2025年のマーケティングビジネスはどう変わる?
三浦:いよいよ最後の締めの時間になってきましたけど、2025年はマーケティングビジネスはどういうふうに変わっていくと思いますか?
田部:BtoBにかかわらずなんですけど、2025年はとにかくAI時代のラストイヤーというか、ここに乗り遅れるか、乗れるかどうか。これは、ほぼすべてのマーケティング業界に言えることかなと思っています。
AIの本質は何なのかというと、作業やデータの活用みたいなものが、基本的には簡単になるということであって、これまで100案考えるのに100時間かかっていたものが、一瞬で100案を出せますと。なのでめちゃくちゃ汗をかいて働いていたことが、一瞬でできるようになる。
ただ、繰り返し残るのは、やはり意思決定だと思います。なので、AIは超いい感じの営業資料を作ることはできるんですけど、「これが売れるよね」と決めるのは、やはり人間じゃないですか。ここにはけっこう感覚的めいたものがきっとあって、その感覚めいたものは何で養うかって、経験があってという話じゃないですか。
といった時に、結局AI時代になっていく中で、薄っぺらい本ばかり読んで、人の言葉ばかり聞いて、型だけぶち込んでいるような人はもう勝てなくて、勝負にもならない。自分の言葉や経験を持って、自分というブランドで勝負できる人のみがマーケティング業界でも生き残っていくし、BtoBマーケティングにおいても生き残っていくことになると思うんですよ。
なので、僕は「一次情報をとにかく大事にしよう」と会社でも言っていますけど、ネットで見てきた情報とか調べた情報じゃなくて、もちろんそれはインストールした上で、とにかく自分で情報を取りに行き、変な経験をしてみるのも何でもいいけど、営業をやってみるとか、カンファレンスに行ってみるとか。
とにかく自分で一次情報をどれだけ積み上げられるかが勝負で、これができる人が勝つ、できない人は負けるというのは、分かれ道になるかなと思っています。
AIがあるからこそ、人に会う時間を増やしたほうがいい
三浦:いや、めちゃめちゃ大事なことだと思いますし、本当にそうですね。AIによって、二次情報、情報の流通速度がめっちゃ上がりましたよね。だからこそ、代替不可能な経験の数が、その人の価値を決めていくということですよね。
だから、「AIがあるから調べなくていい」とか、「AIがあるからいちいち人に聞かなくていい」とか、「AIがあるから全部自分がやらなくていい」と言っているのは、一番リスキーで真逆ですよね。
AIがあるからこそ人に会う時間を増やしたほうがいいし、AIによって情報の価値が落ちているからこそ一次情報、体験の蓄積による格差がめちゃめちゃ広がっていくという、そういう時代になってきますよね。ふだん田部さんはAIをどうやって使っていますか?
田部:僕は、自分の今まで相談していた壁打ちを全部AIに相談したりとか。あとアウトプットとか、資料化とか、もう全部AIでやっていますね。
三浦:proを使っています? 4を使っています?
田部:o1 proですね。
三浦:でもo1 proは、ちょっと時間がかかるんですよね。だいたい4のほうが早かったりしません?
田部:4のほうがぜんぜん早いです。
三浦:やはりo1 proのほうが使いやすいですか?
田部:圧倒的にレベルが高いです。
三浦:そうですね。博報堂の5年目くらいがo1 proという感じがしますよね。優秀な学生だけど、責任感がないのが4みたいな感じしない?
田部:ははは(笑)。そうですね。頭でっかちなんですね。
嘘と本質を見抜く力を養うには
三浦:「早いね。でも、ぜんぜん調べてないじゃん」みたいな。俺、この間CMの楽曲の歌詞をChatGPTに調べてもらったんですけど。「過去の懐メロで、『透明感』みたいなことが出てくる歌詞で、みんなが知っているヒット曲を探してくれ」と聞いたら、「宇多田ヒカルがこれで、安室奈美恵がこれで」と言われて、それが全部嘘だったんですよ。えらい恥をかいた(笑)。
田部:(笑)。出しちゃったんですね。
三浦:そうそう(笑)。いやいや、ギリギリで裏を取って、「ぜんぜん違うじゃん」と思って久しぶりに深夜に自分で全部調べたんですけど。ハルシネーションがまだちょっと怖いけどね。あれは、どうやって防ぐんですか?
田部:でも正直、嘘を嘘と見抜くって、もうSNSでもAIでも難しくなってきているじゃないですか。フェイクがフェイクじゃなくなってくるということなので。だから、それを踏まえて結局、自分の意見にしていくしかないんじゃ……。
三浦:AIはめっちゃ便利だけど、やはり道具でしかないということは、すごく今大事だなと思っていて。
田部:そうですね。
三浦:今はやはり、いい意味でも悪い意味でも、ちょっと過大評価されているというか、期待値が集まりすぎちゃっているんだけれども。人間の嘘と本質を見抜く力に関する感性を養うには、結局いろんな経験でしか役立たないので。
「宇多田ヒカルのこういう歌詞がありました」といっても、僕は宇多田ヒカルをめっちゃ聴き込んでいるから、「こういう言葉の使い方は絶対しないだろう。本当か?」と思って検索したら、他の安室奈美恵も椎名林檎も、全部間違っていたというのが出たんですけど。やはりそこの感覚知みたいなものは、すごく重要になってくると思うので。
いわゆるBtoB、BtoC関係なく、もっと言うとマーケティングかそうじゃないかも関係なく、人間が身体知としての部分を身につけ続けないといけないなと思いますね。
田部:そうですね。
ノバセル田部氏「AIマーケターとして、一番有名になる」
三浦:2025年、これからどういう活動をしていきます? 今年の目標とかはあるんですか?
田部:AIマーケターとして、一番有名になる。
三浦:おお。やっぱさすがですね。もう2025年の勝ち筋が見えていますね。
田部:(笑)。
三浦:でもそのAIマーケターというのは、AIを使いこなす、AIのできること・できないことを全部わかった上で、身体知として使いこなせるということですよね。
田部:というのと、最後にBtoBも含めて、自分のブランディングって大事じゃないですか。といった時に、僕は今44歳なんですけど、僕より10個ぐらい上の有名なマーケターの人たちが今からAIを使うかというと、そうじゃないところで戦っていると思いますし、20、30代の前半でAIを超使いこなしている人もいると思いますけど。
一方で、影響力を持っていて、実際の仕事にも活用できて、発信もできてという立場にいる人が、めちゃくちゃ使いこなすというのは意外と珍しいんじゃないかということで、それになろうかなと思っているんですね。
「知名度が高い」ということがより重要になる時代
三浦:そうですね。あと1個、すごく大事なことがあるんですが。今日はせっかく田部さんと僕を呼んでもらっているので、僕らは言っちゃえば、わりと知名度が高いほうのマーケターじゃないですか。これ、すごく恥ずかしいことを言いますけど、知名度が高いということが、すごく重要な時代になっていくと思いますね。
その人のブランドがあるということが、「このプロジェクトを田部さんにお願いした」「このプロジェクト、このCMを三浦にお願いした」ということ自体に、1つの価値が生まれてくると思うので。
逆に、本当にAIが作るものと変わらない凡百のものを出してくると、AIと人間だったらAIのほうが圧倒的にコストが安いので。やはり「その人間にお願いした」「その人間に託した」ということに対する信頼とか期待が生まれるようなポジションにいないと、けっこうこれから厳しくなるのかなというのは思いますね。
田部:そうですね。
三浦:今までいろいろ話しましたけど、2025年もAIの時代だからこそ、人間であること、人間の価値がすごく強まってくると思いますし、BtoBマーケティングというジャンルがあるからこそ、BtoBもBtoCも関係ない、人間を見つけるマーケティングが必要になるし。
マーケティング以外のすべてを、「なんでも屋」をやって、初めてマーケティングができるようになるということ。今日はたぶんここらへんが、僕と田部さんの一番握れている部分だと思うので、そこをしっかり持って帰ってもらえたらいいかなと思っています。ありがとうございました。
田部:ありがとうございました。