す。
「最終的にこういう状態にできたらいいんじゃないですか?」と解決策をぶつけて、「確かに。じゃあやりましょうか」みたいな流れで聞いていくと話を持っていきやすいよね、というフレームワークです。
実はこの企画、今は画面外にいるんですけども、このシリョサクTVのディレクターをしてくれているクボちゃんから、ガチのお悩みとしてもらったものなんですけども。
久保田裕信氏(以下、久保田):はい。
豊間根・岩本:(笑)。
「示唆質問」「解決質問」が上手くいかないケース
豊間根:クボちゃん、「SPIN話法」をけっこう悩んでいるんですか?
久保田:悩んでいます。
豊間根:何がムズい?
久保田:まずは前提として、私、IT企業で新規事業に従事していまして。それこそ、今から新しいシステムを買うよという企業さまに提案をしているんですけれども。
豊間根:固いな(笑)。
岩本:面接かと思った(笑)。
久保田:1の状況質問、今の現状を把握するというところだったりとか、「ここが問題ですよね」という2つ目はできるんですけれども、3つ目ですね。
お客さんが現状、顕在で把握しているところをしゃべるのはできるんですけど、潜在の、まだ気づいていない部分を気づかせる質問が、仮にできてお客さんに理解してもらっても、案件として進まないとか。
あとは、仮説をぶつけてみても、「いや、それはぜんぜん困ってないので」と言われることが多く、4つ目につなげられないということが、今の悩みとしてあります。
豊間根:なるほどなるほど。というか、SPIN話法が語られる時も、3つ目が特に難しいとよく言われるので、そりゃそうよね。それこそお客さんすら気づいていない課題を、はじめましての営業から「これじゃないですか?」ってポンと出てくるのはあまりないものね。
岩本:それができたら逆にすごいですよね。
情報提供そのものが価値になる場合もある
豊間根:うまくいったことはあるの? クボちゃんって。「これ、すっげーマジハマったな」とかある?
久保田:あるかないかだと、あります。
豊間根:おお。どういうふうにハマった?
久保田:前提なんですけど、うちの商材とか、業界としてこういうサービスがあると完全に知らないお客さんに対して。
岩本:「そんなのあるんだ」みたいな。
久保田:与えた示唆によって、「こういう解決策がありますよ」というのがハマったことは、なくはないという。
豊間根:なるほど。そもそも、それが存在すること自体が、something newであったということか。
久保田:です。
SPINが効果を発揮するのは新規開拓
豊間根:なるほどなるほど。ヒロカも営業じゃないですか。シリョサクTVには、なんだかんだ営業の人がけっこう関わっていますけど、ヒロカはこれをやる?
岩本:あんまりやらないですね。
豊間根:あ、やらないの?
岩本:上段の意味ではあるかもしれないんですけど。というのも、(岩本氏の会社が扱っている)製品って、私の会社以外にもたくさんの会社が売っているんですよ。なので、私のお客さまってどっちかというと比較ですね。
「この製品が世にあることは知っている。じゃあどの会社のやつを買おうかな?」なんですよ。
豊間根:なるほど。
岩本:もともとどれかは欲しい。「じゃあ、どれが一番自分の会社にマッチしているかな?」みたいな状態の人が多いので。今、「このSPINをはめる時に、どういうお客さまが一番合うのかな?」と思って、たぶん対象がいろいろある。誰が一番いいんですかね?
豊間根:それで言うと、このSPINを使うことが望まれるシーンは、やはり基本的には案件創出(時)ですよね。
岩本:最初ですよね。
豊間根:そうね。だから、そもそも「買おう」とぜんぜん思っていない人に対して、「実はこういうことがあるんじゃないですか?」「なるほど」という、そもそもニーズがあることを気づかせるフレームワークだから。
ヒロカの場合はニーズがある人に対してこういうふうにいくよりは、具体的な解決の話に入っているということだものね。
岩本:そうですね。ちょっと、1個進んじゃっているかもしれない。
相手に“売り込み感”を与えそうで難しい
豊間根:そうよね。だから、先輩の俺がクボちゃんとヒロカという若手営業パーソンに向けてアドバイスするていの企画なんだけど、前提を覆す話で言うと、俺も別に営業が得意じゃないんだよね。
岩本:(笑)。そうなんですか?
豊間根:サントリーを辞めて独立して、もちろん自分で営業をしてね。
岩本:そうですよね。やっていましたものね。
豊間根:会社を作って、40人ぐらいまで大きくしてきたという意味では、もちろん営業をしてきたんだけど。別に俺、自分で自分のことを営業が得意だと思っていないんですよ。
クボちゃんにこの話を言われて思ったのは、「結局、一番やらなきゃいけないのは、徹底的に相手目線で考えることだろうな」なんですよね。
これ、難しいけどね。実際にノルマ・目標を持って営業の活動をやっていると、「この人、本当は要らないんじゃないかな」と思いながら売るシーンもあると思うんだけど。
岩本:ちょっと難しいなと思ったポイントが、例えば、クボちゃんもそうだし、私も製品があるじゃないですか。という時に、SPINだと「一般的な」話が求められるというか。コンサルの人とかだと、けっこうハマるのかもしれないですけど。
イチ製品の話をしちゃうと、やはりお客さんとの乖離が生まれて、「なんか売りつけにこられているな」「この示唆って、自分の売上を上げるために言っているんじゃないのかな?」みたいにならないかなというのが、ちょっと難しいなと思ったポイントですね。
久保田:結局、示唆を与えるということを指導いただいた時も、自分が業者側というか、「売る」というゴールがある中で、「うちがハマってますよ」という売りつけるほうの解決策に近づけるために、無理やり示唆を与えにいかなくちゃいけないのかなと思ったりします。
営業を円滑にする「共感の手札」
豊間根:これ、ムズいね。
岩本:ムズい。相談だったらわかるけど、営業ってなると、一気にハードルが上がりますね。この3番が特に。
豊間根:動画を撮り始めてから考えているんだものな(笑)。
岩本:(笑)。座談会みたいな。
豊間根:座談会のていで。「共感」をどう作るかではあると思うんだよね。「そうそう! そうなんですよ!」みたいな。それが必ずしも解決策に結びついてないとしても、「確かにそうなんですよ! わかっていますね!」「そういうことなんですよ。でも、それがなかなかできないんですよ」とか。
逆に、「そこは別に困ってないんですよ」みたいなことに対して、「○○みたいなことは起きていませんか?」とか、「とはいえ、なかなか現実も忙しくて、ここに手を付けられないですよね」とか、「ここに対してこのぐらい予算を割くというのは、なかなか難しいですよね」みたいなところの、「この人、わかってんな」感というか、寄り添っていく。
相手目線で解像度をめっちゃ上げることが必要で、たぶん、そのために相手のこと、業界のことをめっちゃ勉強するのもそうだし。自社でハマったストーリーって、お客さんのどういう課題に、どういう商品パッケージがハマったのかを覚えておく。

「共感の手札」みたいに言うんだけど、相手のいろんなことも、自分たちのことも、世の中のこともめっちゃ知っていて、「あ、こことここと、ここはつながりそうだな」「そうそう!」「ここと、ここがつながりそう」「そうそうそう!」みたいな。この「あ、そうそうそう!」という共感の手札を積み重ねていくと、示唆につながるのかなと思いますね。
岩本:確かに。